口の中の小さな潰瘍が語る腸の病気―口腔内アフタとCrohn病
第117回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
口腔内アフタの存在が診断に有用なのはどれか。
- a.腸結核
- b.Crohn病
- c.大腸憩室症
- d.虚血性大腸炎
- e.過敏性腸症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
アフタは偽膜と紅暈を伴う類円形の浅い小潰瘍で、多くは特発性ですが、全身疾患の部分症状として現れると診断の手がかりになります。消化管疾患ではCrohn病が代表で、口腔から肛門まで消化管のどこにでも非連続性の全層性肉芽腫性炎症を生じるため、腸症状や肛門病変に口腔内アフタが加わればCrohn病を強く疑います。腸結核は回盲部好発でCrohn病と鑑別が必要ですが、輪状潰瘍や乾酪性肉芽腫が特徴で口腔内アフタは手がかりにならず、大腸憩室症・虚血性大腸炎・過敏性腸症候群もアフタとの関連はありません。口腔内アフタを伴う疾患としてはBehçet病も重要で、眼・皮膚・陰部症状とあわせて評価します。口の中の小さな所見から全身疾患を想起する視点は、日常診療での見逃しを防ぐうえで欠かせません。
解答・解説
正解はbです
アフタとは、口腔粘膜などにみられる類円形の浅い小潰瘍で、表面が白色〜黄白色の偽膜で覆われ、周囲に紅暈(赤い縁取り)を伴うものをいう。多くは原因の特定できない再発性アフタ性口内炎であるが、全身疾患の部分症状として現れることがあり、その場合は診断の手がかりとなる。 消化管疾患で口腔内アフタが診断上の意味をもつ代表はCrohn病である。Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどの部位にも非連続性(スキップ状)の病変を生じうる慢性の肉芽腫性炎症性疾患であり、口腔内アフタはその「消化管の一部としての口腔病変」あるいは腸管外合併症として現れる。腸の症状(腹痛・下痢・体重減少)や肛門病変に加えて口腔内アフタがあれば、Crohn病を強く疑う根拠となる。 一方、選択肢の他の疾患は、感染症(腸結核)、構造的変化(憩室)、血流障害(虚血性大腸炎)、機能性疾患(過敏性腸症候群)であり、いずれも口腔内アフタとの特異的な関連はない。全身性に粘膜病変を生じる疾患かどうか、という視点で選択肢を見ると判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 腸結核
腸結核は、肺結核の喀痰の嚥下などにより結核菌が腸管に感染して起こる。リンパ組織の豊富な回盲部に好発し、腸管の短軸方向(全周性)に広がる輪状潰瘍・帯状潰瘍、治癒過程での萎縮瘢痕帯、輪状狭窄、回盲弁の変形・開大が特徴である。診断は生検組織での乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫の証明、培養やPCRによる結核菌の検出、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)などで行う。Crohn病との鑑別が問題となる疾患であるが、口腔内アフタは診断の手がかりにならない。
- ○b. Crohn病
Crohn病は10〜20歳代の若年者に好発する原因不明の慢性炎症性腸疾患で、口腔から肛門までの消化管全体に、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を伴う全層性の炎症が非連続性に生じる。腹痛、下痢、発熱、体重減少、腹部腫瘤のほか、痔瘻・肛門周囲膿瘍などの肛門病変が高頻度にみられる。口腔内アフタは比較的よくみられる病変であり、関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎(ぶどう膜炎)などの腸管外合併症とともに診断の重要な手がかりとなる。内視鏡では縦走潰瘍、敷石像、多発するアフタ・不整形潰瘍が特徴である。
- ×c. 大腸憩室症
大腸憩室症は、腸管内圧の上昇と加齢による腸管壁の脆弱化により、血管が貫通する筋層の弱い部分から粘膜・粘膜下層が袋状に壁外へ突出した状態(仮性憩室)が多発するものである。日本では右側結腸に多いが、高齢者では左側(S状結腸)の憩室が増える。多くは無症状で、内視鏡や注腸造影で偶然見つかることが多い。合併症として憩室炎(穿孔・膿瘍・瘻孔形成を起こしうる)や憩室出血がある。口腔内アフタとの関連はない。
- ×d. 虚血性大腸炎
虚血性大腸炎は、主幹動脈に明らかな閉塞がないまま大腸粘膜に一過性の血流障害が起こり、粘膜の炎症・壊死を生じる疾患である。便秘を伴う高齢者や動脈硬化のある人に多く、下行結腸からS状結腸に好発する。突然の腹痛に続く下痢・下血で発症するのが典型的である。内視鏡では区域性の粘膜浮腫、発赤、出血、縦走潰瘍がみられ、多くは保存的治療(腸管安静、輸液)で改善する。口腔内アフタとは関係がない。
- ×e. 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、腸に器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛と便通異常(便秘型・下痢型・混合型など)が慢性的に続く機能性疾患である。Rome IV基準では、腹痛が排便に関連する、排便頻度の変化を伴う、便形状の変化を伴う、のうち2項目以上を満たすことが条件となる。器質的疾患の除外が前提であり、口腔内アフタのような粘膜病変はむしろ他疾患を疑う所見となる。
口腔内アフタを伴う主な全身疾患
・Crohn病(炎症性腸疾患。潰瘍性大腸炎でもみられることがある) ・Behçet病:再発性口腔内アフタ性潰瘍が主症状の一つで、ほぼ必発。外陰部潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑など)、眼症状(ぶどう膜炎)を主症状とし、腸管型Behçet病では回盲部に深い打ち抜き潰瘍を生じる ・反応性関節炎(かつてのReiter症候群) ・周期性好中球減少症、Felty症候群など好中球減少をきたす疾患 ・全身性エリテマトーデス(SLE):口腔潰瘍が分類基準の項目に含まれる ・セリアック病、ビタミンB12・葉酸・鉄欠乏など
Crohn病と腸結核の鑑別
Crohn病:縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、非乾酪性肉芽腫、肛門病変・口腔内アフタを伴いやすい。 腸結核:輪状・帯状潰瘍、萎縮瘢痕帯、回盲弁の変形・開大、乾酪性肉芽腫、結核菌の証明。 両者は回盲部に好発する点が共通し、腸結核をCrohn病と誤診して免疫抑制治療を行うと結核が悪化するため、慎重な鑑別が必要である。
Crohn病の腸管外合併症
関節炎、強直性脊椎炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎・ぶどう膜炎、原発性硬化性胆管炎、胆石、尿路結石(シュウ酸カルシウム結石)、口腔内アフタなどがある。
POINT
・口腔内アフタは全身疾患の手がかりになる。消化管疾患ではCrohn病、全身疾患ではBehçet病が代表である。 ・Crohn病は口腔から肛門まで消化管のどこにでも病変を生じうる。 ・Crohn病:縦走潰瘍・敷石像・非乾酪性肉芽腫・肛門病変。腸結核:輪状潰瘍・乾酪性肉芽腫。
