StudyMed医師国家試験

口の中の小さな潰瘍が語る腸の病気―口腔内アフタとCrohn病

第117回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第12問

口腔内アフタの存在が診断に有用なのはどれか。

  1. a.腸結核
  2. b.Crohn病
  3. c.大腸憩室症
  4. d.虚血性大腸炎
  5. e.過敏性腸症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、口の中にできるアフタという所見から、どの腸疾患を思い浮かべるべきかを問う問題だよ。着眼点は「その病気が消化管のどこまで病変をつくるのか」「全身の粘膜に影響が及ぶ病気か」の2つ。まず、アフタとはどんな病変か説明できるかな。
医学生医学生
口内炎のことですよね。白っぽくて丸い、浅い潰瘍だったと思います。
ドクタードクター
そうだね。アフタは類円形の浅い小潰瘍で、表面が白色から黄白色の偽膜に覆われ、周りに赤い縁取り、つまり紅暈を伴うものを指す。ほとんどは原因のわからない再発性アフタ性口内炎だけれど、全身疾患の一症状として出ることがあり、そのときは診断の手がかりになるんだ。
医学生医学生
口内炎は誰にでもできるので、診断に役立つというのは少し意外です。
ドクタードクター
単独では非特異的だからこそ、腸の症状や他の所見と組み合わせたときに意味をもつ。では選択肢の中で、口から肛門までどこにでも病変をつくりうる病気はどれだろう。
医学生医学生
消化器内科の講義で「口腔から肛門まで」と強調されていたのはCrohn病です。
ドクタードクター
正解。Crohn病は若年者に好発する原因不明の慢性炎症性腸疾患で、消化管のどこにでも、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を伴う全層性の炎症が非連続性、いわゆるスキップ状に生じる。口腔はまさに消化管の入口だから、口腔内アフタはCrohn病の病変そのもの、あるいは腸管外合併症として現れる。腹痛や下痢、体重減少、痔瘻などの肛門病変に口腔内アフタが加われば、Crohn病を強く疑う根拠になるんだ。
医学生医学生
腸結核もCrohn病と鑑別が難しいと習いました。腸結核でも口内炎は出ないのでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。腸結核はCrohn病と同じく回盲部に好発するので鑑別が問題になるけれど、口腔内アフタは手がかりにならない。腸結核は腸管の短軸方向に広がる輪状潰瘍や帯状潰瘍、萎縮瘢痕帯、回盲弁の変形・開大が特徴で、生検での乾酪壊死を伴う肉芽腫や結核菌の証明、IGRAなどで診断する。Crohn病の縦走潰瘍と対比して覚えるといい。
医学生医学生
もし腸結核をCrohn病と間違えて治療したらまずいですよね。
ドクタードクター
その通り。Crohn病だと思って免疫抑制治療を始めると結核が悪化してしまう。だから両者の鑑別は臨床的にとても重要なんだ。次に大腸憩室症はどうかな。
医学生医学生
憩室は腸の壁が袋状に飛び出す構造的な変化なので、口の粘膜とは関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。腸管内圧の上昇と加齢による壁の脆弱化で生じる仮性憩室で、多くは無症状。合併症は憩室炎や憩室出血で、口腔内アフタとの関連はない。虚血性大腸炎は、便秘がちな高齢者に突然の腹痛と下痢・下血で発症する、大腸粘膜の一過性の血流障害だ。下行結腸からS状結腸に好発するけれど、これも口とは無関係だね。
医学生医学生
過敏性腸症候群は器質的な異常がない機能性疾患なので、そもそも粘膜病変は出ないということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。むしろ口腔内アフタのような粘膜病変があれば、IBSと決めつけずに器質的疾患を探すべきサインになる。整理すると、他の選択肢は感染症、構造的変化、血流障害、機能性疾患で、全身の粘膜に病変をつくる病気ではないんだ。
医学生医学生
選択肢を「全身性に粘膜病変を起こすかどうか」で分けると、すっきり解けますね。
ドクタードクター
そう。発展として、口腔内アフタを伴う全身疾患も押さえておこう。代表はBehçet病で、再発性口腔内アフタ性潰瘍はほぼ必発の主症状。外陰部潰瘍、結節性紅斑などの皮膚症状、ぶどう膜炎が並ぶ。腸管型Behçet病では回盲部に深い打ち抜き潰瘍ができるから、Crohn病との鑑別にも挙がる。ほかにSLE、反応性関節炎、好中球減少をきたす疾患、ビタミンB12・葉酸・鉄欠乏なども口腔潰瘍の原因になる。
医学生医学生
臨床実習で口内炎を繰り返す若い患者さんがいたら、腸の症状や眼・皮膚の症状も問診で確認するべきですね。
ドクタードクター
まさにそれが大事。Crohn病の腸管外合併症には、関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎・ぶどう膜炎、原発性硬化性胆管炎、尿路結石などもある。口の中を診ることは、全身を診る入口でもあるんだ。

まとめ

アフタは偽膜と紅暈を伴う類円形の浅い小潰瘍で、多くは特発性ですが、全身疾患の部分症状として現れると診断の手がかりになります。消化管疾患ではCrohn病が代表で、口腔から肛門まで消化管のどこにでも非連続性の全層性肉芽腫性炎症を生じるため、腸症状や肛門病変に口腔内アフタが加わればCrohn病を強く疑います。腸結核は回盲部好発でCrohn病と鑑別が必要ですが、輪状潰瘍や乾酪性肉芽腫が特徴で口腔内アフタは手がかりにならず、大腸憩室症・虚血性大腸炎・過敏性腸症候群もアフタとの関連はありません。口腔内アフタを伴う疾患としてはBehçet病も重要で、眼・皮膚・陰部症状とあわせて評価します。口の中の小さな所見から全身疾患を想起する視点は、日常診療での見逃しを防ぐうえで欠かせません。

解答・解説

正解はbです

アフタとは、口腔粘膜などにみられる類円形の浅い小潰瘍で、表面が白色〜黄白色の偽膜で覆われ、周囲に紅暈(赤い縁取り)を伴うものをいう。多くは原因の特定できない再発性アフタ性口内炎であるが、全身疾患の部分症状として現れることがあり、その場合は診断の手がかりとなる。 消化管疾患で口腔内アフタが診断上の意味をもつ代表はCrohn病である。Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどの部位にも非連続性(スキップ状)の病変を生じうる慢性の肉芽腫性炎症性疾患であり、口腔内アフタはその「消化管の一部としての口腔病変」あるいは腸管外合併症として現れる。腸の症状(腹痛・下痢・体重減少)や肛門病変に加えて口腔内アフタがあれば、Crohn病を強く疑う根拠となる。 一方、選択肢の他の疾患は、感染症(腸結核)、構造的変化(憩室)、血流障害(虚血性大腸炎)、機能性疾患(過敏性腸症候群)であり、いずれも口腔内アフタとの特異的な関連はない。全身性に粘膜病変を生じる疾患かどうか、という視点で選択肢を見ると判断しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  腸結核

    腸結核は、肺結核の喀痰の嚥下などにより結核菌が腸管に感染して起こる。リンパ組織の豊富な回盲部に好発し、腸管の短軸方向(全周性)に広がる輪状潰瘍・帯状潰瘍、治癒過程での萎縮瘢痕帯、輪状狭窄、回盲弁の変形・開大が特徴である。診断は生検組織での乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫の証明、培養やPCRによる結核菌の検出、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)などで行う。Crohn病との鑑別が問題となる疾患であるが、口腔内アフタは診断の手がかりにならない。

  2. ○b.  Crohn病

    Crohn病は10〜20歳代の若年者に好発する原因不明の慢性炎症性腸疾患で、口腔から肛門までの消化管全体に、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を伴う全層性の炎症が非連続性に生じる。腹痛、下痢、発熱、体重減少、腹部腫瘤のほか、痔瘻・肛門周囲膿瘍などの肛門病変が高頻度にみられる。口腔内アフタは比較的よくみられる病変であり、関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎(ぶどう膜炎)などの腸管外合併症とともに診断の重要な手がかりとなる。内視鏡では縦走潰瘍、敷石像、多発するアフタ・不整形潰瘍が特徴である。

  3. ×c.  大腸憩室症

    大腸憩室症は、腸管内圧の上昇と加齢による腸管壁の脆弱化により、血管が貫通する筋層の弱い部分から粘膜・粘膜下層が袋状に壁外へ突出した状態(仮性憩室)が多発するものである。日本では右側結腸に多いが、高齢者では左側(S状結腸)の憩室が増える。多くは無症状で、内視鏡や注腸造影で偶然見つかることが多い。合併症として憩室炎(穿孔・膿瘍・瘻孔形成を起こしうる)や憩室出血がある。口腔内アフタとの関連はない。

  4. ×d.  虚血性大腸炎

    虚血性大腸炎は、主幹動脈に明らかな閉塞がないまま大腸粘膜に一過性の血流障害が起こり、粘膜の炎症・壊死を生じる疾患である。便秘を伴う高齢者や動脈硬化のある人に多く、下行結腸からS状結腸に好発する。突然の腹痛に続く下痢・下血で発症するのが典型的である。内視鏡では区域性の粘膜浮腫、発赤、出血、縦走潰瘍がみられ、多くは保存的治療(腸管安静、輸液)で改善する。口腔内アフタとは関係がない。

  5. ×e.  過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群(IBS)は、腸に器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛と便通異常(便秘型・下痢型・混合型など)が慢性的に続く機能性疾患である。Rome IV基準では、腹痛が排便に関連する、排便頻度の変化を伴う、便形状の変化を伴う、のうち2項目以上を満たすことが条件となる。器質的疾患の除外が前提であり、口腔内アフタのような粘膜病変はむしろ他疾患を疑う所見となる。

口腔内アフタを伴う主な全身疾患

・Crohn病(炎症性腸疾患。潰瘍性大腸炎でもみられることがある) ・Behçet病:再発性口腔内アフタ性潰瘍が主症状の一つで、ほぼ必発。外陰部潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑など)、眼症状(ぶどう膜炎)を主症状とし、腸管型Behçet病では回盲部に深い打ち抜き潰瘍を生じる ・反応性関節炎(かつてのReiter症候群) ・周期性好中球減少症、Felty症候群など好中球減少をきたす疾患 ・全身性エリテマトーデス(SLE):口腔潰瘍が分類基準の項目に含まれる ・セリアック病、ビタミンB12・葉酸・鉄欠乏など

Crohn病と腸結核の鑑別

Crohn病:縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、非乾酪性肉芽腫、肛門病変・口腔内アフタを伴いやすい。 腸結核:輪状・帯状潰瘍、萎縮瘢痕帯、回盲弁の変形・開大、乾酪性肉芽腫、結核菌の証明。 両者は回盲部に好発する点が共通し、腸結核をCrohn病と誤診して免疫抑制治療を行うと結核が悪化するため、慎重な鑑別が必要である。

Crohn病の腸管外合併症

関節炎、強直性脊椎炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎・ぶどう膜炎、原発性硬化性胆管炎、胆石、尿路結石(シュウ酸カルシウム結石)、口腔内アフタなどがある。

POINT

・口腔内アフタは全身疾患の手がかりになる。消化管疾患ではCrohn病、全身疾患ではBehçet病が代表である。 ・Crohn病は口腔から肛門まで消化管のどこにでも病変を生じうる。 ・Crohn病:縦走潰瘍・敷石像・非乾酪性肉芽腫・肛門病変。腸結核:輪状潰瘍・乾酪性肉芽腫。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。