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生活保護を受けているのは誰か―高齢化が映す「最後のセーフティネット」の今

第116回医師国家試験 F問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第17問

生活保護について正しいのはどれか。

  1. a.生活保護基準は都道府県が定める。
  2. b.被保護世帯数は近年減少傾向にある。
  3. c.被保護世帯数は高齢者世帯が最も多い。
  4. d.生活保護の開始は要介護状態が最も多い。
  5. e.生活保護受給者は国民健康保険に加入している。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は生活保護制度の仕組みと、被保護世帯の統計を問う問題だ。押さえるべき軸は3つ。制度の枠組み、医療保険との関係、そして統計の動向。この3つで選択肢はすべて判定できるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、生活保護は憲法25条の生存権を具体化した制度だと習いました。
ドクタードクター
その通り。生活に困窮するすべての国民に、困窮の程度に応じた保護を国の責任で行い、最低限度の生活を保障しつつ自立を助長する制度だ。では、まず枠組みから。生活保護基準は誰が決めると思う?
医学生医学生
実際に窓口になるのは福祉事務所なので、都道府県が決めているのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。保護の決定・実施は福祉事務所を通じて都道府県知事や市長などが行うけれど、基準そのものは生活保護法に基づき厚生労働大臣、つまり国が定める。地域の物価差は「級地」という区分で基準額に差をつけて反映しているんだ。費用は国が3/4、地方が1/4を負担する。
医学生医学生
実施は地方、基準は国、と分けて覚えればいいんですね。次に統計ですが、景気が回復してきたので被保護世帯数は減っているのでは?
ドクタードクター
そこも注意が必要だ。被保護世帯数は1990年代半ばを底に増え続け、リーマンショック後に急増した。そして2015年ごろからは約164万世帯前後でほぼ横ばい。減少傾向とはいえないんだ。
医学生医学生
でも、どこかで減っているというデータを見た気がします。
ドクタードクター
それは被保護「人員」のほうだろうね。人員は2015年ごろの約217万人をピークに緩やかに減っている。世帯数は横ばいで人員が減っているのは、単身世帯、とくに高齢単身世帯が増えて1世帯あたりの人数が減っているからだ。
医学生医学生
ということは、世帯類型別では高齢者世帯が最も多い、が正解ですね。
ドクタードクター
正解。高齢者世帯が約55%と過半数を占め、次いで障害者・傷病者世帯、その他の世帯、母子世帯の順だ。高齢者世帯の大部分は単身で、無年金や低年金の高齢者が増えていることが背景にある。
医学生医学生
保護開始の理由が要介護状態というのは、高齢者が多いならあり得そうにも思えます。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、実際に最も多いのは「貯金等の減少・喪失」で約4割。次いで傷病、働きによる収入の減少・喪失と続く。要介護状態を理由とする開始は1%程度とごくわずかだ。蓄えが尽きて保護に至る、という流れをイメージするといい。
医学生医学生
最後の国民健康保険ですが、臨床実習のときに医事課の方が「生保の患者さん」と言って保険証とは別の扱いをしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい観察だね。国民健康保険法では、生活保護を受けている世帯の人は国保の適用除外になる。後期高齢者医療制度も同様だ。だから医療費は原則として全額が医療扶助による現物給付で賄われる。勤務先の被用者保険に入っている人は、その保険の給付を受けたうえで自己負担分が医療扶助の対象になる。
医学生医学生
だから受診のときに福祉事務所が発行する医療券が必要になるんですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、扶助は生活、教育、住宅、医療、介護、出産、生業、葬祭の8種類。医療扶助と介護扶助が原則現物給付で、ほかは原則金銭給付だ。保護費全体の約半分を医療扶助が占めていて、最も大きい。また、資産や能力、扶養、他法を活用してもなお足りない分を補うという「補足性の原理」も重要だ。
医学生医学生
介護保険との関係はどうなりますか。
ドクタードクター
65歳以上の被保護者は介護保険の第1号被保険者になり、保険料は生活扶助、利用者負担は介護扶助で賄われる。一方、40〜64歳で医療保険に入っていない被保護者は第2号被保険者にならないので、介護サービス費は全額介護扶助になる。臨床でも、退院支援や在宅調整でソーシャルワーカーと連携するときにこの知識が生きてくるよ。

まとめ

生活保護は憲法25条の生存権を具体化した制度で、保護基準は国(厚生労働大臣)が定め、地域差は級地で調整し、実施は福祉事務所が担います。被保護世帯数は近年約164万世帯で横ばい、被保護人員は緩やかに減少しており、世帯類型別では高齢者世帯が約55%と最多で、高齢化と無年金・低年金の単身高齢者の増加が背景にあります。保護開始理由の最多は「貯金等の減少・喪失」で、被保護者は国民健康保険の適用除外となり医療は医療扶助(保護費の約半分)で賄われます。制度の枠組みと統計の動向を正しく理解しておくことは、社会的背景を踏まえた診療や退院支援、多職種連携の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

生活保護制度の仕組みと、被保護世帯の動向に関する統計を問う問題である。 生活保護は、日本国憲法第25条の生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)を具体化した制度で、生活保護法に基づき、生活に困窮するすべての国民に対して、困窮の程度に応じた保護を国の責任で行い、最低限度の生活を保障するとともに自立を助長することを目的とする。 正解を導くには、次の3点を押さえておけばよい。 ・制度の枠組み:保護の基準(生活保護基準)は国(厚生労働大臣)が全国一律の考え方で定める。地域の物価差などは「級地」として基準の中に織り込まれる。 ・医療との関係:被保護者は原則として国民健康保険の被保険者から外れ、医療費は医療扶助で賄われる。 ・統計の動向:被保護世帯数は長く増加したのち、近年は約164万世帯前後で横ばいである。世帯類型別では高齢者世帯が最も多く、半数を超える。保護開始の理由で最も多いのは「貯金等の減少・喪失」である。 人口の高齢化と、無年金・低年金の高齢単身者の増加を背景に、高齢者世帯が被保護世帯の過半数を占めるに至っている点が本問の核心である。

選択肢考察

  1. ×a.  生活保護基準は都道府県が定める。

    誤り。生活保護法第8条により、保護は厚生労働大臣の定める基準によって測定した要保護者の需要をもとに行うとされており、生活保護基準を定めるのは国(厚生労働大臣)である。都道府県や市町村が独自に定めるものではない。物価や生活様式の地域差は、市町村を区分した「級地」によって基準額に差をつけることで反映される。なお、保護の決定・実施は都道府県知事・市長・福祉事務所を設置する町村長が福祉事務所を通じて行い、費用は国が3/4、地方自治体が1/4を負担する。

  2. ×b.  被保護世帯数は近年減少傾向にある。

    誤り。被保護世帯数は1990年代半ばを底に増加を続け、2008年のリーマンショック後に急増したのち、2015年ごろからは約163万~164万世帯でほぼ横ばいとなっている。減少傾向とはいえない。一方、被保護「人員」(被保護者数)は2015年ごろの約217万人をピークに緩やかに減少し、近年は200万人余りである。世帯数と人員数とで動向が異なる点に注意する(単身の高齢者世帯の増加により、1世帯あたりの人員が減っているためである)。

  3. ○c.  被保護世帯数は高齢者世帯が最も多い。

    正しい。被保護世帯を世帯類型別にみると、高齢者世帯が最も多く約55%を占め、次いで障害者・傷病者世帯(約25%)、その他の世帯、母子世帯の順である。高齢者世帯の大部分は単身世帯である。高齢化の進行と、年金がない、または少ない高齢者の増加により、高齢者世帯は割合・世帯数ともに増えてきた。

  4. ×d.  生活保護の開始は要介護状態が最も多い。

    誤り。保護開始の主な理由で最も多いのは「貯金等の減少・喪失」で、約4割を占める。次いで「傷病による」、「働きによる収入の減少・喪失」が続く。「要介護状態」を理由とする開始はごくわずか(1%程度)である。

  5. ×e.  生活保護受給者は国民健康保険に加入している。

    誤り。国民健康保険法では、生活保護を受けている世帯に属する者は国民健康保険の適用除外とされている(後期高齢者医療制度も同様に適用除外)。そのため被保護者が医療を受けた場合、その費用は原則として全額が医療扶助(現物給付)で賄われる。なお、勤務先の健康保険などの被用者保険に加入している被保護者は、その保険から給付を受け、自己負担分が医療扶助の対象となる。

生活保護の4つの基本原理

・国家責任の原理:国が責任をもって最低限度の生活を保障し、自立を助長する。 ・無差別平等の原理:困窮に至った理由を問わず、要件を満たせば無差別平等に保護を受けられる。 ・最低生活保障の原理:健康で文化的な最低限度の生活を保障する。 ・保護の補足性の原理:資産・能力などあらゆるものを活用し、扶養義務者の扶養や他法・他施策を優先したうえで、なお不足する分を補う。

保護の4つの原則

・申請保護の原則:要保護者・扶養義務者・同居の親族の申請に基づいて開始する(急迫時は職権保護が可能)。 ・基準及び程度の原則:厚生労働大臣の定める基準で需要を測り、不足分を補う程度で行う。 ・必要即応の原則:年齢・性別・健康状態など個々の実情を考慮して行う。 ・世帯単位の原則:世帯を単位として要否と程度を定める。

8種類の扶助

生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助。医療扶助と介護扶助は原則として現物給付、それ以外は原則として金銭給付である。保護費の総額のうち約半分を医療扶助が占め、最も大きい。

医療保険・介護保険との関係

・国民健康保険・後期高齢者医療制度:被保護者は適用除外となり、医療扶助で対応する。 ・介護保険:65歳以上の被保護者は第1号被保険者となり、保険料は生活扶助、利用者負担は介護扶助で賄われる。40~64歳で医療保険に加入していない被保護者は第2号被保険者とならないため、介護サービス費は全額介護扶助で賄われる。

POINT

・生活保護基準は厚生労働大臣(国)が定める。費用負担は国3/4、地方1/4。 ・被保護世帯数は近年約164万世帯で横ばい。被保護人員は2015年ごろをピークに緩やかに減少。 ・世帯類型別では高齢者世帯が最多で過半数(約55%)。 ・保護開始理由の最多は「貯金等の減少・喪失」。 ・被保護者は国民健康保険の適用除外で、医療は医療扶助(保護費の約半分を占める)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。