StudyMed医師国家試験

朝起きない幼児と甘いジュース―ケトン性低血糖症は「燃料切れ」の低血糖

第101回医師国家試験 F問題 第65問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第65問

ケトン性低血糖症で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.小児期の低血糖の中で最も多い。
  2. b.血中乳酸が増加する。
  3. c.ロイシン負荷試験で低血糖が誘発される。
  4. d.カテコラミンの皮下注射が有効である。
  5. e.10歳ころまでに自然軽快する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児の低血糖で最もよく出会うケトン性低血糖症の特徴を問う問題だ。頻度、検査所見、誘発試験、治療、予後と、病気の全体像を押さえているかが試されている。鍵になるのは「インスリン過剰ではなく、糖新生の材料不足で起こる低血糖」という病態の理解だ。
医学生医学生
小児の低血糖というと、新生児の糖尿病母体児くらいしか思い浮かびません。
ドクタードクター
新生児期の一過性低血糖は確かに大事だ。でもそれを除くと、乳幼児から小児期に繰り返す低血糖で最も多いのがケトン性低血糖症なんだ。だから「小児期の低血糖の中で最も多い」は正しい。典型的には1歳半から5歳くらいの、やせ型で小柄な男児に多い。
医学生医学生
どんな場面で起こるんですか?
ドクタードクター
夕食をあまり食べずに寝た翌朝や、風邪や胃腸炎で食事がとれないときだ。朝なかなか起きない、顔色が悪い、嘔吐する、ぼーっとしている、といった訴えで来て、重いとけいれんや意識障害を起こす。小児科の救急ではよく見る光景だよ。
医学生医学生
小児科実習で、胃腸炎の子が尿ケトン強陽性で点滴していたのを見ました。あれもそうだったのかもしれません。
ドクタードクター
十分ありうるね。では病態を考えよう。空腹になると、まず肝グリコーゲンを分解し、それが尽きたら糖新生で血糖を保つ。幼児は体の割に脳が大きく糖をたくさん使う一方、筋肉が少ないので糖新生の材料、特にアラニンの供給が足りなくなりやすい。
医学生医学生
だから大人より短い絶食で低血糖になってしまうんですね。インスリンはどうなっているんですか?
ドクタードクター
ちゃんと抑制されている。だから脂肪分解が進んでケトン体がどんどん作られる。これが「ケトン性」と呼ばれる理由だ。では血中乳酸はどうなると思う?
医学生医学生
低血糖で体がストレス状態なら、乳酸も上がりそうな気がします。
ドクタードクター
そこはひっかけだね。ケトン性低血糖症ではケトン体は増えるけれど、乳酸やピルビン酸は正常範囲だ。低血糖に乳酸の上昇を伴うなら、生化学で習った糖原病I型、つまりグルコース-6-ホスファターゼ欠損のvon Gierke病や、糖新生系酵素の欠損症を考える。
医学生医学生
von Gierke病は肝腫大や高尿酸血症もありましたね。じゃあロイシン負荷試験はどうですか?
ドクタードクター
ロイシン負荷で低血糖が誘発されるのはロイシン過敏性低血糖症だ。ロイシンが刺激になって膵β細胞からインスリンが過剰に出る。現在は先天性高インスリン血症の一型、例えばグルタミン酸脱水素酵素の機能獲得変異による高インスリン血症・高アンモニア血症症候群などとして理解されている。インスリンが多いとケトン体は作られにくいから、ケトン性低血糖症とは病態が逆なんだ。
医学生医学生
ケトン体が出るか出ないかで、インスリン過剰かどうかを見分けられるわけですね。治療はカテコラミンの注射でもいいんでしょうか。
ドクタードクター
カテコラミンやグルカゴンは肝グリコーゲンを分解して血糖を上げる薬だ。でもこの病気の発作時には、そのグリコーゲンがもう空っぽ。だから打っても血糖はほとんど上がらない。治療はブドウ糖の経口摂取か、食べられなければブドウ糖を含む輸液だよ。
医学生医学生
燃料タンクが空なのに、出せと命令しても出てこない、ということですね。
ドクタードクター
うまい例えだ。そして最後の予後。成長とともに筋肉量が増えて絶食に耐えられるようになるので、多くは8〜10歳ころまでに自然に起こらなくなる。だから「10歳ころまでに自然軽快する」も正しい。
医学生医学生
予後がいいなら、それまでは空腹を避けるのが大事ですね。
ドクタードクター
そう。就寝前に炭水化物をとる、体調が悪くて食べられないときは糖分を含む飲み物をこまめに与え、無理なら早めに受診して輸液、という生活指導が基本だ。予後良好とはいえ、重い低血糖は脳に障害を残しうるから油断は禁物だね。臨床でもう一つ大事なのは、診断の前に他の原因を除外すること。成長ホルモン分泌不全や副腎不全でもケトン性の低血糖になるからね。
医学生医学生
鑑別のためには何を調べればいいですか?
ドクタードクター
発作時に採る血液、いわゆるcritical sampleが決め手だ。血糖と一緒にインスリン、ケトン体、遊離脂肪酸、乳酸、アンモニアを測る。ケトン体低値でインスリン高値なら高インスリン性、ケトン体低値で遊離脂肪酸高値なら脂肪酸β酸化異常症、乳酸高値なら糖原病などを考える。ブドウ糖を入れる前に一本採っておくことが、診断の大部分を決めると覚えておこう。

まとめ

ケトン性低血糖症は、新生児期を除く小児期で最も多い低血糖で、幼児期のやせ型男児が空腹時や感染時に発症するのが典型です。筋肉量が少なく糖新生の基質が不足することで起こり、インスリンは適切に抑制されているためケトン体が増加しますが、乳酸は正常です。乳酸上昇なら糖原病I型など、ロイシン負荷で低血糖が誘発されるならロイシン過敏性低血糖症(高インスリン性)を考えます。発作時には肝グリコーゲンが枯渇しているためカテコラミンやグルカゴンは効きにくく、治療はブドウ糖投与と空腹回避が基本で、多くは8〜10歳ころまでに自然軽快します。発作時のcritical sampleでインスリンとケトン体を評価する考え方は、小児低血糖の鑑別全体に通じる重要な視点です。

解答・解説

正解はa, eです

ケトン性低血糖症(ketotic hypoglycemia)は、幼児期(おおむね1歳半〜5歳ころ)に、夕食をあまり食べずに寝た翌朝や、感冒・胃腸炎などで食事がとれないときに、空腹時の低血糖を起こす病態である。やせ型で小柄な男児に多い。発作時は元気がない・顔色不良・嘔吐・傾眠などを呈し、重症ではけいれんや意識障害を来す。

病態

空腹が続くと、肝グリコーゲンが枯渇したあとは糖新生で血糖を維持する必要がある。幼児は体重に比して脳の糖消費が大きく、筋肉量が少ないため糖新生の基質(とくにアラニン)の供給が不足しやすい。そのため、健常児より短い絶食時間で血糖が低下する。インスリン分泌は適切に抑制されているので脂肪分解は亢進し、ケトン体が大量に産生される(ケトーシス、尿ケトン強陽性)。すなわち「インスリン過剰ではない、基質不足型の低血糖」であり、成長とともに筋肉量が増え絶食耐性が上がると自然に起こらなくなる。

診断の考え方

小児の低血糖を鑑別するときは、発作時の血液(critical sample)で血糖、インスリン、ケトン体、遊離脂肪酸、乳酸、アンモニアなどを測定し、次のように分けて考える。 ・ケトン体低値+インスリン不適切高値 → 高インスリン性低血糖(先天性高インスリン血症、ロイシン過敏性低血糖症、インスリノーマなど) ・ケトン体低値+遊離脂肪酸高値 → 脂肪酸β酸化異常症 ・乳酸高値 → 糖原病Ⅰ型、糖新生系酵素欠損症など ・ケトン体高値で乳酸・インスリン正常 → ケトン性低血糖症(ただし成長ホルモン分泌不全、副腎不全などのホルモン欠乏を除外したうえでの診断) 本問ではこうした特徴(頻度、検査所見、誘発試験、治療、予後)を正しく押さえているかが問われている。

選択肢考察

  1. ○a.  小児期の低血糖の中で最も多い。

    新生児期の一過性低血糖(低出生体重児や糖尿病母体児などにみられるもの)を別にすれば、乳幼児〜小児期に反復する低血糖の原因としてはケトン性低血糖症が最も頻度が高い。まれな先天代謝異常や内分泌疾患による低血糖に比べてはるかに多く、小児科で遭遇する低血糖の代表である。

  2. ×b.  血中乳酸が増加する。

    ケトン性低血糖症ではケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)が増加するが、乳酸やピルビン酸は正常範囲である。低血糖に乳酸アシドーシスを伴う場合は、グルコース-6-ホスファターゼ欠損による糖原病Ⅰ型(von Gierke病)や、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ欠損症など糖新生の障害を来す先天代謝異常を考える必要がある。

  3. ×c.  ロイシン負荷試験で低血糖が誘発される。

    ロイシン負荷で低血糖が誘発されるのは、ロイシンが刺激となって膵β細胞からインスリンが過剰分泌されるロイシン過敏性低血糖症である。かつては膵β細胞の過形成(nesidioblastosis)によると説明されたが、現在は先天性高インスリン血症の一型(グルタミン酸脱水素酶の機能獲得変異による高インスリン血症・高アンモニア血症症候群など)として理解されている。高インスリン性低血糖ではケトン体産生が抑えられる点で、ケトン性低血糖症とは病態が逆である。

  4. ×d.  カテコラミンの皮下注射が有効である。

    カテコラミン(エピネフリン)やグルカゴンは肝グリコーゲンを分解して血糖を上げる薬であるが、ケトン性低血糖症の発作時にはすでに肝グリコーゲンが枯渇しているため、これらを投与しても血糖はほとんど上がらない(この無反応自体が本症の特徴の一つとされる)。発作時はブドウ糖の経口摂取または静脈内投与(ブドウ糖を含む輸液)で治療する。予防としては長時間の空腹を避け、就寝前の補食や、体調不良時に糖分を含む飲料をこまめに与えることが基本である。

  5. ○e.  10歳ころまでに自然軽快する。

    本症は成長に伴って筋肉量が増え、糖新生の基質供給と絶食に耐える力が高まるため、多くは8〜10歳ころまでに発作がみられなくなる。基礎疾患を伴わない予後良好な病態である。ただし発作時の重症低血糖は脳障害の原因になりうるため、軽快するまでは空腹を避ける生活指導が必要である。

小児低血糖症の主な原因と特徴

・ケトン性低血糖症:幼児期、空腹・感染時、ケトン体↑、インスリン↓、乳酸正常、グルカゴン反応不良、学童期に自然軽快。 ・高インスリン性低血糖(先天性高インスリン血症、ロイシン過敏性低血糖症、インスリノーマ):ケトン体↓、遊離脂肪酸↓、インスリン不適切高値、グルカゴン投与で血糖上昇(グリコーゲンが保たれているため)。治療にジアゾキシドなど。 ・糖原病Ⅰ型:肝腫大、乳酸↑、高尿酸血症、高脂血症、グルカゴン投与で血糖上昇せず乳酸がさらに上昇。 ・脂肪酸β酸化異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症など):低ケトン性低血糖、遊離脂肪酸↑、高アンモニア血症を伴うことがある。 ・ホルモン欠乏(成長ホルモン分泌不全、副腎皮質機能低下症):ケトン性低血糖の形をとるので、ケトン性低血糖症の診断時には除外が必要。

critical sample の意義

低血糖発作時に採血しておくことで、インスリンが適切に抑制されているか、ケトン体が産生されているかを判定でき、原因の大部分を絞り込める。

治療

発作時:ブドウ糖の経口投与、摂取不能・意識障害時はブドウ糖静注・輸液。 予防:長時間の絶食を避ける、就寝前に炭水化物を摂る、感染症などで食べられないときは早めに受診・輸液。

POINT

・ケトン性低血糖症は新生児期を除く小児期の低血糖で最多。幼児期のやせ型男児に多く、朝の空腹時や感染時に起こる。 ・ケトン体↑、インスリン↓(適切に抑制)、乳酸・ピルビン酸は正常。乳酸↑なら糖原病などを考える。 ・グルカゴン・エピネフリンに反応しにくい(肝グリコーゲン枯渇)。治療はブドウ糖投与と空腹回避。 ・ロイシン負荷で低血糖誘発はロイシン過敏性低血糖症(高インスリン性)。 ・8〜10歳ころまでに自然軽快する予後良好な病態。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。