頻尿の犯人は脳か、膀胱か―蓄尿症状をきたさない「上部尿路」の病変を見抜く
第115回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
膀胱の蓄尿症状をきたさない疾患はどれか。
- a.腎結石
- b.脳梗塞
- c.脊髄損傷
- d.Parkinson病
- e.間質性膀胱炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
下部尿路症状は蓄尿症状・排尿症状・排尿後症状に分けられ、蓄尿症状には頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁が含まれます。蓄尿症状の主な機序は、脳梗塞やParkinson病、脊髄損傷などで排尿中枢への抑制が外れて起こる排尿筋過活動と、間質性膀胱炎のような膀胱自体の知覚亢進の2つです。脳梗塞や脊髄損傷の急性期はむしろ尿閉となり、その後に蓄尿障害へ移行する点も重要です。腎結石は上部尿路にとどまる病変で膀胱機能に影響せず、膀胱刺激症状が出るのは膀胱尿管移行部結石や膀胱結石の段階です。障害された神経のレベルと病変の位置から症状を推論する考え方は、排尿障害の診療全般に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
下部尿路症状(LUTS:lower urinary tract symptoms)は、出現する時期によって蓄尿症状(尿をためる時期の症状)、排尿症状(尿を出すときの症状)、排尿後症状の3つに分けられる。蓄尿症状には、昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感(急に起こる我慢しがたい強い尿意)、尿失禁、膀胱の知覚亢進などが含まれる。 蓄尿症状が起こる仕組みは大きく2つに整理できる。 (1) 神経系の障害:膀胱の蓄尿と排尿は、脳(前頭葉・大脳基底核など)が橋の排尿中枢を抑制し、脊髄を経由して膀胱・尿道を制御することで成り立っている。脳や脊髄が障害されると、この抑制が外れて膀胱が勝手に収縮する排尿筋過活動が起こり、頻尿・尿意切迫感・切迫性尿失禁を生じる(神経因性下部尿路機能障害)。脳梗塞、Parkinson病、脊髄損傷はいずれもこの機序で蓄尿症状をきたす。 (2) 膀胱そのものの病変:膀胱壁の炎症や知覚亢進があると、少量の尿でも強い尿意や痛みが生じ、頻尿となる。間質性膀胱炎がその代表である。 一方、腎結石は上部尿路(腎)にとどまる病変であり、膀胱の蓄尿機能にも、膀胱を制御する神経にも影響しない。したがって蓄尿症状をきたさない疾患として腎結石を選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 腎結石
正しい(蓄尿症状をきたさない)。腎結石は腎杯や腎盂にある結石で、無症状のことも多く、症状があっても肉眼的・顕微鏡的血尿や鈍い腰背部痛が中心である。結石が尿管へ落下して尿の通過を妨げると、腎盂内圧が上昇して激しい疝痛発作(側腹部から下腹部・鼠径部へ放散する痛み)、悪心・嘔吐、血尿が出現する。膀胱の蓄えたり出したりする機能や、それを支配する神経には関与しないため、頻尿や尿意切迫感などの蓄尿症状は生じない。なお、結石が尿管の膀胱への入口(膀胱尿管移行部)まで下降すると膀胱が刺激されて頻尿や残尿感が出ることがあるが、これは尿管結石の段階の話であり、腎内にとどまる結石では起こらない。
- ×b. 脳梗塞
誤り(蓄尿症状をきたす)。大脳、特に前頭葉は橋の排尿中枢を抑制して、尿をためている間に膀胱が収縮しないようにしている。脳梗塞でこの抑制が失われると、排尿筋過活動による頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁が生じる。発症直後の急性期には一時的に排尿筋が収縮しにくくなり尿閉となることがあるが、回復とともに過活動膀胱型の蓄尿障害に移行するのが典型的な経過である。
- ×c. 脊髄損傷
誤り(蓄尿症状をきたす)。受傷直後の脊髄ショック期には膀胱が収縮できず尿閉となる。その後、仙髄の排尿中枢より上位(核上型)の損傷では、反射的な排尿筋過活動により頻尿や尿失禁がみられ、さらに排尿筋の収縮と同時に外尿道括約筋も収縮してしまう排尿筋括約筋協調不全を伴うことが多い。仙髄やそれ以下の馬尾が障害される(核・核下型)と、排尿筋が収縮しにくくなり排尿障害が主体となる。このように損傷部位と時期によって病態は異なるが、蓄尿症状を呈しうる代表的疾患である。
- ×d. Parkinson病
誤り(蓄尿症状をきたす)。大脳基底核のドパミン神経系には排尿反射を抑える働きがあり、Parkinson病ではこの抑制が低下して排尿筋過活動が起こる。そのため頻尿(特に夜間頻尿)、尿意切迫感、切迫性尿失禁などの蓄尿症状が排尿障害の主体となる。下部尿路症状は自律神経症状の一つとして高頻度にみられ、運動症状より先に出ることもある。
- ×e. 間質性膀胱炎
誤り(蓄尿症状をきたす)。間質性膀胱炎は原因不明の慢性の膀胱炎症性疾患で、中高年女性に多い。膀胱の知覚亢進により、昼夜を問わない頻尿、尿意切迫感、膀胱に尿がたまると強まり排尿すると軽くなる膀胱痛・下腹部痛を特徴とする。尿培養では細菌を認めず、膀胱鏡でHunner病変(特徴的な発赤・びらん病変)を認めるものはハンナ型間質性膀胱炎と呼ばれる。膀胱上皮内癌などが似た症状を示すことがあるため、診断の際には除外が必要である。
下部尿路症状の分類
・蓄尿症状:昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁(腹圧性・切迫性・混合性など)、膀胱知覚の亢進 ・排尿症状:尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下 ・排尿後症状:残尿感、排尿後尿滴下
過活動膀胱
尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿・夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともある症状症候群である。原因は、脳血管障害・Parkinson病・脊髄障害・多発性硬化症などによる神経因性と、加齢・前立腺肥大症・骨盤底の脆弱化などによる非神経因性に分けられる。
神経障害の部位と下部尿路機能
・橋より上(脳梗塞、Parkinson病、認知症など):排尿筋過活動による蓄尿障害が主体。排尿筋と括約筋の協調は保たれる。 ・橋と仙髄の間(脊髄損傷、多発性硬化症など):排尿筋過活動に加え、排尿筋括約筋協調不全を伴いやすい。 ・仙髄・末梢神経(馬尾症候群、糖尿病性神経障害、骨盤内手術後など):排尿筋の収縮力低下による排尿障害・尿閉、溢流性尿失禁が主体。
その他、膀胱機能に影響しうる要因
多発性硬化症、外傷性脳損傷、認知症などの神経疾患、糖尿病、骨盤内の手術(子宮がん・直腸がんの手術、骨盤臓器脱や尿失禁の手術、前立腺手術)、骨盤部への放射線治療など。
尿路結石の部位と症状
・腎結石:無症状~血尿、腰背部の鈍痛 ・尿管結石:疝痛発作、血尿、悪心・嘔吐。膀胱尿管移行部まで下降すると膀胱刺激症状(頻尿・残尿感)を伴うことがある ・膀胱結石:排尿痛、頻尿、排尿の途中で尿が途切れる(尿線途絶)
POINT
・蓄尿症状=頻尿・夜間頻尿・尿意切迫感・尿失禁。 ・脳(脳梗塞、Parkinson病)や脊髄(脊髄損傷)の障害は、排尿中枢への抑制が外れて排尿筋過活動となり蓄尿症状をきたす。 ・脳梗塞・脊髄損傷の急性期はむしろ尿閉となり、その後に蓄尿障害へ移行する。 ・間質性膀胱炎は頻尿+蓄尿時に強まる膀胱痛が特徴。 ・腎結石は上部尿路の病変で、膀胱の蓄尿機能に影響しない(膀胱刺激症状が出るのは膀胱尿管移行部結石や膀胱結石)。
