同じ「糖尿病」でも喫煙との距離は違う―たばこが傷つける臓器を機序で整理する
第119回医師国家試験 E問題 第15問
国試問題にチャレンジ
喫煙と関連が乏しいのはどれか。
- a.歯周病
- b.大動脈瘤
- c.1型糖尿病
- d.冠動脈疾患
- e.慢性閉塞性肺疾患
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喫煙は血管内皮障害・酸化ストレス・血小板凝集亢進を介して冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤(特に腹部大動脈瘤)、末梢動脈疾患を促進し、慢性炎症とプロテアーゼ・抗プロテアーゼ不均衡によってCOPDを引き起こします。さらに歯肉の血流低下と免疫機能の抑制による歯周病、インスリン抵抗性増大による2型糖尿病、肺癌をはじめとする多くの癌とも関連します。一方、1型糖尿病はHLAなどの遺伝的素因にウイルス感染などが加わり、自己免疫によって膵β細胞が破壊される疾患で、喫煙が発症要因とする根拠は乏しいです。ただし糖尿病患者の喫煙は病型を問わず血管合併症を悪化させるため、禁煙指導は重要です。病名だけで判断せず成因と機序から喫煙との関連を考える姿勢は、国試の正誤判断にも、臨床での禁煙支援にも役立ちます。
解答・解説
正解はcです
喫煙が健康に及ぼす影響の範囲を問う問題である。 たばこの煙には、ニコチン、一酸化炭素、多数の発がん物質、活性酸素などの酸化物質が含まれる。これらは主に次のような機序で全身の臓器を障害する。 ・血管:血管内皮障害、酸化ストレス、血小板凝集の亢進、HDLコレステロールの低下などを介して動脈硬化を促進する → 冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤、末梢動脈疾患 ・気道・肺:煙による慢性的な炎症とプロテアーゼ・抗プロテアーゼの不均衡によって気道病変と肺胞破壊が進む → 慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・局所の免疫・血流:歯肉の血流低下や好中球機能の障害などにより感染防御が弱まる → 歯周病 ・代謝:インスリン抵抗性を高める → 2型糖尿病 ・発がん:肺癌をはじめ、口腔・咽頭・喉頭・食道・胃・膵・肝・膀胱・子宮頸部などの癌 一方、1型糖尿病は膵β細胞が主に自己免疫機序によって破壊され、インスリンが絶対的に欠乏する疾患であり、発症には遺伝的素因(HLA)やウイルス感染などの環境因子が関与すると考えられている。喫煙がその発症要因であるという根拠は乏しい。糖尿病という病名だけで「喫煙と関連する」と判断せず、1型と2型の成因の違いに着目することが本問の要点である。
選択肢考察
- ×a. 歯周病
喫煙は歯周病の最大の環境的危険因子の一つである。ニコチンの血管収縮作用によって歯肉の血流が低下し、好中球など免疫細胞の働きも抑えられるため、歯周病菌に対する抵抗力が落ちる。さらに組織の修復が妨げられるので、歯周病の発症・進行のリスクが高まり、治療効果も低下する。喫煙本数や喫煙年数が多いほどリスクは大きくなる。歯肉の血流低下で出血や発赤が目立たず、進行に気付きにくいことも特徴である。よって喫煙と関連がある。
- ×b. 大動脈瘤
喫煙は動脈硬化を促進するとともに、大動脈壁の弾性線維を分解する酵素の活性化や慢性炎症を通じて血管壁を脆弱化させる。特に腹部大動脈瘤では喫煙が最も強い危険因子とされ、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが数倍高く、喫煙継続は瘤の拡大速度の増加や破裂にも関わる。よって喫煙と関連がある。
- ○c. 1型糖尿病
1型糖尿病は、主に自己免疫機序(膵島関連自己抗体:抗GAD抗体など)によって膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に欠乏する疾患である。発症には遺伝的素因(特定のHLA型)にウイルス感染などの環境因子が加わることが関与すると考えられており、小児・若年者に多いが成人でも発症する。喫煙はその発症要因とは考えられていない。これに対して2型糖尿病は、喫煙によるインスリン抵抗性の増大などを介して発症リスクが約1.4倍に高まるとされ、喫煙と関連する。したがって本選択肢が「喫煙と関連が乏しい」ものとして正解である。なお、すでに糖尿病(1型を含む)がある人が喫煙すると、細小血管症や大血管症などの合併症が悪化しやすいため、病型を問わず禁煙指導は重要である。
- ×d. 冠動脈疾患
喫煙は高血圧、脂質異常症、糖尿病などと並ぶ冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)の主要な危険因子である。血管内皮障害や酸化ストレスによる動脈硬化の進展に加え、血小板凝集の亢進による血栓形成、ニコチンによる交感神経刺激(心拍数・血圧上昇)、一酸化炭素による酸素運搬能の低下、冠動脈攣縮の誘発など、多くの経路で心筋虚血を起こしやすくする。受動喫煙でもリスクが上昇する。禁煙により比較的短期間でリスクが低下し始めることも知られている。よって喫煙と関連がある。
- ×e. 慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入することで生じる、進行性の気流閉塞を特徴とする肺疾患である。患者の大部分に喫煙歴があり、喫煙は最大の原因である。このため「たばこ病」とも呼ばれる。末梢気道の炎症と肺胞壁の破壊(肺気腫)が進み、労作時の息切れや慢性の咳・痰を呈する。禁煙は病気の進行を抑える最も有効な介入である。よって喫煙と関連がある。
喫煙との因果関係が確立している主な疾患
・悪性腫瘍:肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝、膵、膀胱、子宮頸部など ・循環器疾患:冠動脈疾患(虚血性心疾患)、脳卒中、腹部大動脈瘤、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症) ・呼吸器疾患:COPD、呼吸機能の低下、結核による死亡 ・代謝疾患:2型糖尿病の発症 ・その他:歯周病、早産・低出生体重児、乳幼児突然死症候群(受動喫煙)、骨粗鬆症による骨折、関節リウマチなど
1型糖尿病と2型糖尿病の比較
・成因:1型は自己免疫などによる膵β細胞破壊、2型はインスリン分泌低下とインスリン抵抗性に過食・運動不足・肥満などの生活習慣が加わったもの。 ・インスリン分泌:1型は高度に低下〜枯渇、2型は保たれるが相対的に不足。 ・自己抗体:1型では抗GAD抗体などが陽性となることが多い。 ・治療:1型はインスリン療法が必須、2型は食事・運動療法を基本とし、必要に応じて薬物療法。 ・喫煙との関連:2型は発症リスクが上昇、1型の発症との関連は乏しい。
受動喫煙
受動喫煙も肺癌、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群などとの因果関係が示されている。わが国では健康増進法の改正(2020年全面施行)により、多数の者が利用する施設での原則屋内禁煙が義務化された。
POINT
・喫煙は動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤、末梢動脈疾患)、COPD、多くの癌、歯周病、2型糖尿病のリスクを高める。 ・1型糖尿病は自己免疫による膵β細胞破壊が主因で、喫煙との関連は乏しい。 ・「糖尿病」は1型と2型で喫煙との関係が異なる点に注意する。 ・COPDの最大の原因は喫煙(たばこ病)。
