いびきの陰に潜むリスク―睡眠時無呼吸症候群を疑う「2つの系統」
第115回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
睡眠時無呼吸症候群の合併を疑わせるものとして誤っているのはどれか。
- a.気胸の既往
- b.昼間の眠気
- c.頻回の夜間覚醒
- d.治療反応性が不良な高血圧
- e.夜間発症の心血管イベントの既往
対話形式の解説
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ドクターまとめ
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返す疾患で、大部分は肥満などを背景に上気道が閉塞する閉塞性睡眠時無呼吸です。疑う手がかりは、微小覚醒による睡眠の分断で生じるいびき・夜間覚醒・日中の眠気などの症状と、低酸素・交感神経亢進・胸腔内陰圧による治療抵抗性高血圧や夜間の心血管イベントなどの循環器合併症の2系統に整理できます。気胸はやせ型の若年男性や基礎肺疾患をもつ人に多く、SASとは関連しません。確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査でAHI 5以上を確認し、中等症以上ではCPAPが治療の中心となります。SASは高血圧や不整脈の背景に隠れていることが多く、病態の機序から手がかりを理解しておくことは、日常診療で見逃しを防ぐ力につながります。
解答・解説
正解はaです
本問は、睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)の合併を疑うきっかけとなる症状・病歴を問う一般問題であり、「誤っているもの」、つまりSASと関連しないものを選ぶ。 SASは睡眠中に呼吸停止(無呼吸)や呼吸の浅い状態(低呼吸)を繰り返す疾患である。大部分は、睡眠中に咽頭の筋肉が緩んで上気道が狭くなったり塞がったりする閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:obstructive sleep apnea)であり、肥満、小顎、扁桃肥大などが危険因子となる。診断では、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI:apnea hypopnea index、無呼吸低呼吸指数)が用いられ、成人ではAHI 5以上を異常とし、5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症とする。 SASを疑う手がかりは大きく2系統に整理すると考えやすい。 ①睡眠の分断による症状:無呼吸のたびに脳が短く覚醒(微小覚醒)して呼吸を再開するため、深い睡眠が得られない。これにより夜間の覚醒、夜間頻尿、起床時の頭痛、日中の強い眠気、集中力低下が生じる。同居者が気づく大きないびきや呼吸停止も重要な情報である。 ②低酸素と交感神経の亢進による循環器系への影響:無呼吸のたびに低酸素血症・高二酸化炭素血症と覚醒反応が繰り返され、交感神経の活動が高まる。さらに、閉塞した気道に逆らって吸気努力をすることで胸腔内に強い陰圧が生じ、心臓への負荷が増す。その結果、高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、不整脈、虚血性心疾患、脳卒中などが起こりやすくなる。 気胸は肺の表面にあるブラ(気腫性嚢胞)の破裂などで胸腔内に空気が漏れる疾患であり、SASの症状や合併症とは関連がない。
選択肢考察
- ○a. 気胸の既往
SASを疑う根拠にはならないため、これが正解である。自然気胸は肺尖部のブラの破裂によって起こることが多く、やせ型で長身の若年男性や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎肺疾患をもつ高齢者に好発する。突然の胸痛や呼吸困難で発症する。SASの代表的な危険因子は肥満であり、気胸の好発する体型とはむしろ対照的である。病態上も、気胸と睡眠中の上気道閉塞との間に関連はない。
- ×b. 昼間の眠気
SASを疑わせる典型的な症状である。無呼吸のたびに起こる微小覚醒によって睡眠が細切れになり、深い睡眠が不足するため、日中に強い眠気(日中過眠)が生じる。会議中や運転中に居眠りしてしまうことがあり、交通事故の危険因子としても重要である。眠気の程度の評価にはエプワース眠気尺度(ESS:Epworth sleepiness scale)が用いられる。
- ×c. 頻回の夜間覚醒
SASを疑わせる症状である。睡眠中の無呼吸によって低酸素血症と高二酸化炭素血症が生じると、それが刺激となって覚醒が起こり、呼吸が再開する。この過程が一晩に何度も繰り返されるため、夜中に目が覚める、熟睡感がない、窒息感で目覚める、夜間頻尿といった訴えにつながる。
- ×d. 治療反応性が不良な高血圧
SASを疑わせる所見である。無呼吸に伴う低酸素や繰り返す覚醒によって交感神経が持続的に亢進し、末梢血管の収縮やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化が起こるため、血圧が上昇する。夜間や早朝の血圧が高く、通常の降圧薬で目標値に達しにくい治療抵抗性高血圧(利尿薬を含む3剤以上を使っても目標に達しない高血圧)の原因として、SASは頻度の高い二次性要因である。持続陽圧呼吸療法(CPAP:continuous positive airway pressure)による治療で血圧が改善することもある。
- ×e. 夜間発症の心血管イベントの既往
SASを疑わせる病歴である。睡眠中の低酸素、交感神経の急激な亢進による血圧の急上昇、強い胸腔内陰圧による心臓への負荷が重なり、心筋虚血、不整脈(心房細動、徐脈性不整脈など)、脳卒中が誘発されやすくなる。一般の心筋梗塞は早朝から午前中に多いのに対し、SAS患者では夜間睡眠中の発症が相対的に多いことが知られており、夜間に心血管イベントを起こした既往はSASを疑うきっかけになる。
睡眠時無呼吸症候群の分類
・閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):上気道の閉塞による。呼吸努力(胸腹部の動き)は保たれる。大部分を占める。 ・中枢性睡眠時無呼吸(CSA):呼吸中枢からの指令が途絶えるため呼吸努力自体が消失する。心不全に伴うチェーン・ストークス呼吸が代表的である。
危険因子
肥満、男性、加齢、小顎・下顎後退、扁桃肥大・アデノイド増殖(小児)、巨舌、飲酒、鎮静薬の使用、甲状腺機能低下症、先端巨大症など。
主な症状
大きないびき、目撃される呼吸停止、夜間覚醒・窒息感、夜間頻尿、起床時頭痛、日中の眠気、集中力・記憶力の低下。
合併症
高血圧(特に治療抵抗性・夜間高血圧)、心房細動などの不整脈、虚血性心疾患、心不全、脳卒中、肺高血圧症、二次性多血症、糖尿病などの代謝異常、居眠り運転による事故。
診断
簡易検査(パルスオキシメトリなど)でスクリーニングし、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG:polysomnography、脳波・呼吸・酸素飽和度などを一晩同時に記録する検査)でAHIを測定して確定する。
治療
減量、飲酒制限、側臥位での睡眠、中等症以上ではCPAP、軽症〜中等症では口腔内装置(マウスピース)、扁桃肥大などには外科的治療。
POINT
・SASを疑う手がかりは「睡眠の分断による症状」(いびき、呼吸停止、夜間覚醒、日中の眠気)と「循環器合併症」(治療抵抗性高血圧、不整脈、夜間の心血管イベント)である。 ・低酸素と交感神経亢進、胸腔内陰圧が循環器合併症の主な機序である。 ・気胸はやせ型の若年男性に多く、肥満を主な危険因子とするSASとは関連しない。 ・確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査で、AHI 5以上を異常とする。
