タバコを吸い始めて数日で息が苦しい―喫煙が「引き金」になる急性好酸球性肺炎
第115回医師国家試験 E問題 第24問
国試問題にチャレンジ
喫煙が発症因子となる疾患はどれか。
- a.過敏性肺炎
- b.レジオネラ肺炎
- c.急性好酸球性肺炎
- d.非結核性抗酸菌症
- e.マイコプラズマ肺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喫煙と呼吸器疾患の関係は、直接の発症因子となるもの、罹患や重症化の背景因子にとどまるもの、喫煙者で発症が少ないものに分けて整理すると理解しやすくなります。急性好酸球性肺炎は喫煙開始直後や再喫煙、喫煙量の急増を契機に若年者で急激に発症し、初期には末梢血好酸球が増えにくいため、気管支肺胞洗浄液の好酸球増加が診断の鍵となり、ステロイドが著効します。レジオネラ肺炎や非結核性抗酸菌症、マイコプラズマ肺炎は病原体による感染症で、喫煙は直接の原因ではなく、過敏性肺炎はむしろ喫煙者で発症しにくい疾患です。COPDや肺癌に加え、RB-ILDや剝離性間質性肺炎なども喫煙が原因となる疾患として覚えておきましょう。喫煙歴を最近の変化まで含めて丁寧に聴取する姿勢は、診断にも禁煙指導にもつながる臨床の基本です。
解答・解説
正解はcです
喫煙は多くの呼吸器疾患にかかわるが、その関係は一様ではない。喫煙そのものが病気を引き起こす直接の発症因子となるもの、感染症にかかりやすくする背景因子にとどまるもの、逆に喫煙者で発症が少ないものがある。 喫煙が直接の発症因子となる呼吸器疾患の代表は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺癌(特に扁平上皮癌・小細胞癌)、喫煙関連間質性肺疾患(呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患、剝離性間質性肺炎、肺Langerhans細胞組織球症)、そして急性好酸球性肺炎である。急性好酸球性肺炎は、喫煙を始めたばかりの人や、禁煙後に喫煙を再開した人、喫煙本数を急に増やした人に、数日~数週以内に発症することが多く、喫煙と発症の時間的関係が明確である点が特徴的である。 選択肢のうち、レジオネラ肺炎・非結核性抗酸菌症・マイコプラズマ肺炎は病原微生物による感染症であり、原因はあくまで病原体である。過敏性肺炎は環境中の抗原に対するアレルギー性疾患で、喫煙者ではむしろ発症しにくいことが知られている。したがって、喫煙が発症因子となる疾患として急性好酸球性肺炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 過敏性肺炎
誤り。過敏性肺炎は、カビ(真菌)の胞子、鳥の羽毛や排泄物、有機粉塵、化学物質などを繰り返し吸い込むことで起こるアレルギー性の肺炎で、主にⅢ型・Ⅳ型アレルギーが関与する。日本では夏季に自宅のカビ(Trichosporon)が原因となる夏型過敏性肺炎が多く、ほかに鳥関連過敏性肺炎、農夫肺などがある。喫煙は吸入抗原に対する免疫応答を抑えるため、喫煙者では発症が少ない(あるいは遅れる)とされ、喫煙は発症因子ではない。ただし、喫煙者が発症すると慢性化・重症化しやすいとの指摘もある。
- ×b. レジオネラ肺炎
誤り。Legionella pneumophilaなどのレジオネラ属菌による感染症である。菌は土壌や水環境に生息し、循環式浴槽、温泉、噴水、加湿器、冷却塔などで発生したエアロゾル(細かな水滴)を吸入して感染する。ヒトからヒトへはうつらない。1976年に米国の在郷軍人の集会で集団発生したことから在郷軍人病とも呼ばれる。高齢、男性、喫煙、慢性肺疾患、免疫抑制状態などは重症化・罹患しやすさの危険因子とされるが、発症の原因は菌の吸入であり、喫煙が直接の発症因子となる疾患ではない。高熱、比較的徐脈、低ナトリウム血症、意識障害、下痢などを伴いやすく、尿中抗原検査が診断に有用で、β-ラクタム系抗菌薬は無効である(ニューキノロン系やマクロライド系を用いる)。
- ○c. 急性好酸球性肺炎
正しい。急性好酸球性肺炎は、発熱、乾性咳嗽、呼吸困難、胸膜痛などで急激に発症し、短期間で低酸素血症が進行する疾患である。喫煙開始直後の若年者に多く、禁煙後の再喫煙や喫煙量の急増、加熱式たばこの使用を契機とした報告もあり、喫煙が最も重要な発症因子である。胸部画像ではすりガラス影や浸潤影、小葉間隔壁の肥厚、胸水がみられ、気管支肺胞洗浄液で好酸球の著明な増加(一般に25%以上)を認めるのが診断の決め手となる。発症初期には末梢血好酸球が増えていないことが多い点に注意する。副腎皮質ステロイドへの反応は良好で予後はよく、禁煙を守れば再発は少ない。
- ×d. 非結核性抗酸菌症
誤り。結核菌群とらい菌を除く抗酸菌による感染症で、日本ではMycobacterium avium complex(MAC)が最も多く、次いでM. kansasiiが多い。菌は土壌や水まわり(浴室、給湯設備など)に存在し、環境からの吸入で感染すると考えられ、ヒトからヒトへの感染は基本的にない。肺MAC症では、喫煙歴のない中高年女性に中葉・舌区の気管支拡張と小結節を呈する病型(結節・気管支拡張型)が増えている。COPDや陳旧性肺結核などの既存肺疾患は発症しやすい背景となり、それを通じて喫煙が間接的に関与することはあるが、発症の原因は菌であり喫煙ではない。
- ×e. マイコプラズマ肺炎
誤り。Mycoplasma pneumoniaeによる感染症で、飛沫や接触によってヒトからヒトへ感染する。学校など集団生活の場で広がりやすく、小児から若年成人に多い。かつては4年ごとの流行がみられ、夏季オリンピックの開催年と重なることが多かったため「オリンピック肺炎」と呼ばれた。頑固な乾性咳嗽が特徴で、胸部聴診所見に乏しく、白血球数は増えにくい。細胞壁をもたないためβ-ラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系などを用いる。喫煙との因果関係は確立していない。
喫煙と呼吸器疾患の関係
・喫煙が発症因子となるもの:COPD、肺癌(扁平上皮癌・小細胞癌で特に強い関連)、急性好酸球性肺炎、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、剝離性間質性肺炎(DIP)、肺Langerhans細胞組織球症、気腫合併肺線維症。特発性肺線維症の危険因子でもある。 ・感染症のかかりやすさ・重症化を高めるもの:喫煙は気道の線毛運動や肺胞マクロファージの機能を障害し、肺炎球菌性肺炎、インフルエンザ、レジオネラ肺炎、結核、COVID-19などのリスクや重症化に関与する。 ・喫煙者で発症が少ないもの:過敏性肺炎、サルコイドーシス。
急性好酸球性肺炎と慢性好酸球性肺炎の比較
・急性好酸球性肺炎:若年者、喫煙開始直後に多い。急性発症で急速に低酸素血症が進む。初期には末梢血好酸球は増えにくい。気管支肺胞洗浄液の好酸球が著増。ステロイドが著効し、再発は少ない。 ・慢性好酸球性肺炎:中年女性に多く、気管支喘息の合併が多い。数週~数か月の経過で、末梢血好酸球が増加する。胸部X線で肺の外側(末梢)に浸潤影がみられ、肺水腫と逆の分布であることから「肺水腫のネガ像」と呼ばれる。ステロイドが有効だが、減量・中止で再発しやすい。
感染症の原因と感染経路の整理
・レジオネラ:環境水のエアロゾル吸入(循環式浴槽、温泉、冷却塔など)。ヒト-ヒト感染なし。 ・非結核性抗酸菌:土壌・水まわりの環境菌。ヒト-ヒト感染なし。 ・マイコプラズマ:飛沫・接触によるヒト-ヒト感染。
POINT
・急性好酸球性肺炎は喫煙開始直後(再喫煙・喫煙量の急増を含む)の若年者に急性発症する。気管支肺胞洗浄液の好酸球増加が診断の鍵で、ステロイドが著効する。 ・過敏性肺炎は喫煙者でむしろ発症しにくい。 ・レジオネラ肺炎、非結核性抗酸菌症、マイコプラズマ肺炎は病原体による感染症であり、喫煙は直接の発症因子ではない。 ・喫煙が直接の原因となる呼吸器疾患:COPD、肺癌、急性好酸球性肺炎、RB-ILD・DIP、肺Langerhans細胞組織球症。
