ぎこちなさか、力の弱さか―神経診察の手技を「何をみる検査か」で仕分ける
第119回医師国家試験 E問題 第16問
国試問題にチャレンジ
小脳機能の評価に用いないのはどれか。
- a.膝踵試験
- b.指鼻試験
- c.鼻指鼻試験
- d.回内回外試験
- e.上肢Barré試験
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
小脳は随意運動の大きさや速さ、タイミングを調整して動作を滑らかにする臓器であり、障害されると筋力は保たれたまま測定障害、運動分解、企図振戦、反復拮抗運動不能などの運動失調が現れます。これらを評価するのが指鼻試験・鼻指鼻試験・回内回外試験(上肢)と膝踵試験(下肢)で、四肢の症状は病変と同側に出るため左右を比較して行います。一方、上肢Barré試験は上肢を前方に挙上・保持させ、回内や下降から軽度の麻痺を検出する検査で、主に錐体路障害の評価に用いるため、小脳機能の評価には用いません。さらに、体幹失調には継ぎ足歩行、深部感覚障害にはRomberg試験と使い分けることも大切です。各手技が「どの機能をみる検査か」を整理しておくことは、病変部位を推定する神経診察の基本であり、OSCEや臨床実習でもそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はeです
神経診察で用いる手技を、評価する機能ごとに分類できるかを問う問題である。「用いないのはどれか」なので、小脳以外の機能を調べる検査を選ぶ。 小脳は随意運動の大きさ・方向・速さ・タイミングを調整し、複数の筋の働きを協調させて、動作を滑らかで正確にする役割を担う。そのため小脳が障害されると、筋力は保たれているのに動作がぎこちなく不正確になる(運動失調)。四肢の小脳性運動失調は主に次のような所見として現れる。 ・測定障害(推尺異常):目標に届かない(測定過小)、行き過ぎる(測定過大) ・運動分解:一つの滑らかな動作が、いくつかの直線的な動きに分かれてしまう ・企図振戦:目標に近づくほど大きくなる振戦 ・反復拮抗運動不能(変換運動障害):回内と回外のような逆向きの運動を素早く交互に繰り返せない ・協働収縮不能(共同運動障害):複数の関節・筋をまとめて動かせない これらを引き出すために、上肢では指鼻試験・鼻指鼻試験・回内回外試験、下肢では膝踵試験が用いられる。四肢の小脳症状は原則として病変と同側に出るため、必ず左右を比較して行う。 一方、上肢Barré試験は、上肢を一定の肢位で保持させて軽微な筋力低下(不全麻痺)を検出する検査で、主に錐体路障害の評価に用いる。評価対象が小脳ではない点で他の4つと異なる。
選択肢考察
- ×a. 膝踵試験
仰臥位で一側の踵を持ち上げて反対側の膝に正確に乗せ、そのまますねに沿って足首まで滑らせ、これを数回繰り返させる検査である。下肢の小脳機能を評価する代表的手技で、小脳障害では踵が膝に正確に乗らず行き過ぎたり手前で止まったりし(測定障害)、すねの上を滑らせる動きが左右に揺れてぶれる(運動分解・協調障害)。障害は病変と同側の下肢に出る。よって小脳機能の評価に用いる。
- ×b. 指鼻試験
上肢を伸ばした位置から示指の先で自分の鼻の頭に触れさせる動作を繰り返させる検査である。小脳障害では指先が鼻を外れる・行き過ぎる・手前で止まるといった測定障害、動きが途中でカクカクと分かれる運動分解、鼻に近づくほど振えが大きくなる企図振戦がみられる。開眼と閉眼で比較すると、閉眼で著明に悪化する場合は深部感覚(位置覚)障害による失調が疑われ、小脳性失調との鑑別に役立つ。よって小脳機能の評価に用いる。
- ×c. 鼻指鼻試験
被検者の示指で自分の鼻と検者の指先とを交互に触れさせる検査である。検者が指の位置を毎回変えることで、距離や方向が変化する目標に対して運動を調整する能力をより鋭敏に評価できる。測定障害、運動分解、企図振戦の有無と動作の滑らかさを観察し、左右とも検査する。よって小脳機能の評価に用いる。
- ×d. 回内回外試験
両手を前に出し、前腕の回内と回外(手のひらを下向き・上向きに返す動作)をできるだけ速く交互に繰り返させる検査である。逆向きの運動を素早く切り替える能力をみるもので、小脳障害ではリズムが乱れ、動きが遅く不規則になる(反復拮抗運動不能、dysdiadochokinesis)。手掌と手背で自分の大腿や反対側の手のひらを交互に叩かせる方法もある。よって小脳機能の評価に用いる。
- ○e. 上肢Barré試験
両上肢を手掌を上に向けて前方水平に伸ばし、指をそろえた姿勢のまま閉眼で保持させる検査である。軽い麻痺がある側では、前腕が回内し、肘が屈曲しながら上肢がゆっくり下降していく(陽性)。徒手筋力テストでは捉えにくい軽度の筋力低下を検出でき、主に錐体路障害(脳卒中などによる上位運動ニューロン障害)の評価に用いる。小脳機能を評価する検査ではないため、本問の正解である。なお、この上肢の検査はもともとMingazziniが報告したもので、Barréが報告したのは腹臥位で膝を屈曲位に保たせる下肢の検査であるが、わが国では慣例的に「上肢Barré試験」と呼ばれている。
小脳の機能区分と障害時の症状
・前庭小脳(片葉小節葉):身体の平衡と眼球運動の調節。障害で体幹失調(座位・立位の動揺)、眼振。 ・脊髄小脳(虫部・半球中間部、前葉の大部分):姿勢・歩行・筋緊張の調節。障害で体幹失調、失調性歩行(足を広げた不安定な歩行)。 ・大脳小脳(新小脳、半球外側部):大脳皮質と連携した随意運動の計画と円滑化。障害で四肢の測定障害、運動分解、企図振戦、反復拮抗運動不能、共同運動障害、失調性構音障害(断綴性言語・爆発性言語)。 大脳小脳は橋核を介して大脳皮質からの入力を受け、歯状核から視床を経て大脳皮質運動野へ出力することで、運動のプログラミングに関わる。反復練習による運動学習にも重要な役割を果たす。
その他の小脳機能検査
・体幹失調:継ぎ足歩行(つぎ足歩行)、座位・立位の保持。 ・Romberg試験:閉脚立位で開眼から閉眼にしたときに動揺が著しく増せば陽性で、深部感覚障害(脊髄後索障害など)を示す。小脳性失調では開眼時からすでに不安定で、閉眼による悪化は目立たない。 ・ほかに、腕を急に離したときに止められず跳ね返る反跳現象(Stewart-Holmes徴候)、筋緊張低下などをみる。
錐体路障害(軽度の麻痺)の検出法
・上肢Barré試験(上肢挙上保持での回内・下降) ・下肢Barré試験(腹臥位で膝を屈曲位に保持させ、患側の下腿が下降) ・Mingazzini試験(仰臥位で股・膝関節を90度屈曲位に保持させ、患側の下肢が下降) ・ほかに腱反射の亢進、Babinski徴候などの病的反射。
POINT
・小脳機能(四肢の運動失調)の検査:指鼻試験、鼻指鼻試験、膝踵試験、回内回外試験(反復拮抗運動)。 ・小脳障害の所見:測定障害、運動分解、企図振戦、反復拮抗運動不能、共同運動障害。四肢の症状は病変と同側に出る。 ・上肢Barré試験・Mingazzini試験は軽度の麻痺(錐体路障害)を検出する検査。 ・Romberg徴候陽性は深部感覚障害を示し、小脳性失調では陰性。
