詰まった尿道カテーテル、どう替える?―「固定水を抜く」が守る尿道
第117回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。頸椎損傷の診断で3週間入院中である。自己導尿が困難で尿道カテーテルが留置されているが,尿が混濁し閉塞をきたしたため,尿道カテーテルの交換を行うこととなった。意識は清明。体温36.8℃。脈拍72/分,整。血圧110/64mmHg。呼吸数12/分。 尿道カテーテルの交換で正しいのはどれか。
- a.体位は座位で行う。
- b.カテーテルを抜去する前に固定水を抜く。
- c.外尿道口をエタノールで消毒する。
- d.新しいカテーテルの内腔に潤滑剤を注入する。
- e.今後は毎日交換する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
バルーンカテーテルを抜去・交換するときは、必ず固定水を注射器で全量回収してから抜きます。膨らんだバルーンのまま引き抜くと膀胱頸部や尿道を損傷し、出血や尿道狭窄の原因になるためです。手技は仰臥位で行い、外尿道口の消毒にはアルコールではなくポビドンヨードやベンザルコニウム塩化物など粘膜に使える薬剤を用い、潤滑剤はカテーテル先端の外表面に塗ります。長期留置カテーテルは閉塞や感染時などに交換し、毎日の交換は損傷と感染のリスクを高めるだけで不適切です。頸髄損傷患者では膀胱充満やカテーテル操作が自律神経過反射の誘因となることも含め、各手順の理由を理解しておくことが安全な病棟診療の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・38歳男性、頸椎損傷で3週間入院中。四肢麻痺のため上肢の細かい動作が難しく、自己導尿(患者自身が間欠的にカテーテルを入れて排尿する方法)ができない。 ・脊髄損傷に伴う神経因性膀胱(膀胱を支配する神経の障害による排尿障害)に対して尿道カテーテルが留置されている。 ・尿が混濁し、カテーテルが閉塞した。長期留置カテーテルでは細菌がカテーテル表面にバイオフィルム(細菌と分泌物が作る膜状の集合体)を形成し、尿中の塩類が沈着して内腔が詰まりやすい。 ・意識清明で、体温・脈拍・血圧・呼吸数に異常はない。発熱や頻脈、血圧低下がないため、急性腎盂腎炎や敗血症を疑う全身所見は現時点では乏しい。
設問の考え方
閉塞したカテーテルは尿の排出を妨げ、膀胱内圧の上昇や尿路感染症の悪化を招くため、速やかに新しいものへ交換する。本問は、その手技を正しく理解しているかを問う。押さえるべき流れは「仰臥位で準備 → バルーン内の固定水を注射器で完全に抜く → 古いカテーテルを抜去 → 外尿道口を粘膜に使える消毒薬で消毒 → カテーテル外表面に潤滑剤を塗って無菌的に挿入 → 尿の流出を確認してから固定水を注入 → 適切な位置に固定し、蓄尿バッグを膀胱より低い位置に置く」である。交換頻度は「決まった短い間隔で頻繁に替えるもの」ではない点も問われている。 なお、本例は頸椎損傷であり、第6胸髄より高位の脊髄損傷では、膀胱の過伸展やカテーテル操作などの刺激で自律神経過反射(急激な血圧上昇、徐脈、頭痛、損傷レベルより上の発汗・顔面紅潮)が起こりうる。閉塞による膀胱充満はその誘因となるため、交換時には血圧の変化にも注意する。
選択肢考察
- ×a. 体位は座位で行う。
誤り。尿道カテーテルの挿入・交換は仰臥位で行うのが基本である。仰臥位にすると外陰部を十分に露出でき、清潔野を保ちやすく、男性では陰茎を体幹に対して垂直方向に引き上げて尿道の屈曲を伸ばしながら挿入できる。座位では清潔操作がしにくく、尿道の走行も挿入に不利である。とくに本例は頸椎損傷で体幹の保持が難しく、座位は安全面でも適さない。
- ○b. カテーテルを抜去する前に固定水を抜く。
正しい。留置用のバルーンカテーテル(フォーリーカテーテル)は、先端のバルーンを滅菌蒸留水(固定水)で膨らませ、膀胱頸部に引っかけて抜けないようにしている。固定水を抜かずに引き抜くと、膨らんだバルーンが膀胱頸部や尿道を通過する際に粘膜を裂き、尿道損傷・出血、のちの尿道狭窄の原因となる。したがって、抜去前に固定水注入口に注射器を接続し、注入されていた量が全量回収できたことを確認してからカテーテルを抜く。抜けない場合や固定水が回収できない場合は、無理に引かずに原因(固定水チャネルの閉塞など)を確認する。
- ×c. 外尿道口をエタノールで消毒する。
誤り。エタノールなどのアルコール類は粘膜に強い刺激や痛みを与えるため、外尿道口のような粘膜部位の消毒には用いない。粘膜にも使用できるポビドンヨードや、ベンザルコニウム塩化物(塩化ベンザルコニウム)液を用いて、外尿道口から外側へ向けて消毒する。
- ×d. 新しいカテーテルの内腔に潤滑剤を注入する。
誤り。潤滑剤はカテーテルの外表面、先端から数cm(目安として4〜5cm程度)の範囲に塗布し、尿道粘膜との摩擦を減らして挿入時の損傷や痛みを防ぐために使う。内腔(尿の通り道)に注入すると内腔を詰まらせ、尿の流出を妨げる。交換の目的そのものが閉塞の解消であることを考えても不適切である。なお男性では、リドカインを含むゼリーを外尿道口から尿道内に注入して麻酔と潤滑を図ることがあるが、これは尿道内への注入であり、カテーテル内腔への注入とは別である。
- ×e. 今後は毎日交換する。
誤り。毎日の交換は、挿入のたびに尿道粘膜を傷つけ、外部から細菌を持ち込む機会を増やすため、かえって尿道損傷や尿路感染症のリスクを高める。長期留置カテーテルは、閉塞・感染・破損などが生じたときに交換するのが原則で、一定の間隔でルーチンに交換することの有用性は示されていない。実際の運用では、カテーテルの材質や閉塞しやすさに応じて数週間(おおむね2〜4週間程度)ごとの交換が行われることが多い。本例のように3週間で閉塞した場合は、それより短い間隔で交換を計画するのが妥当である。
膀胱留置カテーテル交換・挿入の手順の要点
1. 患者に説明し同意を得る。カーテンなどでプライバシーを確保する。 2. 必要物品:留置カテーテル(バルーンカテーテル)、閉鎖式の蓄尿バッグ、滅菌手袋、鑷子(ピンセット)、綿球、消毒薬(ポビドンヨードまたはベンザルコニウム塩化物液)、潤滑剤、固定水用の滅菌蒸留水と注射器(通常10mL)、固定用テープ、処置用シーツなど。 3. 仰臥位とし、下肢をタオルで覆う。女性では膝を立てて開脚してもらう。 4. 古いカテーテルの固定水を注射器で全量抜き、ゆっくり抜去する。 5. 滅菌手袋を装着し、蓄尿バッグの排液口が閉じていることを確認する。カテーテル先端から数cmの外表面に潤滑剤を塗る。 6. 外尿道口を中心から外側へ消毒する。陰部を保持した手は消毒後に離さない(清潔を保つため)。 7. 男性では陰茎を体幹に対しほぼ垂直に引き上げて尿道の屈曲を伸ばし、ゆっくり挿入する。抵抗を感じたら陰茎を足側へ倒し、さらに進める。男性ではカテーテルの分岐部近くまで十分に挿入する。女性では尿道が短く(約4cm)、尿の流出を確認できる深さまで入れる。挿入時は深呼吸を促して力ませない。 8. 尿の流出を確認してから、さらに少し進めて固定水を注入する(尿道内でバルーンを膨らませると尿道損傷を起こすため)。軽く引いて抵抗があることを確認する。 9. 固定:男性は陰茎を上向きにして下腹部に、女性は大腿内側に固定する。男性で陰茎を下向きに固定すると、陰茎陰嚢角部に圧迫が加わり、尿道の圧迫壊死や瘻孔の原因となる。 10. 蓄尿バッグは膀胱より低い位置に置き、床に直接つけない(尿の逆流と汚染を防ぐ)。
固定水に滅菌蒸留水を用いる理由
生理食塩水を使うと、時間の経過とともに塩類が結晶化して固定水の通り道(バルーン用チャネル)が詰まり、抜去時にバルーンがしぼまなくなるおそれがあるため、一般に滅菌蒸留水を用いる。
カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)
留置期間が長いほど細菌尿の頻度は高くなり、長期留置ではほぼ必発である。無症状の細菌尿は原則として抗菌薬治療の対象にならない。発熱などの症状を伴う感染症を治療する際は、カテーテルを交換してから新しいカテーテルで尿培養を採取することが推奨される(古いカテーテル内のバイオフィルムの菌を拾わないため)。予防には、閉鎖式導尿システムの維持、不要な留置の回避と早期抜去、可能なら清潔間欠導尿への移行が重要である。
脊髄損傷と排尿管理
脊髄損傷後の神経因性膀胱では、長期的には清潔間欠導尿が第一選択とされる。上肢機能の障害で自己導尿が困難な場合は、介助者による間欠導尿、尿道留置カテーテル、膀胱瘻(下腹部から膀胱へ直接カテーテルを留置する方法)などが選択肢となる。
POINT
・バルーンカテーテルは、必ず固定水を全量抜いてから抜去する(固定水を残したまま抜くと尿道損傷)。 ・体位は仰臥位。 ・外尿道口(粘膜)の消毒にアルコールは使わず、ポビドンヨードやベンザルコニウム塩化物を用いる。 ・潤滑剤はカテーテル外表面の先端部に塗る。内腔には入れない。 ・固定水は尿の流出を確認してから注入する。固定水には滅菌蒸留水を用いる。 ・男性は陰茎を上向きにして下腹部に固定し、蓄尿バッグは膀胱より低い位置に置く。 ・長期留置カテーテルは閉塞・感染時などに交換する。毎日の交換は損傷と感染のリスクを高めるだけで不適切である。 ・頸髄損傷など高位脊髄損傷では、膀胱の充満やカテーテル操作が自律神経過反射の誘因となる。
