赤い尿が出ない腫瘍はどれ?―「尿の通り道」で解く泌尿器癌の初発症状
第117回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
初発症状が肉眼的血尿とならないのはどれか。
- a.腎癌
- b.腎盂癌
- c.膀胱癌
- d.前立腺癌
- e.精巣腫瘍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肉眼的血尿は尿路のどこかからの出血で生じるため、腫瘍が尿路に面しているか、尿路へ及びうるかが初発症状を考える鍵になります。膀胱癌や腎盂癌などの尿路上皮癌は腫瘍が常に尿に接しており、無症候性肉眼的血尿が最も多い発見契機です。腎癌や前立腺癌は早期には尿路から離れていますが、腎盂や尿道・膀胱へ及ぶと血尿をきたしえます。一方、精巣は尿路ではない生殖器であり、精巣腫瘍の初発症状は血尿ではなく無痛性の陰嚢内腫大で、AFP・hCG・LDHの測定と高位精巣摘除術が診断の柱です。解剖に基づいて症状の出方を考える習慣は、血尿の精査や陰嚢腫大の鑑別など実際の診療に直結します。
解答・解説
正解はeです
肉眼的血尿は、尿路(腎実質から腎杯・腎盂、尿管、膀胱、尿道)のどこかから出血し、目で見て尿が赤〜褐色に見える状態である。泌尿器科の悪性腫瘍では、痛みなどの症状を伴わない肉眼的血尿(無症候性肉眼的血尿)が重要な発見契機となる。 本問を考えるうえでの鍵は、「その腫瘍が尿の通り道(尿路)に面している、あるいは尿路へ及びうるか」という解剖学的な視点である。 ・尿路上皮(移行上皮)から発生する腫瘍(腎盂癌・尿管癌・膀胱癌)は、腫瘍そのものが尿に接しているため、もろい腫瘍表面からの出血がそのまま血尿となる。 ・腎実質から発生する腎癌や、前立腺から発生する前立腺癌は、はじめは尿路に面していないが、増大して腎杯・腎盂や尿道・膀胱に及ぶと血尿をきたしうる。 ・精巣は精路(精巣上体・精管)につながる生殖器であって尿路ではなく、精巣腫瘍が尿中に出血することは通常ない。 したがって、選択肢のうち初発症状として肉眼的血尿を呈することがない(通常考えにくい)のは精巣腫瘍である。精巣腫瘍の典型的な初発症状は無痛性の陰嚢内腫大である。
選択肢考察
- ×a. 腎癌
初発症状が肉眼的血尿となりうる。腎癌(腎細胞癌)は近位尿細管上皮などに由来し、腎実質に発生する。古典的三徴として血尿・側腹部痛・腹部腫瘤が知られるが、三徴がそろうのは進行例である。ただし腫瘍の大きさにかかわらず、腎杯・腎盂に接した腫瘍が尿路へ穿破すれば肉眼的血尿が初発症状となることがある。なお現在では、腹部超音波検査やCTの普及により、無症状のうちに健診や他疾患の精査で偶然発見される例(偶発癌)が過半数を占める。
- ×b. 腎盂癌
初発症状が肉眼的血尿となりうる。腎盂癌は腎盂の尿路上皮から発生する尿路上皮癌で、腫瘍が常に尿に接しているため、肉眼的血尿が最も多い発見契機である。顕微鏡的血尿の原因にもなる。凝血塊や腫瘍が尿管を閉塞すると、側腹部痛(疝痛)や水腎症をきたすこともある。
- ×c. 膀胱癌
初発症状が肉眼的血尿となりうる。膀胱癌の大部分は尿路上皮癌であり、初発症状の大半が無症候性肉眼的血尿である。「痛みのない肉眼的血尿」は膀胱癌を第一に疑うべきキーワードであり、血尿は間欠的に出現して自然に止まることも多いため、止まったからといって放置してはならない。上皮内癌(CIS)では頻尿・排尿時痛などの膀胱刺激症状で発見されることもある。
- ×d. 前立腺癌
初発症状が肉眼的血尿となりうる。前立腺癌の多く(約7割)は尿道から離れた辺縁域に発生するため、早期には自覚症状に乏しく、現在はPSA(前立腺特異抗原)高値を契機に発見される例が多い。しかし局所で増大して尿道や膀胱頸部・膀胱へ浸潤すると、排尿障害とともに肉眼的血尿をきたすことがあり、これが受診のきっかけとなる場合もある。
- ○e. 精巣腫瘍
これが正解である。精巣は尿路ではなく、精巣腫瘍が尿路へ出血することはないため、肉眼的血尿は初発症状とならない。精巣腫瘍の初発症状のほとんどは、痛みを伴わない陰嚢内容の腫大(硬い腫瘤)である。局所では精巣を包む白膜を越えて精巣上体・精索へ広がり、遠隔へは主にリンパ行性(後腹膜リンパ節)や血行性(肺など)に転移する。そのため転移巣による腰背部痛、腹部腫瘤、咳嗽・呼吸困難が初発症状となることや、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)産生による女性化乳房で気付かれることもある。
血尿の分類と原因
・肉眼的血尿: 尿1 Lに約1 mL以上の血液が混入すると肉眼で赤色尿として認識される ・顕微鏡的血尿: 尿沈渣で赤血球5個以上/HPF(強拡大1視野)などで判定される ・糸球体性血尿(IgA腎症など)では変形赤血球や赤血球円柱がみられ、非糸球体性血尿(腫瘍、結石、感染など)では均一な形の赤血球が多い ・高齢者、喫煙者の無症候性肉眼的血尿では、尿路上皮癌をはじめとする悪性腫瘍を必ず除外する
無症候性肉眼的血尿の精査
・腹部超音波検査: 腎腫瘍、水腎症、膀胱腫瘍の有無を非侵襲的に評価する ・膀胱鏡検査: 膀胱腫瘍を直接観察できる。出血が続いていれば尿管口からの血尿の流出をみて左右どちらの上部尿路由来かを判断でき、前立腺癌の尿道・膀胱浸潤も確認できる ・尿細胞診: 尿路上皮癌(特に高異型度癌や上皮内癌)の検出に有用 ・CT(CT urography): 腎・腎盂・尿管の評価 ・腎盂・尿管腫瘍は最も診断が難しく、逆行性腎盂尿管造影や尿管鏡検査(生検・選択的尿細胞診)が必要になることがある
精巣腫瘍の要点
・20〜30歳代の青壮年男性に好発し、停留精巣は危険因子である ・組織型はセミノーマと非セミノーマ(胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫など)に大別される ・腫瘍マーカー: AFP(卵黄嚢腫瘍で上昇、純粋なセミノーマでは上昇しない)、hCG(絨毛癌などで上昇)、LDH ・診断と治療を兼ねて高位精巣摘除術を行う。陰嚢を切開する経陰嚢的な生検・手術は、陰嚢皮膚から鼠径部へのリンパ流路へ播種する危険があるため行わない ・陰嚢内の無痛性腫大の鑑別として、陰嚢水腫(透光性あり)、精巣上体炎(有痛性)、精索捻転(急激な激痛)がある
POINT
・腎盂癌・尿管癌・膀胱癌(尿路上皮癌)は無症候性肉眼的血尿で発見されることが最も多い ・腎癌、前立腺癌も腎盂・尿道・膀胱へ及ぶと肉眼的血尿をきたしうる ・精巣は尿路ではないため、精巣腫瘍は血尿をきたさず、初発症状の大半は無痛性の陰嚢内腫大である ・無症候性肉眼的血尿をみたら、まず腹部超音波検査と膀胱鏡検査(+尿細胞診)を行う
