StudyMed医師国家試験

尿道から届くか、臓器ごと取るか―経尿道的手術が主役になる泌尿器疾患

第115回医師国家試験 D問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第115回 D問題 第10問

経尿道的手術が第一選択となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.尿管癌
  2. b.腎細胞癌
  3. c.前立腺癌
  4. d.膀胱結石
  5. e.前立腺肥大症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は泌尿器科の手術選択の問題だ。経尿道的手術とは、皮膚を切らずに尿道から膀胱鏡や切除鏡、尿管鏡を入れて行う手術の総称。考えるべきなのは「病変に内視鏡が届くか」と「内視鏡で削ったり砕いたりするだけで治療が完結するか」の2点だよ。
医学生医学生
尿道から入れるなら、膀胱や尿管の中にある病気なら何でも対象になりそうに思えます。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。届くことと、それで治せることは別の話。まず悪性腫瘍から見ていこう。尿管癌はどうかな。
医学生医学生
尿管の内腔にできる尿路上皮癌なので、尿管鏡で取れそうな気もします。
ドクタードクター
観察や生検には尿管鏡を使うね。でも尿路上皮癌は多発・再発しやすく、尿管の残った部分に再発しうる。だから標準的な根治手術は、腎から尿管、膀胱壁の一部までを一塊に摘出する腎尿管全摘除術なんだ。内視鏡的な切除やレーザー焼灼は、低リスクの小病変や単腎で腎を温存したい場合などに限られ、第一選択ではない。
医学生医学生
病理の講義で、尿路上皮癌は「field cancerization」で多発すると習いました。だから一部だけ削っても不十分なんですね。
ドクタードクター
その理解でいいよ。次に腎細胞癌。これは経尿道的に取れると思う?
医学生医学生
腎細胞癌は近位尿細管上皮から出る腺癌なので、尿路の内腔ではなく腎実質の中にあります。尿道からは届かないですね。
ドクタードクター
その通り。小径の腫瘍なら腎部分切除術、それより大きければ根治的腎摘除術で、腹腔鏡下やロボット支援下で行うことが多い。進行例では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使われる。では前立腺癌は?前立腺は尿道が貫いているから、届きそうに見えるよね。
医学生医学生
そこで迷いました。前立腺肥大症はTUR-Pで削るのに、前立腺癌はなぜだめなんでしょう。
ドクタードクター
鍵は前立腺の区域だ。前立腺肥大症は尿道を取り囲む移行域に生じるから、尿道側から削ると閉塞が解除できる。一方、前立腺癌は辺縁域、つまり外側に好発するので、尿道周囲を削っても癌には届かず根治できない。限局癌の根治療法は前立腺全摘除術か放射線治療、低リスクなら監視療法も選択肢になる。経尿道的切除は、高度の排尿障害や出血に対する症状緩和として行う程度だね。
医学生医学生
直腸診で前立腺癌が硬結として触れやすいのも、辺縁域が直腸側にあるからでしたね。OSCEの練習でも区域の図を描かされました。
ドクタードクター
よく結びつけられたね。では正解側に移ろう。膀胱結石は?
医学生医学生
膀胱の中にあるので膀胱鏡で直接見えて、レーザーなどで砕いて回収できます。これは経尿道的手術が第一選択ですね。
ドクタードクター
正解。経尿道的膀胱砕石術が第一選択で、非常に大きい結石などでは膀胱切石術や経皮的な方法が選ばれることもある。大事なのは背景で、膀胱結石は前立腺肥大症などによる下部尿路閉塞で残尿があるとできやすい。だから原因疾患の治療も一緒に考える必要があるんだ。
医学生医学生
もう一つの正解は前立腺肥大症ですね。でも臨床実習の泌尿器科外来では、ほとんどの患者さんが薬を飲んでいました。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。前立腺肥大症の初期治療はα1遮断薬やPDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬などの薬物療法。薬で効果不十分な場合や、尿閉、反復する尿路感染、膀胱結石、肉眼的血尿、水腎症による腎機能障害などを伴う場合に手術となり、その標準術式がTUR-Pなんだ。つまりこの問題は「手術をするなら経尿道的手術が第一選択」という意味で読むといい。
医学生医学生
膀胱結石が手術適応のひとつに入っているのは、さっきの話とつながりますね。
ドクタードクター
そうだね。最近はホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)や光選択的レーザー蒸散術(PVP)も広く行われていて、出血が少なく抗血栓薬内服中の患者にも行いやすい。TUR-Pの合併症として覚えておきたいのがTUR症候群だ。
医学生医学生
灌流液が吸収されて低ナトリウム血症になるものですよね。術中に意識障害や血圧変動が出たら疑う、と麻酔科実習で聞きました。
ドクタードクター
その通り。灌流液に生理食塩水を使えるバイポーラ型ではリスクが低くなっている。ほかに出血、逆行性射精、尿道狭窄も押さえておこう。最後に整理すると、経尿道的手術が第一選択となるのは前立腺肥大症、膀胱結石のほか、筋層非浸潤性膀胱癌に対するTUR-BTと、尿管結石に対するTULだ。TUR-BTは深達度診断も兼ねていて、筋層浸潤があれば膀胱全摘除術が必要になる。
医学生医学生
膀胱癌は浅ければ経尿道的、深ければ臓器ごと、というのは今日の考え方そのものですね。
ドクタードクター
まさにそう。「内視鏡で取り切れば済むか、臓器ごと取る必要があるか」という軸で整理すれば、泌尿器の手術選択はぐっと覚えやすくなるよ。

まとめ

経尿道的手術は尿道から内視鏡を挿入して行う手術で、内視鏡が届き、かつ切除や破砕で治療が完結する病変が対象になります。前立腺肥大症は尿道周囲の移行域に生じるため、薬物療法で不十分な場合や合併症を伴う場合にはTUR-PやHoLEPなどの経尿道的手術が標準となり、膀胱結石は経尿道的膀胱砕石術が第一選択です。一方、尿管癌は多発・再発しやすいため腎尿管全摘除術、腎細胞癌は腎実質の腫瘍のため腎部分切除術や腎摘除術、前立腺癌は辺縁域に好発するため前立腺全摘除術や放射線治療が根治療法となります。筋層非浸潤性膀胱癌のTUR-BTや尿管結石のTULも含め、「内視鏡で取り切れるか、臓器ごと摘出が必要か」という視点で整理すると、泌尿器疾患の治療選択を体系的に理解できます。

解答・解説

正解はd, eです

泌尿器疾患のうち、外科的治療の第一選択が経尿道的手術であるものを2つ選ぶ一般問題である。 経尿道的手術とは、皮膚を切開せずに尿道から内視鏡(膀胱鏡・切除鏡・尿管鏡)を挿入して行う手術の総称である。内視鏡が直接届く尿道・前立腺部・膀胱の病変、特に「切除や破砕で除去すれば治療が完結する良性疾患・表在性病変」が対象となる。代表例は次のとおりである。 ・前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術(TUR-P)やレーザー核出術・蒸散術 ・膀胱結石に対する経尿道的膀胱砕石術 ・膀胱癌に対する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT) ・尿管結石に対する経尿道的尿管砕石術(TUL) 一方、腎・尿管・前立腺の悪性腫瘍では、根治のために臓器ごと摘出する手術(腎摘除術・腎部分切除術、腎尿管全摘除術、前立腺全摘除術)や放射線治療などが標準となり、経尿道的手術は診断や症状緩和の補助的な位置づけにとどまる。 このように「病変を内視鏡で取り切れば済むか、臓器ごと取る必要があるか」という観点で整理すると、膀胱結石と前立腺肥大症が該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  尿管癌

    誤り。尿管癌は腎盂癌とともに上部尿路上皮癌に分類され、標準的な根治手術は患側の腎尿管全摘除術(膀胱壁の一部を含めて切除する膀胱部分切除を伴う)である。尿路上皮癌は多発・再発しやすく、尿管の残存部分に再発しうるため、腎から尿管まで一塊に摘出する。尿管鏡は経尿道的に挿入して観察・生検を行う診断目的で用いられ、低リスクの小病変や単腎などで腎温存が必要な場合に限って内視鏡的切除・レーザー焼灼が選択されることはあるが、第一選択ではない。

  2. ×b.  腎細胞癌

    誤り。腎細胞癌は腎実質(近位尿細管上皮)から発生する腺癌で、尿路の内腔にある腫瘍ではないため、尿道から内視鏡を入れて切除することはできない。限局性腫瘍の治療は外科的切除が基本であり、小径腫瘍(4cm以下のT1aなど)では腎部分切除術、それ以上では根治的腎摘除術が行われる(開腹・腹腔鏡下・ロボット支援下)。手術困難例には凍結療法などの局所療法、進行例には分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が用いられる。

  3. ×c.  前立腺癌

    誤り。前立腺癌は前立腺の辺縁域(外腺)に好発し、経尿道的に尿道周囲を削っても癌を取り切れないため、経尿道的手術では根治できない。限局癌の根治療法は前立腺全摘除術(ロボット支援下が主流)または放射線治療であり、低リスク例では監視療法(PSA監視療法)も選択肢となる。進行癌ではアンドロゲン除去療法(内分泌療法)が中心である。経尿道的切除は、癌による高度の排尿障害や出血に対する症状緩和として行われることがある程度である。

  4. ○d.  膀胱結石

    正しい。膀胱結石は膀胱内にあるため、尿道から挿入した膀胱鏡で直接観察でき、ホルミウム・ヤグ(Ho:YAG)レーザーや超音波・圧縮空気などの砕石装置で破砕して回収する経尿道的膀胱砕石術が第一選択である。結石が非常に大きい場合などには膀胱切石術(開放手術)や経皮的砕石術が選ばれることもある。膀胱結石は前立腺肥大症などによる下部尿路閉塞(残尿)が背景にあることが多く、原因疾患の治療(例えばTUR-Pの同時施行)も併せて行う。

  5. ○e.  前立腺肥大症

    正しい。前立腺肥大症の初期治療は、α1遮断薬やPDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬などの薬物療法である。薬物療法で効果不十分な場合や、尿閉・反復する尿路感染・膀胱結石・肉眼的血尿・腎機能障害(水腎症)などの合併症を伴う場合に手術が適応となり、その標準術式が経尿道的前立腺切除術(TUR-P)である。肥大は尿道を取り囲む移行域に生じるため、尿道から切除鏡を入れて内腔側から削り取ることで閉塞を解除できる。近年はホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)や光選択的前立腺レーザー蒸散術(PVP)など経尿道的レーザー手術も広く行われている。

主な経尿道的手術

・TUR-P(transurethral resection of the prostate):前立腺肥大症。合併症としてTUR症候群(灌流液の吸収による低ナトリウム血症・水中毒)、出血、逆行性射精、尿道狭窄など。灌流液に生理食塩水を使えるバイポーラ型ではTUR症候群のリスクが低い。 ・HoLEP、PVPなど:前立腺肥大症に対するレーザー手術。出血が少なく、抗血栓薬内服中の患者にも行いやすい。 ・TUR-BT(transurethral resection of the bladder tumor):膀胱癌の診断(深達度の評価)と、筋層非浸潤性膀胱癌の治療を兼ねる。筋層浸潤癌では膀胱全摘除術などが必要となる。 ・経尿道的膀胱砕石術:膀胱結石。 ・TUL(transurethral ureterolithotripsy):尿管結石。体外衝撃波結石破砕術(ESWL)とともに尿管結石の積極的治療の柱である。

泌尿器悪性腫瘍の標準的根治手術

・腎細胞癌:腎部分切除術または根治的腎摘除術 ・腎盂癌・尿管癌:腎尿管全摘除術(膀胱部分切除を含む) ・膀胱癌:筋層非浸潤性はTUR-BT(+膀胱内注入療法)、筋層浸潤性は膀胱全摘除術+尿路変向術 ・前立腺癌:前立腺全摘除術または放射線治療(低リスクでは監視療法も)

前立腺の区域と疾患

前立腺肥大症は尿道周囲の移行域に、前立腺癌は辺縁域に好発する。このため前立腺肥大症は経尿道的切除で閉塞が解除できるが、前立腺癌は経尿道的には取り切れず、直腸診で辺縁域の硬結として触れやすい。

POINT

・経尿道的手術の第一選択:前立腺肥大症(TUR-P、レーザー核出術)、膀胱結石(経尿道的砕石術)、筋層非浸潤性膀胱癌(TUR-BT)、尿管結石(TUL)。 ・前立腺肥大症の初期治療は薬物療法(α1遮断薬など)であり、手術が必要になった場合の標準がTUR-P。 ・尿管癌・腎盂癌は腎尿管全摘除術、腎細胞癌は腎(部分)摘除術、限局性前立腺癌は前立腺全摘除術または放射線治療。 ・前立腺肥大症は移行域、前立腺癌は辺縁域に好発する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。