StudyMed医師国家試験

災害現場にCTはない―CSCATTTで読み解く「最大多数に最大の効果」

第120回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第13問

災害時の救護活動の基本に含まれないのはどれか。

  1. a.安全
  2. b.情報伝達
  3. c.精密検査
  4. d.指揮と統制
  5. e.トリアージ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の基本原則を問う問題だ。ポイントは、傷病者の数が医療資源を大きく上回る状況では、平時の医療とは目標そのものが変わるということ。その切り替えを意識しながら考えてみよう。
医学生医学生
平時は目の前の一人に最善を尽くしますよね。災害時はそれができない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。人手も物資も搬送手段も病床も足りない中では、「限られた資源で、できるだけ多くの人を救う」、つまり最大多数に最大の効果を目指すことになる。そのための行動原則がCSCATTTだ。聞いたことはあるかな。
医学生医学生
救急医学の講義で出てきました。確か、指揮と統制、安全、情報伝達、評価、トリアージ、治療、搬送の頭文字でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。英国の大事故医療管理教育であるMIMMSで体系化された考え方だ。前半のCSCAは医療を始めるための体制づくり、後半のTTTが実際の医療支援にあたる。体制が整わないまま目の前の傷病者の治療に飛びつくと、現場が混乱してかえって救える命を失ってしまう。だからまずCSCAを確立することが重視されるんだ。
医学生医学生
そうすると、選択肢のうち安全、情報伝達、指揮と統制、トリアージは全部CSCATTTに入っていますね。残る精密検査が答えでしょうか。
ドクタードクター
正解。精密検査はCTや詳しい血液検査のように時間と機器と人手がかかり、一人に資源を集中させることになる。災害現場では迅速な評価とトリアージ、救命に必要な最低限の処置、適切な医療機関への搬送が優先で、精密検査や確定診断は搬送先で状況が落ち着いてから行うものなんだ。
医学生医学生
でも、正確な診断がないまま治療するのは少し不安です。見逃しが起きませんか。
ドクタードクター
その感覚は大切だけれど、災害現場の治療は根本治療ではなく、搬送に耐えられるようにするための安定化処置が中心なんだ。気道確保、止血、輸液などだね。そして見逃しを減らすために、トリアージを一度で終わらせず、場面ごとに繰り返し行う。状態は刻々と変わるからね。
医学生医学生
なるほど。正解以外の項目も確認したいです。安全は、傷病者の安全のことですか。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。安全は3Sといって、自分自身、現場、傷病者・生存者の順に確保する。まず自分なんだ。救護者がけがをすれば活動を続けられないうえ、傷病者を一人増やすことになる。防護具を着け、危険区域に不用意に入らないことが最優先だよ。
医学生医学生
OSCEの一次救命処置でも、最初に周囲の安全確認をしてから近づきました。それと同じ発想ですね。
ドクタードクター
まさにそう。次に指揮と統制。Commandは組織内の縦の指揮命令系統、Controlは消防・警察・医療など関係機関同士の横の連携を指す。誰が責任者で誰に報告するかが曖昧だと、同じ場所に人が重なったり、必要な場所に誰もいなかったりする。
医学生医学生
情報伝達も、それと関係が深そうです。
ドクタードクター
そうだね。災害対応の失敗の多くは情報伝達の不備から起こるとされる。現場からの初期報告の要素をまとめたものにMETHANEレポートがあって、災害発生の宣言、正確な場所、災害の種類、危険、進入経路、傷病者数、必要な機関を伝える。これがあって初めて資源を適切に配分できるんだ。
医学生医学生
トリアージは、黒・赤・黄・緑の4区分のタグを使うんでしたね。救急科の実習で実物を見せてもらいました。
ドクタードクター
いいね。黒は死亡または救命困難、赤は最優先治療、黄は待機的治療、緑は軽症だ。一次トリアージでは歩行の可否、呼吸、循環、意識で短時間にふるい分けるSTART法が代表的で、二次トリアージでは生理学的評価と解剖学的評価を組み合わせたPAT法などで詳しく判定する。タグは原則として右手首に付けることも覚えておこう。
医学生医学生
体制を整えて、ふるい分けて、安定化して運ぶ。精密検査はその流れの外にある、ということですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。最後に臨床での話をしておくと、日本では発災後おおむね48時間以内の急性期に活動するDMATや、多数の重症者を受け入れる災害拠点病院が整備されている。病院勤務になれば、多数傷病者の受け入れ訓練に参加する機会もあるはずだ。そのとき「まず治療」ではなく「まず指揮系統と安全と情報」と思い出せるかどうかが、現場を混乱させない鍵になるよ。

まとめ

大規模災害のように傷病者数が医療資源を上回る状況では、目標は「最大多数に最大の効果」へと切り替わります。その行動原則がCSCATTT(指揮と統制、安全、情報伝達、評価、トリアージ、治療、搬送)で、前半のCSCAによる体制づくりを先に確立することが重視されます。安全は自分・現場・傷病者の3Sの順に確保し、情報伝達にはMETHANEレポートが、トリアージには黒・赤・黄・緑の4区分タグとSTART法・PAT法が用いられ、トリアージは繰り返し行います。精密検査は時間と資源を一人に集中させるため災害現場の基本には含まれず、現場の治療は搬送に耐えるための安定化処置が中心です。この原則を理解しておくことは、DMATや災害拠点病院での活動、院内の多数傷病者受け入れ訓練など、将来どの診療科に進んでも求められる判断の土台になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

大規模災害のように、傷病者の数が医療資源(人手、物資、搬送手段、病床)を大きく上回る状況では、平時の「一人ひとりに最善の医療を尽くす」やり方は成り立たない。目標は「限られた資源で、できるだけ多くの人を救う(最大多数に最大の効果)」ことに切り替わる。

救護活動の基本原則: CSCATTT

災害現場での医療対応の原則は、英国の大事故医療管理教育(MIMMS: Major Incident Medical Management and Support)で体系化された CSCATTT に集約される。 ・C: Command and Control(指揮と統制) ・S: Safety(安全) ・C: Communication(情報伝達) ・A: Assessment(評価) ・T: Triage(トリアージ) ・T: Treatment(治療) ・T: Transport(搬送) 前半の CSCA は医療を始めるための体制づくり(医療管理)、後半の TTT は傷病者への医療支援にあたる。体制が整わないまま個々の治療を始めると、現場が混乱し救える命が失われるため、まず CSCA を確立することが重視される。

考え方

選択肢のうち、安全・情報伝達・指揮と統制・トリアージはいずれも CSCATTT の構成要素である。一方、精密検査は時間・機器・人手を要し、多数の傷病者を迅速にさばく必要がある災害現場では原則として行わない。災害現場の医療は、短時間での状態評価と、生命維持や搬送に耐えるための安定化処置が中心になる。よって基本に含まれないのは精密検査である。

選択肢考察

  1. ×a.  安全

    CSCATTT の S(Safety)にあたり、基本に含まれる。安全は「3S」として、自分自身(Self)、現場(Scene)、傷病者・生存者(Survivor)の順に確保する。救護者が負傷すれば救護活動を続けられないうえ、新たな傷病者を増やすことになるため、まず自分の安全(防護具の着用や危険区域に不用意に入らないことなど)を最優先する。

  2. ×b.  情報伝達

    CSCATTT の C(Communication)にあたり、基本に含まれる。災害時の対応の失敗の多くは情報伝達の不備によって起こるとされる。災害の発生場所、種類、危険の有無、進入経路、傷病者数、必要な支援などを、指揮系統に沿って正確かつ迅速に共有することで、限られた医療資源を適切に配分できる。現場からの初期報告の要素を覚えやすくまとめたものとして METHANE(メタン)レポートがある。

  3. ○c.  精密検査

    CSCATTT に含まれず、災害時の救護活動の基本ではない。CT や詳しい血液検査などの精密検査は、時間と機器と人員を必要とし、一人に資源を集中させることになる。災害現場や多数傷病者の受け入れ時には、迅速な評価とトリアージ、救命に必要な最低限の処置、適切な医療機関への搬送が優先され、精密検査や確定診断は搬送先の医療機関で状況が落ち着いてから行う。

  4. ×d.  指揮と統制

    CSCATTT の最初の C(Command and Control)にあたり、基本に含まれる。Command は組織内の縦の指揮命令系統、Control は消防・警察・医療など関係機関の間の横の連携・調整を意味する。誰が責任者で誰に報告するのかを明確にしないと、同じ場所に人員が重複したり必要な場所に誰もいなかったりする混乱が生じる。

  5. ×e.  トリアージ

    CSCATTT の最初の T(Triage)にあたり、基本に含まれる。傷病者を緊急度・重症度によって分類し、治療や搬送の優先順位を決めることである。日本では、黒(死亡または救命困難、区分0)、赤(最優先治療、区分I)、黄(待機的治療、区分II)、緑(軽症・保留、区分III)の 4 区分のトリアージタグを用いる。傷病者の状態は変化するため、トリアージは一度で終わらせず、場面ごとに繰り返し行う。

CSCATTT の各項目の要点

・Command and Control: 指揮命令系統の確立と関係機関の連携 ・Safety: 3S(Self、Scene、Survivor)の順に安全を確保する ・Communication: 指揮系統に沿った情報共有。通信手段の確保も含む ・Assessment: 被害の規模、傷病者数、必要な資源、活動方針の評価 ・Triage: 緊急度・重症度による優先順位の決定 ・Treatment: 搬送に耐えられるようにするための安定化処置(気道確保、止血、輸液など)が中心で、根本的な治療ではない ・Transport: 適切な傷病者を、適切な時間内に、適切な医療機関へ搬送する

METHANE レポート(現場からの初期報告)

・M: Major incident(大事故・災害の発生宣言) ・E: Exact location(正確な場所) ・T: Type of incident(災害の種類) ・H: Hazard(危険の有無と種類) ・A: Access(進入経路) ・N: Number of casualties(傷病者の数と重症度) ・E: Emergency services(現在出動している、または必要な機関)

トリアージの方法

・一次トリアージ: 多数の傷病者を短時間でふるい分ける。歩行の可否、呼吸、循環(橈骨動脈触知や毛細血管再充満時間)、意識(簡単な指示に従えるか)で判定する START 法が代表 ・二次トリアージ: 生理学的評価と解剖学的評価を組み合わせてより詳しく判定する PAT 法(生理学的・解剖学的評価法)など ・トリアージタグは原則として右手首(負傷していれば左手首、右足首、左足首、首の順)に付ける

災害医療の関連事項

・DMAT(災害派遣医療チーム): 発災後おおむね 48 時間以内の急性期に活動できる、専門的な訓練を受けた医療チーム ・災害拠点病院: 災害時に多数の重症傷病者を受け入れ、広域搬送や DMAT 派遣の拠点となる病院

POINT

・災害医療の目標は「最大多数に最大の効果」 ・救護活動の基本原則は CSCATTT(指揮と統制、安全、情報伝達、評価、トリアージ、治療、搬送) ・安全の優先順位は 3S: 自分→現場→傷病者 ・トリアージは繰り返し行う。タグは黒・赤・黄・緑の 4 区分 ・精密検査・確定診断は災害現場の基本には含まれない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。