StudyMed医師国家試験

「まとまる」食事が命を守る―誤嚥を防ぐ食形態の3条件

第116回医師国家試験 F問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第18問

嚥下機能が低下している高齢者の誤嚥を予防するために有用な食事の形態はどれか。

  1. a.凝集性(食塊のまとまり)が高い
  2. b.均質性(なめらかさ)が低い
  3. c.付着性が高い
  4. d.硬度が高い
  5. e.温度が高い

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、嚥下機能が落ちた高齢者にどんな性質の食事を出せば誤嚥しにくいかを問う問題だ。病名ではなく「食べ物の物性」がテーマになっているのが特徴だね。まずは、食べ物が口から食道へ移るまでの流れを思い出しながら考えてみよう。
医学生医学生
嚥下の5期モデルですね。先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期と生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。食べ物の性質が特に影響するのは準備期から咽頭期だ。咀嚼して唾液と混ぜ、飲み込める一つの塊、つまり食塊をつくり、舌で咽頭へ送り込む。そして嚥下反射で喉頭が挙上し、喉頭蓋が気道の入口をふさいでいる間に食道へ通す。高齢者ではこのどこかがうまくいかなくなるんだ。
医学生医学生
歯が少なくなったり、唾液が減ったり、反射が遅れたりということでしょうか。
ドクタードクター
そう。咀嚼筋や舌の筋力低下、喉頭の位置の下降も重なる。そこで問題になるのが、食塊がばらけることだ。まとまりの悪い食塊は、一部が嚥下反射の前に咽頭へ流れ込んだり、飲み込んだ後に喉頭蓋谷や梨状陥凹に残ったりして、気管に入ってしまう。
医学生医学生
だとすると、食塊がまとまっていること、つまり凝集性が高いことが大事なんですね。
ドクタードクター
正解。凝集性が高い食物は、口腔から咽頭、食道まで一塊のまま移動できるので、先走りや残留が起きにくい。とろみ剤やゼリー化は、まさにこの性質を高める工夫なんだ。
医学生医学生
でも、付着性が高いほうが咽頭にくっついてゆっくり流れて、安全そうに思えてしまいました。
ドクタードクター
そこは間違えやすいポイントだね。付着性とは粘膜や義歯に張りつく「べたつき」のことだ。べたつく食べ物は口蓋や義歯に貼りついて送り込みにくく、飲み込んだ後も咽頭に残る。その残留物が後から気道に落ち込むんだ。もちが窒息の原因になりやすいのも、付着性の高さが一因だよ。ゆっくり流すのは「とろみ」の役割で、べたつきとは別物と考えよう。
医学生医学生
なるほど。硬い食べ物は、よく噛めないから危ないということですか。
ドクタードクター
そうだね。硬い食物はしっかりかみ砕かないと食塊にならない。歯の喪失や義歯不適合があると、大きな塊のまま飲み込んで窒息したり、まとまりの悪い食塊になって誤嚥したりする。嚥下障害のある人にはやわらかい食事が向いている。
医学生医学生
なめらかさが低い、つまり不均質な食事というのは、具体的にはどんなものでしょう。
ドクタードクター
固形と液体が混ざった具入りの汁物や、果汁の多い果物が代表例だ。噛んでいるうちに液体部分だけが先に咽頭へ流れ込んでしまう。だから嚥下調整食は、ペーストやムースのようになめらかで均質に仕上げるんだ。
医学生医学生
温度が高いのはどうですか。温かいほうが反射が起きやすいと聞いた気もします。
ドクタードクター
鋭いね。体温と明らかに違う温度、たとえば冷たいものや適度に温かいものは嚥下反射を誘発しやすいとされている。ただ「熱い」食物は熱傷の危険があるうえ、口の中に保持しにくく、食塊を整える前に慌てて飲み込んでしまう。誤嚥予防に有用な条件とは言えないよ。
医学生医学生
まとめると、まとまりやすく、やわらかくなめらかで、べたつかない、の3条件ですね。
ドクタードクター
完璧だ。実際、えん下困難者用食品の許可基準でも、硬さ、付着性、凝集性の3項目で評価されている。病院や施設では日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類を使って、食形態を段階づけているんだ。
医学生医学生
臨床実習で老年内科を回ったとき、水分にとろみをつけるよう言語聴覚士さんが指示していたのを思い出しました。
ドクタードクター
さらさらした水やお茶は咽頭を速く流れて、反射が間に合わず誤嚥しやすいからね。逆に、クッキーやそぼろのようにパサパサしてばらけるもの、のりやわかめのように張りつくものも要注意だ。食形態以外にも、顎を軽く引いた座位で食べる、一口量を少なくする、食後しばらく座位を保つ、口腔ケアで口の中の細菌を減らす、といった工夫が誤嚥性肺炎の予防につながる。
医学生医学生
食事の中身と食べ方の両方から介入するということですね。
ドクタードクター
そう。誤嚥性肺炎は高齢者の入院の大きな原因だから、医師も食形態の考え方を知って、多職種で話し合えるようにしておこう。

まとめ

嚥下機能が低下した高齢者では、咀嚼力や唾液分泌、嚥下反射の低下により食塊がばらけやすく、咽頭への先走りや残留が誤嚥の原因になります。誤嚥しにくい食事の条件は、凝集性が高くまとまりやすいこと、硬度が低く均質でなめらかなこと、付着性が低くべたつかないことの3点で、えん下困難者用食品の基準も硬さ・付着性・凝集性で評価されます。硬い、べたつく、固形と液体が混在する、熱すぎる食物は誤嚥や窒息の危険を高め、さらさらした液体にはとろみを付けて流速を遅くします。姿勢や一口量、口腔ケアなど食べ方の工夫と組み合わせることが誤嚥性肺炎の予防につながり、医師も多職種チームの一員として食形態の考え方を理解しておくことが大切です。

解答・解説

正解はaです

問われていること

嚥下(飲み込み)の機能が落ちた高齢者に対し、どのような物性(食べ物の物理的な性質)の食事を出せば誤嚥を防ぎやすいかを問う問題である。

嚥下と食塊形成

口に入った食物は、咀嚼(歯と舌によるかみ砕き)と唾液との混和によって、飲み込める一つの塊(食塊)にまとめられ、舌によって咽頭へ送り込まれる。その後、嚥下反射によって喉頭が挙上し、喉頭蓋が気道の入口をふさいでいる間に食塊は食道へ送られる。高齢者では、歯の喪失や義歯、咀嚼筋・舌の筋力低下、唾液分泌の減少、喉頭の位置の下降、嚥下反射の遅れなどが重なり、この一連の流れが乱れやすい。 食塊がうまくまとまらずに口の中や咽頭でばらけると、一部が嚥下反射の起こる前に咽頭へ流れ込んだり、嚥下後に咽頭(喉頭蓋谷や梨状陥凹)に残ったりして、気管へ入り込む(誤嚥)。

物性の考え方

嚥下しやすい食事の条件は、おおむね次の3点に整理される。 1. まとまりやすい(凝集性が高く、口や咽頭でばらけない) 2. やわらかく、なめらかで均質である(硬さが低く、性状がそろっている) 3. べたつかない(付着性が低く、口腔や咽頭の粘膜に張りつかない) したがって、選択肢のうち誤嚥予防に有利に働くのは「凝集性が高い」ことである。

選択肢考察

  1. ○a.  凝集性(食塊のまとまり)が高い

    凝集性とは、食物が一つの塊としてまとまっている性質である。凝集性が高いと、咀嚼後も食塊が崩れずに一塊のまま口腔から咽頭、食道へと移動できる。そのため、食塊の一部だけが先に咽頭へ流れ込むことや、ばらけた粒が咽頭に残ることが少なくなり、誤嚥を防ぎやすい。とろみ剤やゼリー化はこの性質を高める工夫である。

  2. ×b.  均質性(なめらかさ)が低い

    均質性が低いとは、硬い部分とやわらかい部分、固形と液体などが混在し、性状がそろっていない状態である。こうした食物は咀嚼しても均一な食塊にまとめにくく、例えば具入りの汁物のように液体部分だけが先に咽頭へ流れ込んで誤嚥しやすい。嚥下障害者の食事は、なめらかで均質なものが望ましい。

  3. ×c.  付着性が高い

    付着性とは、食物が口腔や咽頭の粘膜、歯・義歯などにくっつく性質(べたつき)である。付着性が高いと、食物が口蓋や義歯に張りついて送り込みにくくなるほか、嚥下後も咽頭に残留しやすく、残ったものが後から気道に落ち込んで誤嚥の原因となる。もちが窒息を起こしやすいのも、付着性の高さが一因である。嚥下しやすい食事は付着性が低い(べたつかない)ものである。

  4. ×d.  硬度が高い

    硬度が高い(硬い)食物は、十分にかみ砕かなければ食塊にならない。高齢者では歯の喪失、義歯の不適合、歯周病、咀嚼筋の筋力低下などのため咀嚼が不十分になりやすく、かみ切れない大きな塊のまま飲み込んで窒息したり、まとまりの悪い食塊となって誤嚥したりする。嚥下障害者にはやわらかい食事が適する。

  5. ×e.  温度が高い

    熱い食物は口腔・咽頭の熱傷の危険があるうえ、口の中に保持しておくことが難しく、十分に咀嚼して食塊を整える前に慌てて飲み込もうとするため、誤嚥の原因となりうる。温度が高いことは誤嚥予防に有用な条件ではない。なお、体温と明らかに異なる温度(冷たいもの、あるいは適度に温かいもの)は嚥下反射を誘発しやすいとされるが、熱すぎる食物はこれに当たらない。

嚥下の過程(5期モデル)

1. 先行期(認知期):食物を認識し、口へ運ぶ。 2. 準備期(咀嚼期):咀嚼して唾液と混ぜ、食塊を作る。 3. 口腔期:舌によって食塊を咽頭へ送り込む。 4. 咽頭期:嚥下反射により、軟口蓋が鼻咽腔を、喉頭蓋が喉頭口を閉鎖し、食塊を食道へ送る。 5. 食道期:蠕動運動によって食塊を胃へ運ぶ。 食物の物性が特に関わるのは準備期から咽頭期であり、食塊の形成と移送の良否が誤嚥のしやすさを左右する。

食物の物性を表す指標

硬さ(硬度)、凝集性(まとまりやすさ)、付着性(べたつき)が代表的な指標で、えん下困難者用食品の許可基準(特別用途食品)でもこの3項目で評価される。食感や物性としては、ほかに粘度(とろみの強さ)、均質性なども考慮される。

嚥下障害者向けの食事の工夫

・水やお茶などのさらさらした液体は咽頭を速く流れ、嚥下反射が間に合わず誤嚥しやすい。とろみ剤を加えて流れる速度を遅くし、まとまりを持たせる。 ・ゼリー状、ペースト状、ムース状などにして、やわらかく均質で、まとまりがよく、べたつかない形態に調整する。 ・パサパサしてばらける食品(クッキー、焼き魚、そぼろなど)、口の中に張りつく食品(のり、わかめ、もちなど)、固形と液体が混ざった食品(具入りの汁物、果汁の多い果物など)、硬い食品は誤嚥・窒息を起こしやすい。 ・日本では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会による嚥下調整食分類が、病院や施設で食形態を段階づける共通の基準として用いられている。

食事以外の誤嚥予防

食事中の姿勢(座位で頸部を軽く前屈させる顎引き姿勢など)、一口量を少なくする、食後しばらくは座位を保つ、口腔ケアで口腔内の細菌を減らす、などがあわせて重要である。口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効とされる。

POINT

・誤嚥しにくい食事の三条件:まとまりやすい(凝集性が高い)、やわらかくなめらか(硬度が低く均質)、べたつかない(付着性が低い)。 ・付着性が高い、硬い、不均質、熱すぎる食物は誤嚥・窒息の原因となる。 ・さらさらした液体はとろみを付けて流速を遅くする。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。