「できないこと」より「できているはずのこと」―9か月健診で見逃してはいけない視線のサイン
第119回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
9か月の男児。9~10か月健康診査のために両親に連れられて来院した。在胎38週,体重2,890g,頭位自然分娩で出生した。身長72.2cm,体重8,520g。座位は安定しているが,①座った状態から立位への移行はできない。つかまり立ちはできるが,②独りで歩けない。小さな玩具をつまむことができるが,③積み木を積むことはできない。自分の手を見つめるが,④視線が合わない。「アー」「ウー」などの発声はあるが,⑤「ママ」「パパ」などの意味のある言葉は言わない。 下線部のうち,発達の遅れが考えられるのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳幼児の発達は粗大運動・微細運動・言語・社会性の領域ごとに、月齢ごとのマイルストーンと照らし合わせて評価し、「その月齢ですでにできているはずのこと」ができているかで遅れを判断します。9か月では支えなしの立ち上がり、独り歩き、積み木を積むこと、有意語はまだできなくて当然で、独り歩きや有意語は1歳6か月までにみられなければ遅れを疑います。一方、視線が合うことは社会的微笑と同じ2〜3か月ごろに獲得される対人反応であり、9か月で視線が合わないのは明らかな遅れです。この場合は自閉スペクトラム症のほか、知的発達症や視覚障害も鑑別し、眼の評価や経過観察、療育への橋渡しを行います。マイルストーンを「平均的な獲得時期」と「遅れを疑う目安」の両面で押さえることが、健診で子どもの異変に気づく力の土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・在胎38週(正期産)、出生体重2,890g、頭位自然分娩 → 早産・低出生体重・分娩時のトラブルはなく、周産期のリスク因子はない。 ・9か月で身長72.2cm、体重8,520g → 9か月男児としてほぼ標準的であり、身体発育は順調である。
発達の評価の考え方
乳幼児の発達は、粗大運動(座る・立つ・歩く)、微細運動(手指の動き)、言語、社会性(人との関わり)の各領域に分けて、月齢ごとの到達時期(マイルストーン)と照らし合わせて評価する。ここで大切なのは、「その月齢でまだできなくて当然のこと」と「その月齢ではすでにできているはずのこと」を区別することである。 本問の下線部を月齢9か月に照らし合わせると、 ・支えなしに座位から立ち上がる、独り歩き、積み木を積む、意味のある言葉(有意語)を話す → いずれも1歳前後以降に獲得する機能であり、9か月でできなくても異常ではない。 ・視線を合わせる(アイコンタクト) → 生後2〜3か月ころにはみられる対人反応であり、9か月で視線が合わないのは明らかに遅れている。 したがって、発達の遅れが考えられるのは④である。運動・微細運動・発声はおおむね月齢相当であるのに、社会性の領域だけに遅れがみられる点から、自閉スペクトラム症(ASD)などの社会的コミュニケーションの障害や、視覚障害の可能性も念頭に置いて経過をみる必要がある。
選択肢考察
- ×a. ①
座った姿勢から支えなしに自分で立ち上がる動作は、ひとり立ちが安定してくる1歳過ぎに可能となる。9か月では座位が安定して体をひねって振り向けるようになり、家具などにつかまって立つ段階であるため、①ができないのは正常範囲である。
- ×b. ②
9〜10か月はつかまり立ちや伝い歩きを始める時期である。独り歩きは1歳〜1歳3か月ころに多くの児ができるようになり、1歳6か月までにできない場合に遅れを疑う。9か月で独りで歩けないのは正常である。
- ×c. ③
9〜10か月では、親指と人差し指で小さな物をつまむ動作ができるようになる。本児はこれができており、微細運動は月齢相当である。積み木を2個積めるのは1歳過ぎ、数個を積み上げられるのは1歳6か月ころであり、9か月でできないのは正常である。
- ○d. ④
視線を合わせることは、生後2〜3か月ころにあやすと笑う(社会的微笑)のとほぼ同時期にみられる、最も早い時期の対人反応である。9か月で視線が合わないのは社会性の発達の明らかな遅れであり、ASDや知的発達症、視覚障害などを考えて精査・経過観察が必要である。なお、自分の手をじっと見つめる動作(ハンドリガード)は3〜4か月ころにみられるもので、これ自体は年齢の早い段階の行動である。
- ×e. ⑤
「アー」「ウー」などの発声や、「ダダダ」「バババ」といった喃語は乳児期前半から後半にかけてみられ、9か月の発声として問題ない。「ママ」「パパ」などの意味のある言葉(初語)は1歳前後に出現し、1歳6か月で有意語がない場合に遅れを疑う。9か月で有意語がないのは正常である。
主な発達のマイルストーン(おおよその獲得時期)
・2〜3か月:あやすと笑う(社会的微笑)、視線が合う、追視 ・3〜4か月:首がすわる(定頸)、ハンドリガード ・5〜6か月:寝返り、手を伸ばして物をつかむ ・6〜7か月:支えなしで座る、物を持ち替える、喃語 ・9〜10か月:つかまり立ち、はいはい、指でつまむ、人見知り、バイバイなどのまね ・1歳:ひとり立ち・伝い歩き〜独り歩き開始、意味のある言葉(初語)、指さし ・1歳6か月:独り歩きが安定、積み木を数個積む、有意語が数語 ・2歳:2語文、走る
社会性の発達と自閉スペクトラム症(ASD)
ASDは、対人的コミュニケーションの障害と、限定された興味・反復的な行動を特徴とする神経発達症である。乳幼児期の早期徴候として、視線が合いにくい、名前を呼んでも振り向かない、指さしをしない・指さした方向を見ない(共同注意の欠如)、あやしても笑わないなどがある。1歳6か月児健康診査などで早期に気づき、療育などの支援につなげることが重要である。
視線が合わない場合の鑑別
ASDのほか、知的発達症(精神遅滞)、視覚障害(先天白内障、網膜疾患など)を考える。視覚障害の除外のため、追視や瞳孔反射・赤色反射などの眼の評価も行う。
原始反射と運動発達
原始反射の消失と随意運動の獲得は関連している。例えば、Moro反射の消失と定頸、手の把握反射の消失と自由に物をつかむ動作、非対称性緊張性頸反射の消失と寝返り、足の把握反射の消失と立位の獲得がそれぞれ対応する。
乳幼児健康診査
母子保健法で市町村に実施が義務づけられているのは1歳6か月児と3歳児の健康診査であり、3〜4か月、9〜10か月などの健診はこれ以外に多くの自治体で行われている。
POINT
・発達の評価は「その月齢でできているはずのことができているか」で判断する。 ・視線が合う・あやすと笑うのは2〜3か月であり、9か月で視線が合わないのは遅れである。 ・独り歩き・有意語は1歳前後、積み木を積むのは1歳過ぎ〜1歳6か月であり、9か月でできなくても正常である。 ・独り歩きや有意語は1歳6か月までにみられなければ遅れを疑う。 ・視線が合わない乳児では、ASD・知的発達症・視覚障害を考える。
