右下腹部の“ニップル”が語る―回腸導管は「ためない膀胱」
第115回医師国家試験 C問題 第54問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。膀胱全摘術後の患者である。腹部の写真を下に示す。 この患者について正しいのはどれか。

- a.集尿袋が必要である。
- b.巨赤芽球性貧血を起こす。
- c.間歇的な導尿が必要である。
- d.乳酸アシドーシスをきたす。
- e.カテーテル交換が必要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
膀胱全摘術後の尿路変向のうち、回腸導管は切り離した回腸を尿の通り道として右下腹部にニップル型のストーマを作る失禁型の術式で、尿をためる機能がないため集尿袋(ストーマ装具)の常時装着が必須です。間歇的自己導尿が必要なのは禁制型代用膀胱、カテーテル留置・交換が問題となりやすいのは尿管皮膚瘻であり、回腸導管では通常どちらも不要です。腸管を尿路に用いると高クロール性代謝性アシドーシスが起こりえますが、乳酸アシドーシスではなく、回腸導管では接触時間が短いため通常は軽度です。また回腸末端を温存するため、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血も通常は起こりません。術式ごとに蓄尿機能の有無と必要な管理を対応させて理解することが、試験だけでなくストーマ保有者への説明やケアにも直結します。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
膀胱全摘術(膀胱癌などに対して行われる)の後には、腎で作られた尿を体外へ導く経路を新たに作る必要がある。これを尿路変向術という。腹部写真では、右下腹部の皮膚から腸管粘膜が乳頭状(ニップル状)に突出したストーマを認める。腸管を用いて作られ、皮膚から突出した形のストーマであることから、回腸導管(ileal conduit)と判断できる。
回腸導管とは
回腸の一部(回腸末端より口側の15〜20cm程度)を腸間膜の血流を保ったまま切り離し、その口側端を閉じて両側の尿管を吻合し、肛門側端を右下腹部の皮膚に出してストーマとする術式である。切り離した回腸はあくまで尿の「通り道(導管)」であり、尿をためる機能はない。そのため尿はストーマから絶えず流れ出し、患者は自分の意思で排尿を調節できない(失禁型尿路変向)。
設問へのアプローチ
失禁型であることから、ストーマに装着する集尿袋(ストーマ装具、パウチ)が必須となる。一方、自己導尿やカテーテル留置は不要である。代謝面では、使用する腸管が短く、尿と腸粘膜の接触時間も短いため、ビタミンB12吸収障害や重い酸塩基平衡異常は起こりにくい。起こりうるアシドーシスは乳酸アシドーシスではなく高クロール性代謝性アシドーシスである点にも注意する。
選択肢考察
- ○a. 集尿袋が必要である。
回腸導管は蓄尿機能を持たない失禁型の尿路変向であり、尿はストーマから持続的に排出される。このため、ストーマ周囲の皮膚に面板を貼り、尿を受ける集尿袋(ウロストミー用パウチ)を常時装着する必要がある。夜間は大容量の蓄尿袋につないで使用することもある。皮膚から突出したニップル型のストーマは、尿が皮膚に直接触れにくく装具を装着しやすいように作られている。
- ×b. 巨赤芽球性貧血を起こす。
ビタミンB12は内因子と結合して回腸末端で吸収される。回腸導管では回腸末端(回盲弁から約15〜20cm)を温存して口側の回腸を短い範囲だけ用いるため、ビタミンB12の吸収は通常保たれ、巨赤芽球性貧血をきたすことは一般的ではない。回腸末端を広範に切除した場合や、より長い腸管を用いる代用膀胱では長期的に欠乏に注意が必要となる。
- ×c. 間歇的な導尿が必要である。
間歇的な自己導尿が必要になるのは、腸管で体内に袋(パウチ)を作って尿をため、平坦な臍部などのストーマからカテーテルで定期的に尿を抜く「禁制型(非失禁型)代用膀胱」の場合である。また尿道に吻合する自然排尿型代用膀胱(新膀胱)でも、排出障害があれば自己導尿を要することがある。回腸導管は尿が持続的に流れ出るため導尿は不要である。
- ×d. 乳酸アシドーシスをきたす。
腸管を尿路に用いると、腸粘膜が尿中のクロールやアンモニウムを再吸収し、重炭酸を分泌して失うため、乳酸アシドーシスではなく高クロール性代謝性アシドーシス(アニオンギャップ正常)が起こりうる。回腸導管では尿の接触時間が短いため通常は軽度で、臨床的に問題となることは少ない。尿を長くためる代用膀胱や、現在は行われない尿管S状結腸吻合術ではより起こりやすい。乳酸アシドーシスは組織低灌流やビグアナイド薬などで生じるもので、回腸導管とは無関係である。
- ×e. カテーテル交換が必要である。
回腸導管ではストーマから尿が自然に流出するため、通常はカテーテルを留置しない。定期的なカテーテル交換が必要となるのは、尿管皮膚瘻でストーマ部の狭窄を防ぐために尿管カテーテル(ステント)を留置している場合や、腎瘻・膀胱瘻を造設している場合である。回腸導管で交換が必要なのはストーマ装具(面板・袋)である。
膀胱全摘術後の主な尿路変向術
1. 失禁型(集尿袋が必要) ・回腸導管:最も標準的な術式。腸管吻合が必要だが、ストーマ狭窄が少なくカテーテルは不要。ストーマはニップル型で右下腹部に作ることが多い。 ・尿管皮膚瘻:尿管を直接皮膚に出す。腸管を使わないため手術侵襲が小さく、高齢者や全身状態不良例に選ばれる。ストーマ狭窄を起こしやすく、尿管カテーテルの留置・定期交換を要することがある。 2. 禁制型(非失禁型) ・禁制型代用膀胱(コック・パウチ、インディアナ・パウチなど):腸管で体内に貯留袋を作り、腹壁の平坦なストーマから間歇的に自己導尿する。現在はほとんど行われない。 ・自然排尿型代用膀胱(新膀胱):回腸などで作った袋を尿道に吻合し、腹圧で尿道から排尿する。ストーマ・集尿袋が不要で、尿道に腫瘍がない症例が適応となる。夜間尿失禁や排出障害(自己導尿が必要になることがある)、代謝性アシドーシスに注意する。 ・尿管S状結腸吻合術:尿を便と一緒に肛門から排出する。高クロール性アシドーシス、腎盂腎炎、吻合部の発癌が問題となり現在は行われない。
腸管利用尿路変向の代謝合併症
・高クロール性代謝性アシドーシス(回腸・結腸使用時)。胃を用いた場合は逆に低クロール性代謝性アルカローシス。 ・ビタミンB12欠乏(回腸末端を用いた場合や長い回腸を用いた場合) ・尿路結石、尿路感染症、骨軟化症など
回腸導管の主な合併症
ストーマ周囲皮膚炎、ストーマ狭窄・傍ストーマヘルニア、尿管回腸吻合部狭窄による水腎症、腎盂腎炎、尿路結石など。
POINT
・回腸導管は失禁型の尿路変向で、尿が持続的に出るため集尿袋(ストーマ装具)が必須である。 ・自己導尿が必要なのは禁制型代用膀胱、カテーテル留置・交換が必要になりやすいのは尿管皮膚瘻。 ・腸管を尿路に用いた場合のアシドーシスは高クロール性代謝性アシドーシスであり、乳酸アシドーシスではない。 ・回腸導管では回腸末端を温存するため、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血は通常起こらない。
