倒れた患者を前に、最初の一手は「声」―一次救命処置の順番を体に刻む
第119回医師国家試験 B問題 第26問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。糖尿病のため教育入院中である。医師が病棟の廊下を歩いているときに,病室内から大きな音が聞こえた。急いで病室へ駆けつけると,患者がベッドサイドに倒れており,呼びかけに対して反応がない。 まず行うべき対応はどれか。
- a.応援を呼ぶ。
- b.頸椎を固定する。
- c.胸骨圧迫を開始する。
- d.呼吸の有無を確認する。
- e.頸動脈の拍動を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
倒れている人に反応がないと確認したら、まず大声で応援を呼び、院内の緊急コールとAED・救急カートの手配を行うのが一次救命処置の最初の一手です。そのうえで呼吸(医療従事者は頸動脈の拍動も)を10秒以内に確認し、普段どおりの呼吸がない、死戦期呼吸である、または判断に迷う場合は心停止として胸骨圧迫から心肺蘇生を開始します。頸椎の固定は救命処置より優先せず、外傷が疑われる場合は下顎挙上法で気道を確保するなどの工夫で対応します。糖尿病患者の急変では急性冠症候群や致死性不整脈、脳卒中、低血糖などを想定しますが、原因検索は蘇生の流れの中や自己心拍再開後に行います。現場で迷わず動けるよう、BLSの順番を確実に身につけておくことが救命率の向上に直結します。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・65歳男性、糖尿病の教育入院中。教育入院は食事療法・薬物療法・自己管理を学ぶための入院であり、もともと全身状態は比較的安定していたと考えられる。 ・病室で大きな音がした直後、ベッドサイドに倒れていた → 突然の発症(急変)である。 ・呼びかけに反応がない → 重い意識障害、あるいは心停止の可能性がある。
背景にある病態の想定
糖尿病患者は動脈硬化が進みやすく、急性心筋梗塞や致死性不整脈による心停止、脳卒中のリスクが高い。また、インスリンや経口血糖降下薬の調整中であれば低血糖による意識障害も考えなければならない。ただし、倒れている時点で原因を突き止めることはできないし、その必要もない。最優先は「心停止かどうか」を見極め、心停止なら直ちに心肺蘇生(CPR)を始めることである。
一次救命処置(BLS)の流れ
日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドラインに沿った手順は次のとおりである。 1. 周囲の安全を確認する。 2. 肩をたたきながら呼びかけ、反応を確認する。 3. 反応がなければ、大声で応援を呼び、救急対応の要請(院内では緊急コール)と自動体外式除細動器(AED)・救急カートの手配を依頼する。 4. 呼吸を確認する(医療従事者は頸動脈の拍動の確認も同時に行ってよい)。10秒以内で判断する。 5. 普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合は心停止とみなし、胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する。AEDが届けば直ちに装着する。 本問の患者はすでに「反応がない」ことが確認された段階にある。したがって次に行うのは、呼吸や脈の確認より先に、応援と資器材を確保することである。1人の医師だけでは、胸骨圧迫・人工呼吸・AED操作・薬剤投与などを同時に行うことはできず、心停止であれば一刻も早くチームで対応する必要があるためである。
選択肢考察
- ○a. 応援を呼ぶ。
反応がないことを確認したら、まず大声で周囲に助けを求め、院内の緊急コールの要請とAED・救急カートの手配を行う。心停止であった場合、救命率は胸骨圧迫と除細動をどれだけ早く始められるかに大きく左右される。人手と資器材を早く集めるため、応援要請は呼吸や脈の確認より先に行う。
- ×b. 頸椎を固定する。
ベッドからの転落で頭部や頸部を打った可能性はあり、頸椎損傷が疑われる状況ではむやみに首を動かさない配慮は必要である。しかし、生命を直接脅かすのは心停止や呼吸停止であり、頸椎の固定を蘇生処置より優先することはない。外傷が疑われる場合でも、気道確保は頭部後屈を避けて下顎挙上法で行うなどの工夫をしつつ、救命処置を優先する。
- ×c. 胸骨圧迫を開始する。
胸骨圧迫は、呼吸の確認で普段どおりの呼吸がない(または判断に迷う)と分かり、心停止と判断してから開始する。本問の段階ではまだ呼吸の確認が済んでいない。また、応援を呼ばずに胸骨圧迫を始めると、AEDの到着や人員の確保が遅れてしまう。
- ×d. 呼吸の有無を確認する。
呼吸の確認は心停止を判断するために欠かせないが、応援要請の後に行う。胸と腹部の動きを見て、10秒以内に普段どおりの呼吸があるかを判断する。しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸(死戦期呼吸)は、正常な呼吸とはみなさず心停止として扱う。
- ×e. 頸動脈の拍動を確認する。
医療従事者は、応援要請の後、呼吸の確認と同時に頸動脈の拍動を確認してよい。ただし、脈の触知は熟練者でも判断が難しく、確認に時間をかけることで胸骨圧迫の開始が遅れてはならない。10秒以内に脈がはっきり分からなければ、心停止として胸骨圧迫を開始する。
成人の一次救命処置(BLS)の要点
・反応の確認 → 応援要請・AED手配 → 呼吸(と脈)の確認 → 心肺蘇生 → AED装着の順に行う。 ・胸骨圧迫:胸骨の下半分を、深さ約5cm(6cmを超えない)、1分間に100〜120回のテンポで、圧迫のたびに胸が元の高さに戻るようにして行う。中断は最小限にする。 ・人工呼吸ができる場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返す。 ・AEDが届いたら電源を入れて電極パッドを貼り、心電図の解析で電気ショックが必要と判断されればショックを行い、直ちに胸骨圧迫を再開する。
A→B→CからC→A→Bへ
かつては気道確保(A:Airway)→人工呼吸(B:Breathing)→胸骨圧迫(C:Circulation)の順とされていた。現在は、心停止の多くで血流を早く再開させることが重要であり、気道確保や人工呼吸の準備で胸骨圧迫の開始が遅れないよう、胸骨圧迫を先に始める(C→A→B)とされている。
脈はあるが呼吸がない場合
医療従事者が脈を確実に触れるのに十分な呼吸がないと判断した場合は、気道を確保して人工呼吸(成人では約6秒に1回)を行い、脈の確認を繰り返す。
糖尿病患者の院内急変で考えること
蘇生の流れの中で、または自己心拍が戻った後に、原因の検索を行う。糖尿病患者では、急性冠症候群、致死性不整脈、脳卒中のほか、薬剤による低血糖を見逃さないことが重要であり、簡易血糖測定を早めに行う。
POINT
・倒れている人に反応がなければ、まず応援を呼び、緊急コールとAEDを手配する。 ・その後に呼吸(医療従事者は脈も)を10秒以内に確認する。 ・普段どおりの呼吸がなければ、胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する(C→A→B)。 ・死戦期呼吸は心停止のサインとして扱う。 ・頸椎の固定は救命処置より優先しない。
