骨・結石・腹痛・精神症状―高カルシウム血症が胃潰瘍を招く理由
第101回医師国家試験 F問題 第62問
国試問題にチャレンジ
原発性副甲状腺機能亢進症に合併するのはどれか。
- a.緑内障
- b.消化性潰瘍
- c.原発性胆汁性肝硬変〈原発性胆汁性胆管炎〉
- d.囊胞腎
- e.関節リウマチ
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
原発性副甲状腺機能亢進症では、PTHの自律的過剰により骨吸収亢進と高カルシウム血症が生じ、合併症は「骨・結石・腹痛・精神症状」で整理できます。消化性潰瘍は、高カルシウム血症がガストリン分泌を刺激して胃酸分泌を亢進させることで生じ、急性膵炎と並ぶ代表的な消化器合併症です。また本症はMEN1の主要病変であり、ガストリノーマによるZollinger-Ellison症候群の難治性潰瘍を伴うこともあります。眼なら緑内障ではなく帯状角膜変性、腎なら囊胞腎ではなく尿路結石・腎石灰化、関節なら関節リウマチではなく偽痛風と、臓器ごとに正しい合併症を対応づけて覚えることが大切です。ホルモンの作用から合併症を導く考え方は、内分泌疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism: PHPT)は、副甲状腺そのものの病変(腺腫が約80〜85%、過形成が約10〜15%、癌が数%未満)によって副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone: PTH)が自律的に過剰分泌される疾患である。PTHは骨吸収を促進し、腎尿細管でのCa再吸収とリン排泄を増やし、腎での活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)産生を高めて腸管Ca吸収を増やす。その結果、高カルシウム血症・低リン血症が生じる。 本症の合併症・症状は、大きく「PTH過剰による骨病変」と「高カルシウム血症による多臓器症状」に分けて整理するとよい。古くから『bones, stones, abdominal groans, psychic moans(骨・結石・腹痛・精神症状)』と覚えられてきた。 ・骨:骨粗鬆症、線維性骨炎(嚢胞性線維性骨炎)、骨痛、病的骨折 ・腎:尿路結石、腎石灰化症、多尿(腎性尿崩症様) ・消化器:消化性潰瘍、急性膵炎、食欲不振、悪心・便秘 ・神経・精神:易疲労感、抑うつ、集中力低下、意識障害(高カルシウム血症クリーゼ) ・その他:偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)、帯状角膜変性、高血圧、QT短縮 選択肢のうち、上記の機序で説明できるのは消化性潰瘍である。高カルシウム血症は胃G細胞からのガストリン分泌を刺激し、胃酸分泌を増やすため潰瘍を生じやすくなる。さらに、原発性副甲状腺機能亢進症は多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の最も頻度の高い病変であり、MEN1ではガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)による難治性の多発潰瘍も合併しうる点も知っておく必要がある。
選択肢考察
- ×a. 緑内障
緑内障は眼圧上昇などにより視神経が障害される疾患であり、副甲状腺機能亢進症との関連はない。高カルシウム血症で生じる眼の変化は、角膜の瞼裂部にCaが沈着する帯状角膜変性や結膜の石灰沈着であり、緑内障ではない。なお、ステロイド過剰(Cushing症候群やステロイド点眼)は眼圧上昇の原因となるので、内分泌疾患の眼合併症として混同しないようにする。
- ○b. 消化性潰瘍
高カルシウム血症はガストリン分泌を刺激し、胃酸分泌を亢進させるため、胃・十二指腸潰瘍を生じやすくする。消化性潰瘍は急性膵炎と並ぶ本症の代表的な消化器合併症である。また、原発性副甲状腺機能亢進症がMEN1の一部分症として発症している場合には、膵・十二指腸のガストリノーマによるZollinger-Ellison症候群(多発・難治性潰瘍、下痢)を伴うことがある。したがって本症を診たら潰瘍の有無を、難治性潰瘍を診たら血清Caを確認する姿勢が重要である。
- ×c. 原発性胆汁性肝硬変〈原発性胆汁性胆管炎〉
原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis: PBC、旧称 原発性胆汁性肝硬変)は、抗ミトコンドリア抗体陽性を特徴とする自己免疫性の肝内小葉間胆管の慢性炎症であり、中年女性に多い。合併しやすいのはSjögren症候群、橋本病(慢性甲状腺炎)、関節リウマチ、強皮症などの自己免疫疾患であり、副甲状腺機能亢進症との関連はない。PBCでは胆汁うっ滞によるビタミンD吸収障害から骨粗鬆症・骨軟化症を来しうるが、これはPTHの自律的過剰とは別の病態である。
- ×d. 囊胞腎
囊胞腎(多発性囊胞腎、特に常染色体顕性〈優性〉多発性囊胞腎:ADPKD)はPKD1/PKD2遺伝子異常による遺伝性疾患であり、副甲状腺機能亢進症によって生じるものではない。本症で起こる腎病変は、高カルシウム尿症による尿路結石と腎石灰化症、濃縮力障害による多尿である。腎病変という点で紛らわしいが、囊胞形成は本症の合併症ではない。
- ×e. 関節リウマチ
関節リウマチは自己免疫機序による多発性の滑膜炎であり、副甲状腺機能亢進症との関連はない。本症で注意すべき骨・関節病変は、骨吸収亢進による骨粗鬆症・線維性骨炎と、ピロリン酸カルシウム結晶が関節に沈着して起こる偽痛風(膝関節などの急性関節炎、軟骨石灰化)である。関節症状があっても、それはリウマチではなく偽痛風を考える。
原発性副甲状腺機能亢進症の概要
・病因:腺腫(単発が多い)が大部分、過形成(MEN1、MEN2Aなどの遺伝性に多い)、まれに副甲状腺癌。 ・疫学:中高年女性に多い。近年は検診での無症候性高カルシウム血症を契機に見つかる例が多い。 ・検査所見:血清Ca高値、血清P低値、intact PTH高値(高Ca血症にもかかわらずPTHが抑制されていないことが診断の要点)、尿中Ca排泄増加、骨型ALP上昇、高クロール性代謝性アシドーシス(PTHによる近位尿細管でのHCO3-再吸収抑制)。 ・画像:頸部超音波、99mTc-MIBIシンチグラフィで腫大腺の局在診断を行う。骨X線では手指骨の骨膜下吸収像、頭蓋骨のごま塩状陰影(salt and pepper appearance)がみられる。 ・治療:有症状例や骨・腎合併症を伴う例では病的腺の外科的摘出が根治療法である。手術不能例ではシナカルセト(Ca感知受容体作動薬)、ビスホスホネートなどを用いる。
高カルシウム血症の症状(まとめ)
・消化器:食欲不振、悪心・嘔吐、便秘、消化性潰瘍、急性膵炎 ・腎:多尿・口渇(腎性尿崩症様)、脱水、尿路結石、腎石灰化 ・神経・筋:倦怠感、筋力低下、抑うつ、傾眠〜昏睡 ・循環:高血圧、心電図でQT短縮
MEN1との関係
MEN1(MEN1遺伝子変異)は副甲状腺(ほぼ全例)、膵・消化管神経内分泌腫瘍(ガストリノーマ、インスリノーマなど)、下垂体腺腫を三主徴とする。若年発症や多腺性の副甲状腺病変では MEN1 を疑い、ガストリノーマによる消化性潰瘍の合併にも注意する。
POINT
・原発性副甲状腺機能亢進症の合併症は「骨(骨粗鬆症・線維性骨炎)、結石(尿路結石・腎石灰化)、腹部(消化性潰瘍・膵炎)、精神症状」で整理する。 ・高カルシウム血症はガストリン分泌を促進し消化性潰瘍の原因となる。 ・MEN1では副甲状腺機能亢進症にガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)が合併し、難治性潰瘍を来しうる。 ・関節症状は関節リウマチではなく偽痛風、眼症状は緑内障ではなく帯状角膜変性、腎病変は囊胞腎ではなく尿路結石・腎石灰化。
