StudyMed医師国家試験

刺激伝導系の通り道に肉芽腫が居座る―完全房室ブロックで思い出すべき心サルコイドーシス

第115回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第115回 D問題 第9問

 合併症として完全房室ブロックを最も生じやすいのはどれか。

  1. a.強皮症
  2. b.Sjögren症候群
  3. c.甲状腺機能低下症
  4. d.心サルコイドーシス
  5. e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、全身疾患のうち完全房室ブロックを合併しやすいものを選ぶ問題だ。ポイントは「刺激伝導系がどこを走っているか」と「その場所に病変を作りやすい疾患はどれか」を結びつけることにある。まず、完全房室ブロックとはどんな状態だったかな。
医学生医学生
心房の興奮が心室にまったく伝わらず、心房と心室がばらばらに拍動する状態です。心電図実習でP波とQRS波が無関係に出ている波形を見ました。
ドクタードクター
その通り。房室結節からHis束、脚へと続く刺激伝導系そのものが障害されると起こる。では、その刺激伝導系は心臓のどこを通っている?
医学生医学生
心室中隔の上のほう、基部ですよね。解剖実習で膜性中隔の近くだと教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。そこに肉芽腫や線維化を好んで作るのが心サルコイドーシスなんだ。サルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を作る原因不明の全身疾患で、心臓では心室中隔基部が好発部位。だから房室ブロックが代表的な初発所見の一つになる。これが正解だ。
医学生医学生
サルコイドーシスというと、両側肺門リンパ節腫脹やぶどう膜炎のイメージが強かったです。
ドクタードクター
多くの人がそう覚えているね。肺や眼の病変は自然に良くなることも多いけれど、心病変は予後を左右する。日本人のサルコイドーシスでは心病変が死因の多くを占めるとされ、房室ブロックだけでなく心室頻拍や心室細動、心不全、突然死の原因にもなる。
医学生医学生
膠原病の選択肢も気になります。SLEでも心臓は侵されますよね。
ドクタードクター
SLEの心病変でいちばん多いのは心膜炎で、ほかに心筋炎やLibman-Sacks心内膜炎がある。伝導障害が起こることもあるが、成人の患者本人に完全房室ブロックが起こる頻度は低いんだ。
医学生医学生
でも、SLEやSjögren症候群と房室ブロックはセットで習った気がします。抗SS-A抗体でしたっけ。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけポイントだね。抗SS-A抗体陽性の母親から生まれた児では、胎盤を通過した抗体によって先天性完全房室ブロックが起こりうる。新生児ループスの一症状だ。でもそれは「児」の話で、母親本人の合併症ではない。
医学生医学生
産婦人科の講義で聞いた話と混ざっていました。患者本人と胎児を区別しないといけないんですね。
ドクタードクター
そう。Sjögren症候群の患者本人で重要なのは、間質性肺炎、尿細管性アシドーシス、悪性リンパ腫などの腺外病変だ。強皮症ではどうかな。
医学生医学生
強皮症は間質性肺疾患と肺高血圧症が重要だと習いました。
ドクタードクター
正解。心筋の小血管障害による線維化で不整脈が出ることはあるけれど、完全房室ブロックはまれだ。甲状腺機能低下症も徐脈を起こすが、主に洞結節レベルの洞性徐脈で、低電位や心嚢液貯留が特徴。伝導路の器質的な障害による完全房室ブロックはまれだよ。
医学生医学生
同じ徐脈でも、洞結節の問題か房室伝導の問題かで考えるわけですね。
ドクタードクター
その区別が大切だ。臨床的には、比較的若い成人や中年の人に原因のはっきりしない高度房室ブロックをみたら、心サルコイドーシスを鑑別に挙げたい。心エコーでの心室中隔基部の菲薄化、心臓MRIのガドリニウム遅延造影、FDG-PETでの活動性炎症の評価が診断の手がかりになる。
医学生医学生
循環器内科の実習で、ペースメーカ植込み前にFDG-PETを撮っていた患者さんがいました。そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそういうことだね。治療はステロイドなどの免疫抑制療法が基本で、高度房室ブロックにはペースメーカ、致死性心室性不整脈には植込み型除細動器を検討する。単に「ペースメーカを入れて終わり」にしないことが大事なんだ。

まとめ

完全房室ブロックは房室結節からHis束・脚に至る刺激伝導系の障害で生じ、その通り道である心室中隔基部に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫や線維化を作りやすい心サルコイドーシスが代表的な原因疾患です。心サルコイドーシスは房室ブロックのほか心室頻拍・心不全・突然死の原因となり、日本人サルコイドーシスの予後を左右するため、原因不明の高度房室ブロックでは心エコー、心臓MRI、FDG-PETなどで積極的に評価します。SLEやSjögren症候群では、抗SS-A抗体陽性の母親から生まれた児の先天性完全房室ブロックが有名ですが、患者本人の合併症としてはまれで、SLEは心膜炎、強皮症は間質性肺疾患と肺高血圧症、甲状腺機能低下症は洞性徐脈や心嚢液貯留が代表的です。病変の「場所」と症状を結びつけて考える習慣は、全身疾患の心合併症を理解するうえで役立ちます。

解答・解説

正解はdです

全身疾患の心合併症のうち、完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)を起こしやすいものを選ぶ一般問題である。 完全房室ブロックは、心房からの興奮が心室へまったく伝わらなくなった状態であり、房室結節・His束・脚といった刺激伝導系そのものが障害されることで生じる。したがって「刺激伝導系の走る部位に病変を作りやすい疾患」を考えればよい。 刺激伝導系は心室中隔の基部(上部)を通っている。心サルコイドーシスでは、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫とその後の線維化が心室中隔基部に好発するため、房室ブロックは最も代表的な初発所見の一つとなる。原因のはっきりしない房室ブロック、特に比較的若い〜中年の成人の高度房室ブロックをみたら心サルコイドーシスを鑑別に挙げることが重要である。 一方、強皮症・Sjögren症候群・SLEなどの膠原病や甲状腺機能低下症でも心臓に影響が及ぶことはあるが、成人本人に完全房室ブロックを起こす頻度は低く、それぞれ別の心肺合併症が特徴的である。

選択肢考察

  1. ×a.  強皮症

    誤り。全身性強皮症の心肺合併症で重要なのは、間質性肺疾患(肺線維症)と肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症、または間質性肺疾患に伴うもの)である。心筋の小血管障害による斑状の線維化から不整脈や伝導障害をきたすことはあるが、完全房室ブロックに至ることは比較的まれである。

  2. ×b.  Sjögren症候群

    誤り。Sjögren症候群は涙腺・唾液腺など外分泌腺が障害される自己免疫疾患で、腺外病変としては間質性肺炎、尿細管間質性腎炎(遠位尿細管性アシドーシス)、悪性リンパ腫などが重要である。患者本人の心伝導障害はまれである。ただし、抗SS-A(Ro)抗体陽性の母親から生まれた児では、胎盤を通過した抗体により先天性完全房室ブロック(新生児ループスの一症状)が起こりうる点は区別して覚えておく。

  3. ×c.  甲状腺機能低下症

    誤り。甲状腺ホルモン不足により心筋の代謝が低下し、洞性徐脈、心電図の低電位やT波の平低化、心嚢液貯留(いわゆる粘液水腫心)、脂質異常症などがみられる。徐脈は主に洞結節レベルの変化であり、房室伝導路の器質的障害による完全房室ブロックはまれである。

  4. ○d.  心サルコイドーシス

    正しい。サルコイドーシスの心病変では、肉芽腫と線維化が心室中隔基部に好発し、ここを走る房室結節〜His束〜脚の刺激伝導系が障害されるため、完全房室ブロックをはじめとする房室ブロックや脚ブロックが高頻度にみられる。そのほか、心室頻拍・心室細動などの致死的不整脈、心室中隔基部の菲薄化、左室壁運動異常や心不全を起こし、突然死の原因ともなる。日本人のサルコイドーシスでは心病変が死因の多くを占めることが知られている。

  5. ×e.  全身性エリテマトーデス〈SLE〉

    誤り。SLEの心病変として最も多いのは心膜炎(心外膜炎)であり、そのほか心筋炎、疣贅性心内膜炎(Libman-Sacks心内膜炎)、抗リン脂質抗体症候群に伴う血栓症などがある。心筋内の小血管炎などで伝導障害が生じることはあるが、成人本人の完全房室ブロックは比較的まれである。Sjögren症候群と同様、抗SS-A抗体陽性の母親から生まれた児の先天性完全房室ブロックとは区別する。

サルコイドーシスの概要

原因不明の全身性肉芽腫性疾患で、組織学的には非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とする。両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、肺野病変、眼病変(ぶどう膜炎)、皮膚病変が代表的で、心臓、神経、腎などにも病変を作る。無症状で健診の胸部エックス線写真で見つかる例も多い。血清ACE、リゾチーム、可溶性IL-2受容体の上昇、高カルシウム血症・高カルシウム尿症、ツベルクリン反応陰転化などがみられる。確定診断には生検による肉芽腫の証明が基本となる。肺・眼などの病変は自然寛解することも多いが、心病変は予後を左右する。

心サルコイドーシス

・好発部位:心室中隔基部、左室自由壁、乳頭筋など。 ・症状・所見:房室ブロック(完全房室ブロックを含む)、脚ブロック、心室頻拍などの心室性不整脈、心室中隔基部の菲薄化、左室機能低下、心不全、突然死。 ・検査:心電図、心エコー、心臓MRIのガドリニウム遅延造影、18F-FDG PET(活動性炎症の評価)、Gaシンチグラフィ、心内膜心筋生検(陽性率は高くない)。 ・治療:副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法、高度房室ブロックにはペースメーカ、致死性心室性不整脈には植込み型除細動器(ICD)。

完全房室ブロックを起こす主な原因

虚血性心疾患(特に下壁梗塞)、刺激伝導系の加齢性線維化・変性、心サルコイドーシス、心筋炎、薬剤(β遮断薬、Ca拮抗薬、ジギタリスなど)、高カリウム血症、心臓手術後、先天性(母体の抗SS-A抗体)など。

各膠原病の代表的な心肺合併症

・全身性強皮症:間質性肺疾患、肺高血圧症 ・SLE:心膜炎、Libman-Sacks心内膜炎 ・Sjögren症候群:間質性肺炎(母体の抗SS-A抗体による児の先天性房室ブロック)

POINT

・心サルコイドーシスは心室中隔基部に病変を作り、刺激伝導系を障害して完全房室ブロックを起こしやすい。 ・心室頻拍・心室細動など致死性不整脈や心不全、突然死の原因ともなる。 ・原因不明の高度房室ブロックをみたら心サルコイドーシスを疑う。 ・先天性完全房室ブロックは、抗SS-A抗体陽性の母親(Sjögren症候群・SLE)から生まれた児に起こる。患者本人の合併症と混同しない。 ・甲状腺機能低下症は洞性徐脈・低電位・心嚢液貯留、SLEは心膜炎、強皮症は間質性肺疾患・肺高血圧症が代表。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。