StudyMed医師国家試験

薬が増えるほど危うくなる―高齢者ポリファーマシーに向き合う基本姿勢

第116回医師国家試験 F問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第19問

高齢者の多剤処方(ポリファーマシー)への対応として適切でないのはどれか。

  1. a.かかりつけ薬局を決めてもらう。
  2. b.類似薬の重複の有無を確認する。
  3. c.お薬手帳を持ち歩くように指示する。
  4. d.薬剤相互作用は考慮せずに処方する。
  5. e.病状が安定していれば減薬を考慮する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の多剤処方、いわゆるポリファーマシーへの対応のうち「適切でないもの」を選ぶ問題だ。知識というより、処方する医師としての基本姿勢が問われている。まず、ポリファーマシーとは何かを確認しておこう。
医学生医学生
薬が何種類以上という定義でしたっけ。5剤とか6剤とか。
ドクタードクター
数の目安はあるけれど、本質は単に薬が多いことではないんだ。多剤服用に関連して、薬物有害事象が増えたり、飲み間違いやアドヒアランスの低下が起きたりしている状態を指す。日本のデータでは、入院高齢者で6剤以上になると有害事象が増え、外来では5剤以上で転倒が増えると報告されている。
医学生医学生
数は目安で、問題が起きているかどうかがポイントなんですね。そもそも高齢者で起こりやすいのはなぜでしょう。
ドクタードクター
理由は大きく3つ。複数の病気で複数の医療機関にかかり、処方の全体像を誰も把握していないこと。加齢で腎機能や肝機能が落ち、体内水分が減って脂肪の割合が増えるため、薬が蓄積しやすいこと。そして中枢神経系の薬などに対する感受性が高まることだ。
医学生医学生
薬理学の講義で、高齢者は血清クレアチニンが低めに出て腎機能を過大評価しやすいと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。筋肉量が少ないからだ。では選択肢を見ていこう。正解は、薬剤相互作用を考慮せずに処方する、だ。これは明らかに不適切だね。
医学生医学生
薬が多いほど飲み合わせの組み合わせも増えますもんね。
ドクタードクター
その通り。たとえばシトクロムP450を阻害する薬を併用すると、もう一方の薬の代謝が遅れて血中濃度が上がり、副作用が強く出る。逆に酵素を誘導する薬では効果が弱まる。腎・肝機能の落ちた高齢者ではこの影響が特に出やすいから、新しく処方するときは既存の薬との相互作用を必ず確認する必要がある。
医学生医学生
かかりつけ薬局を決めてもらうのは、処方を一か所で把握するためですか。
ドクタードクター
そう。複数の医療機関の処方箋を一つの薬局で調剤すれば、薬剤師が重複や相互作用、残薬を確認して、処方医に疑義照会や減薬の提案ができる。お薬手帳の携帯も同じ目的で、受診先が複数あっても服用薬を把握できるし、救急受診や災害時にも役立つ。
医学生医学生
臨床実習の総合診療科で、初診の患者さんがお薬手帳を3冊持ってきて、指導医の先生が全部突き合わせていたのを思い出しました。
ドクタードクター
手帳が分かれていると一元化の意味が薄れるから、1冊にまとめるよう勧めるのも大事だね。類似薬の重複確認も基本中の基本だ。別々の医療機関から同じ作用の睡眠薬や胃薬、鎮痛薬が出ていることは珍しくない。
医学生医学生
病状が安定していれば減薬を考える、というのも適切ですよね。でも、勝手に減らして悪化したら怖い気もします。
ドクタードクター
その感覚は大切だよ。漫然と続ける薬は効果がないばかりか害になりうるから、治療目標を達成した薬や害が上回る薬は減量・中止を検討する。ただし睡眠薬や抗不安薬、β遮断薬、副腎皮質ステロイドのように急にやめると離脱症状や病状悪化を起こす薬もあるので、段階的に減らして経過を観察するんだ。
医学生医学生
もう一つ、処方カスケードという言葉も聞いたことがあります。
ドクタードクター
薬の副作用を新しい病気と誤認して、それを治療する薬が追加される現象だね。カルシウム拮抗薬による下腿浮腫に利尿薬が足される、抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムに抗パーキンソン病薬が足される、といった例がある。高齢者に新しい症状が出たら、まず薬の副作用を疑うことが重要だ。
医学生医学生
転倒やせん妄が出たときも、まず薬を見直すということですね。
ドクタードクター
その通り。日本老年医学会のガイドラインには「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」があって、ベンゾジアゼピン系は転倒・認知機能低下、抗コリン作用をもつ薬はせん妄や尿閉、NSAIDsは腎障害や消化管出血に注意とされている。市販薬やサプリメントも含めて全部把握し、一包化などで飲みやすくする工夫も組み合わせよう。

まとめ

ポリファーマシーとは、単に薬が多いことではなく、多剤服用に伴って薬物有害事象や服薬過誤、アドヒアランス低下が生じている状態を指し、高齢者では6剤以上で有害事象が増えるとされます。加齢による腎・肝機能の低下や薬への感受性の亢進があるため、薬剤相互作用を考慮しない処方は有害事象を増やし不適切です。対策の柱は、かかりつけ薬局やお薬手帳による処方情報の一元化、同効薬の重複や相互作用の確認、病状が安定した薬の段階的な減薬・中止です。新たな症状が出たときは処方カスケードを疑い、慎重投与が必要な薬のリストも参考に処方全体を見直す姿勢が、高齢者医療に携わるすべての医師に求められます。

解答・解説

正解はdです

問われていること

高齢者の多剤処方(ポリファーマシー)に対して、医療者がとるべき対応として「適切でないもの」を一つ選ぶ問題である。

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーは単に服用する薬の数が多いことではなく、多剤服用に関連して薬物有害事象(副作用を含む、薬によって生じた好ましくない出来事全般)の増加、服薬の誤り、服薬アドヒアランス(患者が処方どおりに服薬すること)の低下などの問題が生じている状態を指す。日本の高齢入院患者のデータでは、6剤以上で薬物有害事象の頻度が高まり、外来患者では5剤以上で転倒の頻度が高まることが示されている。

高齢者で問題になりやすい理由

・複数の疾患を抱えて複数の医療機関・診療科を受診するため、処方が分散し、全体を把握する人がいなくなりやすい。 ・加齢に伴う腎機能・肝機能の低下、体内の水分量の減少と脂肪の割合の増加などにより、薬物の排泄が遅れ、血中濃度が上がりやすく作用が長引きやすい(薬物動態の変化)。 ・中枢神経系などの薬に対する感受性が高まる(薬力学の変化)。 ・薬の副作用による症状に対して別の薬が追加される「処方カスケード」が起こりやすい。

対応の基本

処方情報の一元化(かかりつけ医・かかりつけ薬局・お薬手帳)、重複や相互作用の確認、必要性の乏しい薬の減量・中止が柱となる。薬剤相互作用を考慮しない処方は、有害事象を増やす方向に働くため不適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  かかりつけ薬局を決めてもらう。

    適切な対応である。複数の医療機関から出された処方箋を一つの薬局でまとめて調剤してもらえば、その薬局が患者の服用薬を一元的・継続的に把握できる。薬剤師が重複投与や薬剤相互作用、残薬の有無を確認し、必要に応じて処方医に疑義照会や減薬の提案を行えるため、ポリファーマシーの弊害を減らすことにつながる。

  2. ×b.  類似薬の重複の有無を確認する。

    適切な対応である。複数の診療科を受診する高齢者では、例えば異なる医療機関から同じ作用の睡眠薬や胃薬、鎮痛薬が別々に処方されていることがある。処方時には必ず服薬歴を聴取して同効薬の重複を確認し、不要な薬を整理することで、副作用の増強や薬剤数の増加を防ぐことができる。

  3. ×c.  お薬手帳を持ち歩くように指示する。

    適切な対応である。お薬手帳には各医療機関・薬局で処方・調剤された薬の内容が記録されるため、受診先が複数あっても医師・薬剤師が服用中の薬を把握でき、重複や相互作用、副作用歴の確認に役立つ。高齢者はいつどこで体調を崩すかわからず、救急受診や災害時にも服用薬の情報が必要となるため、常に携帯するよう指導する。

  4. ○d.  薬剤相互作用は考慮せずに処方する。

    適切でない対応であり、これが正解である。薬剤数が増えるほど相互作用の組み合わせは増え、例えば肝臓の薬物代謝酵素(シトクロムP450など)を競合・阻害する薬の併用では、もう一方の薬の代謝が遅れて血中濃度が上昇し、効果や副作用が強く出る。逆に代謝酵素を誘導する薬の併用では効果が弱まる。腎・肝機能が低下した高齢者ではこの影響が特に出やすいため、処方時には既存の服用薬との相互作用を必ず確認しなければならない。

  5. ×e.  病状が安定していれば減薬を考慮する。

    適切な対応である。必要性を見直さないまま薬を続ける(漫然投与)と、効果がないばかりか、蓄積による副作用や服薬負担の増加を招く。治療目標を明確にし、病状が安定して目標を達成した薬や、効果よりも害が上回る薬は、減量や中止を検討する。中止に際しては、急な中止で離脱症状や病状悪化が起こりうる薬(睡眠薬・抗不安薬、β遮断薬、副腎皮質ステロイドなど)に注意し、段階的に減らしながら経過を観察する。

加齢による薬物動態の変化

・吸収:消化管機能は変化するが、臨床的影響は比較的小さい。 ・分布:体内水分量が減り脂肪の割合が増えるため、水溶性薬物は血中濃度が上がりやすく、脂溶性薬物(ベンゾジアゼピン系など)は脂肪に蓄積して作用が長引く。低アルブミン血症では蛋白結合率の高い薬の遊離型が増える。 ・代謝:肝血流量や肝の代謝能が低下し、肝で代謝される薬の血中濃度が上がりやすい。 ・排泄:腎機能(糸球体濾過量)が加齢とともに低下し、腎排泄型の薬(ジゴキシン、多くの抗菌薬など)が蓄積しやすい。高齢者は筋肉量が少なく血清クレアチニン値が見かけ上低めに出るため、腎機能を過大評価しないよう推算式で評価する。

高齢者で特に注意すべき薬

日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」が示されている。ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬(転倒・骨折、認知機能低下)、抗コリン作用をもつ薬(せん妄、便秘、尿閉)、非ステロイド性抗炎症薬(腎障害、消化管出血)などが代表例である。海外では同様の基準としてBeers基準やSTOPP/START基準が用いられる。

処方カスケード

ある薬の副作用を新たな病気と誤認し、それを治療する薬が追加されて薬剤数が増えていく現象である。例として、カルシウム拮抗薬による下腿浮腫に利尿薬が追加される、抗精神病薬などによる薬剤性パーキンソニズムに抗パーキンソン病薬が追加される、などがある。新しい症状が出たときは、まず薬の副作用ではないかを疑うことが重要である。

ポリファーマシー対策の流れ

1. 服用薬をすべて把握する(お薬手帳、かかりつけ薬局、市販薬・サプリメントも含めて確認)。 2. 各薬の必要性、重複、相互作用、腎・肝機能に応じた用量の妥当性を評価する。 3. 非薬物療法を基本とし、優先順位の高い薬から最小限にする。 4. 減薬・中止後は症状の再燃や離脱症状がないか経過を観察する。 5. 服薬回数を減らす、一包化するなど、服薬しやすい工夫でアドヒアランスを保つ。

POINT

・ポリファーマシー=多剤服用に伴い有害事象・服薬過誤・アドヒアランス低下などが生じている状態。6剤以上で有害事象が増える。 ・対策:処方情報の一元化(かかりつけ医・かかりつけ薬局・お薬手帳)、重複と相互作用の確認、不要な薬の減薬・中止。 ・高齢者は腎・肝機能低下により薬が蓄積しやすく、相互作用の影響も受けやすい。相互作用を考慮しない処方は不適切。 ・新たな症状には処方カスケードを疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。