膿は「入り口」から生まれる―経路で解く急性膿胸の原因
第115回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
急性膿胸の原因にならないのはどれか。
- a.肺炎
- b.胸部外傷
- c.食道穿孔
- d.肺線維症
- e.降下性壊死性縦隔炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膿胸は胸膜腔に病原体が侵入して膿が貯留した状態で、発症3か月未満のものを急性膿胸と呼びます。原因は、隣接する肺からの波及(肺炎・肺膿瘍が最多)、胸壁からの直接侵入(穿通性外傷、残存血胸への感染、手術・ドレーン)、縦隔からの波及(食道穿孔、降下性壊死性縦隔炎)、横隔膜下からの波及、血行性感染など、いずれも胸腔への「入り口」をもつ病態です。肺線維症は非感染性の間質性肺疾患で、合併症は急性増悪・気胸・肺癌・肺高血圧症であり、膿胸の原因にはなりません。治療は抗菌薬と胸腔ドレナージが基本で、多房化や器質化が進む前に介入することが慢性膿胸の予防につながります。病原体の侵入経路から原因を整理する考え方は、膿胸に限らず感染症全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
本問は急性膿胸の原因を問う一般問題であり、「原因にならないもの」を一つ選ぶ。 膿胸とは、胸膜腔(臓側胸膜と壁側胸膜の間のすき間)に膿が貯留した状態である。膿とは、細菌などの病原体に対して集まった多数の好中球と、壊れた細胞の残骸(デブリ)を含む液体のことであり、膿胸が成立するには「胸腔内に病原体が入り込むこと」が前提となる。発症から3か月未満のものを急性膿胸、3か月以上続くものを慢性膿胸と呼ぶ。 病原体が胸腔に達する経路は、次のように整理できる。 ①隣接する肺の感染が胸膜へ広がる:肺炎、肺膿瘍(最も頻度が高い) ②胸壁の外から直接入る:穿通性の胸部外傷、胸部手術後、胸腔穿刺・胸腔ドレーン挿入などの医療行為 ③縦隔から広がる:食道穿孔(特発性食道破裂や内視鏡操作による損傷)、降下性壊死性縦隔炎 ④横隔膜の下から広がる:横隔膜下膿瘍、肝膿瘍など ⑤血流を介して到達する:敗血症 この考え方で選択肢を見ると、肺炎、胸部外傷、食道穿孔、降下性壊死性縦隔炎はいずれも胸腔内へ病原体が侵入する経路をもつ。一方、肺線維症は肺の間質に線維化が進む非感染性の疾患であり、それ自体が胸腔内に細菌を持ち込むことはないため、急性膿胸の原因にはならない。
選択肢考察
- ×a. 肺炎
急性膿胸の原因になる。肺炎は膿胸の原因として最も頻度が高い。肺炎の炎症が臓側胸膜まで及ぶと、まず胸腔に反応性の胸水が貯まる(肺炎随伴性胸水)。この胸水に細菌が侵入して増殖すると、好中球が集まって膿性となり、膿胸に進展する。起炎菌としては肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、口腔内の嫌気性菌、ミレリ群レンサ球菌(Streptococcus anginosus group)などが代表的である。
- ×b. 胸部外傷
急性膿胸の原因になる。刺創などの穿通性外傷では、胸壁の創から体外の細菌が胸腔内へ直接持ち込まれる。また、外傷後の血胸が十分に排出されずに残ると、凝血塊が細菌の格好の培地となり、感染して膿胸に移行することがある。胸腔ドレーンの長期留置も感染の入り口となりうる。
- ×c. 食道穿孔
急性膿胸の原因になる。嘔吐に伴う特発性食道破裂(ブールハーフェ症候群)や内視鏡操作、異物、癌などで食道に穴が開くと、口腔内細菌を含む唾液や胃内容物が縦隔に漏れ出し、縦隔炎を起こす。さらに縦隔胸膜が破れて胸腔に交通すると、膿胸となる。特発性食道破裂は下部食道の左壁に起こりやすいため、左側の膿胸・胸水が多い。胸水中に食物残渣がみられたり、胸水アミラーゼ(唾液由来)が上昇したりすることが診断の手がかりとなる。重症化しやすく、緊急の外科治療を要することが多い。
- ○d. 肺線維症
急性膿胸の原因にならないため、これが正解である。肺線維症は、特発性肺線維症(IPF:idiopathic pulmonary fibrosis)に代表される慢性の線維化性間質性肺炎であり、肺胞の壁(間質)に線維組織が増えて肺が硬く縮む非感染性の疾患である。乾性咳嗽や労作時の呼吸困難、捻髪音(fine crackles)、ばち指、画像上の蜂巣肺が特徴で、合併症としては急性増悪、気胸、肺癌、肺高血圧症が知られる。胸腔内へ細菌が侵入する経路をつくる病態ではないため、膿胸の直接の原因とはならない。
- ×e. 降下性壊死性縦隔炎
急性膿胸の原因になる。降下性壊死性縦隔炎は、歯性感染症、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、深頸部膿瘍などの頸部の感染が、頸部の筋膜の間隙を通って重力に従い縦隔へ下降して広がる、重篤な壊死性感染症である。縦隔の炎症が縦隔胸膜を越えて胸腔へ波及すると、胸膜炎から膿胸へと進展する。好気性菌と嫌気性菌の混合感染が多く、致死率が高いため、抗菌薬に加えて頸部・縦隔・胸腔の早期の外科的ドレナージが必要である。
膿胸の病期(肺炎随伴性胸水から膿胸への進行)
①滲出期:胸膜の透過性が亢進し、さらさらした無菌性の滲出液が貯まる。 ②線維素膿性期:細菌が侵入し、好中球やフィブリン(線維素)が増えて膿性となる。フィブリンの隔壁で胸水が小部屋に分かれる(多房化)。 ③器質化期:線維芽細胞が増殖して厚い胸膜の「皮」(胸膜被膜)ができ、肺の再膨張が妨げられる。慢性膿胸へ移行する。
診断
・胸部X線・CT:胸水貯留。CTでは造影で厚くなった胸膜が描出される(split pleura sign)。 ・胸腔穿刺:肉眼的に膿性、または胸水のグラム染色・培養で細菌陽性であれば膿胸と診断する。膿性でなくても、胸水pH 7.2未満、糖 60mg/dL未満、LDH高値などは複雑性肺炎随伴性胸水を示し、ドレナージの適応となる。
治療
・抗菌薬の投与と胸腔ドレナージが基本である。 ・多房化してドレナージが不十分な場合は、胸腔内線維素溶解療法や胸腔鏡下の掻爬・剥皮術を行う。 ・慢性膿胸では、肺剥皮術、開窓術、胸郭形成術などが検討される。
その他の原因
胸部手術後(特に肺切除後の気管支断端瘻)、胸腔穿刺などの医療行為、横隔膜下膿瘍、敗血症による血行性感染、結核(結核性膿胸)なども原因となる。
POINT
・膿胸は胸腔内に病原体が侵入して膿が貯留した状態であり、発症3か月未満を急性膿胸と呼ぶ。 ・原因は肺炎(最多)、胸部外傷・手術、食道穿孔、降下性壊死性縦隔炎、横隔膜下膿瘍、敗血症など、胸腔へ病原体が入る経路をもつ病態である。 ・肺線維症は非感染性の間質性肺疾患であり、膿胸の原因にはならない(合併症は急性増悪、気胸、肺癌、肺高血圧症)。 ・治療の基本は抗菌薬と胸腔ドレナージである。
