吐いて、ケトンが増えて、また吐く―成長とともに消えていく「自家中毒」
第115回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
幼児期に発症し思春期までに多くが自然寛解するのはどれか。
- a.片頭痛
- b.過換気症候群
- c.起立性調節障害
- d.神経性食思不振症
- e.アセトン血性嘔吐症
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
アセトン血性嘔吐症(自家中毒、周期性嘔吐症)は2〜10歳ごろに好発し、成長とともに発作が減って思春期までに多くが自然寛解します。小児はグリコーゲンの蓄えが少ないため、感染・疲労・ストレスで糖が不足すると脂肪分解によるケトーシスが起こり、それが嘔吐を悪化させる悪循環に陥ります。呼気のアセトン臭や尿中ケトン体陽性が手がかりで、治療はブドウ糖を含む輸液による糖の補給ですが、腸重積症や中腸軸捻転、頭蓋内病変などの器質的疾患の除外が欠かせません。一方、片頭痛は思春期以降に増えて成人期まで続きやすく、起立性調節障害・過換気症候群・神経性食思不振症は思春期に好発します。小児の心身症を好発年齢と自然経過で整理しておくと、外来や救急での見立てに直結します。
解答・解説
正解はeです
本問は、小児期にみられる機能性・心身症的な疾患について、好発年齢と自然経過を問う一般問題である。条件は「幼児期に発症する」ことと「思春期までに多くが自然寛解する」ことの2点であり、両方を満たすものを選ぶ。 選択肢を好発年齢で並べると整理しやすい。 ・幼児期〜学童期:アセトン血性嘔吐症(おおむね2〜10歳) ・学童期後半〜思春期以降:片頭痛(小児期から起こりうるが、思春期に増加し成人期まで続くことが多い) ・思春期:起立性調節障害、過換気症候群(思春期〜若年成人)、神経性食思不振症(思春期〜青年期) 幼児期に発症して成長とともに起こらなくなる経過をとるのは、アセトン血性嘔吐症である。この疾患は、感染や疲労、精神的ストレスなどをきっかけに嘔吐発作を起こし、ケトン体(アセトンなど)が血中・尿中に増えるもので、10歳前後までに大部分が自然に消失する。ほかの4疾患はいずれも思春期以降に好発するか、思春期を過ぎても慢性的に続くことが多く、条件を満たさない。
選択肢考察
- ×a. 片頭痛
条件を満たさない。片頭痛は小児期から発症しうるが、有病率は思春期に入ってから高くなり、特に女性では成人期まで持続・反復することが多い慢性疾患である。発作性の拍動性頭痛に悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴い、閃輝暗点などの前兆を伴うこともある。家族歴を有することが多い。小児では頭痛の持続時間が成人より短く、両側性のこともある。なお、アセトン血性嘔吐症(周期性嘔吐症)は将来の片頭痛と関連する(片頭痛に移行しやすい)とされており、両者のつながりも押さえておくとよい。
- ×b. 過換気症候群
条件を満たさない。過換気症候群は、不安や精神的ストレスを契機に発作的に呼吸が深く速くなり、二酸化炭素が過剰に排出されて呼吸性アルカローシスとなる病態である。血中のイオン化カルシウムが低下するため、手指・口周囲のしびれ、手足のこわばり(助産師手位)、動悸、めまい、呼吸困難感などを生じる。10歳を過ぎてから増え、思春期から20〜30歳代の若年成人に多く、女性に多い。幼児期発症の疾患ではない。
- ×c. 起立性調節障害
条件を満たさない。起立性調節障害(OD:orthostatic dysregulation)は、自律神経の調節がうまく働かず、起立時に下半身へ血液が貯留して脳血流が低下するため、立ちくらみ、失神、朝起きられない、倦怠感、頭痛、動悸などを生じる。10〜16歳の思春期、特に中学生に多く、女子にやや多い。症状は午前中に強く午後には軽くなるのが特徴で、不登校の背景となることもある。新起立試験によって体位性頻脈症候群などのサブタイプに分類される。幼児期の発症ではない。
- ×d. 神経性食思不振症
条件を満たさない。神経性食思不振症(神経性やせ症)は、やせ願望や肥満への強い恐怖、ボディイメージの障害(自分の体型を正しく認識できない状態)により、極端な食事制限や過活動を行って著しいやせを示す摂食障害である。思春期から青年期の女性に好発し、無月経、徐脈、低体温、低血圧、うぶ毛の増加などを伴う。経過は長く、寛解と再燃を繰り返しやすく、死亡率も精神疾患の中で高い。幼児期発症で自然寛解するという経過には合わない。
- ○e. アセトン血性嘔吐症
条件を満たすため、これが正解である。アセトン血性嘔吐症(自家中毒、周期性嘔吐症とも呼ばれる)は、2〜10歳ごろの幼児期から学童期前半に多く、やせ型で神経質な、あるいは活発な子どもに起こりやすい。感冒などの感染、疲労、旅行・行事などによる精神的ストレスが誘因となり、突然の嘔吐発作を繰り返す。腹痛、顔色不良、元気がなくなるなどの症状を伴い、呼気にアセトン臭(甘酸っぱい果実様のにおい)がし、尿中ケトン体が陽性となる。小児は体内のグリコーゲン(糖の貯蔵)が少ないため、絶食や嘔吐で糖が不足すると脂肪の分解が進んでケトン体が増え、それがさらに嘔吐を悪化させる悪循環に陥る。治療はブドウ糖を含む輸液による補液と糖の補給である。成長とともに発作は起こりにくくなり、10歳前後までに多くが自然に寛解する。
アセトン血性嘔吐症の要点
・別名:自家中毒、周期性嘔吐症(周期性嘔吐症候群) ・好発:2〜10歳、やせ型の小児 ・誘因:感染、疲労、精神的ストレス、空腹 ・症状:反復する嘔吐発作、腹痛、顔色不良、無気力。発作のない間欠期は無症状である。 ・所見:呼気のアセトン臭、尿中ケトン体陽性、脱水 ・治療:ブドウ糖を含む輸液、制吐薬。ケトーシスの悪循環を断つことが目的である。 ・予後:思春期までに多くが自然寛解する。一部は片頭痛へ移行すると考えられている。 ・鑑別:腸重積症、腸回転異常症(中腸軸捻転)、脳腫瘍などの頭蓋内病変、先天代謝異常症など、反復性嘔吐をきたす器質的疾患を除外することが重要である。ケトン性低血糖症(空腹時に低血糖とケトーシスをきたす幼児の病態)との異同もしばしば問題となる。
小児の心身症・機能性疾患と好発年齢
・幼児期:アセトン血性嘔吐症、憤怒けいれん(泣き入りひきつけ、乳幼児期)、夜驚症 ・学童期:反復性腹痛(機能性腹痛)、チック ・思春期:起立性調節障害、過換気症候群、過敏性腸症候群、神経性食思不振症
POINT
・アセトン血性嘔吐症は2〜10歳に好発し、思春期までに多くが自然寛解する。 ・感染・疲労・ストレスを誘因とする嘔吐発作、アセトン臭、尿中ケトン体陽性が特徴で、治療はブドウ糖を含む輸液である。 ・起立性調節障害、過換気症候群、神経性食思不振症は思春期以降に好発する。 ・片頭痛は思春期に増え、成人期まで続くことが多い。
