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「色黒」になるかはACTH次第―副腎腺腫によるCushing症候群で現れない所見

第117回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第13問

副腎腺腫によるCushing症候群で認めないのはどれか。

  1. a.円形顔貌
  2. b.眼瞼浮腫
  3. c.骨粗鬆症
  4. d.色素沈着
  5. e.皮膚線条

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はCushing症候群の身体所見のうち、副腎腺腫が原因のときには出ないものを選ぶ問題だ。カギは「コルチゾール過剰そのものによる症状」と「ACTH過剰による症状」を分けて考えること。まず、Cushing症候群の原因はどう分類されるかな。
医学生医学生
ACTH依存性とACTH非依存性に分けると習いました。下垂体腺腫のCushing病や異所性ACTH症候群が依存性ですよね。
ドクタードクター
その通り。そして副腎腺腫や副腎癌、両側副腎の結節性過形成のように、副腎そのものが勝手にコルチゾールを出すのが非依存性。では、副腎腺腫のとき血中ACTHはどうなる?
医学生医学生
コルチゾールが多いので、ネガティブフィードバックでACTHは下がると思います。
ドクタードクター
正解。腺腫が出す過剰なコルチゾールが視床下部と下垂体を抑えるから、ACTHはむしろ低値になる。つまりこの病型で出る症状は、コルチゾール過剰そのものによるものだけで、ACTH過剰に由来する所見は出ない。この原則で選択肢を見てみよう。
医学生医学生
色素沈着はAddison病の所見として覚えていました。ACTHが関係していましたよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ACTHとα-MSHはどちらもPOMCという前駆体から切り出され、ACTH自体もメラノサイトのMC1R受容体を刺激してメラニン産生を促す。だから色素沈着はACTHの多さを反映する所見なんだ。副腎腺腫ではACTHが抑制されているので、色素沈着は起こらない。これが答えになる。
医学生医学生
なるほど、Addison病は副腎が壊れてコルチゾールが出ないからACTHが上がって黒くなる、その逆というわけですね。
ドクタードクター
その通り。では残りの所見がなぜ出るかも確認しよう。満月様顔貌はどう説明できる?
医学生医学生
内分泌の講義でmoon faceは脂肪の再分布だと習いました。
ドクタードクター
そう。コルチゾール過剰はインスリン抵抗性と高インスリン血症を介して、顔面・頸部・体幹に脂肪を沈着させる。中心性肥満や野牛肩、鎖骨上窩の脂肪沈着も同じ機序で、原因が下垂体でも副腎でも共通してみられる。
医学生医学生
眼瞼浮腫は少し意外でした。Cushing症候群でむくむイメージがなかったです。
ドクタードクター
典型的所見として強調されることは少ないから、迷うのも無理はない。コルチゾールは大量にあると腎尿細管のミネラルコルチコイド受容体にも結合する。普段は11β-HSD2という酵素がコルチゾールを不活性なコルチゾンに変えて受容体を守っているけれど、過剰になると処理しきれない。するとアルドステロン様作用でナトリウムと水が貯留し、浮腫や高血圧、低カリウム血症が起こる。顔の脂肪沈着と相まって、眼瞼周囲がむくんだ印象になるんだ。
医学生医学生
骨粗鬆症はステロイドの副作用として病棟でもよく聞きます。
ドクタードクター
そうだね。コルチゾールは骨芽細胞を抑えて骨形成を低下させ、腸管からのカルシウム吸収抑制や腎からの排泄増加も加わる。続発性骨粗鬆症の代表的な原因で、椎体圧迫骨折につながる。皮膚線条は、蛋白異化作用でコラーゲン合成が落ちて真皮が薄くなったところに、中心性肥満で皮膚が急に伸ばされて真皮が断裂したものだ。
医学生医学生
妊娠線と違って赤紫色なのは、皮膚が薄くて血管が透けるからでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。幅広い赤紫色の線条はCushing症候群に特異性の高い徴候だ。同じ理由で紫斑もできやすい。
医学生医学生
整理すると、コルチゾールの作用で説明できるものは全部出て、ACTHの作用である色素沈着だけが出ない、ということですね。
ドクタードクター
その2段構えの考え方が大事。発展として、色素沈着が目立つのはACTHが著明に高い異所性ACTH症候群で、肺小細胞癌やカルチノイドが原因になる。高度の低カリウム血症を伴いやすく、典型的な体型変化がそろう前に急速に進むこともある。Cushing病ではACTHの上昇が軽度なことが多く、色素沈着は目立たないことが多い。もう一つ、ACTHは副腎アンドロゲンも刺激するので、副腎腺腫ではアンドロゲンが低下するのが普通だ。強い男性化徴候があれば副腎癌を疑うきっかけになる。
医学生医学生
腺腫と反対側の副腎が萎縮するのも、ACTHが下がるからですね。
ドクタードクター
その通り。だから腺腫を摘出した後は、萎縮した対側副腎がすぐには働かず副腎不全になりうるので、術後のステロイド補充が必要になる。病態生理がそのまま臨床管理につながる良い例だね。

まとめ

Cushing症候群はACTH依存性(Cushing病、異所性ACTH症候群)とACTH非依存性(副腎腺腫、副腎癌など)に分かれ、副腎腺腫では自律的なコルチゾール分泌によるネガティブフィードバックで血中ACTHが低値となります。満月様顔貌、浮腫、骨粗鬆症、赤紫色の皮膚線条はいずれもコルチゾール過剰そのものの作用で生じるため、病型を問わずみられます。一方、色素沈着はPOMC由来のACTHやα-MSHがメラノサイトを刺激して生じるACTH過剰の所見であり、ACTHが抑制される副腎腺腫ではみられません。色素沈着が目立つのは異所性ACTH症候群やAddison病で、Cushing病では軽度のことが多い点もあわせて押さえましょう。「コルチゾールの作用か、ACTHの作用か」を切り分ける考え方は、副腎疾患全般の病態理解と鑑別の基本となります。

解答・解説

正解はdです

Cushing症候群は、コルチゾール(糖質コルチコイド)が慢性的に過剰になることで特徴的な身体所見と代謝異常を示す病態の総称である。原因によって、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が増えているACTH依存性(下垂体腺腫によるCushing病、肺小細胞癌やカルチノイドなどによる異所性ACTH症候群)と、副腎自体がコルチゾールを自律的に分泌するACTH非依存性(副腎腺腫、副腎癌、両側副腎の結節性過形成など)に分けられる。 本問の副腎腺腫はACTH非依存性であり、腺腫が産生する過剰なコルチゾールが視床下部-下垂体に負のフィードバックをかけるため、血中ACTHはむしろ低値に抑えられる。したがって、この病型で出現する所見は「コルチゾール過剰そのもの」による症状に限られ、「ACTH過剰」に由来する所見は現れない。 この原則で選択肢を整理すると、円形顔貌・浮腫・骨粗鬆症・皮膚線条はいずれもコルチゾール過剰の作用で説明できるのに対し、色素沈着はACTH(およびその前駆体に由来するメラノサイト刺激作用)の過剰によって生じる所見である。副腎腺腫ではACTHが低下しているため色素沈着は起こらない。「認めないもの」を問う設問であるから、色素沈着が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  円形顔貌

    認める所見である。コルチゾール過剰はインスリン抵抗性と高インスリン血症を介して脂肪の合成・再分布を促し、顔面・頸部・体幹に脂肪が沈着する。その結果、頬がふくらんだ満月様顔貌(moon face)となり、顔面の赤ら顔(多血様顔貌)を伴うことも多い。同じ機序で中心性肥満や項部の脂肪沈着(野牛肩、buffalo hump)、鎖骨上窩の脂肪沈着も生じる。原因が下垂体でも副腎でも共通してみられる代表的所見である。

  2. ×b.  眼瞼浮腫

    認める所見である。コルチゾールは大量に存在すると、腎尿細管のミネラルコルチコイド受容体にも結合してアルドステロン様作用を発揮する(通常は11β-HSD2という酵素がコルチゾールを不活性型のコルチゾンに変換して受容体を守っているが、過剰なコルチゾールではその処理能力を超える)。これによりナトリウムと水が貯留し、浮腫や高血圧、低カリウム血症をきたす。顔面の脂肪沈着と相まって眼瞼周囲がむくんだ印象を呈し、下腿など全身にも浮腫がみられうる。

  3. ×c.  骨粗鬆症

    認める所見である。コルチゾールは骨芽細胞の分化・機能を抑えて骨形成を低下させ、同時に腸管からのカルシウム吸収抑制(ビタミンD作用への拮抗)や腎からのカルシウム排泄増加、性腺機能の抑制などを介して骨吸収を相対的に優位にする。さらに骨基質のコラーゲン合成も抑制される。結果として骨密度が低下し、椎体圧迫骨折などの脆弱性骨折の原因となる(続発性骨粗鬆症の代表的原因の一つ)。

  4. ○d.  色素沈着

    認めない所見であり、これが正解である。色素沈着は、ACTHとα-MSH(メラノサイト刺激ホルモン)がともに前駆体POMC(プロオピオメラノコルチン)から切り出され、ACTH自体もメラノサイトのメラノコルチン1受容体(MC1R)を刺激してメラニン産生を促すことにより生じる。つまり色素沈着の有無はACTH(POMC由来ペプチド)の多寡を反映する。副腎腺腫によるCushing症候群では自律的なコルチゾール分泌がネガティブフィードバックをかけ、ACTHは低値に抑制されているため色素沈着はみられない。一方、ACTHが著明に高値となる異所性ACTH症候群や、原発性副腎不全であるAddison病では顕著な色素沈着をきたす。Cushing病でも出現しうるが、ACTHの上昇は比較的軽度であることが多く色素沈着も目立たないことが多い。

  5. ×e.  皮膚線条

    認める所見である。コルチゾールの蛋白異化作用により皮膚の膠原線維(コラーゲン)の合成が抑制され、真皮が菲薄化する。そこへ中心性肥満による急速な皮膚の伸展が加わると真皮が断裂し、腹部・大腿・臀部・腋窩などに幅の広い赤紫色の皮膚線条(伸展線条)が出現する。皮膚が薄いため下の血管が透見されて赤紫色に見えるのが、妊娠線などの白っぽい線条との違いである。同じ機序で皮下出血(紫斑)もできやすくなる。

Cushing症候群の病型と血中ACTH

・ACTH依存性  Cushing病(下垂体ACTH産生腺腫):ACTHは正常上限〜軽度高値。最も頻度の高い病型の一つ。  異所性ACTH症候群(肺小細胞癌、気管支・胸腺カルチノイド、膵神経内分泌腫瘍など):ACTHは著明高値となりやすく、色素沈着や高度の低カリウム血症・高血圧を呈しやすい。典型的な身体所見がそろう前に急速に進行することがある。 ・ACTH非依存性  副腎腺腫、副腎癌、両側副腎結節性過形成など:ACTHは抑制され低値。腺腫側の副腎が腫大する一方、対側副腎はACTH低下により萎縮する。

コルチゾール過剰による主な症状(病型を問わず共通)

・特異性の高い徴候:満月様顔貌、野牛肩、中心性肥満、赤紫色の皮膚線条、皮膚の菲薄化と易出血性(紫斑)、近位筋の筋力低下(ステロイドミオパチー) ・非特異的徴候:高血圧、耐糖能異常・糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、浮腫、易感染性、痤瘡、多毛、月経異常、精神症状(うつ・不眠・多幸など) ・検査所見:好中球増加、好酸球・リンパ球減少、低カリウム血症など

ACTH過剰による症状

・色素沈着:ACTH依存性の病型、特に異所性ACTH症候群で目立つ。 ・副腎アンドロゲン増加:ACTHは副腎アンドロゲン(DHEA-Sなど)の分泌も促すため、Cushing病では女性の多毛・痤瘡・月経異常などの男性化徴候がみられうる。副腎腺腫ではACTHが抑制されるため副腎アンドロゲンは通常低下する。なお副腎癌ではアンドロゲンも自律的に産生されることがあり、強い男性化徴候を示す場合は副腎癌を疑う。

色素沈着とACTHの関係の整理

・ACTH高値→色素沈着:Addison病(原発性副腎不全)、異所性ACTH症候群、Nelson症候群(両側副腎摘除後の下垂体腺腫増大) ・ACTH低値→色素沈着なし(むしろ色白):続発性副腎不全(ACTH単独欠損症、下垂体機能低下症)、副腎腺腫によるCushing症候群

POINT

・副腎腺腫によるCushing症候群はACTH非依存性で、血中ACTHは抑制されて低値となる。 ・色素沈着はACTH(POMC由来ペプチド)の過剰を反映する所見であり、副腎腺腫では認めない。 ・色素沈着が目立つのは異所性ACTH症候群やAddison病。Cushing病では軽度のことが多い。 ・満月様顔貌、浮腫、骨粗鬆症、赤紫色皮膚線条はコルチゾール過剰そのものの作用で、病型を問わず出現する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。