いびきは全身病のサイン―睡眠時無呼吸症候群が「つながる病気」と「つながらない病気」
第120回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
睡眠時無呼吸症候群との関連性が低いのはどれか。
- a.高血圧
- b.糖尿病
- c.脳卒中
- d.心房細動
- e.肥大型心筋症
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
睡眠時無呼吸症候群の大部分は閉塞性で、間欠的低酸素と再酸素化、交感神経の過剰な活性化、吸気努力による強い胸腔内陰圧、睡眠の分断を介して全身に影響を及ぼします。その結果、高血圧(二次性高血圧の重要な原因)、インスリン抵抗性による糖尿病、心房リモデリングによる心房細動、動脈硬化や心原性塞栓による脳卒中などのリスクが高まります。一方、肥大型心筋症はサルコメア蛋白の遺伝子変異を主因とする遺伝性疾患であり、SASが発症機序として確立した疾患ではなく、高血圧による二次的な左室肥大とも区別されます。診断は終夜睡眠ポリグラフ検査でAHIを評価し、中等症以上ではCPAPが第一選択です。SASをメタボリックシンドロームや心血管疾患と一体で捉える視点は、治療抵抗性高血圧や再発性心房細動の診療で原因を見逃さないために役立ちます。
解答・解説
正解はeです
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の大部分は、睡眠中に上気道が繰り返し閉塞する閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)である。肥満、小顎、扁桃肥大などが上気道を狭くする要因となる。 SASが全身の疾患と結びつく理由は、睡眠中の無呼吸・低呼吸が一晩に何十回も繰り返されることにある。その結果、次のような変化が慢性的に起こる。 ・間欠的低酸素と再酸素化の反復:酸化ストレス、全身の炎症、血管内皮機能障害を引き起こし、動脈硬化を進める。 ・交感神経の過剰な活性化:無呼吸の終わりに覚醒反応とともに交感神経活動が急増し、血圧・心拍数が上昇する。 ・閉塞した気道に対して吸気努力を続けることによる強い胸腔内陰圧:心房・心室の壁が引き伸ばされ、心房のリモデリング(構造的な変化)や心負荷につながる。 ・睡眠の分断:日中の過度の眠気、代謝・内分泌の乱れ。 これらを介して、SASは高血圧、糖尿病(インスリン抵抗性)、心房細動などの不整脈、脳卒中、冠動脈疾患、心不全といった生活習慣病・心血管疾患のリスクを高める。考え方としては「SASはメタボリックシンドロームや動脈硬化性疾患と一体として捉える」とよい。 一方、選択肢のうち肥大型心筋症は、主にサルコメア(心筋の収縮単位)蛋白の遺伝子変異による遺伝性疾患であり、SASが発症原因となる疾患ではない。したがって関連性が最も低いのは肥大型心筋症である。
選択肢考察
- ×a. 高血圧
関連性は高い。無呼吸→低酸素・覚醒反応→交感神経活性化→血管収縮・血圧上昇という機序が明確である。夜間に血圧が下がらない(non-dipper型)、早朝高血圧になるなどの特徴がある。SAS患者の約半数以上に高血圧が合併し、逆に治療抵抗性高血圧の患者ではSASの合併率が非常に高い。SASは二次性高血圧の原因として最も頻度の高いものの一つであり、持続陽圧呼吸療法(CPAP)で血圧の低下が期待できる。
- ×b. 糖尿病
関連性は高い。間欠的低酸素と交感神経の活性化、睡眠分断に伴うコルチゾールなどのストレスホルモンの上昇、全身性炎症がインスリン抵抗性を増大させ、耐糖能を悪化させる。肥満という共通の背景もあり、SASは2型糖尿病の独立した危険因子とされる。糖尿病患者ではSASの合併頻度が高い。
- ×c. 脳卒中
関連性は高い。SASは高血圧や動脈硬化の促進、心房細動による心原性脳塞栓、低酸素に伴う赤血球増多や血液凝固能亢進などを介して、脳卒中(とくに脳梗塞)のリスクを高める。また脳卒中後には呼吸調節の障害や咽頭筋の麻痺によりSASが増え、両者は互いに悪化させ合う関係にある。
- ×d. 心房細動
関連性は高い。低酸素や交感神経・副交感神経の急激な変動、強い胸腔内陰圧による左房の伸展と心房リモデリングが心房細動の発症・維持に関与する。SASを合併した心房細動は、カテーテルアブレーション後の再発率が高いことが知られ、CPAP治療が再発抑制に役立つとされる。
- ○e. 肥大型心筋症
関連性が低いものであり、これが正解である。肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、βミオシン重鎖やミオシン結合蛋白Cなどサルコメア蛋白の遺伝子変異を主な原因とし、常染色体顕性(優性)遺伝形式をとることが多い。左室壁が原因不明に肥厚する疾患で、SASが発症原因となるわけではない。HCM患者に睡眠呼吸障害が合併する例は報告されているが、高血圧や糖尿病、心房細動などのように、SASが発症・増悪の機序として確立した疾患とは位置づけが異なる。なお、高血圧による二次的な左室肥大は、HCMとは区別される。
睡眠時無呼吸症候群の基本
・定義:10秒以上の気流停止を無呼吸、気流の低下と酸素飽和度低下(または覚醒)を伴うものを低呼吸とし、1時間あたりの無呼吸+低呼吸の回数を無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)と呼ぶ。AHI 5以上で日中の眠気などの症状を伴う場合、または症状がなくてもAHI 15以上の場合にOSAと診断される。重症度はAHI 5〜15未満が軽症、15〜30未満が中等症、30以上が重症。 ・症状:いびき、目撃される無呼吸、日中の過度の眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿など。 ・検査:簡易検査(携帯型モニター)と、脳波・眼球運動・筋電図も記録する終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)。 ・分類:閉塞性(OSA:上気道閉塞、呼吸努力あり)と中枢性(CSA:呼吸中枢からの指令が途絶え、呼吸努力なし)。中枢性では、心不全に伴うチェーン・ストークス呼吸が代表的である。 ・治療:減量、飲酒・睡眠薬の回避、側臥位での睡眠。中等症〜重症ではCPAP(continuous positive airway pressure)が第一選択。軽症〜中等症では口腔内装置(マウスピース)も用いられる。小児では扁桃・アデノイド摘出術が有効なことが多い。
SASと関連する主な疾患
高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などの不整脈、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、肺高血圧症、多血症。また日中の眠気による交通事故の増加も社会的に重要である。
POINT
・SAS(主にOSA)は、間欠的低酸素・交感神経活性化・胸腔内陰圧・睡眠分断を介して、高血圧、糖尿病、心房細動、脳卒中、冠動脈疾患、心不全のリスクを高める。 ・SASは二次性高血圧の重要な原因であり、治療抵抗性高血圧では必ず疑う。 ・肥大型心筋症は主にサルコメア遺伝子変異による遺伝性疾患で、SASとの関連は低い。 ・診断はPSGでAHIを評価し、中等症以上の治療はCPAPが第一選択。
