「入院から地域へ」―統計の流れで読み解く日本の精神保健医療福祉
第120回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
我が国の精神保健医療福祉の現状で正しいのはどれか。
- a.自殺による死亡数は,男性より女性の方が多い。
- b.自殺の原因・動機で最も多いのは,家庭問題である。
- c.精神疾患を有する入院患者数は,年々減少している。
- d.精神疾患を有する外来患者の疾患別内訳は,統合失調症が最も多い。
- e.精神科病棟に入院している患者の疾患別内訳で,認知症の割合は,年々減少している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
我が国の自殺者数は男性が女性の約2倍で、原因・動機の最多は健康問題であり、自殺未遂は女性に多いという性差の違いにも注意が必要です。精神疾患については、「入院医療中心から地域生活中心へ」という政策のもとで入院患者数は長期的に減少し、外来患者数は増加しています。疾患別では入院の最多が統合失調症、外来の最多が気分障害で、入院患者に占める認知症の割合は高齢化と統合失調症入院の減少を背景に増加しています。若年層で自殺が死因の第1位であることや、地域包括ケアシステムの構築など周辺の動向も含め、統計を政策の流れと結びつけて理解することが、試験対策だけでなく地域での精神科医療を考える土台になります。
解答・解説
正解はcです
我が国の精神保健医療福祉に関する統計の動向を問う一般問題である。押さえるべき統計の出どころは大きく2つある。 【自殺の統計】警察庁の自殺統計(厚生労働省も「自殺の状況」として公表)で、性別・年齢別の自殺者数、原因・動機別件数などが分かる。 【精神疾患の患者数】厚生労働省の患者調査(3年ごと)をもとに、精神疾患を有する入院・外来患者数とその疾患別内訳が示される。 近年の大きな流れは次の3点にまとめられる。(1)自殺者数は男性が女性の約2倍で、原因・動機は健康問題が最多である。(2)「入院医療中心から地域生活中心へ」という国の方針のもと、精神病床の入院患者数は減り続ける一方、外来患者数は増加している。(3)入院患者の内訳では統合失調症が減り、高齢化を背景に認知症の割合が増えている。外来では気分障害(うつ病・双極性障害)が最も多い。 この流れに合致するのは「入院患者数は年々減少している」という記述である。
選択肢考察
- ×a. 自殺による死亡数は,男性より女性の方が多い。
誤り。我が国の自殺者数は統計開始以来一貫して男性が女性を上回っており、おおむね男性が女性の2倍強である。例えば2024年(令和6年)は総数約2万人のうち、男性13,801人、女性6,519人であった。なお、自殺未遂(自傷行為)は女性に多いとされ、既遂と未遂で性差の傾向が異なる点も覚えておくとよい。
- ×b. 自殺の原因・動機で最も多いのは,家庭問題である。
誤り。原因・動機(遺書などから推定でき、1人につき複数計上あり)で最も多いのは健康問題(うつ病などの精神疾患や身体疾患の悩み)であり、2024年は健康問題12,029件に対し家庭問題は4,297件であった。家庭問題(夫婦・親子の不和など)や経済・生活問題(生活苦、負債、失業など)、勤務問題はその次に位置する。経済・生活問題は中高年男性で比重が大きく、過去には2位を占めた年も多い。
- ○c. 精神疾患を有する入院患者数は,年々減少している。
正しい。患者調査に基づく推移では、精神疾患を有する入院患者数は2000年代初頭から長期的に減少している。背景には、2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」に代表される「入院医療中心から地域生活中心へ」の政策転換、精神病床の削減と長期入院者の地域移行の推進、抗精神病薬(特に第二世代薬)など治療の進歩がある。とりわけ統合失調症の入院患者数の減少が全体の減少に大きく寄与している。対照的に外来患者数は増加傾向にある。
- ×d. 精神疾患を有する外来患者の疾患別内訳は,統合失調症が最も多い。
誤り。外来患者で最も多いのは気分(感情)障害(うつ病、双極性障害など)である。2023年の患者調査では、気分障害に次いで神経症性障害・ストレス関連障害(不安障害など)、認知症(Alzheimer病、血管性認知症)、統合失調症の順となっている。統合失調症が最多となるのは入院患者の内訳であり、外来と入院の違いを区別しておく必要がある。
- ×e. 精神科病棟に入院している患者の疾患別内訳で,認知症の割合は,年々減少している。
誤り。精神疾患を有する入院患者に占める認知症の割合は増加している。患者調査では2002年に約2割であったものが、2023年には約3割近くに達している。理由は2つあり、(1)分母側で統合失調症の入院患者が地域移行などにより減少したこと、(2)分子側で高齢化により認知症患者自体が増え、行動・心理症状(BPSD:興奮、暴力、徘徊、妄想など)の治療目的で精神科病棟へ入院する例が多いことである。ただし入院患者の疾患別では、依然として統合失調症が最多である。
【自殺の動向】自殺者数は1998年に急増して年間3万人を超え、2003年に約3万4千人でピークとなった。2006年の自殺対策基本法制定以降は減少に転じ、2010年代を通じて減少した。2020年には新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり女性と若年者で増加し、近年は年間約2万人前後で推移している。年齢階級別の自殺死亡率は中高年で高いが、10〜30歳代では死因の第1位が自殺であり、若年者の自殺が先進国の中でも目立つ点が我が国の特徴である。 【精神疾患を有する患者数】総患者数は増加傾向で、600万人規模に達している。増加の主因は外来患者で、気分障害、神経症性障害、認知症などが増えている。一方で入院患者数は減少している。
入院と外来の内訳の違い
・入院:統合失調症が最多(ただし減少傾向)、認知症の割合が増加。 ・外来:気分障害が最多、次いで神経症性障害・ストレス関連障害など。 【政策の流れ】精神保健医療福祉の改革ビジョン(2004年)で「入院医療中心から地域生活中心へ」が掲げられ、その後「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が進められている。我が国は人口当たりの精神病床数や平均在院日数が国際的にみて多い・長いことが課題とされてきた。
POINT
・自殺者数は男性>女性(約2:1)。 ・自殺の原因・動機の最多は健康問題。 ・精神疾患の入院患者数は減少、外来患者数は増加。 ・外来の疾患別最多は気分障害、入院の最多は統合失調症。 ・入院患者に占める認知症の割合は増加している。
