StudyMed医師国家試験

窒息で倒れたら「取り出す」より「押す」―意識消失が切り替えの合図

第118回医師国家試験 E問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第23問

窒息後に意識を消失して倒れた人に対し,まず行うべき対応はどれか。

  1. a.胸骨圧迫
  2. b.背部叩打
  3. c.腹部突き上げ
  4. d.口対口人工呼吸
  5. e.口腔内異物除去

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、のどに物を詰まらせた人が意識を失って倒れたとき、最初に何をするかという一次救命処置の問題だ。ポイントは「反応(意識)があるかどうか」で対応がガラッと変わること。窒息というと異物を取り除く手技が真っ先に浮かぶと思うけれど、そこに落とし穴がある。
医学生医学生
窒息なら原因は異物なので、まず異物を取り出すのが筋のように思えてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。では順を追って考えよう。反応がある段階、たとえば喉を押さえて声が出せない人がいたら、どうする?
医学生医学生
BLS講習で習いました。強い咳ができるなら咳を続けさせて、できなければ背部叩打法や腹部突き上げ法ですよね。
ドクタードクター
その通り。喉に手を当てる仕草はチョークサインと呼ばれ、声が出ない・咳ができないのは重度の閉塞のサインだ。この段階では背部叩打と腹部突き上げを、異物が出るか反応がなくなるまで繰り返す。日本のガイドラインでは、両者の順序はその場で行いやすい方でよいとされている。
医学生医学生
では、意識を失ってしまったら、その手技を続ければいいのでしょうか。
ドクタードクター
そこが今回の核心。意識を失って倒れた時点で、低酸素によって心停止、あるいはその直前の状態にある可能性が高い。だから異物除去の手技はやめて、周囲に119番通報とAEDの手配を頼み、すぐに通常の心肺蘇生、つまり胸骨圧迫から始めるんだ。正解は胸骨圧迫だね。
医学生医学生
でも、気道が詰まったままで胸を押して意味があるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。理由は2つある。1つは、止まりかけた循環を胸骨圧迫で補い、脳や心臓への血流を保つこと。もう1つは、胸骨圧迫で胸腔内圧が急激に上がるので、胸部突き上げと同じように異物を押し出す効果も期待できることだ。脈の確認や異物探しに時間を使うより、圧迫を始める方が理にかなっている。
医学生医学生
なるほど、胸骨圧迫そのものが異物除去の役割も兼ねているんですね。では背部叩打や腹部突き上げは、反応がある人向けの手技ということですか。
ドクタードクター
そう。腹部突き上げはHeimlich法とも呼ばれ、臍とみぞおちの間に握りこぶしを当てて手前上方へ突き上げる。ただし腹部内臓を傷つけるおそれがあるので、実施後は受診を勧める。妊婦や乳児には行わず、胸部突き上げや背部叩打で代用するのも大事なポイントだ。
医学生医学生
気道が塞がっているなら、口対口人工呼吸で空気を送り込むのはどうでしょう。
ドクタードクター
閉塞しているあいだは息を吹き込んでも肺に入りにくく、最初の処置としては効果が乏しい。そもそも今の一次救命処置は、反応のない人には胸骨圧迫から始め、人工呼吸の技術と意思があれば圧迫30回ごとに2回を組み合わせる流れだ。人工呼吸を先行させることはない。
医学生医学生
口の中に指を入れてかき出すのも、救急科の実習で「やってはいけない」と言われた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。見えない異物を指で探る盲目的な指拭法は、異物をさらに奥へ押し込んだり、口腔や咽頭を傷つけたりする危険がある。心肺蘇生の途中、気道確保のときに口の中に異物が見えた場合に限って取り除く、というのが原則だ。
医学生医学生
反応があれば背部叩打と腹部突き上げ、反応がなくなったら即CPR、異物は見えたときだけ取る、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に質の高い胸骨圧迫も確認しておこう。成人では胸骨の下半分を、約5cm、6cmを超えない深さで、1分間に100〜120回のテンポで押す。毎回胸壁を元の位置まで戻し、中断は10秒以内にとどめる。OSCEでもよく見られるところだね。
医学生医学生
普段どおりの呼吸がなければ、脈の確認にこだわらずに始めていいんですよね。
ドクタードクター
その通り。普段どおりの呼吸がなければ、脈の確認に時間をかけずに圧迫を始めるのが基本だ。臨床では、高齢者施設や病棟での食事中の窒息に出会うことが少なくない。目の前で倒れた瞬間に頭を切り替えられるかどうかが、救命を左右するよ。

まとめ

気道異物による窒息では、傷病者の反応の有無で対応が切り替わります。反応があり咳ができない重度の閉塞では背部叩打法や腹部突き上げ法(Heimlich法)を行いますが、妊婦や乳児には腹部突き上げを用いず、胸部突き上げや背部叩打で代用します。意識を失って倒れた時点で低酸素による心停止が差し迫っていると考え、119番通報とAEDの手配を依頼したうえで、ただちに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始します。胸骨圧迫は循環を補うだけでなく、胸腔内圧を高めて異物を押し出す効果も期待でき、盲目的な指拭法や人工呼吸の先行は勧められません。「反応がなくなったら迷わず胸骨圧迫」という原則は、病棟や施設での食事中の窒息に遭遇したときに即座に役立つ、医療者として必須の知識です。

解答・解説

正解はaです

本問は、気道異物による窒息の対応が、傷病者の反応(意識)の有無によって切り替わることを理解しているかを問う一般問題である。 気道異物による窒息では、まず傷病者に反応があるかどうかで対応を分ける。 ・反応がある場合: 強い咳ができるなら咳を続けさせる。咳ができない・声が出ないなど重度の閉塞なら、背部叩打法や腹部突き上げ法(Heimlich法)で異物の除去を試みる。 ・反応がなくなった場合: 異物除去の手技を続けるのではなく、ただちに通常の心肺蘇生(CPR: cardiopulmonary resuscitation)に移る。周囲に応援を求めて119番通報とAED(自動体外式除細動器)の手配を依頼し、胸骨圧迫から開始する。 意識を失って倒れた時点で、低酸素による心停止またはその直前の状態にある可能性が高い。この段階では、脈の確認や異物除去の試みに時間を費やすより、胸骨圧迫で脳や心臓への血流を保つことが優先される。さらに胸骨圧迫は胸腔内圧を急激に高めるため、胸部突き上げと同様に気道内の異物を押し出す効果も期待できる。したがって、まず行うべき対応は胸骨圧迫である。

選択肢考察

  1. ○a.  胸骨圧迫

    正しい。窒息で反応がなくなった傷病者には、通報とAEDの手配を行ったうえで、ただちに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する。胸骨圧迫は低酸素で停止しかけた循環を補うと同時に、胸腔内圧を上昇させて異物を押し出す作用ももつ。成人では胸骨の下半分を、約5cm(6cmを超えない)の深さ、1分間に100〜120回のテンポで、圧迫のたびに胸壁を元の位置まで戻しながら、中断を最小限にして行う。

  2. ×b.  背部叩打

    誤り。背部叩打法は、反応はあるが咳ができない重度の気道閉塞の傷病者に行う異物除去法である。傷病者の後方からやや前かがみにさせ、手のひらの付け根で左右の肩甲骨の間を数回強く叩く。乳児にも用いることができる。反応を失った傷病者には行わず、心肺蘇生を優先する。

  3. ×c.  腹部突き上げ

    誤り。腹部突き上げ法(Heimlich法)も、反応がある窒息の傷病者に対する異物除去法である。傷病者の後ろに回り、臍とみぞおち(剣状突起)の間に握りこぶしを当て、もう一方の手で包んで手前上方へ素早く突き上げる。腹部内臓を損傷するおそれがあるため、実施後は医療機関の受診を勧める。妊婦や乳児には行わず、代わりに胸部突き上げ法や背部叩打法を用いる。反応がなくなった場合は中止して心肺蘇生に移る。

  4. ×d.  口対口人工呼吸

    誤り。気道が異物で閉塞しているあいだは、人工呼吸を行っても空気が肺に入りにくく、まず行う処置としては効果が乏しい。現在の一次救命処置では、反応のない傷病者に対して胸骨圧迫から開始し、人工呼吸の技術と意思がある場合は胸骨圧迫30回ごとに2回の人工呼吸を組み合わせる。人工呼吸を胸骨圧迫に先行させることはない。

  5. ×e.  口腔内異物除去

    誤り。口の中に指を入れて見えない異物を探る盲目的な指拭法(finger sweep)は、異物をかえってさらに奥へ押し込んだり、口腔・咽頭を傷つけたりする危険があるため勧められない。心肺蘇生の途中(人工呼吸のために気道を確保したときなど)に口腔内に異物が見えた場合に限って、それを取り除く。まず行う処置ではない。

気道異物による窒息の対応(一次救命処置)

・窒息の認識: 声が出ない、咳ができない、顔色が急に悪くなる、喉に手を当てる「窒息のサイン(チョークサイン)」などから窒息を疑う。 ・反応がある場合: 119番通報を依頼し、強い咳ができればそれを促す。咳ができなければ背部叩打法・腹部突き上げ法を、異物が除去されるか反応がなくなるまで繰り返す(両者の順序はその場で行いやすい方でよいとされる)。 ・反応がなくなった場合: 通報・AEDの手配を確認し、胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する。普段どおりの呼吸がなければ脈の確認は行わない。 ・特殊な対象: 乳児には腹部突き上げを行わず、背部叩打法と胸部突き上げ法を交互に行う。妊婦や高度肥満者には腹部突き上げではなく胸部突き上げを行う。

成人の質の高い胸骨圧迫

・部位: 胸骨の下半分 ・深さ: 約5cm(6cmを超えない) ・テンポ: 100〜120回/分 ・毎回胸壁を元の位置まで戻し、中断を最小限(10秒以内)にする。 ・人工呼吸を行う場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返す。

POINT

・窒息で反応(意識)を失ったら、異物除去手技ではなく、通報・AED手配のうえ胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する。 ・胸骨圧迫には循環維持に加えて、胸腔内圧上昇による異物排出効果もある。 ・反応がある窒息では、背部叩打法・腹部突き上げ法を行う(乳児・妊婦には腹部突き上げを行わない)。 ・盲目的な口腔内の指拭法は行わず、異物が見えたときだけ除去する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。