家族が聞いた「止まる呼吸」―一晩の記録で暴く睡眠時無呼吸症候群
第118回医師国家試験 C問題 第46問
国試問題にチャレンジ
43歳の男性。いびきを主訴に来院した。2年前から睡眠時のいびきが大きく,時々息が止まると家族に指摘されている。日中の眠気を感じている。身長172cm,体重95kg。血圧152/110mmHg。咽頭の視診で軟口蓋しか観察できなかった。 診断に最も有用な検査はどれか。
- a.嚥下機能検査
- b.気管支鏡検査
- c.頭部エックス線撮影
- d.発声機能検査
- e.ポリソムノグラフィー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
いびき・睡眠中の無呼吸の目撃・日中の眠気がそろえば睡眠時無呼吸症候群を疑い、肥満や咽頭腔の狭小化(Mallampati分類の高いクラス)、高血圧があれば閉塞性睡眠時無呼吸の可能性がさらに高まります。確定診断と重症度判定の標準は終夜睡眠ポリグラフ検査(ポリソムノグラフィー)で、脳波・気流・呼吸運動・SpO2などを一晩同時に記録してAHIを算出し、閉塞性と中枢性の区別もできます。気管支鏡や頭部エックス線、嚥下・発声の検査は覚醒時の形態や機能を見るにとどまり、睡眠中の呼吸イベントは評価できません。中等症以上ではCPAPが第一選択となり、高血圧や心血管疾患、交通事故のリスクを減らすためにも、症状の組み合わせから本症を想起し適切な検査につなげることが重要です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・43歳男性、2年来の大きないびきと、家族が目撃した睡眠中の呼吸停止 ・日中の眠気(過度の日中傾眠) ・身長172cm、体重95kg → BMI=95÷(1.72×1.72)≒32.1で、日本肥満学会基準の肥満(BMI 25以上)のうち肥満2度(30以上35未満)に該当する ・血圧152/110mmHg → 高血圧(特に拡張期血圧の上昇が目立つ) ・咽頭の視診で軟口蓋しか見えない → 舌が大きく口腔・咽頭腔が狭い。Mallampati分類(口を開けて舌を出したときに見える咽頭構造で上気道の狭さを評価する分類)で高いクラスに相当し、上気道が狭いことを示す
診断へのプロセス
いびき・睡眠中の無呼吸の目撃・日中の眠気という三つの症状がそろっており、まず睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)を考える。さらに、肥満(頸部や咽頭周囲への脂肪沈着)と咽頭腔の狭小化という上気道を閉塞しやすい背景があり、閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)が最も疑われる。高血圧はOSAの代表的な併存症であり、無呼吸に伴う低酸素や覚醒反応による交感神経の過剰な緊張が関与する。OSAは治療抵抗性高血圧や早朝高血圧、拡張期高血圧の原因にもなるため、本例の血圧所見もOSAを支持する。 日中の眠気をきたす疾患としてはナルコレプシー、うつ病、睡眠不足症候群なども鑑別に挙がるが、いびきと無呼吸の目撃を伴う点、肥満がある点からOSAの可能性が圧倒的に高い。
設問の考え方
SASの確定診断と重症度判定には、睡眠中の呼吸状態を実際に記録し、無呼吸・低呼吸の回数を数える必要がある。その標準検査が終夜睡眠ポリグラフ検査(ポリソムノグラフィー)である。上気道の形態を見る検査や、嚥下・発声の検査では睡眠中の呼吸イベントは評価できない。
選択肢考察
- ×a. 嚥下機能検査
嚥下機能検査(嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査など)は、食物や水分を飲み込む機能を評価し、誤嚥や嚥下障害の有無・程度を調べる検査である。本例にはむせや誤嚥性肺炎など嚥下障害を示す所見はなく、睡眠中の無呼吸を評価することもできないため、診断には役立たない。
- ×b. 気管支鏡検査
気管支鏡検査は、気管・気管支内腔の観察や、生検・細胞診・気管支肺胞洗浄による検体採取を目的とする検査である。OSAで閉塞が起こるのは主に咽頭(軟口蓋・舌根レベル)であり、気管・気管支ではない。また覚醒時に気道を観察しても、睡眠中に繰り返す閉塞の回数や重症度はわからないため、本例の診断に最も有用な検査とはいえない。
- ×c. 頭部エックス線撮影
頭部エックス線撮影は主に頭蓋骨や顔面骨の骨折、骨病変の評価に用いられる。なお、頭部エックス線規格写真(セファログラム)は小顎や下顎後退など顎顔面形態の評価に使われ、OSAの病態把握や口腔内装置・外科治療の検討に参考となることはある。しかしそれは形態の評価にとどまり、睡眠中の無呼吸・低呼吸を記録できないので、SASの診断そのものには用いられない。
- ×d. 発声機能検査
発声機能検査(最長発声持続時間、音声の音響分析、空気力学的検査など)は、声帯麻痺やポリープなどによる嗄声などの音声障害を客観的に評価する検査である。本例に音声の異常はなく、睡眠中の呼吸の評価もできないため、診断には役立たない。
- ○e. ポリソムノグラフィー
終夜睡眠ポリグラフ検査(ポリソムノグラフィー:PSG)は、一晩眠っている間に脳波・眼電図・オトガイ筋筋電図(睡眠段階の判定)、口鼻の気流と胸腹部の呼吸運動(換気の評価)、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)、心電図、体位、いびき音などを同時に記録する検査である。これにより無呼吸・低呼吸の回数を睡眠1時間あたりに換算した無呼吸低呼吸指数(AHI)を求め、SASの確定診断と重症度判定ができる。さらに、呼吸運動が保たれたまま気流が止まる閉塞性か、呼吸運動自体が消失する中枢性かも区別できる。SASの診断に最も有用な検査である。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の概要
睡眠中に咽頭の上気道が繰り返し狭窄・閉塞し、無呼吸や低呼吸が起こる病態である。睡眠中は咽頭を広げる筋の緊張が低下するため、もともと上気道が狭い人では閉塞が起こりやすい。危険因子として、肥満(頸部・咽頭周囲の脂肪沈着)、小顎・下顎後退などの顎顔面形態、扁桃肥大・アデノイド(特に小児)、巨舌、男性、加齢、飲酒、鎮静薬の使用などがある。日本人は顎が小さい骨格のため、肥満が軽度でも発症しうる。
用語と診断基準
・無呼吸:口鼻の気流がほぼ消失(90%以上の低下)した状態が10秒以上続くもの ・低呼吸:気流が明らかに低下(30%以上)した状態が10秒以上続き、SpO2の低下(3%以上)または覚醒反応を伴うもの ・AHI(apnea hypopnea index):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数 ・重症度:AHI 5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症 ・OSAの診断(国際睡眠障害分類 第3版):AHI 5以上で、日中の眠気・いびき・無呼吸の目撃などの症状や、高血圧などの併存症を伴う場合、または症状にかかわらずAHI 15以上の場合
検査の流れ
外来ではまず、自宅で行える簡易検査(携帯型装置による気流・呼吸運動・SpO2の記録)でスクリーニングすることも多い。簡易検査は脳波を記録しないため実際の睡眠時間がわからず、AHIを過小評価しうる。確定診断と重症度判定の標準はPSGである。日中の眠気の自覚的評価にはエプワース眠気尺度(ESS)が用いられる。
合併症
高血圧(特に治療抵抗性・早朝高血圧)、心房細動などの不整脈、心不全、虚血性心疾患、脳卒中、2型糖尿病などのリスクが上がる。日中の眠気による交通事故や労働災害も社会的に問題となる。
治療
・生活習慣の改善:減量、節酒、睡眠薬の見直し、側臥位での睡眠 ・持続陽圧呼吸療法(CPAP):中等症〜重症の第一選択。鼻マスクから陽圧をかけて上気道を広げる。日本の保険診療では、PSGでAHI 20以上、または簡易検査でAHI 40以上などが適用の目安となる ・口腔内装置(マウスピース):下顎を前方に保持する。軽症〜中等症やCPAP不耐例 ・外科治療:扁桃摘出術(小児の扁桃肥大・アデノイドでは第一選択となりやすい)、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術など
POINT
・いびき+睡眠中の無呼吸の目撃+日中の眠気 → 睡眠時無呼吸症候群を疑う ・肥満、高血圧、咽頭腔の狭小化(Mallampati分類の高いクラス)は閉塞性睡眠時無呼吸を支持する ・確定診断と重症度判定の標準は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で、AHIを算出する ・AHI 5〜15未満が軽症、15〜30未満が中等症、30以上が重症 ・PSGは脳波・眼電図・筋電図・気流・呼吸運動・SpO2・心電図・体位などを同時記録し、閉塞性と中枢性も区別できる ・中等症以上の治療の第一選択はCPAP
