いびきと居眠りの裏に潜む窒息―重症閉塞性睡眠時無呼吸は「押し広げて、痩せる」
第120回医師国家試験 D問題 第71問
国試問題にチャレンジ
36歳の男性。日中の眠気を主訴に来院した。夜間のいびきを妻に指摘されている。4年前から熟睡感がなく,職場で頻繁に居眠りをするようになった。入眠後の頻回の覚醒による不眠がみられている。抑うつ気分や不安を認めない。高血圧症に対して,カルシウム拮抗薬を内服している。意識は清明。身長174cm,体重98kg。体温36.6℃。脈拍80/分,整。血圧142/92mmHg。呼吸数16/分。SpO2 96%(room air)。咽喉頭に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。ポリソムノグラフィで無呼吸低呼吸指数50回/時間(基準5未満),そのうち閉塞性無呼吸45.8回/時間,中枢性無呼吸0.2回/時間,低呼吸4回/時間であった。 適切な対応はどれか。2つ選べ。
- a.体重の減量を指導
- b.仰臥位での就寝の推奨
- c.メチルフェニデートの処方
- d.持続的気道陽圧法〈CPAP〉の導入
- e.ベンゾジアゼピン系睡眠薬の処方
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生まとめ
いびき、日中の過度の眠気、熟睡感のなさに肥満と高血圧が加われば閉塞性睡眠時無呼吸を疑い、ポリソムノグラフィで無呼吸のタイプとAHIによる重症度を評価します。AHI 30以上は重症で、中等症〜重症の第一選択はCPAPであり、肥満があれば減量指導を並行して行います。仰臥位は舌根沈下で気道閉塞を悪化させるため側臥位での就寝を勧め、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や寝酒は咽頭筋の弛緩と覚醒反応の抑制で無呼吸を悪化させるため避けます。中枢神経刺激薬で眠気だけを抑えても原因の無呼吸は治らず、高血圧のある患者では特に不適切です。閉塞性睡眠時無呼吸は治療抵抗性高血圧や心血管疾患、居眠り事故の原因にもなるため、日常診療で積極的に拾い上げる視点が重要です。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・36歳男性。日中の強い眠気(職場で頻繁に居眠り)と熟睡感のなさが4年前から続いている。 ・妻にいびきを指摘されている。夜中に何度も目が覚める(睡眠の分断)。 ・抑うつ気分や不安はなく、うつ病や不安障害による不眠は考えにくい。 ・身長174cm、体重98kgで、BMIは 98÷1.74² ≒ 32.4。日本の基準で肥満(2度)に当たる。 ・高血圧症でカルシウム拮抗薬を飲んでいるが、血圧は142/92mmHgと十分に下がっていない。 ・咽喉頭に、扁桃肥大など気道を狭める明らかな局所の異常はない。 ・ポリソムノグラフィ(PSG:睡眠中の脳波・呼吸・血中酸素飽和度などを一晩記録する検査)で、無呼吸低呼吸指数(AHI:睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数)が50回/時間。その大部分が閉塞性無呼吸で、中枢性無呼吸はごくわずかである。
診断へのプロセス
いびき、日中の過度の眠気、熟睡感のなさ、夜間の中途覚醒に肥満と高血圧が加わっており、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が強く疑われる。PSGでAHI 50回/時間(重症の目安は30以上)で、そのほとんどが閉塞性であることから、重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断できる。中枢性の要素はほぼなく、心不全などによる中枢性睡眠時無呼吸は考えにくい。 OSAは、眠ると咽頭の周りの筋肉が緩み、吸気時の陰圧で上気道(咽頭)がつぶれて起こる。肥満では首まわりや舌・咽頭周囲に脂肪がつき、気道が狭くなる。無呼吸のたびに低酸素と覚醒反応が起こって睡眠が細切れになり、日中に眠くなる。また、交感神経が繰り返し強く働くため高血圧(特に治療しても下がりにくい高血圧や夜間高血圧)の原因にもなる。
対応の考え方
重症OSAの治療の中心は持続的気道陽圧法(CPAP)で、原因となっている肥満に対する減量も併せて指導する。睡眠薬や中枢神経刺激薬で症状だけを抑えるのは適切でない。
選択肢考察
- ○a. 体重の減量を指導
肥満はOSAの最大のリスク因子である。舌や咽頭周囲、頸部の脂肪が上気道を狭め、腹部の脂肪は肺の容積を小さくして気道をつぶれやすくする。減量によってAHIが下がり、症状や血圧も良くなることが期待できる。本例はBMI 約32の肥満があり、食事・運動などの生活習慣の改善による減量を指導すべきである。ただし、重症例では減量だけで治すのは難しく、減量に時間もかかるため、CPAPと並行して行う。
- ×b. 仰臥位での就寝の推奨
仰向けに寝ると、重力で舌の根元(舌根)や軟口蓋が喉の奥に落ち込み、上気道がふさがりやすくなるため、OSAは悪化する。OSAの患者には、むしろ横向き(側臥位)で寝るよう勧める(体位療法)。特に、仰向けのときだけ無呼吸が多いタイプ(体位依存性OSA)で効果がある。
- ×c. メチルフェニデートの処方
メチルフェニデートは脳内のドパミンやノルアドレナリンを増やす中枢神経刺激薬で、日本ではナルコレプシー(速放錠)や注意欠如・多動症(ADHD)(徐放錠)に使われる。OSAの日中の眠気は睡眠中の無呼吸が原因であり、刺激薬で眠気を抑えても無呼吸や低酸素、心血管系への悪影響は治らない。さらに、血圧や心拍数を上げる作用があり、高血圧のある本例には不適切である。CPAPを十分に使っても眠気が残る場合に、モダフィニルを使うことがある。
- ○d. 持続的気道陽圧法〈CPAP〉の導入
CPAPは、鼻(または鼻と口)に付けたマスクから一定の圧をかけた空気を送り込み、睡眠中の上気道を内側から広げてつぶれないようにする治療である(空気の添え木)。中等症~重症のOSAの第一選択の治療で、無呼吸や低酸素、日中の眠気が改善し、血圧が下がる効果もある。日本ではPSGでAHI 20以上が保険適用の目安で、本例(AHI 50)は十分に当てはまる。根治療法ではないため、毎晩続けることが大切である。
- ×e. ベンゾジアゼピン系睡眠薬の処方
ベンゾジアゼピン系薬には筋弛緩作用と呼吸抑制作用がある。上気道を広げている咽頭の筋肉を緩め、覚醒反応も鈍らせるため、無呼吸が長くなり低酸素が悪化するおそれがある。本例の中途覚醒は無呼吸による覚醒反応が原因であり、未治療のOSAによる不眠に睡眠薬を使うことは避けるべきである。アルコールも同じ理由で寝る前の摂取を控えさせる。
睡眠時無呼吸症候群の分類
・閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):上気道がつぶれて空気が流れなくなるが、呼吸しようとする努力(胸や腹の動き)は続いている。大部分の睡眠時無呼吸がこのタイプである。 ・中枢性睡眠時無呼吸(CSA):脳から呼吸の指令が出ず、呼吸努力そのものが止まる。心不全(チェーン・ストークス呼吸)、脳卒中、オピオイド使用などでみられる。
用語と重症度
・無呼吸:口や鼻の気流が10秒以上止まること。 ・低呼吸:気流が10秒以上明らかに低下し、酸素飽和度の低下や覚醒反応を伴うもの。 ・AHI(無呼吸低呼吸指数):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数。5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症。 ・診断の標準はPSG。自宅でできる簡易検査(携帯型装置)でスクリーニングすることも多い。
症状・身体所見
いびき、睡眠中の呼吸停止(家族が気づく)、日中の過度の眠気、熟睡感のなさ、夜中に何度も目が覚める、夜間頻尿、起床時の頭痛、集中力の低下など。肥満、太い首、小さな下顎(小顎症)、扁桃肥大、巨舌などが気道を狭める要因となる。日中の眠気の程度はエプワース眠気尺度(ESS)で評価する。
合併症
高血圧(二次性高血圧の重要な原因で、治療抵抗性高血圧や夜間高血圧に多い)、心房細動などの不整脈、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、2型糖尿病など。日中の眠気による居眠り運転や労働災害のリスクも高い。診断時には自動車の運転について指導する必要がある。
治療
・生活習慣の改善:減量、寝る前の飲酒を避ける、禁煙、睡眠薬を避ける、横向きで寝る。 ・CPAP:中等症~重症OSAの第一選択。 ・口腔内装置(マウスピース):下顎を前に出して気道を広げる。軽症~中等症やCPAPを続けられない場合に使う。 ・外科的治療:扁桃肥大やアデノイド増殖症があれば摘出術(小児OSAでは第一選択)。顎の骨を動かす手術、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術、舌下神経を刺激する装置の植え込みなど。 ・CPAPを適切に使っても残る眠気には、モダフィニルを使うことがある。
POINT
・いびき+日中の過度の眠気+肥満+高血圧 → 閉塞性睡眠時無呼吸を考え、ポリソムノグラフィで診断する。 ・AHI:5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症。 ・中等症~重症OSAの第一選択はCPAP。肥満があれば減量を併せて行う。 ・仰臥位では舌根沈下で悪化するため、側臥位での就寝を勧める。 ・ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールは上気道の筋肉を緩めて無呼吸を悪化させるため避ける。 ・OSAは治療抵抗性高血圧などの二次性高血圧の原因となる。
