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視野の欠け方は病変の住所録―加齢黄斑変性に「水平半盲」は似合わない

第116回医師国家試験 F問題 第16問

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第116回 F問題 第16問

視野異常と疾患の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.Bjerrum暗点 ―― 緑内障
  2. b.盲中心暗点 ―― 視神経炎
  3. c.両耳側半盲 ―― 下垂体腺腫
  4. d.水平半盲 ―― 加齢黄斑変性
  5. e.輪状暗点 ―― 網膜色素変性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、視野異常のパターンと疾患の組合せから「誤っているもの」を選ぶ問題だ。視野の欠け方は、視覚路のどこがどう障害されたかをそのまま映し出す。だから、それぞれの疾患がどの部位を侵すのかを思い浮かべながら考えるのがコツだよ。
医学生医学生
眼科の講義で視覚路の図を何度も描かされました。網膜、視神経、視交叉、視索、外側膝状体、視放線、後頭葉の順でしたよね。
ドクタードクター
その図が今回の最大の武器になる。まずは視交叉から片づけよう。下垂体腺腫で両耳側半盲、というのはどう説明できるかな。
医学生医学生
視交叉では鼻側網膜からの線維が交叉していて、鼻側網膜は耳側視野を担当しているので、そこが下から圧迫されると両眼とも耳側が欠ける、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。下方からの圧迫なので、上耳側の1/4から欠け始めることが多いのも押さえておこう。頭蓋咽頭腫や鞍結節髄膜腫でも同じことが起こる。次は緑内障とBjerrum暗点だ。
医学生医学生
Bjerrum暗点って名前は覚えているんですが、形がいまいちイメージできません。
ドクタードクター
網膜神経線維は黄斑を避けるように上下へ弓状に回り込んで乳頭に入る。緑内障では乳頭の上下極の線維が傷みやすいから、Mariotte盲点から固視点の上か下を弓状に回る暗点、つまり弓状暗点ができる。固視点から10〜20°くらいの領域だ。進行すると水平経線を境に鼻側で段差ができる鼻側階段を伴うようになる。
医学生医学生
線維の走行どおりに欠けるから弓の形になるんですね。では視神経炎の盲中心暗点は、乳頭黄斑線維束がやられるからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。黄斑から乳頭へ向かう線維束が障害されると、中心暗点とMariotte盲点がつながった形、ラケット状の暗点になる。視神経炎では中心暗点も多い。ほかにLeber遺伝性視神経症やエタンブトールなどによる中毒性視神経症でも見られるよ。
医学生医学生
網膜色素変性の輪状暗点は、生理学の講義で桿体が中間周辺部に多いと習ったのが関係していそうです。
ドクタードクター
いい結びつけ方だね。桿体は中心窩にはほとんどなく、中心から20°前後に最も密に分布する。そこから変性するので、固視点を囲むドーナツ状の暗点が出る。初発症状は夜盲で、進行すると求心性視野狭窄になって中心だけが残る。眼底では骨小体様色素沈着や血管の狭細化が見られる。
医学生医学生
ということは、残る加齢黄斑変性と水平半盲が誤りですね。黄斑の病気なら中心が見えにくくなるはずです。
ドクタードクター
正解。加齢黄斑変性は黄斑部に脈絡膜新生血管や網膜色素上皮の萎縮が起こる病気で、症状は視力低下、変視症、中心暗点だ。病変が黄斑に限局しているから、視野が上下半分で区切られて欠けることはない。
医学生医学生
臨床実習の眼科外来で、アムスラーチャートの格子がゆがんで見えると訴える患者さんがいました。あれが変視症ですね。では、水平半盲はどんな病気で出るんですか。
ドクタードクター
代表は前部虚血性視神経症だ。視神経乳頭の上半分か下半分が虚血に陥るため、水平経線を境に欠損が生じる。特に下方視野の欠損が多い。網膜動脈分枝閉塞症でも、閉塞した枝の灌流域に対応して水平経線で区切られた欠損が出ることがある。
医学生医学生
網膜の血管も神経線維も水平経線を境に上下で分かれているから、水平線が境界になるんですね。一方で縦の線、垂直経線で区切られるのは視交叉より後ろの病変でしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。視交叉以降の障害では同名半盲や同名1/4盲になる。側頭葉のMeyerループが障害されれば同名上1/4盲、後頭葉病変では黄斑回避を伴うことがある。臨床では、患者さんが「見えにくい」としか言わなくても、視野の形を丁寧に評価すれば病変部位がかなり絞れる。脳神経内科や脳神経外科と連携するきっかけになることも多いんだ。
医学生医学生
水平の境界なら乳頭や網膜血管の上下の区分、垂直の境界なら視交叉以降、中心なら黄斑か乳頭黄斑線維束、と整理して覚えます。
ドクタードクター
それで十分戦える。最後に、白内障や角膜混濁は霧視や視力低下は起こしても特定の形の視野欠損は作らない、という点も加えておくと鑑別が一段とクリアになるよ。

まとめ

視野異常の形は障害部位を反映し、緑内障では神経線維の走行に沿ったBjerrum暗点や鼻側階段、視神経炎では乳頭黄斑線維束障害による中心暗点・盲中心暗点、下垂体腺腫では視交叉圧迫による両耳側半盲、網膜色素変性では中間周辺部の桿体変性による輪状暗点が生じます。加齢黄斑変性は黄斑に限局する病変のため、視力低下・変視症・中心暗点が典型で、水平半盲は生じません。水平半盲は視神経乳頭の上下半分が虚血に陥る前部虚血性視神経症や網膜動脈分枝閉塞症でみられ、垂直経線で区切られる同名半盲は視交叉より後方の障害を示します。視野の「形」と「境界線」から病変の部位を逆算する考え方は、眼科のみならず神経疾患の局在診断にも直結する重要な基本です。

解答・解説

正解はdです

視野異常のパターンから障害部位・疾患を推定する問題であり、「誤っている組合せ」を選ぶ点に注意する。 視野異常の形は、視覚路のどこが、どのように障害されたかを反映する。 ・網膜の視細胞の障害:障害された網膜の部位に対応した暗点(例:桿体が多い中間周辺部が侵される網膜色素変性では輪状暗点、黄斑が侵される加齢黄斑変性では中心暗点)。 ・視神経線維の障害:網膜神経線維の走行に沿った弓状の暗点(緑内障のBjerrum暗点)や、黄斑からの線維(乳頭黄斑線維束)が侵されることによる中心暗点・盲中心暗点(視神経炎)。 ・視神経乳頭の血流障害:乳頭の上半分または下半分が梗塞に陥り、水平経線を境にした視野欠損(水平半盲)となる(前部虚血性視神経症)。 ・視交叉の障害:両眼の鼻側網膜から来る交叉線維が侵され、両耳側半盲(下垂体腺腫など)。 ・視交叉より後ろ(視索・外側膝状体・視放線・後頭葉)の障害:同名半盲や同名1/4盲。 この対応に照らすと、加齢黄斑変性は黄斑部の病変なので中心暗点を生じるのが典型で、水平半盲を生じる疾患ではない。水平半盲と組み合わせるべきなのは前部虚血性視神経症である。

選択肢考察

  1. ×a.  Bjerrum暗点 ―― 緑内障

    正しい組合せである。Bjerrum領域は、Mariotte盲点(視神経乳頭に相当する生理的盲点)から固視点の上方または下方を弓状に回り込み、鼻側へ広がる領域で、固視点から約10~20°の範囲にあたる。この部分に生じる弓状の暗点がBjerrum暗点(弓状暗点)である。緑内障では視神経乳頭の上下極の神経線維が障害されやすく、網膜神経線維の弓状の走行に沿って暗点が生じるため、緑内障に特徴的な初期~中期の視野変化となる。進行すると鼻側階段(水平経線を境に鼻側で段差をなす欠損)を伴い、末期には中心の視野がわずかに残るのみとなる。

  2. ×b.  盲中心暗点 ―― 視神経炎

    正しい組合せである。盲中心暗点は、中心暗点とMariotte盲点がつながった暗点で、その形からラケット状暗点とも呼ばれる。黄斑から視神経乳頭へ向かう乳頭黄斑線維束が障害されると生じ、視神経炎の典型的な視野異常である(視神経炎では中心暗点も多い)。そのほか、Leber遺伝性視神経症や中毒性視神経症(エタンブトールなど)でもみられる。

  3. ×c.  両耳側半盲 ―― 下垂体腺腫

    正しい組合せである。視交叉では、両眼の鼻側網膜(耳側視野を担当)から来る神経線維が交叉する。下垂体腺腫は視交叉を下方から圧迫して交叉線維を障害するため、両眼の耳側視野が欠ける両耳側半盲となる。下方からの圧迫のため、上耳側の1/4から欠損が始まることが多い。頭蓋咽頭腫や鞍結節髄膜腫など、視交叉を圧迫する他の腫瘍でも生じる。

  4. ○d.  水平半盲 ―― 加齢黄斑変性

    誤っている組合せであり、これが正解である。加齢黄斑変性は、加齢に伴い黄斑部に脈絡膜新生血管(滲出型)や網膜色素上皮の萎縮(萎縮型)が生じる疾患で、視力低下、変視症(物がゆがんで見える)、中心暗点を呈する。病変が黄斑に限局するため、視野の上半分または下半分が水平経線で区切られて欠ける水平半盲は生じない。水平半盲は前部虚血性視神経症の典型的な視野異常で、視神経乳頭の上半分または下半分が虚血に陥ることで生じ、特に下方の視野欠損が多い。網膜動脈分枝閉塞症でも水平経線を境とした欠損がみられることがある。

  5. ×e.  輪状暗点 ―― 網膜色素変性

    正しい組合せである。網膜色素変性は視細胞(主に桿体、のちに錐体)が進行性に変性する遺伝性疾患である。桿体は中心窩にはほとんど存在せず、中心から約20°前後の中間周辺部に最も密に分布するため、まずこの部分が障害されて、固視点を囲むドーナツ状の輪状暗点(おおむね視野の20~40°の範囲)が現れる。初発症状は夜盲であり、進行すると周辺視野も失われて求心性視野狭窄となり、中心部の視野のみが残る。眼底には骨小体様の色素沈着や網膜血管の狭細化がみられる。

主な視野異常と代表的疾患の整理

・中心暗点:加齢黄斑変性などの黄斑疾患、視神経炎 ・盲中心暗点(ラケット状暗点):視神経炎、Leber遺伝性視神経症、中毒性視神経症 ・Bjerrum暗点(弓状暗点)、鼻側階段:緑内障 ・輪状暗点→求心性視野狭窄:網膜色素変性 ・水平半盲:前部虚血性視神経症、網膜動脈分枝閉塞症 ・両耳側半盲:視交叉の圧迫(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など) ・同名半盲:視索・視放線・後頭葉の障害(脳梗塞、脳腫瘍など)。後頭葉病変では黄斑回避を伴うことがある。 ・同名上1/4盲:側頭葉内の視放線(Meyerループ)の障害

その他の眼疾患と視機能の関係

・網膜剝離:剝離した網膜に対応する視野が欠ける(上方の剝離なら下方視野が欠ける)。剝離が黄斑に及ぶと視力が急に低下する。 ・網膜中心動脈閉塞症:突然の高度な視力低下。眼底では網膜の白濁と中心窩のcherry-red spotがみられる。毛様網膜動脈が存在する例では中心部の視野・視力が残ることがある。 ・網膜前膜(黄斑前膜):変視症と視力低下が主で、明らかな視野欠損は生じにくい。 ・白内障・角膜混濁:中間透光体の混濁によって視力低下・霧視・羞明を生じるが、特定の形の視野欠損は生じない。

POINT

・「誤っているのはどれか」型である。 ・加齢黄斑変性→中心暗点・変視症。水平半盲は前部虚血性視神経症。 ・緑内障→Bjerrum暗点、鼻側階段。 ・視神経炎→中心暗点・盲中心暗点。 ・下垂体腺腫→両耳側半盲(上耳側から始まる)。 ・網膜色素変性→夜盲、輪状暗点→求心性視野狭窄。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。