「まとまる」食事が命を守る―誤嚥を防ぐ食形態の3条件
第116回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
嚥下機能が低下している高齢者の誤嚥を予防するために有用な食事の形態はどれか。
- a.凝集性(食塊のまとまり)が高い
- b.均質性(なめらかさ)が低い
- c.付着性が高い
- d.硬度が高い
- e.温度が高い
対話形式の解説
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ドクターまとめ
嚥下機能が低下した高齢者では、咀嚼力や唾液分泌、嚥下反射の低下により食塊がばらけやすく、咽頭への先走りや残留が誤嚥の原因になります。誤嚥しにくい食事の条件は、凝集性が高くまとまりやすいこと、硬度が低く均質でなめらかなこと、付着性が低くべたつかないことの3点で、えん下困難者用食品の基準も硬さ・付着性・凝集性で評価されます。硬い、べたつく、固形と液体が混在する、熱すぎる食物は誤嚥や窒息の危険を高め、さらさらした液体にはとろみを付けて流速を遅くします。姿勢や一口量、口腔ケアなど食べ方の工夫と組み合わせることが誤嚥性肺炎の予防につながり、医師も多職種チームの一員として食形態の考え方を理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はaです
問われていること
嚥下(飲み込み)の機能が落ちた高齢者に対し、どのような物性(食べ物の物理的な性質)の食事を出せば誤嚥を防ぎやすいかを問う問題である。
嚥下と食塊形成
口に入った食物は、咀嚼(歯と舌によるかみ砕き)と唾液との混和によって、飲み込める一つの塊(食塊)にまとめられ、舌によって咽頭へ送り込まれる。その後、嚥下反射によって喉頭が挙上し、喉頭蓋が気道の入口をふさいでいる間に食塊は食道へ送られる。高齢者では、歯の喪失や義歯、咀嚼筋・舌の筋力低下、唾液分泌の減少、喉頭の位置の下降、嚥下反射の遅れなどが重なり、この一連の流れが乱れやすい。 食塊がうまくまとまらずに口の中や咽頭でばらけると、一部が嚥下反射の起こる前に咽頭へ流れ込んだり、嚥下後に咽頭(喉頭蓋谷や梨状陥凹)に残ったりして、気管へ入り込む(誤嚥)。
物性の考え方
嚥下しやすい食事の条件は、おおむね次の3点に整理される。 1. まとまりやすい(凝集性が高く、口や咽頭でばらけない) 2. やわらかく、なめらかで均質である(硬さが低く、性状がそろっている) 3. べたつかない(付着性が低く、口腔や咽頭の粘膜に張りつかない) したがって、選択肢のうち誤嚥予防に有利に働くのは「凝集性が高い」ことである。
選択肢考察
- ○a. 凝集性(食塊のまとまり)が高い
凝集性とは、食物が一つの塊としてまとまっている性質である。凝集性が高いと、咀嚼後も食塊が崩れずに一塊のまま口腔から咽頭、食道へと移動できる。そのため、食塊の一部だけが先に咽頭へ流れ込むことや、ばらけた粒が咽頭に残ることが少なくなり、誤嚥を防ぎやすい。とろみ剤やゼリー化はこの性質を高める工夫である。
- ×b. 均質性(なめらかさ)が低い
均質性が低いとは、硬い部分とやわらかい部分、固形と液体などが混在し、性状がそろっていない状態である。こうした食物は咀嚼しても均一な食塊にまとめにくく、例えば具入りの汁物のように液体部分だけが先に咽頭へ流れ込んで誤嚥しやすい。嚥下障害者の食事は、なめらかで均質なものが望ましい。
- ×c. 付着性が高い
付着性とは、食物が口腔や咽頭の粘膜、歯・義歯などにくっつく性質(べたつき)である。付着性が高いと、食物が口蓋や義歯に張りついて送り込みにくくなるほか、嚥下後も咽頭に残留しやすく、残ったものが後から気道に落ち込んで誤嚥の原因となる。もちが窒息を起こしやすいのも、付着性の高さが一因である。嚥下しやすい食事は付着性が低い(べたつかない)ものである。
- ×d. 硬度が高い
硬度が高い(硬い)食物は、十分にかみ砕かなければ食塊にならない。高齢者では歯の喪失、義歯の不適合、歯周病、咀嚼筋の筋力低下などのため咀嚼が不十分になりやすく、かみ切れない大きな塊のまま飲み込んで窒息したり、まとまりの悪い食塊となって誤嚥したりする。嚥下障害者にはやわらかい食事が適する。
- ×e. 温度が高い
熱い食物は口腔・咽頭の熱傷の危険があるうえ、口の中に保持しておくことが難しく、十分に咀嚼して食塊を整える前に慌てて飲み込もうとするため、誤嚥の原因となりうる。温度が高いことは誤嚥予防に有用な条件ではない。なお、体温と明らかに異なる温度(冷たいもの、あるいは適度に温かいもの)は嚥下反射を誘発しやすいとされるが、熱すぎる食物はこれに当たらない。
嚥下の過程(5期モデル)
1. 先行期(認知期):食物を認識し、口へ運ぶ。 2. 準備期(咀嚼期):咀嚼して唾液と混ぜ、食塊を作る。 3. 口腔期:舌によって食塊を咽頭へ送り込む。 4. 咽頭期:嚥下反射により、軟口蓋が鼻咽腔を、喉頭蓋が喉頭口を閉鎖し、食塊を食道へ送る。 5. 食道期:蠕動運動によって食塊を胃へ運ぶ。 食物の物性が特に関わるのは準備期から咽頭期であり、食塊の形成と移送の良否が誤嚥のしやすさを左右する。
食物の物性を表す指標
硬さ(硬度)、凝集性(まとまりやすさ)、付着性(べたつき)が代表的な指標で、えん下困難者用食品の許可基準(特別用途食品)でもこの3項目で評価される。食感や物性としては、ほかに粘度(とろみの強さ)、均質性なども考慮される。
嚥下障害者向けの食事の工夫
・水やお茶などのさらさらした液体は咽頭を速く流れ、嚥下反射が間に合わず誤嚥しやすい。とろみ剤を加えて流れる速度を遅くし、まとまりを持たせる。 ・ゼリー状、ペースト状、ムース状などにして、やわらかく均質で、まとまりがよく、べたつかない形態に調整する。 ・パサパサしてばらける食品(クッキー、焼き魚、そぼろなど)、口の中に張りつく食品(のり、わかめ、もちなど)、固形と液体が混ざった食品(具入りの汁物、果汁の多い果物など)、硬い食品は誤嚥・窒息を起こしやすい。 ・日本では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会による嚥下調整食分類が、病院や施設で食形態を段階づける共通の基準として用いられている。
食事以外の誤嚥予防
食事中の姿勢(座位で頸部を軽く前屈させる顎引き姿勢など)、一口量を少なくする、食後しばらくは座位を保つ、口腔ケアで口腔内の細菌を減らす、などがあわせて重要である。口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効とされる。
POINT
・誤嚥しにくい食事の三条件:まとまりやすい(凝集性が高い)、やわらかくなめらか(硬度が低く均質)、べたつかない(付着性が低い)。 ・付着性が高い、硬い、不均質、熱すぎる食物は誤嚥・窒息の原因となる。 ・さらさらした液体はとろみを付けて流速を遅くする。
