退院後、どこに相談すればいい?―うつ病の復職と精神科救急をつなぐ精神保健福祉センター
第118回医師国家試験 F問題 第50問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。自殺目的で市販の睡眠薬を過量服薬し精神科病棟のない救急病院に搬入された。救急処置を終えた後,精神科にコンサルテーションしたところうつ病と診断された。1か月前から職場には不満などないにもかかわらず休むようになり,市販の睡眠薬を服用していた。入院数日以内に希死念慮が消失したため,近隣の精神科診療所に通うことになった。本人,家族から今後の復職のためのリハビリテーションや精神症状が悪化した時の救急受診先の情報などについて相談された。 相談先として案内するもので適切なのはどれか。
- a.グループホーム
- b.労働基準監督署
- c.就労移行支援事業所
- d.知的障害者更生施設
- e.精神保健福祉センター
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
うつ病で自殺企図後の患者と家族から、復職に向けたリハビリテーションと症状悪化時の救急受診先について相談された場合、案内先として適切なのは精神保健福祉センターです。精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に設置される地域精神保健福祉の中核機関で、本人・家族の相談、精神科医療や社会復帰に関する情報提供、自殺対策、保健所・市町村への技術支援などを担います。就労移行支援事業所は新たな就職を目指す障害者向けで在職中の休職者の復職支援とは異なり、労働基準監督署は労働条件の監督と労災保険、グループホームは居住支援、知的障害者更生施設は知的障害のある成人を対象とした旧制度の施設です。自殺企図の既往は強い危険因子であり、希死念慮が消えても継続治療と地域の相談機関との連携が重要です。各機関の対象と目的を押さえることは、患者を適切な支援につなぐ臨床力の土台になります。
解答・解説
正解はeです
症例の整理
・42歳の男性が、自殺を図って市販の睡眠薬を大量に服用し、精神科病棟のない救急病院に搬送された。救急処置後の精神科コンサルテーションでうつ病と診断されている。 ・1か月前から、職場に不満がないにもかかわらず欠勤するようになっていた。職場環境の問題(ハラスメントや過重労働など)が主因とはいえず、うつ病による意欲低下・活動性低下が欠勤の背景にあると考えられる。 ・入院数日で希死念慮は消失し、今後は近隣の精神科診療所に通院する予定である。知的障害や、日常生活の自立を妨げるような障害はうかがえない。 ・本人と家族からの相談内容は、(1) 復職に向けたリハビリテーション(いわゆるリワーク)と、(2) 精神症状が悪化したときの救急受診先、の2点の情報である。
設問へのアプローチ
求められているのは、地域の精神保健に関する情報提供・相談に応じる公的機関を案内することである。精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に設置される精神保健福祉センターは、地域精神保健福祉の技術的中核機関であり、心の健康相談、精神科医療や社会復帰(復職支援・デイケアなど)に関する相談・情報提供、自殺対策、保健所・市町村への技術支援などを担う。精神科救急医療体制の整備にも関わり、症状悪化時の受診先についての情報提供も行える。本人・家族のどちらからの相談にも応じるため、本例の相談先として最も適切である。 各選択肢は、「その施設・機関が誰を対象とし、何を目的とするか」を押さえれば判断できる。入所・居住のための施設(グループホーム、知的障害者更生施設)、労働法令の監督機関(労働基準監督署)、就職を目指す障害者の訓練施設(就労移行支援事業所)は、いずれも本例の相談内容とは目的・対象が合わない。 なお実際の臨床では、まず主治医となる精神科医(コンサルテーション医や通院先の診療所の医師)が相談に応じ、必要に応じて診療情報提供書を作成してリワークを行う医療機関などへつなぐ。また、身近な相談窓口としては保健所や市町村の精神保健相談も利用できる。本問はそのうえで、選択肢の中から公的な相談先として適切なものを選ばせている。
選択肢考察
- ×a. グループホーム
グループホームは、少人数で共同生活を送りながら日常生活上の援助を受ける住まいの場である。介護保険法に基づく認知症高齢者のグループホーム(認知症対応型共同生活介護)と、障害者総合支援法に基づく障害者のグループホーム(共同生活援助)がある。いずれも居住支援の施設であり、本例のように自宅で生活でき、生活能力に問題のない患者が復職リハビリテーションや救急受診先について相談する場ではない。
- ×b. 労働基準監督署
労働基準監督署は厚生労働省の出先機関で、労働基準法や労働安全衛生法などに基づき、労働条件(賃金、労働時間、安全衛生など)が守られているかを監督し、違反の是正指導や労災保険の給付事務を行う。過重労働やハラスメントなど職場の問題がある場合には関係するが、本例は職場への不満がなく、相談内容も復職リハビリや救急受診先の情報であるため適切でない。
- ×c. 就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つで、一般企業への就職を希望する障害者に対し、一定期間(原則2年以内)職業訓練や求職活動の支援、就職後の職場定着支援を行う通所施設である。新たな就職を目指す人が対象であり、在職中で休職からの復職を目指す本例が利用する機関としては適切でない。復職支援(リワーク)は、主に精神科医療機関のリワークプログラムや地域障害者職業センター、精神保健福祉センターなどで行われる。
- ×d. 知的障害者更生施設
旧制度の知的障害者福祉法で定められていた施設で、成人(18歳以上)の知的障害のある人を受け入れ、保護しつつ自立に向けた生活指導や作業訓練を行う場であった(入所型と通所型があった)。障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行に伴う施設体系の再編により、障害者支援施設などの新体系へ移行し、現在この名称の施設は存在しない。利用対象は知的障害のある人であり、知的障害がうかがえない本例の相談先には当たらない。
- ○e. 精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に設置される、地域精神保健福祉の中核的な専門機関である。心の健康に関する相談、精神科医療や社会復帰に関する相談・情報提供、自殺対策(自死遺族支援を含む)、保健所や市町村への技術指導・援助、精神医療審査会の事務などを担い、施設によっては復職支援を目的としたデイケア(リワーク)も実施している。本人・家族からの相談に応じ、復職リハビリの利用先や精神科救急の受診先について情報提供できるため、案内先として適切である。
地域精神保健福祉の主な機関
・精神保健福祉センター:精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に設置。地域精神保健福祉の技術的中核。主な業務は、知識の普及・調査研究、複雑・困難な事例を含む精神保健福祉相談、保健所・市町村への技術指導・技術援助、関係職員の教育研修、精神医療審査会の事務、精神障害者保健福祉手帳の交付申請・自立支援医療(精神通院医療)の支給認定に関する判定、自殺対策、依存症対策などである。 ・保健所:地域の精神保健福祉業務の第一線機関。精神保健福祉相談、訪問指導、措置入院に関する事務などを行う。 ・市町村:身近な相談窓口であり、障害福祉サービスの利用申請窓口となる。
精神科救急
各都道府県では精神科救急医療体制が整備され、精神科救急情報センターなどが夜間・休日の受診相談や受け入れ医療機関の調整を行っている。
うつ病患者の復職支援
・休職中の労働者に対しては、精神科医療機関のリワークプログラム(復職支援デイケア)、地域障害者職業センターのリワーク支援、精神保健福祉センターのデイケアなどが利用される。 ・事業場側では「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)に沿って、主治医の復職可能との判断、産業医の意見、職場復帰支援プランの作成などの段階を踏んで復職を進める。
障害者総合支援法による主なサービス(関連する選択肢)
・就労移行支援:一般就労を希望する障害者への訓練・求職支援(原則2年以内)。 ・就労継続支援A型・B型:一般就労が困難な人への就労機会の提供(A型は雇用契約あり、B型はなし)。 ・共同生活援助(グループホーム):共同生活を行う住居での相談・日常生活上の援助。
自殺企図後の対応
自殺企図の既往は最も強い自殺の危険因子の一つである。希死念慮が消失しても、回復期に再企図のリスクがあるため、継続的な精神科治療、家族への情報提供、地域の相談機関との連携が重要である。
POINT
・精神保健福祉センターは都道府県・政令指定都市に設置される地域精神保健福祉の中核機関で、本人・家族の相談、社会復帰(復職を含む)や精神科医療に関する情報提供、自殺対策などを行う。 ・保健所は地域精神保健の第一線機関、精神保健福祉センターはそれを技術的に支援する専門機関という位置づけである。 ・就労移行支援は「これから就職する」障害者向けであり、在職中の休職者の復職支援(リワーク)とは区別する。 ・労働基準監督署は労働条件・労働安全衛生の監督と労災保険を担う。 ・グループホームは居住支援、知的障害者更生施設は知的障害のある成人が対象の旧制度の施設(現在は障害者支援施設に移行)。
