StudyMed医師国家試験

腫瘍を取ったら副腎不全?―Cushing症候群の術後に待ち受ける「眠ったままのHPA系」

第120回医師国家試験 A問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第27問

48歳の女性。人間ドックで副腎腫瘤を指摘され来院した。数年前から高血圧症に対してカルシウム拮抗薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を内服中である。身長160cm,体重66kg。脈拍72/分,整。血圧130/84mmHg。満月様顔貌および水牛様肩がみられる。血液生化学所見:空腹時血糖110mg/dL,HbA1c 6.2%(基準4.9~6.0),トリグリセリド154mg/dL,LDLコレステロール182mg/dL,Na 142mEq/L,K 3.8mEq/L,Cl 104 mEq/L,血漿レニン活性1.6ng/mL/時間(基準1.2~2.5),アルドステロン48pg/mL(基準4~82),ACTH 1.4pg/mL(基準60以下),コルチゾール24.2μg/dL(基準5.2~12.6),アドレナリン8pg/mL(基準100以下),ノルアドレナリン124pg/mL(基準100~450)。少量デキサメタゾン(1mg)抑制試験は陽性であった。腹部単純CT(A)と副腎皮質シンチグラム(B)を下に示す。治療として副腎腫瘤の摘出手術を予定している。  外科治療後の対応で適切なのはどれか。

第120回 A問題 第27問の問題画像
  1. a.降圧薬の増量
  2. b.スタチンの投与
  3. c.SGLT2阻害薬の投与
  4. d.グルココルチコイドの投与
  5. e.副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉の投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、副腎偶発腫瘍からCushing症候群を診断し、さらに手術の後に何が起こるかを予測する問題だ。着眼点は2つ。この腫瘍がどのホルモンを出しているのか、そして長く続いたホルモン過剰が体の調節系に何を残しているのか。まずは診断から確認しよう。
医学生医学生
満月様顔貌と水牛様肩があって、コルチゾールが高いのでCushing症候群だと思います。でも副腎偶発腫瘍って、まず何を調べるのが基本なんでしたっけ。
ドクタードクター
いい質問だね。副腎偶発腫瘍を見たら、まずホルモンを過剰に出す機能性腫瘍かどうかを調べる。対象はコルチゾール、アルドステロン、カテコールアミンの3つだ。今回はレニンとアルドステロンが正常だから原発性アルドステロン症は否定的、カテコールアミンも正常だから褐色細胞腫も考えにくい。残るのがコルチゾールだね。
医学生医学生
ACTHがかなり低いのに、コルチゾールは高い。ということは、下垂体ではなく副腎が勝手にコルチゾールを出しているACTH非依存性ですね。
ドクタードクター
その通り。1mgデキサメタゾン抑制試験が陽性というのは、デキサメタゾンを飲ませてもコルチゾールが下がらない、つまり自律分泌があるという意味だ。CTでは左副腎に腫瘤があり、副腎皮質シンチグラムでは左副腎に強い集積があって、右副腎にはほとんど集積がない。左副腎皮質腺腫によるCushing症候群と診断できる。
医学生医学生
右に集積がないのが少し不思議です。右側にも病気があるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが今回の問題の核心につながるポイントなんだ。右副腎が病気なのではなく、ACTHが抑えられているせいで働きを止め、萎縮しているんだよ。腺腫がコルチゾールを出し続けると、負のフィードバックで視床下部のCRHと下垂体のACTHが抑制される。ACTHの刺激を受けなくなった健側の副腎皮質は、使われない筋肉のように痩せてしまうんだ。
医学生医学生
生理学の講義で習ったフィードバックの図が、そのまま画像に出ているわけですね。
ドクタードクター
まさにそう。ではここで腺腫を摘出したらどうなるかな。
医学生医学生
コルチゾールの出どころがなくなります。でも視床下部も下垂体も、萎縮した右副腎もすぐには働き始めないので……コルチゾールが足りなくなる?
ドクタードクター
正解。術後には一過性の副腎不全がほぼ必発で、放置すると副腎クリーゼ、つまりショックや低血糖、低Na血症に陥る危険がある。だから手術時からヒドロコルチゾンなどのグルココルチコイドを補充する、これが答えだ。HPA系の回復には通常6か月から1年以上かかるので、迅速ACTH試験などで回復を確認しながら少しずつ減らしていく。
医学生医学生
補うのはACTHでもいいように思えたんですが、それはだめなんですか。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。足りないのはコルチゾールそのものだ。萎縮した副腎にACTHを投与しても、すぐに十分なコルチゾールは作れない。ACTH製剤は主に迅速ACTH試験のような副腎皮質機能の評価に使う薬で、術後の補充療法には用いないんだ。
医学生医学生
高血圧や脂質異常、血糖も気になります。降圧薬を増やしたりスタチンを始めたりはしなくていいんですか。
ドクタードクター
これらはコルチゾール過剰が原因の二次的な異常と考えられる。原因の腺腫を取れば改善が期待でき、降圧薬はむしろ減量を検討する場面だ。術後は副腎不全で血圧が下がりやすいから、増量は危険ですらある。LDLコレステロールも術後の経過を見て、下がらなければ改めて治療を考えればいい。
医学生医学生
SGLT2阻害薬も同じ考え方ですね。HbA1cは6.2%で、糖尿病の診断基準にも届いていません。
ドクタードクター
その通り。しかも術後は副腎不全で低血糖を起こしうる時期だから、血糖降下薬を新しく始める理由はない。原因を取り除けば合併症は改善に向かう、でも取り除いた直後には副腎不全という別の問題が待っている、という流れで理解しておこう。
医学生医学生
内分泌内科の実習で、副腎腺腫の術後の患者さんがヒドロコルチゾンを長く飲んでいたのを見ました。あれはそういう理由だったんですね。
ドクタードクター
そうだね。臨床で大切なのは患者指導だ。補充中に発熱や感染、抜歯などのストレスがかかると、体はいつも以上のコルチゾールを必要とする。だからシックデイには補充量を増やすよう説明しておく。自己判断で中断すると副腎クリーゼを起こしうる点も伝えておきたい。それから、典型的な身体所見のないサブクリニカルCushing症候群でも、自律分泌があれば摘出後に副腎不全を起こしうるから、同じように補充を考慮する。
医学生医学生
健側の副腎が萎縮しているかどうかは、シンチグラムの集積の偏りからも予想できるということですね。
ドクタードクター
その通り。検査所見から術後の経過まで一本の線でつながる、内分泌らしい問題だったね。

まとめ

コルチゾール高値、ACTH抑制、1mgデキサメタゾンで抑制されないことは、副腎腺腫などによるACTH非依存性Cushing症候群を示します。副腎皮質シンチグラムで腺腫側にだけ集積し対側が描出されないのは、ACTH抑制により健側副腎が萎縮しているためです。腺腫を摘出するとコルチゾールの供給源が失われる一方、抑制されていた視床下部-下垂体-副腎系は回復に6か月から1年以上を要するため、術後はグルココルチコイドの補充が必須であり、ACTH製剤では代用できません。高血圧や耐糖能異常、脂質異常症はコルチゾール過剰による二次的な異常として術後の改善が期待でき、降圧薬はむしろ減量を検討します。負のフィードバックの理解は、ステロイド長期投与後の中止時など、臨床の多くの場面で副腎不全を予測する土台になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・48歳女性。人間ドックで偶然見つかった副腎腫瘤(副腎偶発腫瘍)。 ・高血圧症でカルシウム拮抗薬とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)を内服中。 ・BMIは66÷1.6²≒25.8で軽度の肥満。満月様顔貌と水牛様肩(肩甲間部の脂肪沈着)があり、Cushing症候群に特徴的な身体所見である。 ・空腹時血糖110mg/dL・HbA1c 6.2%(耐糖能異常)、LDLコレステロール182mg/dL・トリグリセリド154mg/dL(脂質異常症)。いずれもコルチゾール過剰で生じる代謝異常として説明できる。 ・コルチゾール24.2μg/dLと高値で、ACTHは1.4pg/mLと著明に抑制されている。少量(1mg)デキサメタゾン抑制試験は「陽性」、すなわちデキサメタゾンを投与してもコルチゾールが抑制されず、自律的なコルチゾール分泌がある。 ・血漿レニン活性・アルドステロンは正常で原発性アルドステロン症は否定的。カテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)も正常で褐色細胞腫も否定的。 ・腹部単純CT(A)で左副腎に腫瘤を認め、副腎皮質シンチグラム(B、131I-アドステロール)では左副腎に強い集積があり、右副腎には集積がみられない。

診断へのプロセス

副腎偶発腫瘍をみたら、まず「ホルモンを過剰に分泌しているか(機能性か)」を調べる。対象はコルチゾール(Cushing症候群)、アルドステロン(原発性アルドステロン症)、カテコールアミン(褐色細胞腫)の3つである。本例はコルチゾール高値・ACTH低値・デキサメタゾンで抑制されないことからACTH非依存性のCushing症候群であり、片側の副腎腫瘤とシンチグラムの片側集積から左副腎皮質腺腫によるCushing症候群と診断する。シンチグラムで反対側(右)副腎に集積がないのは、ACTHが抑制されて健側副腎が萎縮・機能低下していることを反映している。

設問への考え方

腺腫からのコルチゾール過剰が長く続くと、負のフィードバックにより視床下部(CRH)と下垂体(ACTH)が抑制され、健側の副腎皮質も萎縮している。この状態で腺腫を摘出すると、コルチゾールの供給源が急に失われる一方、抑制されていた視床下部-下垂体-副腎(HPA)系はすぐには回復しない。そのため術後には必ず続発性の副腎不全が起こり、放置すれば副腎クリーゼ(ショック、低血糖、低Na血症など)に陥る危険がある。したがって術中・術後からグルココルチコイド(ヒドロコルチゾン)を補充し、HPA系の回復をみながら数か月〜1年以上かけて漸減する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  降圧薬の増量

    本例の高血圧はコルチゾール過剰による二次性高血圧の要素が大きい(コルチゾールのミネラルコルチコイド作用、アンジオテンシノーゲン産生増加、血管のカテコールアミン感受性亢進など)。原因である腺腫を取り除けば血圧は改善することが期待され、術後はむしろ降圧薬の減量や中止を検討する。さらに術後は副腎不全で血圧が下がりやすいため、増量は不適切である。

  2. ×b.  スタチンの投与

    LDLコレステロール182mg/dLと高値であるが、コルチゾール過剰による二次性の脂質異常症と考えられ、腫瘍摘出後に改善が期待できる。術後に経過を見て、なお高値が続く場合に改めて治療を考えればよく、外科治療直後に優先すべき対応ではない。

  3. ×c.  SGLT2阻害薬の投与

    空腹時血糖110mg/dL・HbA1c 6.2%は境界型の耐糖能異常にとどまり、糖尿病の診断基準(空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上など)を満たさない。コルチゾールによる糖新生亢進とインスリン抵抗性が原因であり、術後はさらに改善が見込まれる。術後は副腎不全により低血糖を起こしうる時期でもあり、血糖降下薬を新たに始める必要はない。

  4. ○d.  グルココルチコイドの投与

    副腎腺腫によるCushing症候群では、長期のコルチゾール過剰によりCRH・ACTHの分泌が抑制され、健側副腎も萎縮している。腺腫を摘出するとコルチゾールが急激に不足するが、HPA系の回復には通常6か月〜1年以上を要するため、術後は一過性の副腎不全となる。副腎クリーゼを防ぐため、手術時からヒドロコルチゾンなどのグルココルチコイドを補充し、ACTH・コルチゾールの回復を確認しながら漸減・中止する。

  5. ×e.  副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉の投与

    術後に不足するのはコルチゾールそのものであり、補うべきはグルココルチコイドである。萎縮した健側副腎にACTHを投与しても十分なコルチゾール分泌はすぐには得られず、ACTH製剤(テトラコサクチド)は主に副腎皮質機能を評価する迅速ACTH試験などの検査に用いられる薬剤である。術後の補充療法として用いることはない。

Cushing症候群の病型

・ACTH依存性:Cushing病(下垂体ACTH産生腺腫、最多)、異所性ACTH症候群(小細胞肺癌、カルチノイドなど)。ACTHは正常〜高値。 ・ACTH非依存性:副腎皮質腺腫(日本では最多の原因の一つ)、副腎皮質癌、両側副腎皮質大結節性過形成、原発性色素沈着結節性副腎皮質病(PPNAD)。ACTHは低値・抑制。

症状

・特異性の高い徴候:満月様顔貌、水牛様肩、中心性肥満、皮膚の菲薄化、赤色皮膚線条、皮下出血(易出血性)、近位筋の筋力低下。 ・合併症:高血圧、耐糖能異常・糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、易感染性、精神症状、月経異常。

診断の流れ

・スクリーニング:1mgデキサメタゾン抑制試験(翌朝のコルチゾールが抑制されない)、深夜血中・唾液中コルチゾール高値(日内リズムの消失)、尿中遊離コルチゾール高値。 ・病型診断:血中ACTH(低値なら副腎性)。ACTH依存性なら8mg大量デキサメタゾン抑制試験、CRH試験、下垂体MRI、必要に応じて下錐体静脈洞サンプリングでCushing病と異所性ACTH症候群を鑑別する。 ・局在診断:副腎CT/MRI、副腎皮質シンチグラム(131I-アドステロール)。副腎腺腫では腫瘍側に集積し、対側はACTH抑制により集積が低下・消失する。

副腎腺腫によるCushing症候群の治療と術後管理

・治療は腹腔鏡下副腎摘出術が第一選択。手術困難例ではメチラポンなどのステロイド合成阻害薬を用いる。 ・術後は対側副腎とHPA系の抑制により副腎不全となるため、ヒドロコルチゾンの補充が必須。手術侵襲時はストレス量を投与し、その後維持量へ減量して、迅速ACTH試験などでHPA系の回復を確認しながら中止を目指す。補充期間は6か月〜1年以上、ときに数年に及ぶ。 ・発熱・感染・手術などのストレス時には補充量を増やす(シックデイ対応)ことを患者に指導する。 ・高血圧・耐糖能異常・脂質異常症・骨粗鬆症は術後に改善することが多いが、改善が不十分なら個別に治療する。

サブクリニカルCushing症候群

副腎偶発腫瘍で、Cushing症候群に特徴的な身体所見を欠くが、コルチゾールの自律分泌を認める状態。本例は特徴的な身体所見があるため顕性のCushing症候群と考えられるが、サブクリニカル例でも摘出後に副腎不全を起こしうるので、同様に術後のグルココルチコイド補充を考慮する。

POINT

・副腎偶発腫瘍では、コルチゾール・アルドステロン・カテコールアミンの過剰分泌の有無を必ず評価する。 ・コルチゾール高値+ACTH低値+1mgデキサメタゾンで抑制されない → ACTH非依存性Cushing症候群(副腎腺腫など)。 ・副腎皮質シンチグラムでは腺腫側に集積し、対側副腎はACTH抑制のため集積が低下・消失する。 ・副腎腺腫摘出後はHPA系の抑制により副腎不全となるため、グルココルチコイド(ヒドロコルチゾン)の補充が必須。回復には6か月〜1年以上かかる。 ・高血圧・耐糖能異常・脂質異常症は術後に改善が期待でき、降圧薬はむしろ減量を検討する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。