StudyMed医師国家試験

厚い壁なのに電位は低い―心アミロイドーシスと「沈着する蛋白」の見分け方

第115回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第115回 D問題 第4問

 心アミロイドーシスについて誤っているのはどれか。

  1. a.二次性心筋症である。
  2. b.心電図で低電位差を認める。
  3. c.心筋生検が診断に有用である。
  4. d.左室拡張障害による心不全を生じる。
  5. e.老人性全身性アミロイドーシスでは免疫グロブリンが心臓に沈着する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心アミロイドーシスの基本事項を問う問題で、「誤っているもの」を選ぶ形式だ。押さえるべきは、病態の分類、心電図と心エコーの特徴、診断法、そしてどの蛋白が沈着するのか、の4点。特に最後の前駆蛋白の区別が勝負どころになるよ。
医学生医学生
アミロイドーシスって、病理の講義でコンゴーレッド染色と一緒に習った記憶はあるんですが、心臓に絞るとあいまいです。
ドクタードクター
まず全体像からいこう。アミロイドは不溶性の線維状蛋白で、これが心筋の間質に沈着して心臓が厚く硬くなる。心臓そのものが原因の特発性心筋症とは違い、全身性疾患の一部として心筋がやられるから、二次性心筋症、つまり特定心筋症に分類されるんだ。
医学生医学生
心サルコイドーシスやファブリー病と同じグループということですね。だから「二次性心筋症」という記述は正しい。
ドクタードクター
その通り。次に機能面。壁が厚く硬くなると、心室が拡張期に十分広がらない。収縮力は比較的保たれたまま、拡張障害で充満圧が上がって心不全になる。いわゆるHFpEFの形をとることが多いんだ。
医学生医学生
拘束型心筋症に似た血行動態になる、と循環器内科の実習で聞きました。左室拡張障害による心不全という記述も正しいですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。進行すると収縮障害も加わるけれど、病態の中心は拡張障害だ。では心電図はどうなるだろう。
医学生医学生
壁が厚いなら、肥大型心筋症みたいに高電位になりそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこが最大の引っかけポイント。アミロイドは電気的に活動しない物質だから、心筋の間に沈着すると起電力を持つ心筋の割合が減って、QRS波が小さくなる。つまり低電位になるんだ。心エコーでは壁が厚いのに心電図は低電位、というこの乖離こそ心アミロイドーシスを疑う大きな手がかりになる。
医学生医学生
なるほど、厚さの正体が筋肉ではなくアミロイドだから電位が出ないんですね。高血圧性心肥大との鑑別にも使えそうです。
ドクタードクター
まさにそう。ほかに偽梗塞パターン、房室ブロックなどの伝導障害、心房細動もみられやすい。心エコーでは心筋が顆粒状にきらめいて見えるgranular sparklingも特徴だ。では診断はどうする?
医学生医学生
組織でアミロイドを証明するのが基本だと思います。コンゴーレッド染色で、偏光顕微鏡でアップルグリーンの複屈折ですね。
ドクタードクター
正解。心内膜心筋生検で沈着を確認するのが確定診断の基本だから、心筋生検が有用という記述も正しい。侵襲があるので、まず腹壁脂肪や消化管粘膜など低侵襲な部位から生検することも多い。さらに免疫染色などで、どの蛋白由来のアミロイドかを同定するのが大切なんだ。
医学生医学生
ということは残る老人性全身性アミロイドーシスの記述が誤りですね。免疫グロブリンが沈着するのはAL型で、老人性はトランスサイレチンだったはずです。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。心臓に沈着する代表的なアミロイドは、免疫グロブリン軽鎖由来のAL型と、トランスサイレチン由来のATTR型の2つ。老人性全身性アミロイドーシスは、遺伝子変異のない野生型トランスサイレチンが加齢で不安定になって沈着するもので、今はATTRwtアミロイドーシスと呼ばれる。免疫グロブリンは関与しないんだ。
医学生医学生
AL型は多発性骨髄腫など形質細胞の単クローン性増殖が背景にあるんでしたよね。血液内科の講義で、巨舌やネフローゼと一緒に出てきました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。AL型は心病変の進行が速く予後不良になりやすい。一方、ATTRwtは高齢男性に多く、手根管症候群が心症状より先に出ることがあるのが臨床上のヒントだ。両者は治療が全く違って、AL型は形質細胞を標的とする化学療法、ATTR型はTTR四量体を安定化させるタファミジスなどを使う。
医学生医学生
だから型の同定が治療方針に直結するんですね。生検しないで型を決める方法はあるんですか。
ドクタードクター
近年は、M蛋白がないことを確認したうえで、骨シンチグラフィで心臓に強い集積があればATTR型と診断できるとされ、生検を省略できる場合もある。逆にM蛋白があればAL型を除外できないから、組織診断が必要になるよ。高齢者の原因不明の心肥大やHFpEFをみたら、手根管症候群の既往や心電図の低電位を確認する習慣をつけておこう。

まとめ

心アミロイドーシスは、アミロイドが心筋間質に沈着して壁が厚く硬くなる二次性心筋症で、拡張障害を中心としたHFpEF型の心不全をきたします。心エコーで壁肥厚があるのに心電図は低電位という乖離が特徴で、伝導障害や心房細動、偽梗塞パターンも伴いやすいです。確定診断は心筋などの生検組織のコンゴーレッド染色で、偏光顕微鏡下のアップルグリーン複屈折によりアミロイドを証明します。心臓に沈着する主な前駆蛋白は、形質細胞の単クローン性増殖を背景とする免疫グロブリン軽鎖(AL型)と、トランスサイレチン(ATTR型)で、老人性全身性アミロイドーシスは野生型トランスサイレチンによるATTRwt型です。両者は予後も治療も異なるため、前駆蛋白の区別は試験対策にとどまらず、臨床での治療選択に直結する重要な知識です。

解答・解説

正解はeです

本問は心アミロイドーシスの病態・検査所見・診断法・原因蛋白を問う一般問題であり、「誤っているもの」を一つ選ぶ形式である。 心アミロイドーシスとは、不溶性の線維状蛋白であるアミロイドが心筋の間質に沈着し、心臓の形態と機能に異常をきたす病態である。心臓そのものに原因がある特発性心筋症とは異なり、全身性疾患の部分症として心筋が障害されるため、二次性心筋症(特定心筋症)に分類される。 アミロイドの沈着で心室壁は厚く硬くなる。その結果、心室が十分に広がらない拡張障害が病態の中心となり、収縮能が比較的保たれたまま心不全(HFpEF:左室駆出率の保たれた心不全)を呈することが多い。心エコーでは壁が厚く見えるのに、心電図では電位が低いという「乖離」が特徴的な手がかりとなる。 解答のカギは、アミロイドの前駆蛋白(もとになる蛋白)の種類を正しく区別できるかである。心臓に沈着する代表的なアミロイドは、①免疫グロブリン軽鎖(L鎖)に由来するALアミロイド、②トランスサイレチン(TTR)に由来するATTRアミロイドの2種類である。老人性全身性アミロイドーシスは、遺伝子変異をもたない野生型TTRが加齢に伴って沈着するATTRアミロイドーシスであり、免疫グロブリンは関与しない。したがってeが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  二次性心筋症である。

    記述は正しい。二次性心筋症(特定心筋症)とは、全身性疾患や代謝異常などの原因が明らかで、その一部として心筋が障害されるものをいう。心アミロイドーシスは全身性アミロイドーシスの心病変であり、心サルコイドーシス、ファブリー病、ミトコンドリア心筋症などと並ぶ代表的な二次性心筋症である。肥大型心筋症に似た壁肥厚を示すため、鑑別が重要となる。

  2. ×b.  心電図で低電位差を認める。

    記述は正しい。アミロイドは電気的に活動しない物質であり、心筋細胞の間に沈着して起電力を持つ心筋の割合を減らすため、QRS波の振幅が小さくなる(低電位:一般に四肢誘導でQRS振幅が5mm以下、胸部誘導で10mm以下)。心エコーで左室壁が厚いにもかかわらず心電図が低電位を示す点は、高血圧性心肥大や肥大型心筋症(高電位を示しやすい)との重要な鑑別点である。そのほか、前胸部誘導でのQS波などの偽梗塞パターン、房室ブロックや脚ブロックなどの伝導障害、心房細動もみられやすい。

  3. ×c.  心筋生検が診断に有用である。

    記述は正しい。心内膜心筋生検で採取した組織をコンゴーレッド染色し、偏光顕微鏡でアップルグリーンの複屈折を示すアミロイド沈着を確認することが確定診断の基本となる。心病変があれば生検でほぼ確実に沈着を証明できる。ただし侵襲を伴うため、まず腹壁脂肪、消化管粘膜、皮膚などの比較的低侵襲な部位の生検が行われることも多い。さらに免疫染色や質量分析で前駆蛋白(AL型かATTR型か)を同定し、治療方針を決める。なお近年は、M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)が否定されたうえで骨シンチグラフィ(99mTc-ピロリン酸など)で心臓に強い集積を認めればATTR型と診断できるとされ、生検を省略できる場合もある。

  4. ×d.  左室拡張障害による心不全を生じる。

    記述は正しい。心筋間質へのアミロイド沈着により左室壁が肥厚し、心筋が硬くなる(コンプライアンスの低下)。そのため拡張期に左室へ血液が流れ込みにくくなり、左室充満圧が上昇して心不全を生じる。病初期は収縮能が保たれ拘束型心筋症に似た血行動態を示すが、進行すると収縮障害も加わる。心エコーでは左室壁肥厚に加え、心筋の輝度上昇(顆粒状のきらめき、granular sparkling)、心房拡大、心嚢液貯留などがみられる。

  5. ○e.  老人性全身性アミロイドーシスでは免疫グロブリンが心臓に沈着する。

    記述が誤っているため、これが正解である。老人性全身性アミロイドーシス(現在は野生型トランスサイレチンアミロイドーシス、ATTRwtアミロイドーシスと呼ばれる)では、遺伝子変異のない正常なトランスサイレチン(TTR、主に肝臓で産生される甲状腺ホルモン・レチノール結合蛋白の輸送蛋白)が加齢に伴って不安定化し、アミロイド線維となって心臓に沈着する。高齢男性に多く、手根管症候群が心症状に先行することがある。免疫グロブリン軽鎖が沈着するのはALアミロイドーシスであり、形質細胞の単クローン性増殖(多発性骨髄腫や原発性ALアミロイドーシスなど)を背景とする。両者は治療法が異なるため、区別が重要である。

アミロイドーシスの主な病型と前駆蛋白

・ALアミロイドーシス:免疫グロブリン軽鎖(L鎖)。形質細胞の単クローン性増殖が背景(原発性、多発性骨髄腫に伴うもの)。心病変の進行が速く、予後不良になりやすい。治療は形質細胞を標的とする化学療法(抗CD38抗体のダラツムマブを含むレジメンなど)や自家造血幹細胞移植。 ・ATTRアミロイドーシス:トランスサイレチン。  - 野生型(ATTRwt、旧称:老人性全身性アミロイドーシス):高齢男性に多く、主に心臓と手根管(腱・靱帯)に沈着する。  - 遺伝性(ATTRv、家族性アミロイドポリニューロパチー):TTR遺伝子変異による。末梢神経障害・自律神経障害や心病変を生じる。  - 治療:TTR四量体を安定化させるタファミジス、TTRの産生を抑える核酸医薬(RNA干渉薬など)。 ・AAアミロイドーシス:血清アミロイドA蛋白(急性期反応蛋白)。関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に続発し、腎や消化管が障害されやすい。 ・Aβ2Mアミロイドーシス:β2ミクログロブリン。長期透析患者で手根管症候群や破壊性脊椎関節症を起こす。

心アミロイドーシスを疑う所見

・心エコー:左室壁肥厚、心筋輝度の上昇、両心房拡大、拡張障害、長軸方向ストレインの心尖部温存パターン ・心電図:肢誘導低電位、偽梗塞パターン、伝導障害、心房細動 ・心臓MRI:ガドリニウム造影でびまん性の心内膜下遅延造影 ・バイオマーカー:BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)・NT-proBNP、トロポニンの持続的上昇 ・骨シンチグラフィ(99mTc-ピロリン酸):ATTR型で心臓への強い集積 ・心外所見:手根管症候群(ATTRwt)、巨舌・眼周囲の紫斑・ネフローゼ症候群(AL)

POINT

・心アミロイドーシスは二次性心筋症であり、壁肥厚と拡張障害(HFpEF型の心不全)が病態の中心である。 ・「心エコーで壁が厚いのに心電図は低電位」という乖離が特徴的である。 ・確定診断は生検組織のコンゴーレッド染色(偏光でアップルグリーン複屈折)によるアミロイドの証明である。 ・老人性全身性アミロイドーシス(ATTRwt)の沈着蛋白は野生型トランスサイレチンであり、免疫グロブリン軽鎖はAL型である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。