StudyMed医師国家試験

朝起きてこない幼児―ケトン性低血糖症は「燃料の備蓄不足」

第104回医師国家試験 I問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第29問

ケトン性低血糖症について正しいのはどれか。

  1. a.学童期に多い。
  2. b.朝に発症しやすい。
  3. c.糖尿病に合併しやすい。
  4. d.高脂肪食で予防する。
  5. e.グルカゴンで治療する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はケトン性低血糖症の特徴を問う問題だ。選択肢は好発年齢、発症の時間帯、糖尿病との関係、予防、治療と多岐にわたるけれど、病態がひとつわかっていれば全部判断できる。まずは名前から考えてみよう。低血糖なのにケトン体が増える、というのはどういう状況かな。
医学生医学生
ケトン体が増えるのは、糖が使えなくて脂肪を燃やしているときですよね。でも糖尿病ケトアシドーシスは高血糖なので、ちょっと混乱します。
ドクタードクター
その混乱はとても大事なポイントだ。ケトン体が作られるには、インスリンが低い状態で脂肪分解が進む必要がある。糖尿病ケトアシドーシスはインスリンが足りないから高血糖とケトーシスが起こる。一方ケトン性低血糖症では、血糖が下がったのに合わせてインスリンが適切に抑えられているから、脂肪が分解されてケトン体が増えるんだ。
医学生医学生
なるほど、インスリンが正常に反応した結果としてケトン体が出ているんですね。では、なぜそもそも低血糖になるんでしょうか。
ドクタードクター
幼児は体重あたりのブドウ糖消費量が大人より多いのに、肝臓に蓄えたグリコーゲンが少なく、糖新生の材料になるアラニンなどを供給する筋肉量も少ない。だから空腹が長く続くと肝グリコーゲンがすぐ尽き、糖新生も追いつかずに血糖が下がる。本態は「インスリン過剰」ではなく「燃料の備蓄不足」なんだ。
医学生医学生
空腹が長く続くタイミングといえば、夜寝ている間ですね。だから朝に発症しやすい、が正解でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。夜間の絶食のあと、早朝から朝食前に起こりやすい。前の晩の夕食をあまり食べなかったときや、風邪や胃腸炎で食欲が落ちているときが典型で、「朝起きてこない」「ぐったりしている」「吐いている」という形で気づかれることが多いよ。顔色不良や冷汗、傾眠があり、重いと意識障害やけいれんに至ることもある。
医学生医学生
好発年齢は学童期ではなく、もっと小さい子ですか。
ドクタードクター
そう、おおむね1歳半から5歳くらいの幼児期で、やせ型の男児に多い傾向がある。小児の低血糖の原因として最も多いものだ。成長とともにグリコーゲンの蓄えや筋肉量が増えて空腹に耐えられるようになり、多くは8〜10歳頃までに自然に起こらなくなる。だから学童期に多い、というのは誤りだね。
医学生医学生
糖尿病に合併しやすい、というのも違いますよね。糖尿病の低血糖は薬の効きすぎだと臨床実習の内分泌内科で教わりました。
ドクタードクター
その通り。糖尿病患者の低血糖は主にインスリンやスルホニル尿素薬が効きすぎて起こるもので、インスリンが多いからケトン体はむしろ作られにくい。ケトン性低血糖症は糖尿病とは関係ない幼児の病態だ。次は予防。高脂肪食で予防する、はどうかな。
医学生医学生
脂肪もエネルギーにはなりますが、糖の補給にはならないし、脂肪からケトン体が作られるので逆効果な気がします。
ドクタードクター
いい推論だ。予防の基本は炭水化物をこまめにとって長時間の空腹を避けること。就寝前に炭水化物を含む軽食をとらせたり、体調が悪いときは糖分を含む飲み物を与えたりする。家庭で尿ケトン体をチェックして、陽性なら早めに糖分をとらせるという工夫もある。高脂肪・低炭水化物の食事はかえって発症を誘発しうるよ。
医学生医学生
治療はグルカゴンでも良さそうに思えます。低血糖の救急でグルカゴンを使うと習いましたし。
ドクタードクター
そこがひっかけだ。グルカゴンは肝グリコーゲンを分解して血糖を上げるホルモンだけど、この病気では発作の時点ですでに肝グリコーゲンが空っぽ。だから打っても血糖はほとんど上がらない。むしろグルカゴンに反応しないこと自体が本症の特徴の一つなんだ。治療はブドウ糖の補給で、飲めるなら糖分を含む飲食物、嘔吐や意識障害があればブドウ糖の静脈内投与を行う。
医学生医学生
蔵が空っぽなのに鍵を開けても何も出てこない、ということですね。
ドクタードクター
うまいたとえだね。最後に鑑別の考え方も押さえておこう。この病気は除外診断で、低血糖のときに採った血液でインスリンとケトン体を測るのが出発点になる。ケトン体が上がらない低血糖なら、先天性高インスリン血症やインスリノーマのような高インスリン性の低血糖、あるいは中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症のような脂肪酸β酸化異常症を考える。
医学生医学生
インスリンが多ければ脂肪分解が抑えられるし、β酸化ができなければそもそもケトン体を作れない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ケトン体が上がるタイプでも、糖原病の一部や副腎皮質機能低下症、成長ホルモン分泌不全などの内分泌疾患を否定してはじめてケトン性低血糖症と診断できる。小児科を回ったときに、ぐったりした幼児を見たらまず血糖とケトン体、という意識を持っておくといいよ。

まとめ

ケトン性低血糖症は、1歳半〜5歳頃の幼児に好発する小児低血糖の最多原因で、肝グリコーゲンの貯蔵と糖新生の材料が乏しいために長時間の空腹で低血糖を起こし、インスリンが適切に抑制されているためケトーシスを伴います。夜間の絶食が続いた早朝から朝食前に発症しやすく、夕食摂取不良や感冒・胃腸炎が誘因となり、多くは8〜10歳頃までに自然軽快します。発作時は肝グリコーゲンが枯渇しているためグルカゴンは無効で、ブドウ糖の経口または静脈内投与で治療し、予防には炭水化物のこまめな摂取と長時間の空腹回避が重要で高脂肪食は逆効果です。糖尿病とは無関係であり、低血糖時のインスリンとケトン体の測定から高インスリン性低血糖や脂肪酸β酸化異常症などを鑑別する考え方は、小児の低血糖診療の基本となります。

解答・解説

正解はbです

ケトン性低血糖症とは

ケトン性低血糖症は、幼児期(おおむね1歳半~5歳)に多くみられる低血糖症で、小児の低血糖の原因として最も頻度が高い。空腹時間が長くなったとき、特に夕食をあまり食べずに寝た翌朝や、感冒・胃腸炎などで食事がとれず嘔吐が続いたときに、低血糖とケトーシス(血中・尿中ケトン体の増加)を起こす。症状は元気がない、顔色不良、冷汗、傾眠、嘔吐などで、重いと意識障害やけいれんに至る。やせ型の男児に多い傾向がある。

病態

幼児は体重あたりのブドウ糖消費量が成人より大きい一方で、肝臓に蓄えられたグリコーゲンの量が少なく、筋肉量も少ないため糖新生の材料(アラニンなどのアミノ酸)の供給が不十分である。このため空腹が続くと肝グリコーゲンが早く枯渇し、糖新生も追いつかずに低血糖となる。インスリン分泌は適切に抑制されているので、脂肪が分解されて脂肪酸からケトン体が大量に作られ、ケトーシスを伴う。つまり「インスリン過剰」ではなく「燃料の備蓄不足」が本態である。

診断と考え方

診断は除外診断であり、ケトン体が上昇していないタイプの低血糖(高インスリン血症、脂肪酸代謝異常症など)や、糖原病、副腎皮質機能低下症、成長ホルモン分泌不全などの内分泌疾患を否定したうえで診断する。本問は、この病態(空腹時に起こる・グリコーゲンが乏しい・年齢とともに自然軽快する)を理解していれば、発症時間帯、好発年齢、予防法、治療法の各選択肢を判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  学童期に多い。

    誤り。学童期は小学生の年代(おおむね6~12歳)を指すが、ケトン性低血糖症の好発年齢は幼児期(おおむね1歳半~5歳)である。成長とともに肝グリコーゲンの貯蔵量や筋肉量が増え、体重あたりの糖消費量も減るため空腹に耐えられるようになり、多くは8~10歳頃までに自然に発症しなくなる。

  2. ○b.  朝に発症しやすい。

    正しい。本症は空腹時間が長くなると起こるため、夜間の絶食が続いたあとの早朝から朝食前に発症しやすい。特に前日の夕食量が少なかった場合や、感染症で食欲が落ちている場合に起こりやすく、朝起きてこない、ぐったりしている、嘔吐しているといった形で気づかれることが多い。

  3. ×c.  糖尿病に合併しやすい。

    誤り。ケトン性低血糖症は糖尿病とは関係のない、幼児期の糖備蓄不足による低血糖である。糖尿病患者の低血糖は主にインスリンやスルホニル尿素薬などの治療薬の効きすぎによるもので、インスリンが過剰なためケトン体はむしろ作られにくい。なお「ケトン体が増える」という点で1型糖尿病の糖尿病ケトアシドーシスと混同しないよう注意する。こちらはインスリン欠乏による高血糖とケトーシスであり、血糖値の動きが正反対である。

  4. ×d.  高脂肪食で予防する。

    誤り。予防の基本は長時間の空腹を避け、炭水化物(糖質)を十分に、こまめに摂取させることである。就寝前に炭水化物を含む軽食をとらせる、食事回数を増やすなどの工夫を行う。脂肪を中心とした食事は糖の供給にならず、脂肪分解からのケトン体産生をかえって助長するため、高脂肪・低炭水化物食は予防にならない(発症を誘発しうる)。

  5. ×e.  グルカゴンで治療する。

    誤り。グルカゴンは肝グリコーゲンを分解して血糖を上げるホルモンだが、本症では発作時にすでに肝グリコーゲンが枯渇しているため、投与しても血糖はほとんど上昇しない(グルカゴン負荷に反応しないこと自体が本症の特徴の一つである)。治療はブドウ糖の補給であり、経口摂取が可能なら糖分を含む飲み物や食べ物を与え、嘔吐や意識障害があればブドウ糖を静脈内投与する。

小児の低血糖の鑑別の考え方

低血糖発作時の血液(いわゆるクリティカルサンプル)で、インスリン値とケトン体(β-ヒドロキシ酪酸など)を測ることが鑑別の出発点となる。 ・ケトン体が上昇する低血糖:ケトン性低血糖症、糖原病(一部の型)、副腎皮質機能低下症、成長ホルモン分泌不全症など。 ・ケトン体が上昇しない低血糖:高インスリン血性低血糖症(先天性高インスリン血症、インスリノーマなど)、脂肪酸β酸化異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症など)。インスリン過剰では脂肪分解が抑えられ、β酸化異常ではケトン体を作れないためである。

ケトン性低血糖症の特徴のまとめ

・好発年齢:1歳半~5歳頃の幼児。やせ型の男児に多い。 ・誘因:長時間の空腹、食事摂取不良(感冒・胃腸炎など)。早朝に起こりやすい。 ・検査:低血糖、血中・尿中ケトン体陽性、インスリンは低値(適切に抑制)、血中アラニン低値。グルカゴンに対する血糖上昇反応が乏しい。 ・治療:ブドウ糖の経口または静脈内投与。 ・予防:長時間の絶食を避ける、就寝前の補食、体調不良時の糖分摂取。家庭で尿ケトン体をチェックし、陽性なら早めに糖分をとらせる方法もある。 ・予後:良好で、多くは8~10歳頃までに自然軽快する。

いわゆる自家中毒(周期性嘔吐症)との関係

幼児期に嘔吐を繰り返してケトーシスを伴う周期性嘔吐症(アセトン血性嘔吐症)とは、年齢・誘因・ケトーシスの点で共通点が多く、臨床的に重なり合う病態として扱われることがある。

POINT

・ケトン性低血糖症は幼児期(1歳半~5歳頃)に好発する、小児低血糖の最多原因である。 ・空腹時間の長い早朝・朝食前に発症しやすい。 ・本態は肝グリコーゲン貯蔵と糖新生基質の不足であり、インスリンは抑制されていてケトン体が増える。 ・発作時は肝グリコーゲンが枯渇しているためグルカゴンは無効で、ブドウ糖で治療する。 ・予防は炭水化物のこまめな摂取と長時間の空腹回避であり、高脂肪食は逆効果。 ・糖尿病とは無関係で、予後良好(8~10歳頃までに自然軽快)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。