StudyMed医師国家試験

「半分」と「ほとんど」の差は2SD―概念図で読み解く食事摂取基準の推奨量

第117回医師国家試験 E問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第19問

食事摂取基準の指標の概念図を示す。  ほとんどの人が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量(推奨量)はどれか。

第117回 E問題 第19問の問題画像
  1. a.A
  2. b.B
  3. c.C
  4. d.D
  5. e.E

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本人の食事摂取基準の概念図から、推奨量の位置を選ぶ問題だ。グラフの軸が何を表しているかを読み取り、各指標が「何%の人が満たす量なのか」を整理できれば迷わない。まずは図の読み方から確認しよう。
医学生医学生
横軸が習慣的な摂取量ですよね。曲線が2本あって、左右で縦軸が違うのが少しややこしいです。
ドクタードクター
そこが最初の関門だね。左の縦軸と左側の下降曲線は「不足している人の割合」、つまり不足のリスクを表す。摂取量が増えるほど、必要量を満たせない人は1.0から0に向かって減っていく。右の縦軸と右側の上昇曲線は「過剰摂取による健康障害のリスク」で、ある量を超えると0から上がり始める。両方が0になっている真ん中のゾーンが、不足も過剰もほぼ心配ない摂取量なんだ。
医学生医学生
なるほど、左は足りない心配、右は摂りすぎの心配ということですね。推奨量は不足の曲線が0になったところでしょうか。
ドクタードクター
惜しいけれど、そこは少し違う。必要量は人によってばらつきがあって、集団ではほぼ正規分布すると考える。その分布の真ん中、つまり50%の人は必要量を満たし、50%の人は満たさない量が推定平均必要量だ。図でいえば、不足している人の割合が0.5になる点Aがこれにあたる。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、推定平均必要量は「半分の人しか足りない量」と聞いて驚いた覚えがあります。それだと基準にするには心許ないですね。
ドクタードクター
そうだね。だから個人に勧める量としては、推定平均必要量に標準偏差の2倍を上乗せする。統計の講義を思い出してほしいけれど、正規分布で平均+2SDより上にいる人はどのくらい?
医学生医学生
片側で約2.5%です。ということは、平均+2SDを摂っていれば、必要量が足りない人は2.5%くらいしか残らない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。だから推奨量を摂取すれば、ほとんど、約97〜98%の人が必要量を満たすことになる。図では不足している人の割合が0.025まで下がった点Bが推奨量だ。不足のリスクはゼロではないけれど、ごくわずかになる位置だね。実際の算定では、推定平均必要量に推奨量算定係数、多くの栄養素で1.2程度を掛けて求めている。
医学生医学生
では、不足のリスクがほぼ0の領域にある点Cは何ですか。推奨量より右にあるので、もっと安全な量なのかなと思いました。
ドクタードクター
点Cは目安量だ。これは科学的根拠が足りず、推定平均必要量や推奨量を算定できない栄養素について設定される指標で、一定の栄養状態を維持するのに十分な量とされている。実際には、不足状態をほとんど認めない集団の摂取量の中央値などから決める。推奨量の上位版ではなく、算定の考え方そのものが違う指標だと理解しておこう。
医学生医学生
右側の曲線が上がり始める点Dは耐容上限量ですね。CBTの勉強で、脂溶性ビタミンの摂りすぎとセットで覚えました。
ドクタードクター
そう、点Dは過剰摂取による健康障害のリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限、耐容上限量だ。これを超えると健康障害の潜在的なリスクが生じる。点Eはさらに右側で、実際に過剰摂取のリスクが生じている摂取量の一例にすぎず、食事摂取基準で定義された指標にはあたらない。
医学生医学生
図の左から、推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量と並んでいるわけですね。でも、指標はもう一つ、目標量というのもありませんでしたか。
ドクタードクター
よく覚えているね。目標量は生活習慣病の発症予防のために、当面目標とすべき摂取量や範囲を示す指標だ。食塩相当量は減らす方向、食物繊維やカリウムは増やす方向、たんぱく質・脂質・炭水化物はエネルギー比率の範囲で示される。疫学研究をもとに決められ、不足や過剰の「割合」を軸にしていないから、この概念図には描けないんだ。
医学生医学生
使う目的で分けると、不足を避ける3つ、過剰を避ける1つ、生活習慣病予防の1つ、という整理になりますね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。最後に実践面も押さえておこう。食事摂取基準は厚生労働省が5年ごとに改定している。個人の食事を評価するときは、摂取量が推定平均必要量を下回れば不足の可能性が高く、推奨量付近かそれ以上なら不足の可能性は低いと判断する。耐容上限量を超えていれば摂取量を減らすよう指導する。
医学生医学生
エネルギーにも推奨量があるんでしょうか。
ドクタードクター
エネルギーは不足も過剰も問題になるので、成人では摂取と消費のバランスをBMIで評価し、年齢区分ごとに目標とするBMIの範囲が示されている。推定エネルギー必要量は参考値という位置づけだ。栄養指導や病棟での栄養管理でも、この指標の意味がわかっていると数字の読み方がぐっと変わるよ。

まとめ

日本人の食事摂取基準の概念図では、横軸に習慣的な摂取量をとり、左側の曲線で不足している人の割合、右側の曲線で過剰摂取による健康障害のリスクを示します。不足の割合が0.5となる点が推定平均必要量で、そこに標準偏差の2倍を上乗せし不足の割合が約0.025となる点が推奨量であり、集団のほとんど(97〜98%)の人が必要量を満たすと推定される量です。推定平均必要量・推奨量を算定できない栄養素では目安量が設定され、過剰摂取の上限として耐容上限量が定められています。生活習慣病予防を目的とする目標量は、不足や過剰の割合に基づかないため概念図には描かれません。各指標が「何を避けるための、何%の人が満たす量か」を理解しておくことは、個人や集団の栄養評価・栄養指導を正しく行う土台になります。

解答・解説

正解はbです

日本人の食事摂取基準は、健康な個人・集団がエネルギーと各栄養素をどれだけ摂取すればよいかを示す指標で、厚生労働省が5年ごとに改定している。提示図はその各指標の位置関係を示す概念図である。

図の読み方

・横軸は習慣的な摂取量で、左ほど少なく、右ほど多い。 ・左の縦軸と左側の下降曲線は「不足している人の割合(不足のリスク)」を表す。摂取量が増えるにつれ、必要量を満たせない人の割合は1.0から0に向かって減少する。 ・右の縦軸と右側の上昇曲線は「過剰摂取している人の割合(過剰摂取による健康障害のリスク)」を表す。摂取量がある値を超えると、健康障害のリスクが0から上昇していく。 ・両曲線がともに0である中央の範囲が、不足・過剰いずれのリスクもほぼない摂取量である。

推奨量の考え方

人によって必要量にはばらつきがあり、集団内の必要量はほぼ正規分布すると考えられる。分布の中央(50%の人が必要量を満たし、50%の人が満たさない量)が推定平均必要量であり、そこから標準偏差の2倍分を上乗せした量が推奨量である。正規分布では平均+2標準偏差を超える必要量をもつ人は約2.5%しかいないため、推奨量を摂取すれば、ほとんど(約97〜98%)の人が必要量を満たすことになる。図上では、不足している人の割合が0.025に下がった点がこれにあたる。 設問は「ほとんどの人が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量」すなわち推奨量を問うており、不足の割合が0.025となる点Bを選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  A

    誤り。点Aは不足している人の割合が0.5となる摂取量であり、推定平均必要量(estimated average requirement:EAR)を示す。この量を摂取しても、集団の半数の人は必要量を満たせない。推奨量を算出する際の基準となる値であり、推奨量そのものではない。

  2. ○b.  B

    正しい。点Bは不足している人の割合が0.025(2〜3%)まで下がった摂取量であり、推奨量(recommended dietary allowance:RDA)を示す。推定平均必要量に標準偏差の2倍を加えた値として理論上定義され、集団のほとんど(97〜98%)の人が必要量を満たすと推定される量である。実際の算定では、個人間の変動係数をもとにした推奨量算定係数(多くの栄養素で1.2程度)を推定平均必要量に乗じて求める。

  3. ×c.  C

    誤り。点Cは不足している人の割合が0となる領域にあり、目安量(adequate intake:AI)を示す。目安量は、科学的根拠が不十分で推定平均必要量・推奨量を算定できない栄養素について設定される指標で、一定の栄養状態を維持するのに十分な量とされる。実際には、特定の集団で不足状態をほとんど認めない人々の摂取量の中央値などをもとに決められる。推奨量より高い位置に描かれるのは、目安量を摂取していれば不足のリスクは非常に低いと考えられるためである。

  4. ×d.  D

    誤り。点Dは過剰摂取による健康障害のリスクが0から上昇し始める境目で、耐容上限量(tolerable upper intake level:UL)を示す。健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限であり、これを超えて摂取すると過剰摂取による健康障害が生じる潜在的なリスクが存在する。

  5. ×e.  E

    誤り。点Eは耐容上限量(点D)をさらに超え、過剰摂取による健康障害のリスクが現実に生じている摂取量の一例を示しているにすぎず、食事摂取基準で定義された指標には該当しない。なお、食事摂取基準のもう一つの指標である目標量は、性質が異なるためこの概念図には描かれない(補足参照)。

食事摂取基準の5つの指標(栄養素)

1. 摂取不足の回避を目的とするもの ・推定平均必要量(EAR): 集団の50%の人が必要量を満たすと推定される摂取量 ・推奨量(RDA): 集団のほとんど(97〜98%)の人が必要量を満たすと推定される摂取量。推定平均必要量を算定できる栄養素で設定される ・目安量(AI): 推定平均必要量・推奨量を算定するだけの科学的根拠が得られない場合に、一定の栄養状態を維持するのに十分な量として設定される 2. 過剰摂取による健康障害の回避を目的とするもの ・耐容上限量(UL): 健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限 3. 生活習慣病の発症予防を目的とするもの ・目標量(DG): 生活習慣病の発症予防のために、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量(または範囲)。疫学研究などの知見をもとに設定される。例として、食塩相当量(減らす方向)、食物繊維・カリウム(増やす方向)、エネルギー産生栄養素バランス(たんぱく質・脂質・炭水化物の構成比を範囲で示す)がある 目標量は不足や過剰の「割合」を軸とする考え方とは異なり、生活習慣病のリスクとの関連で決められるため、提示図のような概念図には表せない。

エネルギーの指標

エネルギーについては、摂取量と消費量のバランス(エネルギー収支)を評価する指標として、成人ではBMI(body mass index)が用いられ、年齢区分ごとに目標とするBMIの範囲が示されている。参考値として推定エネルギー必要量も示される。

活用の考え方

個人の食事改善では、摂取量が推定平均必要量を下回れば不足の可能性が高く、推奨量付近かそれ以上であれば不足の可能性は低いと判断する。耐容上限量を超えていれば過剰摂取の可能性があり、摂取量を減らす。

POINT

・推定平均必要量: 不足している人の割合が50%となる量(図のA) ・推奨量: 推定平均必要量+2標準偏差。不足している人の割合が約2.5%(ほとんどの人が必要量を満たす)となる量(図のB) ・目安量: 推定平均必要量・推奨量を算定できない栄養素に設定。不足のリスクがほぼない量(図のC) ・耐容上限量: 過剰摂取による健康障害のリスクがないとみなされる上限(図のD) ・目標量は生活習慣病の発症予防のための指標で、概念図には描かれない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。