StudyMed医師国家試験

膀胱を動かす3本の糸―骨盤神経・下腹神経・陰部神経で読み解く蓄尿と排尿

第119回医師国家試験 D問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第13問

下部尿路機能に関わる神経はどれか。2つ選べ。

  1. a.陰部神経
  2. b.骨盤神経
  3. c.坐骨神経
  4. d.大腿神経
  5. e.腓腹神経

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、膀胱と尿道、つまり下部尿路の働きにどの神経が関わっているかを問う問題だ。解剖の暗記問題に見えるけれど、「尿をためる」と「尿を出す」という2つの機能を、どの神経が担っているかを整理できれば自然に答えが出る。まずは下部尿路の役割から考えてみよう。
医学生医学生
膀胱は尿をためて、いっぱいになったら出す臓器ですよね。生理学の講義で、自律神経と体性神経の両方が関わると習った気がします。
ドクタードクター
その通り。下部尿路は「蓄尿」と「排尿」を切り替える臓器で、その制御には副交感神経、交感神経、体性神経の3系統が協調して働いている。それぞれに対応する末梢神経が1本ずつあって、骨盤神経、下腹神経、陰部神経の3本だ。
医学生医学生
選択肢にあるのは骨盤神経と陰部神経ですね。下腹神経は入っていません。
ドクタードクター
そう、だからこの2つが正解になる。まず骨盤神経から見ていこう。これは仙髄のS2〜S4から出る副交感神経で、アセチルコリンがムスカリン受容体、主にM3に作用して膀胱の排尿筋を収縮させる。つまり「出す」ための神経だ。
医学生医学生
副交感神経は「リラックスしているときに働く」イメージなので、排尿もリラックスした状態で起こる、と考えるといいですか。
ドクタードクター
覚え方としては悪くないね。加えて、骨盤神経には膀胱壁の伸展を感じ取る求心性線維も含まれている。膀胱がふくらんだ情報が仙髄から脳幹の橋排尿中枢に伝わり、排尿反射が起こる。尿意を伝えるのも、排尿筋を収縮させるのも、骨盤神経が担っているわけだ。
医学生医学生
過活動膀胱に抗コリン薬を使うのは、この骨盤神経の経路を抑えるためなんですね。薬理学の講義の内容とやっとつながりました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だ。次に陰部神経。仙髄前角のオヌフ核から出る体性神経で、横紋筋である外尿道括約筋を収縮させる。自分の意思で排尿を我慢したり、途中で止めたりできるのは、この神経のおかげなんだ。
医学生医学生
体性神経だから随意的に動かせるわけですね。外肛門括約筋も同じ神経でしたっけ。
ドクタードクター
そう、外肛門括約筋や骨盤底筋群も支配しているし、会陰部の感覚も担う。ここで、選択肢にない下腹神経にも触れておこう。胸腰髄、おおむねTh11〜L2から出る交感神経で、β3受容体を介して排尿筋を弛緩させ、α1受容体を介して膀胱頸部や内尿道括約筋を収縮させる。つまり「ためる」側の神経だ。
医学生医学生
すると、蓄尿は下腹神経と陰部神経、排尿は骨盤神経、という分担ですね。
ドクタードクター
完璧だ。では残りの選択肢、坐骨神経、大腿神経、腓腹神経はどうだろう。
医学生医学生
坐骨神経はS2やS3も含むので、ちょっと迷いました。仙髄から出ているなら膀胱にも関係しそうに思えて。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいポイントだね。確かに坐骨神経はL4〜S3から起こる人体で最も太い末梢神経だけど、行き先は大腿後面のハムストリングと膝から下の筋や皮膚で、膀胱や尿道には分布しない。同じ髄節から出ていても、どの神経に乗ってどこへ向かうかが違うんだ。大腿神経はL2〜L4から起こって大腿四頭筋や腸腰筋を支配し、膝蓋腱反射の経路になる。腓腹神経は運動枝をもたない純粋な感覚神経で、下腿後外側から足の外側縁の感覚を担う。
医学生医学生
腓腹神経は、脳神経内科の実習で神経伝導検査や神経生検の部位として出てきました。感覚神経だけだから生検しても運動障害が出ないんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。3つとも下肢の神経で、下部尿路には関与しない。最後に臨床での発展を整理しておこう。神経因性膀胱では障害部位でパターンが変わる。橋より上位、たとえば脳血管障害では、大脳からの抑制が外れて排尿筋過活動になりやすい。一方、仙髄より下位、たとえば骨盤内手術後、糖尿病性神経障害、馬尾障害では排尿筋低活動や尿閉をきたしやすい。
医学生医学生
直腸癌の手術後に尿が出にくくなる患者さんがいると外科の実習で聞いたのは、骨盤内の神経の損傷が関係しているんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。ほかにも、多系統萎縮症ではオヌフ核が障害されやすく、外尿道括約筋の筋電図で神経原性変化がみられることがある。薬では、過活動膀胱に抗コリン薬やβ3作動薬、前立腺肥大症の排尿障害にα1遮断薬を使う。どの受容体を狙っているかを、今日の3本の神経と結びつけて覚えておくと、薬理も病態も一気に整理できるよ。

まとめ

下部尿路(膀胱と尿道)の蓄尿と排尿は、骨盤神経(副交感神経、S2〜S4)、下腹神経(交感神経、おおむねTh11〜L2)、陰部神経(体性神経、S2〜S4のオヌフ核)の3本で制御されています。骨盤神経はムスカリンM3受容体を介して排尿筋を収縮させて排尿に働き、下腹神経はβ3受容体による排尿筋弛緩とα1受容体による尿道平滑筋収縮で、陰部神経は外尿道括約筋の収縮で蓄尿に働きます。坐骨神経・大腿神経・腓腹神経は下肢の運動や感覚を担う神経であり、下部尿路は支配しません。この神経支配は、抗コリン薬・β3作動薬・α1遮断薬の作用機序や、脳血管障害・骨盤内手術後・糖尿病などによる神経因性膀胱の病態を理解する土台になります。

解答・解説

正解はa, bです

下部尿路(膀胱と尿道)の働きは、尿をためる「蓄尿」と尿を出す「排尿(尿排出)」の2つである。これらは自律神経(交感神経・副交感神経)と体性神経が協調して制御しており、関わる末梢神経は次の3本に整理できる。 ・骨盤神経:仙髄(S2〜S4)から出る副交感神経。膀胱排尿筋を収縮させ、排尿に働く。 ・下腹神経:胸腰髄(おおむねTh11〜L2)から出る交感神経。排尿筋を弛緩させ、膀胱頸部・内尿道括約筋を収縮させて蓄尿に働く。 ・陰部神経:仙髄(S2〜S4、オヌフ核)から出る体性神経。随意筋である外尿道括約筋を収縮させ、蓄尿に働く。 したがって選択肢の中で下部尿路機能に関わるのは陰部神経と骨盤神経である。残りの坐骨神経・大腿神経・腓腹神経は、いずれも下肢の運動や感覚を担う神経であり、膀胱・尿道は支配しない。「下部尿路の神経=骨盤神経・下腹神経・陰部神経の3本」と覚えておけば迷わない。

選択肢考察

  1. ○a.  陰部神経

    正しい。陰部神経は仙髄(S2〜S4)前角のオヌフ(Onuf)核から出る体性神経で、横紋筋である外尿道括約筋(および外肛門括約筋、骨盤底筋群)を支配する。外尿道括約筋を収縮させて尿の漏れを防ぎ、蓄尿に働く。随意的に排尿を我慢したり途中で止めたりできるのはこの神経の働きによる。また会陰部や外陰部の感覚も担う。

  2. ○b.  骨盤神経

    正しい。骨盤神経は仙髄(S2〜S4)から出る副交感神経である。節後線維の終末から放出されるアセチルコリンがムスカリン受容体(主にM3)に作用して膀胱排尿筋を収縮させ、尿を排出する。膀胱壁の伸展を感知する求心性線維(尿意を伝える線維)も含み、排尿反射の中心的な経路となる。過活動膀胱に抗コリン薬(抗ムスカリン薬)が用いられるのはこの経路を抑えるためである。

  3. ×c.  坐骨神経

    誤り。坐骨神経は腰仙骨神経叢(L4〜S3)から起こる人体で最も太い末梢神経で、大腿後面の筋(ハムストリング)と、脛骨神経・総腓骨神経に分かれて膝より下のほぼすべての筋の運動と下腿・足の感覚を担う。膀胱や尿道の支配には関与しない。

  4. ×d.  大腿神経

    誤り。大腿神経は腰神経叢(L2〜L4)から起こり、大腿四頭筋・腸腰筋などを支配して股関節の屈曲や膝関節の伸展を担い、大腿前面や下腿内側(伏在神経)の感覚を伝える。膝蓋腱反射の経路でもあるが、下部尿路機能には関わらない。

  5. ×e.  腓腹神経

    誤り。腓腹神経は脛骨神経の枝(内側腓腹皮神経)と総腓骨神経の枝(外側腓腹皮神経)が合流して形成される、純粋な感覚神経である。下腿後外側から足の外側縁の皮膚感覚を担い、運動支配はもたない。末梢神経障害の評価のための神経伝導検査や神経生検の部位として用いられるが、下部尿路機能とは無関係である。

蓄尿と排尿の神経制御

蓄尿期:膀胱が充満していく間、交感神経(下腹神経)が優位となる。β3受容体を介して排尿筋が弛緩し、α1受容体を介して膀胱頸部・内尿道括約筋が収縮する。同時に陰部神経が外尿道括約筋を収縮させる。 排尿期:膀胱の伸展刺激が骨盤神経の求心路で仙髄から脳幹の橋排尿中枢へ伝わり、排尿反射が起こる。副交感神経(骨盤神経)が排尿筋を収縮させ、交感神経と陰部神経の活動が抑制されて尿道が弛緩し、尿が出る。 大脳(前頭葉)は橋排尿中枢を抑制し、適切な時と場所まで排尿を我慢させる。

神経の起始と働きのまとめ

骨盤神経:副交感神経、S2〜S4、排尿筋収縮(ムスカリンM3受容体)→ 排尿 下腹神経:交感神経、Th11〜L2、排尿筋弛緩(β3受容体)・尿道平滑筋収縮(α1受容体)→ 蓄尿 陰部神経:体性神経、S2〜S4(オヌフ核)、外尿道括約筋収縮 → 蓄尿

臨床との関連

・過活動膀胱の治療薬:抗コリン薬(ムスカリン受容体を遮断)、β3作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)。 ・前立腺肥大症の排尿障害:α1遮断薬(タムスロシン、シロドシンなど)で尿道・前立腺の平滑筋を弛緩させる。 ・神経因性膀胱:橋より上位の障害(脳血管障害など)では排尿筋過活動、仙髄より下位の障害(骨盤内手術後、糖尿病性神経障害、馬尾障害など)では排尿筋低活動・尿閉をきたしやすい。 ・多系統萎縮症ではオヌフ核が障害されやすく、外尿道括約筋筋電図で神経原性変化がみられる。

POINT

・下部尿路を支配する神経は骨盤神経(副交感)、下腹神経(交感)、陰部神経(体性)の3本。 ・骨盤神経=排尿(排尿筋収縮)、下腹神経・陰部神経=蓄尿。 ・陰部神経はオヌフ核(S2〜S4)から出て外尿道括約筋を支配する。 ・坐骨神経・大腿神経・腓腹神経は下肢の神経。腓腹神経は純粋な感覚神経。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。