StudyMed医師国家試験

「ためる時」か「出す時」か―下部尿路症状を時間軸で切り分ける

第117回医師国家試験 F問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第10問

膀胱の蓄尿症状はどれか。2つ選べ。

  1. a.尿意切迫感
  2. b.尿勢低下
  3. c.排尿遅延
  4. d.腹圧排尿
  5. e.夜間頻尿

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は下部尿路症状を分類する問題だ。ポイントは一つだけ。その症状が「膀胱に尿をためている間」に困るものなのか、「尿を出している最中」に困るものなのかを考えることだよ。
医学生医学生
泌尿器の講義で、蓄尿症状と排尿症状に分けると習いました。でも正直、名前だけ見るとどっちがどっちか混乱します。
ドクタードクター
名前で覚えようとすると混乱しやすいね。国際禁制学会の基準では、下部尿路症状を蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状の3群に分けている。蓄尿症状は、膀胱が尿を低い圧のまま十分にためておけないときに起こる。膀胱が勝手に収縮する、知覚が過敏になる、容量が小さくなる、といった状況だ。
医学生医学生
ということは、急に我慢できないほどおしっこに行きたくなる尿意切迫感は、ためている途中で膀胱が騒ぎ出す症状なので蓄尿症状ですね。
ドクタードクター
その通り。尿意切迫感は、尿がたまっていく過程で排尿筋が不随意に収縮したり、知覚が過敏になったりして生じる。過活動膀胱の診断に必須の症状でもあるんだ。
医学生医学生
夜間頻尿はどうでしょう。夜中に起きてトイレに行くので、出すときの症状のような気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。睡眠中というのは本来、尿をためておくべき時間帯だ。その間にためきれずに起きてしまうのだから、蓄尿症状に分類される。トイレに行く行動ではなく、「ためておけなかった」ことに注目しよう。
医学生医学生
なるほど、時間帯で考えればいいんですね。では尿勢低下は、尿の勢いが弱いという話なので出すときの問題ですか。
ドクタードクター
正解。尿勢低下は、前立腺肥大症や尿道狭窄による膀胱出口部の閉塞、あるいは排尿筋の収縮力低下で起こる排尿症状だ。出口が狭いか、押し出す力が弱いかのどちらかだね。
医学生医学生
排尿遅延は、トイレに行ってもなかなか出始めない症状でしたよね。臨床実習で泌尿器科を回ったとき、前立腺肥大症の患者さんが「出るまで待たされる」と話していました。
ドクタードクター
いいエピソードだ。排尿遅延は、排尿しようとしてから尿が出始めるまでに時間がかかる症状で、排尿開始に必要な膀胱内圧がすぐに得られないために起こる。ちなみに、出始めから終わりまで全体が長くかかるのは排尿時間延長として区別されるよ。
医学生医学生
腹圧排尿は、いきまないと出ないということなので、これも出すときの症状ですね。
ドクタードクター
そう。膀胱の収縮力が足りない分を腹圧で補っている状態だ。糖尿病性神経障害などによる低活動膀胱や、強い出口部閉塞でみられる。つまり今回の蓄尿症状は、尿意切迫感と夜間頻尿の2つになる。
医学生医学生
出す側には、尿線途絶や終末滴下も入りますよね。排尿後症状は残尿感と排尿後尿滴下でしたっけ。
ドクタードクター
よく整理できているね。臨床で大事な注意点も話しておこう。前立腺肥大症は出口の病気だから排尿症状だけと思われがちだけど、閉塞に対して膀胱が二次的に変化し、尿意切迫感や頻尿、夜間頻尿などの蓄尿症状も高い頻度で伴う。だから症状評価に使う国際前立腺症状スコアには両方の項目が入っているんだ。
医学生医学生
夜間頻尿があっても、膀胱の問題とは限らないんですか。
ドクタードクター
鋭いね。夜間頻尿は、夜間の尿量そのものが多い夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害の3つに分けて考える。夜間多尿の背景には心不全や水分の摂りすぎ、加齢に伴う抗利尿ホルモン分泌リズムの変化などがある。これを見分けるには、排尿時刻と1回ごとの尿量を記録する排尿日誌が役立つ。
医学生医学生
1回量が少ないなら膀胱側、夜の総量が多いなら夜間多尿、というふうに読むわけですね。
ドクタードクター
その通り。過活動膀胱を考えるときも、尿路感染症や膀胱癌、膀胱結石など似た症状を起こす疾患を除外することを忘れないように。

まとめ

下部尿路症状は、国際禁制学会の基準により蓄尿症状・排尿症状・排尿後症状の3群に分類されます。蓄尿症状は膀胱が尿を十分にためておけないことで生じ、尿意切迫感・昼間頻尿・夜間頻尿・尿失禁が代表で、尿意切迫感は過活動膀胱の必須症状です。尿勢低下・排尿遅延・腹圧排尿・尿線途絶・終末滴下は、膀胱出口部閉塞や排尿筋の収縮力低下による排尿症状にあたり、残尿感や排尿後尿滴下は排尿後症状です。前立腺肥大症では排尿症状に加えて蓄尿症状も高頻度に伴い、夜間頻尿は夜間多尿・膀胱容量の減少・睡眠障害を排尿日誌で見分けることが重要です。症状を「ためる時」「出す時」「出した後」という時間軸で整理することは、病態の推定と治療方針の選択の出発点になります。

解答・解説

正解はa, eです

下部尿路症状(LUTS:lower urinary tract symptoms)は、国際禁制学会(ICS)の用語基準に基づき、膀胱に尿をためる時期の「蓄尿症状」、尿を出している時期の「排尿症状(排出症状)」、排尿を終えた直後の「排尿後症状」の3つに大きく分けられる。本問は、この分類に沿って各症状がどの時期の異常かを判断させる問題である。 考え方のコツは、「尿をためている間に困る症状か」「尿を出すときに困る症状か」を区別することである。蓄尿症状は、膀胱が十分な量の尿を低い内圧のまま保てない(膀胱の過活動、知覚の過敏、膀胱容量の減少、尿道の閉鎖不全など)ことで生じ、頻尿・夜間頻尿・尿意切迫感・尿失禁が代表である。一方、排尿症状は、膀胱の収縮力低下(排尿筋低活動)や膀胱出口部の閉塞(前立腺肥大症、尿道狭窄など)によって尿をうまく出し切れないことで生じ、尿勢低下・尿線途絶・尿線分割・排尿遅延・腹圧排尿・終末滴下などが含まれる。 選択肢のうち、ためている間の症状に当たるのは尿意切迫感と夜間頻尿であり、残りの3つはいずれも尿を出す段階の困難を表す排尿症状である。

選択肢考察

  1. ○a.  尿意切迫感

    尿意切迫感とは、急に起こる強い尿意で、我慢することが難しいという訴えである。膀胱に尿がたまっていく過程で、排尿筋が不随意に収縮したり膀胱知覚が過敏になったりすることで生じるため、蓄尿症状に分類される。過活動膀胱(OAB)の診断では必須となる症状であり、通常は昼間頻尿や夜間頻尿を伴う。

  2. ×b.  尿勢低下

    尿勢低下は、尿の勢いが以前より弱くなった、あるいは他人と比べて弱いという訴えである。前立腺肥大症や尿道狭窄による膀胱出口部閉塞、または排尿筋の収縮力低下によって起こり、尿を出す時期の異常であるため排尿症状に分類される。蓄尿症状ではない。

  3. ×c.  排尿遅延

    排尿遅延(hesitancy)は、排尿しようとしてから実際に尿が出始めるまでに時間がかかるという訴えである。膀胱出口部閉塞や排尿筋の収縮力低下があると、排尿を開始するのに必要な膀胱内圧がすぐに得られないために生じる。排尿の開始時の異常であり、排尿症状に分類される。なお、排尿開始から終了までの時間全体が長くなることは「排尿時間延長」として区別される。

  4. ×d.  腹圧排尿

    腹圧排尿は、排尿を開始したり尿流を維持したりするために、いきんで腹圧をかける必要があるという訴えである。排尿筋の収縮力が不十分な場合(糖尿病性神経障害などによる低活動膀胱)や、膀胱出口部閉塞が強い場合に、膀胱収縮の不足を腹圧で補おうとして生じる。尿を出す時期の症状であり、排尿症状に分類される。

  5. ○e.  夜間頻尿

    夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えであり、睡眠中という尿をためているべき時間帯の症状であるため蓄尿症状に分類される。原因としては、過活動膀胱や前立腺肥大症などによる膀胱容量の減少・膀胱の過敏のほかに、夜間の尿量そのものが多い夜間多尿(心不全、水分の過剰摂取、加齢に伴う抗利尿ホルモン分泌リズムの変化など)、不眠などの睡眠障害も関与する。

下部尿路症状の分類(ICS)

・蓄尿症状:昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁(腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁など)、膀胱知覚の異常 ・排尿症状:尿勢低下、尿線分割・尿線散乱、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下 ・排尿後症状:残尿感、排尿後尿滴下

過活動膀胱(OAB)

尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿や夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともある症状症候群である。診断には、尿路感染症、膀胱癌、膀胱結石、間質性膀胱炎など、同様の症状をきたす他疾患を除外する必要がある。重症度評価には過活動膀胱症状スコア(OABSS)が用いられる。

夜間頻尿の原因の整理

夜間頻尿は大きく、(1) 夜間多尿(夜間の尿量が多い)、(2) 膀胱蓄尿障害(過活動膀胱、前立腺肥大症、膀胱炎などによる膀胱容量の減少)、(3) 睡眠障害(眠りが浅く、目が覚めるたびに排尿に行く)に分けて考える。鑑別には、排尿時刻と1回ごとの排尿量を記録する排尿日誌(頻度・尿量記録)が有用であり、夜間の尿量が多いのか、1回排尿量が少ないのかを判別できる。

前立腺肥大症と症状

前立腺肥大症では、膀胱出口部閉塞による排尿症状に加え、閉塞に対する膀胱の二次的な変化によって尿意切迫感や頻尿・夜間頻尿などの蓄尿症状も高頻度に生じる。症状の評価には国際前立腺症状スコア(IPSS)が用いられ、蓄尿症状・排尿症状の両方の項目を含む。

POINT

・下部尿路症状は蓄尿症状・排尿症状・排尿後症状の3群に分類される。 ・蓄尿症状:頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁。 ・排尿症状:尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下など。 ・尿意切迫感は過活動膀胱の必須症状である。 ・夜間頻尿の鑑別には排尿日誌が有用である(夜間多尿・膀胱容量の減少・睡眠障害を見分ける)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。