StudyMed医師国家試験

CD4/CD8比が「逆転」する肺―BAL所見で夏型過敏性肺炎を見抜く

第101回医師国家試験 F問題 第66問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第66問

気管支肺胞洗浄液中のリンパ球のCD4/CD8比が1以下になるのはどれか。

  1. a.気管支喘息
  2. b.ベリリウム肺
  3. c.夏型過敏性肺炎
  4. d.特発性肺線維症
  5. e.サルコイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は気管支肺胞洗浄、いわゆるBALの細胞所見から、びまん性肺疾患を見分ける問題だ。注目点はリンパ球のサブセット、つまりCD4/CD8比が上がる病気と下がる病気をきちんと区別できているかどうか。まずは前提として、BALがどんな検査か説明できるかな。
医学生医学生
気管支鏡を区域気管支にはめ込んで生理食塩水を入れ、回収した液の細胞を調べる検査ですよね。呼吸器内科の実習で一度見学しました。
ドクタードクター
その通り。回収液には肺胞領域の細胞が含まれるから、肺の奥で何が起きているかを推測できる。健常な非喫煙者では肺胞マクロファージが8〜9割を占め、リンパ球は1割強くらい。そのリンパ球のCD4/CD8比はおおむね1.5〜2程度だ。
医学生医学生
ということは、1以下というのはCD8陽性T細胞が相対的に増えている状態ですね。
ドクタードクター
そう。では選択肢を見て、CD4が優位になりそうな病気から考えてみよう。
医学生医学生
サルコイドーシスはCD4/CD8比が上がるはずです。CBTの勉強で「サルコは比が上がる」と丸暗記しました。
ドクタードクター
正しいね。ただ丸暗記より理由を押さえておこう。サルコイドーシスは抗原提示を受けたCD4陽性のTh1細胞が中心となって非乾酪性類上皮細胞肉芽腫をつくる病気だ。だから肺胞にもCD4陽性細胞が集まり、比が上がる。わが国の診断基準でも、BALのリンパ球増加やCD4/CD8比が3.5を超える上昇が特徴的な検査所見の一つとされている。
医学生医学生
ベリリウム肺も肉芽腫をつくる病気でしたよね。ということは同じ方向でしょうか。
ドクタードクター
その推論で合っている。慢性ベリリウム症はベリリウムを抗原としてCD4陽性T細胞が感作され、サルコイドーシスとよく似た肉芽腫を形成する。BALではリンパ球が増え、CD4/CD8比は上昇する。画像も病理も似ているので、職業歴の聴取が鑑別のカギになるんだ。
医学生医学生
では気管支喘息はどうですか。リンパ球の病気というより好酸球のイメージがあります。
ドクタードクター
いい感覚だね。喘息はTh2細胞や2型自然リンパ球が出すIL-4、IL-5、IL-13による好酸球性の気道炎症が主体で、BALで目立つのは好酸球の増加だ。ちなみに喘息の診断にBALは通常必要なく、呼気一酸化窒素濃度や喀痰・末梢血の好酸球で2型炎症を評価するのが一般的だよ。
医学生医学生
特発性肺線維症は線維化の病気なので、リンパ球はあまり増えないイメージです。
ドクタードクター
その通り。特発性肺線維症のBALでは好中球や好酸球が軽く増える程度で、リンパ球の著明な増加は通常ない。逆に言うと、間質性肺炎を疑ってBALでリンパ球がはっきり増えていたら、特発性肺線維症よりも過敏性肺炎や非特異性間質性肺炎、サルコイドーシスなどを考えるきっかけになる。
医学生医学生
残るのは夏型過敏性肺炎ですね。これが答えでしょうか。
ドクタードクター
正解。夏型過敏性肺炎は、高温多湿の時期に古い木造家屋などで増えるトリコスポロンという真菌を繰り返し吸い込んで起こる、わが国で最も多い過敏性肺炎だ。III型・IV型アレルギーで肺胞にリンパ球が著しく集まり、ときに半分以上を占める。そして急性期には細胞傷害性のCD8陽性T細胞が優位になるため、CD4/CD8比が1以下に下がるんだ。
医学生医学生
帰宅すると熱や咳が出て、入院すると良くなる、という病歴が特徴でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。抗原から離れると改善し、戻ると再燃する。この環境との関連が診断の大きな手がかりになる。整理すると、リンパ球が増えてCD4優位ならサルコイドーシスやベリリウム肺、CD8優位なら夏型過敏性肺炎、好酸球なら喘息や好酸球性肺炎、好中球なら特発性肺線維症という形だ。
医学生医学生
過敏性肺炎なら必ずCD4/CD8比が下がる、と覚えてしまっていいですか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だね。過敏性肺炎は病型や病期によって比が変わる。鳥関連過敏性肺炎や農夫肺、慢性化した例などでは比が正常から上昇を示すこともある。だから比の値だけで病型を決めつけず、病歴や画像と組み合わせて判断することが大切だ。
医学生医学生
BALでほかに特徴的な所見を示す病気もありますか。
ドクタードクター
いくつか覚えておくと役立つよ。肺胞蛋白症では米のとぎ汁のような白濁した回収液、肺胞出血では回収を重ねるごとに血性が濃くなる液、ランゲルハンス細胞組織球症ではCD1a陽性細胞の増加、石綿肺では石綿小体がみられる。BALは侵襲がある検査だけれど、得られる情報は多いんだ。

まとめ

気管支肺胞洗浄液の細胞分画とリンパ球のCD4/CD8比は、びまん性肺疾患の鑑別に役立ちます。サルコイドーシスやベリリウム肺ではCD4陽性T細胞が肉芽腫形成を主導するため比が上昇し、夏型過敏性肺炎の急性期ではCD8陽性T細胞が優位となって比が1以下に低下します。気管支喘息では好酸球、特発性肺線維症では好中球の軽度増加が目立ち、リンパ球の著増は特徴ではありません。ただし過敏性肺炎でも鳥関連や慢性型では比が上昇しうるため、病歴・画像と合わせた総合判断が欠かせません。各疾患の免疫学的な背景から細胞所見を理解しておくと、暗記に頼らず検査結果を読み解く力が身につきます。

解答・解説

正解はcです

気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)は、気管支鏡を区域気管支に楔入し、生理食塩水を注入・回収して肺胞領域の細胞や物質を調べる検査である。回収液(BALF)の総細胞数と細胞分画(マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球)、リンパ球サブセット(CD4/CD8比)をみることで、びまん性肺疾患の鑑別に役立つ。 健常非喫煙者のBALFでは、肺胞マクロファージが80〜90%程度と大部分を占め、リンパ球は10〜15%程度、好中球・好酸球はそれぞれ数%未満である。リンパ球のCD4/CD8比はおおむね1.5〜2程度であり、疾患によってこれが上昇あるいは低下する。 本問の選択肢を細胞分画の観点で整理すると、次のようになる。 ・リンパ球増加+CD4/CD8比上昇:サルコイドーシス、ベリリウム肺(いずれもCD4陽性T細胞が主体の類上皮細胞肉芽腫を形成する疾患) ・リンパ球増加+CD4/CD8比低下:過敏性肺炎(特にわが国で最多の夏型過敏性肺炎の急性期) ・好酸球増加:気管支喘息、好酸球性肺炎など ・好中球(±好酸球)の軽度増加:特発性肺線維症 したがってCD4/CD8比が1以下になるのは夏型過敏性肺炎である。過敏性肺炎では、吸入抗原に対するⅢ型・Ⅳ型アレルギー反応により肺胞腔にリンパ球が著明に集積し(しばしば50%以上)、急性期にはCD8陽性T細胞の増加が優位となるためCD4/CD8比が低下する。

選択肢考察

  1. ×a.  気管支喘息

    気管支喘息は、Th2細胞や2型自然リンパ球が産生するIL-4、IL-5、IL-13などによる好酸球性の気道炎症が主体であり、BALFでは好酸球の増加が特徴的である。リンパ球が著増してCD4/CD8比が低下する疾患ではない。なお、BALは喘息の診断に通常は必要とされず、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)や喀痰・末梢血好酸球数で2型炎症を評価するのが一般的である。

  2. ×b.  ベリリウム肺

    ベリリウム肺(慢性ベリリウム症)は、ベリリウムを抗原としてCD4陽性T細胞が感作され、サルコイドーシスとよく似た非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する疾患である。BALFではリンパ球が増加し、CD4/CD8比は上昇する。病理像や画像がサルコイドーシスと区別しにくいため、職業歴(航空宇宙産業、電子部品製造など)の聴取と、ベリリウムリンパ球増殖試験(BeLPT)が鑑別に重要である。

  3. ○c.  夏型過敏性肺炎

    夏型過敏性肺炎は、高温多湿の時期に古い木造家屋などで増殖する真菌トリコスポロン(Trichosporon asahii など)の反復吸入による過敏性肺炎で、わが国の過敏性肺炎で最も多い。帰宅後の発熱・咳嗽・呼吸困難、入院などで抗原から離れると改善し、帰宅で再燃する(環境誘発試験陽性)ことが特徴である。BALFではリンパ球が著明に増加し、CD8陽性T細胞が優位となるためCD4/CD8比が1以下に低下する。なお過敏性肺炎のすべてで比が低下するわけではなく、鳥関連過敏性肺炎や農夫肺、慢性化した例などではCD4/CD8比が正常〜上昇を示すことがあるため、比の値だけで病型を決めつけないことも大切である。

  4. ×d.  特発性肺線維症

    特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)は、原因不明の慢性進行性線維化を来す特発性間質性肺炎の代表で、病理学的・画像的に通常型間質性肺炎(UIP)パターンを示す。BALFでは好中球(と好酸球)の軽度増加がみられる程度で、リンパ球の著明な増加は通常ない。CD4/CD8比は正常か軽度の変動にとどまり、1以下になることは特徴ではない。BALFでリンパ球が明らかに増加している場合は、IPFよりも過敏性肺炎、非特異性間質性肺炎(NSIP)、サルコイドーシスなどを考える。

  5. ×e.  サルコイドーシス

    サルコイドーシスは、CD4陽性T細胞(Th1系)が中心となって全身に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の疾患である。BALFではリンパ球が増加し、CD4/CD8比は上昇する。わが国の診断基準では、BALFのリンパ球増加またはCD4/CD8比上昇(3.5を超える)が特徴的検査所見の一つとされている。両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、血清ACE・リゾチーム・可溶性IL-2受容体の上昇、ぶどう膜炎なども重要な所見である。

BALF所見と代表的疾患

・リンパ球増加、CD4/CD8比↑:サルコイドーシス、ベリリウム肺、一部の過敏性肺炎(鳥関連・慢性型など)、膠原病関連間質性肺炎の一部 ・リンパ球増加、CD4/CD8比↓:過敏性肺炎(夏型・急性期)、薬剤性肺炎の一部、器質化肺炎(COP)、非特異性間質性肺炎の一部 ・好酸球増加:急性・慢性好酸球性肺炎(しばしば25%以上)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、気管支喘息、薬剤性肺炎 ・好中球増加:特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、細菌性肺炎、石綿肺 ・その他特徴的な所見:肺胞蛋白症では米のとぎ汁様の白濁液(PAS陽性物質)、肺胞出血では回収ごとに血性が濃くなる液、ランゲルハンス細胞組織球症ではCD1a陽性細胞の増加、石綿肺では石綿小体

過敏性肺炎の病型(わが国)

・夏型過敏性肺炎(トリコスポロン):最多。夏季に発症し、住居環境が原因。 ・鳥関連過敏性肺炎(鳥の排泄物・羽毛):慢性化しやすく、線維化を伴うことがある。 ・農夫肺(好熱性放線菌)、加湿器肺、塗装工肺(イソシアネート)など。 急性型ではすりガラス影と小葉中心性粒状影が典型で、抗原回避で改善する。慢性型は線維化が進み、IPFとの鑑別が問題になる。

CD4/CD8比が変化する理由

サルコイドーシスやベリリウム肺では抗原提示を受けたCD4陽性T細胞が肉芽腫形成を主導するため比が上がる。過敏性肺炎(特に急性期)では細胞傷害性のCD8陽性T細胞が肺胞に多く集積するため比が下がる。

POINT

・BALFのCD4/CD8比:サルコイドーシス・ベリリウム肺で上昇、夏型過敏性肺炎で低下(1以下)。 ・サルコイドーシスでは CD4/CD8比 > 3.5 が特徴的所見。 ・気管支喘息・好酸球性肺炎では好酸球増加、特発性肺線維症では好中球の軽度増加。 ・過敏性肺炎は病型・病期でCD4/CD8比が異なり、鳥関連や慢性型では上昇することもある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。