温泉帰りの重症肺炎にペニシリンは届かない―細胞内に潜むレジオネラの見抜き方
第115回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
レジオネラ肺炎について誤っているのはどれか。
- a.集団感染がみられる。
- b.中枢神経系症状を呈する。
- c.低ナトリウム血症を生じる。
- d.βラクタム系抗菌薬が有効である。
- e.迅速診断に尿中抗原検出キットが有用である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
レジオネラ肺炎は、循環式浴槽や冷却塔などの汚染水エアロゾルを吸入して起こり、ヒトからヒトへの感染はないものの共通の感染源による集団発生がみられます。中枢神経症状、下痢、比較的徐脈、低ナトリウム血症、低リン血症、CK上昇、肝機能障害など肺外所見が多いのが特徴で、迅速診断には尿中抗原検査が有用ですが、主に血清群1を検出するため陰性でも否定はできません。菌は細胞内寄生菌であり、細胞内に移行しにくいβラクタム系抗菌薬は無効で、ニューキノロン系やマクロライド系を用います。βラクタム系で改善しない重症市中肺炎ではレジオネラを疑い、診断時には四類感染症として直ちに届け出ます。菌の性質から治療薬の選び方までを結びつけて理解することは、非定型肺炎全般の初期治療を考える土台になります。
解答・解説
正解はdです
レジオネラ肺炎の疫学・臨床像・検査・治療についての知識を問う一般問題で、「誤っているもの」を一つ選ぶ。 レジオネラ属菌(主に Legionella pneumophila)はグラム陰性桿菌で、自然界の土壌や淡水に広く存在し、アメーバなどの原虫の中で増殖する。ヒトには、菌を含んだ水が細かい水滴(エアロゾル)となったものを吸い込むことで感染する。ヒトからヒトへはうつらないとされる。 考え方の軸は次の3点である。 1. 感染源は「人工的な水環境」であり、同じ汚染源に曝露した人々の間で集団発生しうる。 2. 肺炎にとどまらず、意識障害などの中枢神経症状、低ナトリウム血症・低リン血症、肝機能障害、横紋筋融解(CK上昇)といった肺外症状・検査異常を伴いやすい。 3. 菌はマクロファージなどの細胞内で増殖する「細胞内寄生菌」である。細胞壁合成を阻害するβラクタム系抗菌薬は細胞内に十分移行せず無効であり、細胞内移行性のよいニューキノロン系・マクロライド系(およびリファンピシン、テトラサイクリン系)を用いる。 したがって、βラクタム系が有効とする記述が誤りである。市中肺炎の初期治療でβラクタム系を投与しても改善しない重症肺炎では、レジオネラを疑う必要がある点も臨床上重要である。
選択肢考察
- ×a. 集団感染がみられる。
正しい記述である。レジオネラ属菌は循環式浴槽(温泉・公衆浴場・高齢者施設の入浴設備など)、ビルの空調用冷却塔、超音波式加湿器、噴水などの水中で増殖し、そこから発生するエアロゾルを吸入して感染する。同一の汚染源に多数の人が曝露されるため、施設単位での集団発生がしばしば報告される。なお、ヒト-ヒト感染は基本的に起こらないので、集団発生は「共通の感染源」によるものと考える。
- ×b. 中枢神経系症状を呈する。
正しい記述である。レジオネラ肺炎では、頭痛、傾眠や見当識障害などの意識障害、せん妄、けいれんといった中枢神経系症状を伴うことが多く、他の細菌性肺炎と比べて肺外症状が目立つことが特徴である。高熱、比較的徐脈、下痢などの消化器症状もみられやすい。
- ×c. 低ナトリウム血症を生じる。
正しい記述である。レジオネラ肺炎では低ナトリウム血症が他の原因による肺炎より高頻度にみられ、診断の手がかりになる。そのほか低リン血症、AST・ALT上昇などの肝機能障害、横紋筋融解によるCK上昇、腎機能障害(血尿・蛋白尿を含む)なども生じやすい。
- ○d. βラクタム系抗菌薬が有効である。
誤っている記述であり、これが正解である。レジオネラはマクロファージなどの細胞内で増殖する細胞内寄生菌である。βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)は細菌の細胞壁合成を阻害する薬で、細胞内への移行性が低いため、細胞内の菌には効果を示さない。さらにレジオネラはβラクタマーゼを産生する株も多い。治療には細胞内移行性の高いニューキノロン系(レボフロキサシンなど)やマクロライド系(アジスロマイシンなど)を用い、重症例では併用やリファンピシンの追加も検討される。
- ×e. 迅速診断に尿中抗原検出キットが有用である。
正しい記述である。尿中に排泄される菌体抗原をイムノクロマトグラフィ法などで検出するキットがあり、15分程度で結果が得られ、抗菌薬投与後でもしばらく陽性が続くため、迅速診断に広く用いられる。肺炎球菌でも同様の尿中抗原検査が利用される。ただし従来のキットは主に L. pneumophila 血清群1を検出するもので、他の血清群や他菌種による感染では陰性となりうるため、陰性でも否定はできない。その場合は喀痰の BCYE(buffered charcoal yeast extract)寒天培地での培養、ヒメネス染色、遺伝子検査(LAMP法など)を併用する。
レジオネラ症の概要
・病原体:Legionella pneumophila が大半を占める。グラム陰性桿菌だがグラム染色で染まりにくく、ヒメネス染色で観察される。通常の培地では発育せず、BCYE寒天培地を用いる。 ・感染経路:汚染水のエアロゾル吸入(循環式浴槽、冷却塔、加湿器、給湯設備など)。土壌からの感染(L. longbeachae など、腐葉土)もある。ヒト-ヒト感染はない。 ・病型:重症肺炎を起こすレジオネラ肺炎と、発熱・倦怠感などのインフルエンザ様症状で自然軽快するポンティアック熱がある。 ・危険因子:高齢、男性、喫煙、慢性肺疾患、糖尿病、免疫抑制状態(ステロイド使用など)、温泉・入浴施設の利用歴。
臨床像
・高熱、比較的徐脈、乾性咳嗽、急速に進行する呼吸不全。 ・肺外症状:意識障害などの中枢神経症状、下痢、肝機能障害、腎障害。 ・検査:低ナトリウム血症、低リン血症、CK上昇、CRP著明高値。
非定型肺炎との関係
マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)とともに非定型病原体に分類され、いずれもβラクタム系が効かない。ただしレジオネラ肺炎は、比較的軽症が多いマイコプラズマ肺炎とは異なり、急速に重症化して致死的となりうる点に注意する。
届出
感染症法の四類感染症であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る。
POINT
・レジオネラは細胞内寄生菌であり、βラクタム系抗菌薬は無効。ニューキノロン系・マクロライド系を用いる。 ・循環式浴槽、冷却塔、加湿器などのエアロゾル吸入で感染し、集団発生がある(ヒト-ヒト感染はない)。 ・中枢神経症状、低ナトリウム血症、低リン血症、CK上昇、肝機能障害などの肺外所見が手がかり。 ・迅速診断は尿中抗原(主に血清群1を検出)。培養はBCYE寒天培地、染色はヒメネス染色。 ・四類感染症で直ちに届出。
