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両手を引っ張ると反射はどうなる?―膝蓋腱反射とJendrassik手技の落とし穴

第117回医師国家試験 E問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第25問

膝蓋腱反射について誤っているのはどれか。

  1. a.末梢神経障害で低下する。
  2. b.下肢の力を抜くように指示する。
  3. c.両上肢の随意把持努力により減弱する。
  4. d.大腿四頭筋の収縮により下腿が前方に上がる。
  5. e.ハンマーのバランスのよい部分を持って診察する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は神経診察の基本、膝蓋腱反射の問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、反射の仕組み、異常の意味、診察手技の3点を一つずつ確認していこう。まず、膝蓋腱反射がどんな反射か説明できるかな。
医学生医学生
深部腱反射の代表で、腱を叩くと筋が収縮する反射ですよね。
ドクタードクター
そう、正確には筋伸張反射だ。膝蓋腱を叩くと大腿四頭筋が急に引き伸ばされ、筋紡錘が興奮する。その信号がIa群線維を通って大腿神経から脊髄の主にL3〜L4髄節に入り、シナプスを1つだけ介してα運動ニューロンを興奮させる。単シナプス反射というやつだね。
医学生医学生
生理学の講義で、単シナプス反射の代表例として図を描かされた記憶があります。
ドクタードクター
それなら話が早い。α運動ニューロンが大腿四頭筋を収縮させると、膝関節が伸展して下腿が前方に跳ね上がる。大腿四頭筋は膝の伸筋だから当然の動きだね。わずかな反射も見逃さないように、大腿前面に手を当てて収縮を触れるのもコツだ。
医学生医学生
末梢神経障害で反射が低下するのは、反射弓のどこかが途切れるからですか。
ドクタードクター
その理解で正しい。受容器、求心路、脊髄、遠心路、筋のどこかが障害されると反射は低下・消失する。糖尿病性多発ニューロパチーやGuillain-Barré症候群、L4神経根を圧迫する腰椎椎間板ヘルニアなどが典型だ。逆に、上位運動ニューロンは普段この反射を抑制しているから、脳血管障害や脊髄症ではその抑制が外れて亢進する。
医学生医学生
診察するときに患者さんに力を抜いてもらうのは、緊張していると反射が出にくいからですよね。
ドクタードクター
そう。力が入っていると拮抗筋の収縮などで反射が出にくく、正しく評価できない。座位で下腿を診察台の縁から垂らすか、仰臥位なら検者が膝窩に手を入れて膝を軽く曲げて支え、リラックスさせてから叩く。ハンマーの持ち方はどうだろう。
医学生医学生
OSCEの練習では、ヘッドの近くをしっかり握ったほうが狙いやすいと思っていました。
ドクタードクター
それはよくある癖だね。ヘッド近くを握りしめて腕全体で叩くと、強さが毎回ばらついて痛みも与えやすい。柄の端寄りのバランスのよい部分を軽く持ち、手首のスナップでヘッドの重みを使って振り子のように落とす。そうすると一定の強さで正確に叩けて、左右差も正しく比べられる。
医学生医学生
残るのは両手で握る努力をさせる話ですね。下肢に集中できなくなって反射が弱まるのかと考えてしまいました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴で、実は逆なんだ。両手の指を鉤状に組んで左右に強く引っ張らせると、膝蓋腱反射は増強する。これがJendrassik手技、つまり増強法だ。脊髄運動ニューロンの興奮性が高まることに加え、注意が上肢にそれて下肢を無意識に緊張させにくくなることが機序と考えられている。だから減弱するという記述が誤りになる。
医学生医学生
注意がそれることが、むしろ反射を出しやすくする方向に働くんですね。
ドクタードクター
その通り。反射が出にくいときに本当に消失しているのかを確かめるために使い、増強法でも出なければ消失と判断する。叩く直前に引っ張らせるのがタイミングのコツだよ。
医学生医学生
神経内科の実習で、先生が「引っ張って」と声をかけた瞬間に叩いていたのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。発展として、各反射の髄節も整理しておこう。上腕二頭筋反射と腕橈骨筋反射はC5〜C6、上腕三頭筋反射は主にC7、膝蓋腱反射は主にL3〜L4、アキレス腱反射は主にS1だ。腰椎椎間板ヘルニアでは、L4神経根障害で膝蓋腱反射、S1神経根障害でアキレス腱反射が低下し、L5神経根障害では両方とも保たれることが多い。
医学生医学生
反射の左右差や上下肢の差を見ることで、障害部位の推定につながるわけですね。
ドクタードクター
そう。亢進していればBabinski徴候やクローヌスの有無も確認し、上位運動ニューロン障害を疑う。ただし脊髄損傷直後の脊髄ショック期には、上位の障害でも一過性に反射が消失することがある点には注意しよう。甲状腺機能低下症でアキレス腱反射の弛緩相が遅れることも知っておくと役に立つ。反射は単独でなく、筋力や感覚と組み合わせて解釈することが大切だよ。

まとめ

膝蓋腱反射は、膝蓋腱の叩打で伸張された大腿四頭筋の筋紡錘からの信号が大腿神経を経て主にL3〜L4髄節に入り、単シナプス性に大腿四頭筋を収縮させて下腿を前方へ上げる筋伸張反射です。反射弓が障害される末梢神経障害や神経根障害では低下・消失し、上位運動ニューロン障害では抑制が外れて亢進します。正しく評価するには下肢の力を抜かせ、ハンマーはバランスのよい部分を持ってスナップを利かせて叩きます。両手を組んで引っ張らせるJendrassik手技では反射は減弱ではなく増強し、増強法でも出ない場合に消失と判断します。反射の仕組みと手技を正しく理解しておくことは、神経診察で障害部位を推定するための基本となります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

膝蓋腱反射(patellar tendon reflex、PTR)の機序・評価の意義・診察手技について、誤っている記述を1つ選ぶ問題である。「誤っているのはどれか」型なので、正しい記述4つと誤った記述1つを見分ける必要がある。

膝蓋腱反射の仕組み

膝蓋腱反射は代表的な深部腱反射(筋伸張反射)である。膝蓋骨の下にある膝蓋腱をハンマーで叩くと、大腿四頭筋が急に引き伸ばされ、筋内の筋紡錘が興奮する。その信号はIa群求心性線維を通って大腿神経から脊髄(主にL3〜L4髄節、範囲としてはL2〜L4)へ入り、シナプスを1つだけ介して(単シナプス反射)同じ髄節の前角にあるα運動ニューロンを興奮させる。その結果、大腿四頭筋が収縮して膝関節が伸展し、下腿が前方へ跳ね上がる。

反射の異常が示すもの

反射弓(受容器→求心路→脊髄→遠心路→筋)のどこかが障害されると反射は低下・消失する。一方、反射弓より上位の中枢(大脳・脳幹・脊髄の上位運動ニューロン)は通常この反射を抑制しているため、上位運動ニューロン障害では抑制が外れて反射が亢進する。

正しく診察するための工夫

反射は被検者が下肢に力を入れていると出にくくなるため、力を抜かせた状態で、ハンマーを適切に振って腱を叩く。それでも反射が出にくいときは、増強法を用いる。代表的なものがJendrassik(イェンドラシック)手技で、両手の指を互いに引っかけて左右に強く引っ張らせる(随意的な把持努力をさせる)と、膝蓋腱反射は「増強」する。選択肢cは「減弱する」としており、これが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  末梢神経障害で低下する。

    正しい記述である。膝蓋腱反射の反射弓には、求心路(Ia群線維)と遠心路(α運動ニューロンの軸索)を含む大腿神経が含まれる。糖尿病性多発ニューロパチーやGuillain-Barré症候群などの末梢神経障害、L4神経根を圧迫する腰椎椎間板ヘルニアなどの神経根障害、前角細胞の障害といった下位運動ニューロン障害では、反射弓が途切れるため反射は低下または消失する。筋疾患で筋そのものが高度に障害された場合にも低下しうる。

  2. ×b.  下肢の力を抜くように指示する。

    正しい記述である。被検者が下肢に力を入れて緊張していると、拮抗筋の収縮や随意的な抑制によって反射が出にくくなり、正しく評価できない。座位で両下腿を診察台の縁から垂らす、または仰臥位で検者が膝窩部に手を入れて膝を軽く屈曲させて支えるなど、下肢をリラックスさせた姿勢をとらせ、力を抜くように指示してから検査する。

  3. ○c.  両上肢の随意把持努力により減弱する。

    誤った記述であり、本問の正解である。両手の指を鉤状に組み合わせて左右に強く引っ張らせる、あるいは強く手を握らせるといった上肢の随意的な努力をさせると、膝蓋腱反射は減弱するのではなく増強する。これをJendrassik手技(増強法)という。脊髄運動ニューロンの興奮性が高まること(Ia線維終末へのシナプス前抑制の減少などが考えられている)に加え、被検者の注意が上肢へそれて下肢を無意識に緊張させにくくなることが機序とされる。反射が出にくいときに「本当に消失しているのか」を確かめるために用い、増強法でも出なければ消失と判断する。叩打の直前に引っ張らせるのがコツである。

  4. ×d.  大腿四頭筋の収縮により下腿が前方に上がる。

    正しい記述である。膝蓋腱を叩打すると大腿四頭筋が伸張され、反射的に大腿四頭筋が収縮する。大腿四頭筋は膝関節の伸筋であるため、膝が伸展し、下腿が前方へ持ち上がる。視診で下腿の動きを観察するとともに、大腿前面に手を当てて筋収縮を触知すると、わずかな反射も確認しやすい。

  5. ×e.  ハンマーのバランスのよい部分を持って診察する。

    正しい記述である。打腱器(ハンマー)は柄の端寄りのバランスのよい部分を軽く持ち、手首のスナップを利かせて、ハンマーヘッドの重みを利用して振り子のように振り下ろす。こうすることで毎回一定の強さで、狙った腱の部位に正確に叩打でき、左右差の比較も正しく行える。ヘッドに近い部分を握りしめて腕全体で叩くと、強さが一定せず、被検者に痛みを与えやすい。

主な深部腱反射と支配髄節

・下顎反射:三叉神経(橋) ・上腕二頭筋反射:C5〜C6(筋皮神経) ・腕橈骨筋反射:C5〜C6(橈骨神経) ・上腕三頭筋反射:C6〜C8(主にC7、橈骨神経) ・膝蓋腱反射:L2〜L4(主にL3〜L4、大腿神経) ・アキレス腱反射:S1〜S2(主にS1、脛骨神経)

深部腱反射の評価

・亢進:上位運動ニューロン障害(脳血管障害、脊髄症、筋萎縮性側索硬化症など)。病的反射(Babinski徴候など)や、膝クローヌス・足クローヌスを伴うことがある。甲状腺機能亢進症や不安などでも全般的に亢進しうる。 ・低下・消失:下位運動ニューロン障害(末梢神経障害、神経根障害、前角細胞障害)、筋疾患。甲状腺機能低下症ではアキレス腱反射の弛緩相が遅延する。脊髄ショック期には上位障害でも一過性に消失する。 ・反射は左右差や、上肢と下肢の差に注目して評価する。

反射の記載法(一例)

消失(-)、低下(±)、正常(+)、やや亢進(++)、亢進(+++)、著明亢進・クローヌス(++++)のように記載する。

神経根障害との対応

腰椎椎間板ヘルニアでは、L4神経根障害で膝蓋腱反射が低下し、S1神経根障害でアキレス腱反射が低下する。L5神経根障害では両者とも保たれることが多い。

POINT

・膝蓋腱反射は大腿神経を介する単シナプス性の筋伸張反射で、主にL3〜L4(L4神経根)を反映する。 ・下位運動ニューロン障害(末梢神経障害など)で低下・消失、上位運動ニューロン障害で亢進。 ・下肢の力を抜かせ、ハンマーはバランスのよい部分を持ってスナップを利かせて叩く。 ・Jendrassik手技(両手を組んで引っ張らせる)で反射は「増強」する。減弱ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。