StudyMed医師国家試験

歩けて、話せて、でも指ささない―1歳6か月健診で見抜くべき「共同注意」のサイン

第115回医師国家試験 C問題 第53問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第53問

1歳6か月の男児。健康診査のため母親に連れられて来院した。上手に歩くことができるが,①スキップはできない。なぐり書きはできるが,②まねをして○を描くことができない。単語を話すが,③2語文はなく,④自分の名前は言えない。お気に入りの絵本をめくるが,⑤興味あるものの指さしはない。  下線部のうち発達の異常が疑われるのはどれか。

  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、1歳6か月健診で「できないこと」として並んだ項目のうち、本当に心配すべきものを選ぶ問題だ。発達評価の基本は、それぞれの行動が通常何歳ごろにできるようになるか、つまりマイルストーンと今の月齢を照らし合わせること。獲得時期を過ぎてもできないものが「遅れ」になる。まず、この子ができていることから整理してみよう。
医学生医学生
上手に歩けて、なぐり書きができて、単語も話しています。どれも1歳半なら十分な気がします。
ドクタードクター
その通り。独歩は1歳から1歳3か月ごろ、なぐり書きは1歳から1歳半ごろ、初語は1歳ごろだから、運動も言葉も年齢相応だ。では、できないと書かれている項目を一つずつ見ていこう。まずスキップはどうかな。
医学生医学生
スキップって意外と難しいですよね。小学校に上がる前くらいでしょうか。
ドクタードクター
いい感覚だね。スキップは片足ずつ交互に跳ねる複雑な協調運動で、5歳ごろに獲得する。粗大運動は、走る、両足跳び(2歳)、片足立ち(3歳)、ケンケン(4歳)、スキップ(5歳)と段階的に進むんだ。1歳半でできなくて当然だね。
医学生医学生
丸をまねして描くのは、2歳くらいでできそうに思っていました。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところ。見本を見て丸を描けるのは3歳ごろなんだ。描画は、なぐり書き、丸(3歳)、十字(3~4歳)、四角(4歳)、三角(5歳)の順に進む。図形が複雑になるほど遅くなると覚えるといいよ。
医学生医学生
小児科の講義で、三角が描けるのは5歳と習ったのを思い出しました。2語文は2歳ごろですよね。
ドクタードクター
正解。「ママ、きた」のように単語をつなげるのは2歳ごろで、1歳半は意味のある単語を数語話せれば十分だ。自分の姓名を言えるのは3歳ごろで、3歳児健診で確認する項目だね。どちらも今できなくて問題ない。
医学生医学生
そうなると、残るのは興味あるものを指ささないことですね。でも、言葉が出ているなら指さしはなくても大丈夫な気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが一番大事なポイントなんだ。指さしは1歳前後に出てきて、1歳半では興味のあるものを指さして相手に見せたり、「ワンワンはどれ?」と聞かれて指さしで答えたりできるのが普通だ。この子は獲得時期を過ぎているのに、それがない。これが発達の異常を疑うべき所見だよ。
医学生医学生
言葉が順調なのに、なぜ指さしがそんなに重視されるんですか。
ドクタードクター
指さしで自分の興味を相手に伝え、同じものを一緒に見る。これを共同注意といって、社会的コミュニケーションの土台になる力なんだ。共同注意が乏しいことは自閉スペクトラム症の早期徴候としてよく知られている。だから言葉や運動が順調でも、指さしがなければ見過ごしてはいけない。
医学生医学生
小児科の実習で健診を見学したとき、保健師さんが絵本を見せて「どれ?」と子どもに聞いていました。あれは指さしを確認していたんですね。
ドクタードクター
まさにそれだね。指さしにも段階があって、欲しいものを指す要求の指さし、興味のあるものを相手に示す叙述の指さし、聞かれたものを指す応答の指さしへと発展する。要求の指さしはあっても、叙述の指さしが出ないこともあるから、どの指さしなのかまで見ることが大切だ。
医学生医学生
ほかにも、自閉スペクトラム症を疑うサインには何がありますか。
ドクタードクター
視線が合いにくい、名前を呼んでも振り向かない、相手が指さした方向を見ない、ごっこ遊びをしない、特定の物への強いこだわり、などだ。スクリーニングにはM-CHATという質問紙が使われ、共同注意や模倣、呼名への反応を評価する。
医学生医学生
もし指さしがなかったら、すぐ診断がつくわけではないんですよね。
ドクタードクター
そう、一つの所見だけで診断は決まらない。経過観察や専門機関での評価につなげることが大事だ。早く気づいて支援につなげるほど、子どもと家族の助けになる。1歳6か月健診は、母子保健法に基づいて市町村が行う、そのための大切な機会なんだ。

まとめ

発達評価では、各行動が通常獲得される時期(マイルストーン)と現在の月齢を比べ、獲得時期を過ぎても未獲得のものを遅れとして捉えます。1歳6か月の目安は、上手に歩く、なぐり書き、意味のある単語、指さしであり、スキップ(5歳)、丸の模写(3歳)、2語文(2歳)、姓名を言う(3歳)はこの時期にできなくても正常です。興味あるものを指さして相手と注意を共有する共同注意の欠如は自閉スペクトラム症の早期徴候で、言語や運動が順調でも見逃してはなりません。視線、呼名への反応、ごっこ遊びなども合わせて評価し、M-CHATなどのスクリーニングや専門機関での評価につなげます。主要なマイルストーンを領域ごとに整理しておくことは、乳幼児健診で発達障害を早期に発見し、支援につなげるための基礎となります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

1歳6か月児健康診査(1歳6か月健診)の場面で、子どもが「できないこと」として挙げられた5項目のうち、この月齢で本来できているべき(できないことが異常のサインとなる)ものを選ぶ問題である。発達の評価では「その項目が通常何歳で獲得されるか(マイルストーン)」と現在の月齢とを比べ、獲得時期を過ぎてもできない場合に遅れを疑う。

本児の状態の整理

・粗大運動:上手に歩ける(独歩は通常1歳〜1歳3か月頃に獲得)→年齢相応。 ・微細運動:なぐり書きができる(1歳〜1歳6か月頃)→年齢相応。 ・言語:意味のある単語を話す(1歳頃に初語)→年齢相応。 ・社会性:興味あるものを指さして他者に示す行動がない。

各項目の獲得時期との比較

スキップ(5歳頃)、丸の模写(3歳頃)、2語文(2歳頃)、自分の名前を言う(姓名は3歳頃)は、いずれも1歳6か月ではまだできなくて当然の項目である。一方、指さしは1歳前後から出現し、1歳6か月では「興味のあるものを指さして相手に伝える」「聞かれたものを指さす」ことが期待される。したがって⑤だけが獲得時期を過ぎても未獲得であり、発達の異常が疑われる。

指さしの欠如が重要な理由

興味のあるものを指さして相手と注意を共有する行動(共同注意)は、社会的コミュニケーションの基盤である。この行動が乏しいことは自閉スペクトラム症(ASD)の早期徴候として知られ、1歳6か月健診で特に確認される項目の一つである。歩行や単語などほかの発達が順調でも、指さしがない場合は経過観察や専門機関での評価につなげる必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    スキップは片足ずつ交互に跳ねる複雑な協調運動で、獲得は5歳頃である。1歳6か月の粗大運動の目安は「上手に歩ける」ことであり、本児はこれを満たしている。スキップができないのは年齢相応で異常ではない。

  2. ×b.  ②

    見本をまねて丸(○)を描けるようになるのは3歳頃である。1歳6か月の微細運動の目安は、クレヨンなどを握ってなぐり書きができることであり、本児はこれを満たしている。なお描画の発達はおおむね、なぐり書き(1歳〜1歳6か月)→丸(3歳)→十字(3〜4歳)→四角(4歳)→三角(5歳)の順に進む。

  3. ×c.  ③

    「ママ、きた」のように2つの単語をつなげる2語文は2歳頃に出現する。1歳6か月の言語発達の目安は意味のある単語を数語話すことであり、本児は単語を話しているので年齢相応である。2語文がないことは異常ではない。

  4. ×d.  ④

    自分の姓名を言えるようになるのは3歳頃(3歳児健診の確認項目)である。1歳6か月ではまだ言えなくて当然であり、異常ではない。

  5. ○e.  ⑤

    指さしは1歳前後に出現し、1歳6か月では興味のあるものを指さして相手に示したり、「〇〇はどれ?」と聞かれて指さしで答えたりできるのが通常である。獲得時期を過ぎても興味あるものの指さしがないことは、共同注意(他者と同じ対象に注意を向け合う力)の発達の遅れを示し、自閉スペクトラム症などの発達障害を疑うサインとなる。したがって本項目が発達の異常を疑う所見である。

主な発達のマイルストーン(目安)

粗大運動: ・首のすわり(頸定)3〜4か月、寝返り5〜6か月、お座り(座位保持)7〜8か月、はいはい8〜9か月、つかまり立ち9〜10か月、ひとり立ち1歳頃、ひとり歩き1歳〜1歳3か月 ・走る1歳6か月〜2歳、両足跳び2歳、片足立ち3歳、片足跳び(ケンケン)4歳、スキップ5歳 微細運動・描画: ・なぐり書き1歳〜1歳6か月、積み木を2〜3個積む1歳6か月、丸の模写3歳、十字の模写3〜4歳、四角の模写4歳、三角の模写5歳 言語: ・喃語6か月頃、初語(意味のある単語)1歳頃、2語文2歳頃、姓名を言う3歳頃 社会性: ・追視2か月、あやすと笑う(社会的微笑)2〜3か月、人見知り6〜8か月、バイバイなどの模倣9〜10か月 ・指さし:1歳前後に出現し、要求の指さし(欲しいものを指す)、叙述・共同注意の指さし(興味のあるものを相手に示す)、応答の指さし(聞かれたものを指す)へと発展する。1歳6か月では応答の指さしまでが期待される。

1歳6か月児健康診査

母子保健法に基づき市町村が実施する。歩行、単語、指さし、積み木などの発達を確認するとともに、自閉スペクトラム症などの発達障害の早期発見の場でもある。ASDのスクリーニングには、乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(M-CHAT)が用いられ、共同注意(指さしで興味を示す、視線を追う)、模倣、呼名への反応などが評価される。

自閉スペクトラム症の早期徴候

指さしをしない、視線が合いにくい、名前を呼んでも振り向かない、他者の指さした方向を見ない、ごっこ遊びをしない、特定の物への強いこだわり、などがある。

POINT

・発達評価は「各項目の獲得時期」と現在の月齢を照らし合わせて判断する。 ・1歳6か月の目安:上手に歩く、なぐり書き、意味のある単語、指さし。 ・スキップ5歳、丸の模写3歳、2語文2歳、姓名を言う3歳は、1歳6か月でできなくても正常。 ・1歳6か月で興味あるものの指さしがない(共同注意の欠如)ときは、自閉スペクトラム症などの発達障害を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。