StudyMed医師国家試験

刺入部はきれいでも油断禁物―術後発熱の犯人は中心静脈カテーテル

第120回医師国家試験 A問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第28問

65歳の男性。胃癌術後で入院中である。手術後から経口摂取が困難なため,右内頸静脈に中心静脈カテーテルを留置して中心静脈栄養を行っている。術後12日目に発熱を認めた。発熱の他に新たな症状はない。意識は清明。体温38.1℃。脈拍100/分,整。血圧124/60mmHg。呼吸数18/分。SpO2 97%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。中心静脈カテーテル刺入部に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。手術創の表面に異常を認めない。腹部は平坦,軟で,圧痛を認めない。肋骨脊柱角に叩打痛を認めない。手指や足趾に異常所見を認めない。全身状態は安定しており,胸腹部単純CTで発熱の原因精査を行ったが,熱源は判明しなかった。血液培養2セットを採取したところ,翌日2セットともに陽性となった。血液培養ボトル内容のGram染色標本を下に示す。  抗菌薬を投与することにしたが,その前に行うべき対応はどれか。

第120回 A問題 第28問の問題画像
  1. a.胸腹部造影CT
  2. b.経食道心エコー検査
  3. c.尿道カテーテル留置
  4. d.血中β-D-グルカン測定
  5. e.中心静脈カテーテル抜去

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、術後の入院患者に起きた発熱の原因を絞り込み、感染症治療の大原則に沿って最初の一手を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、診察でもCTでも熱源が見つからないこと、体に何が入っているか、そして血液培養の結果。まずは術後発熱の鑑別から整理しよう。
医学生医学生
外科の実習で、術後発熱は5Wで考えると教わりました。Wind、Water、Wound、Walking、Wonder drugsです。
ドクタードクター
よく覚えているね。肺炎・無気肺、尿路感染症、創感染や腹腔内膿瘍・縫合不全、深部静脈血栓症、薬剤熱。これに偽膜性腸炎と、もう一つ大事なものを加えるとどうなる?
医学生医学生
カテーテル関連血流感染症ですか。この患者さんには中心静脈カテーテルが入っています。
ドクタードクター
その通り。今回は呼吸音も腹部所見も創部も肋骨脊柱角叩打痛も異常がなく、単純CTでも熱源が見つからない。一方で中心静脈カテーテルが留置され、しかも高濃度のブドウ糖などを含む中心静脈栄養を流している。栄養輸液は菌が増えやすい環境なんだ。
医学生医学生
でも、カテーテルの刺入部には異常がないんですよね。赤くも膿んでもいないなら、カテーテルは違う気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴だよ。感染経路は、刺入部の皮膚からカテーテルの外側を伝う経路だけじゃない。接続部であるハブの操作や輸液の汚染で、カテーテルの内腔から菌が入る経路もある。留置が長くなるとこちらが増えて、その場合は刺入部に所見が出ないことが多いんだ。
医学生医学生
なるほど、内側から感染するなら外からは見えないですね。血液培養が2セットとも陽性なのも意味がありますか。
ドクタードクター
大きな意味がある。1セットだけなら皮膚常在菌の混入、つまりコンタミネーションの可能性も残るけれど、2セットそろって陽性なら真の菌血症と考える。Gram染色ではブドウの房のように集まったGram陽性球菌が見える。ブドウ球菌だね。
医学生医学生
微生物学の実習で見た形です。黄色ブドウ球菌か表皮ブドウ球菌のようなコアグラーゼ陰性ブドウ球菌ですね。どちらもカテーテル感染でよく出てくる菌だと習いました。
ドクタードクター
そう。以上からカテーテル関連血流感染症が最も考えられる。では、抗菌薬の前に何をするか。感染症治療の大原則は感染源のコントロールだ。
医学生医学生
感染源がカテーテルそのものなら、中心静脈カテーテルを抜くということですね。
ドクタードクター
正解。カテーテルの表面や内腔には菌が作るバイオフィルムという膜があって、抗菌薬が届きにくい。カテーテルを残したままでは菌血症が続いたり再燃したりしやすく、特に黄色ブドウ球菌では感染性心内膜炎などの重い合併症につながる。抜いたカテーテルの先端は培養に出して、血液培養と同じ菌が出れば診断が確かになる。
医学生医学生
経食道心エコーも大事な気がします。黄色ブドウ球菌の菌血症なら心内膜炎を調べるんですよね。
ドクタードクター
いい知識だね。黄色ブドウ球菌菌血症では心エコーでの評価が推奨されるし、抜去と抗菌薬のあとも72時間以上菌血症や発熱が続けば経食道心エコーを強く考える。ただ、これは治療開始後の合併症評価で、抗菌薬の前に済ませる検査ではない。造影CTも同じで、腹部に所見がない今は優先度が低く、改善が乏しいときに改めて考えればいい。
医学生医学生
β-D-グルカンはどうでしょう。中心静脈栄養はカンジダ血症の危険因子だったと思います。
ドクタードクター
その通り、危険因子ではある。でも今回はGram染色で細菌がはっきり見えているから、抗菌薬の前に測る意味は乏しい。尿道カテーテルは尿閉も循環不全もないので適応がないし、不要なカテーテルはそれ自体が尿路感染症の原因になる。
医学生医学生
抜いたあと、栄養はどうするんですか。
ドクタードクター
必要なら、菌血症がおさまってから別の部位に入れ直す。抗菌薬は院内のブドウ球菌だからMRSAを想定して抗MRSA薬で始め、感受性が分かったら狭域に変える。黄色ブドウ球菌なら合併症がなくても血液培養の陰性化から少なくとも14日間の静注治療が必要で、陰性化の確認のために血液培養を再検する。なお実臨床では、抜去と抗菌薬開始をほぼ並行して速やかに行うことが多いよ。
医学生医学生
予防も大事ですね。OSCEの練習で清潔操作をやりましたが、中心静脈カテーテルの挿入はもっと厳重だと聞きました。
ドクタードクター
そう、帽子・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋・大きな滅菌ドレープをそろえるマキシマルバリアプリコーション、クロルヘキシジンでの消毒、大腿静脈を避けること。そして何より、不要になったカテーテルは速やかに抜くこと。毎日、このカテーテルはまだ必要かと問い直す習慣が大切だ。

まとめ

中心静脈カテーテル留置中に他に熱源のない発熱があれば、刺入部に異常がなくてもカテーテル関連血流感染症を疑います。血液培養2セットがともに陽性なら真の菌血症と考え、Gram染色でブドウの房状のGram陽性球菌を認めればブドウ球菌が起因菌として推定されます。カテーテルにはバイオフィルムが形成され抗菌薬が届きにくいため、感染源コントロールとしてカテーテルを抜去して先端培養を提出し、抗MRSA薬などによる治療を行います。黄色ブドウ球菌菌血症では心エコーによる心内膜炎の評価や再検の血液培養が必要で、経食道心エコーや造影CTは治療開始後の評価として位置づけられます。術後発熱の系統的な鑑別と、感染源の除去を最優先する原則は、病棟診療のあらゆる感染症対応に通じる基本です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・65歳男性。胃癌術後の入院中で、右内頸静脈から中心静脈カテーテル(CVC)を入れて中心静脈栄養(TPN)を行っている。 ・術後12日目に38.1℃の発熱。発熱以外の症状はなく、意識清明で血圧も保たれ、呼吸数・SpO2も正常であり、全身状態は安定している(脈拍100/分は発熱に伴う変化として説明できる)。 ・CVC刺入部、心音・呼吸音、手術創、腹部、肋骨脊柱角叩打痛、手指・足趾(塞栓症状を示す皮疹や爪下出血など)に異常がない。胸腹部単純CTでも熱源は見つからない。 ・血液培養2セットがいずれも翌日に陽性となった。Gram染色ではブドウの房状に集まったGram陽性球菌がみられ、ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌またはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌)が推定される。

診断へのプロセス

術後の発熱の原因としては、手術部位感染(創感染、縫合不全、腹腔内膿瘍)、肺炎、尿路感染症、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)、偽膜性腸炎、薬剤熱、深部静脈血栓症などを順に考える。本例では身体所見と単純CTで明らかな臓器感染巣がなく、一方でCVCが留置され、しかも細菌が増殖しやすい栄養輸液を流している。血液培養2セットがそろって陽性であることから、皮膚常在菌の混入(コンタミネーション)ではなく真の菌血症と考えられ、起因菌もカテーテル感染で頻度の高いブドウ球菌である。刺入部に発赤や排膿がなくても、カテーテル内腔からの感染(カテーテルのハブ操作や輸液を経由した汚染)はよく起こるため、CRBSIは否定できない。以上から、最も考えられる診断はCRBSIである。

設問への考え方

感染症治療の大原則は「感染源のコントロール」である。CRBSIの感染源はカテーテルそのものであり、カテーテル表面や内腔にはバイオフィルム(菌が自ら作る膜状の構造物)が形成されて抗菌薬が届きにくい。カテーテルを残したまま抗菌薬を投与しても菌血症が持続・再燃しやすく、特に黄色ブドウ球菌では感染性心内膜炎や化膿性血栓性静脈炎などの重い合併症を招く。したがって抗菌薬投与に先立ってまずCVCを抜去し、先端を培養に提出して診断を確かめる。栄養管理が必要なら、菌血症がおさまってから別の部位に新たにカテーテルを入れ直す。

選択肢考察

  1. ×a.  胸腹部造影CT

    造影CTは腹腔内膿瘍や縫合不全などの深部感染巣を探すのに有用である。しかし本例は腹痛・腹部膨満・圧痛がなく、創部にも異常がないため、単純CTで見逃された腹腔内感染を強く疑う根拠に乏しい。熱源として最も疑わしいCVCへの対処が優先であり、抗菌薬投与前に行うべき対応ではない。改善が乏しいときに改めて検討すればよい。

  2. ×b.  経食道心エコー検査

    黄色ブドウ球菌菌血症では感染性心内膜炎の合併を評価するため心エコー(経胸壁、必要に応じて経食道)を行うことが推奨される。また、カテーテル抜去と適切な抗菌薬投与を行っても72時間以上菌血症や発熱が続く場合には、心内膜炎などの合併症を強く疑って経食道心エコーを行う。いずれも治療開始後の合併症評価として行う検査であり、抗菌薬投与の前に済ませておくべきものではない。

  3. ×c.  尿道カテーテル留置

    尿道カテーテルは尿閉の解除や、ショックなど重症例での厳密な尿量管理が必要なときに用いる。本例は尿閉もなく循環動態も安定しており、留置の適応はない。むしろ不要なカテーテルはカテーテル関連尿路感染症の原因となるため、入れるべきではない。

  4. ×d.  血中β-D-グルカン測定

    β-D-グルカンは真菌の細胞壁成分で、カンジダ血症など深在性真菌症の補助診断に用いる。中心静脈栄養はカンジダ血症の危険因子でもあるが、本例ではGram染色でブドウの房状のGram陽性球菌が確認されており、細菌による菌血症が明らかである。抗菌薬投与前に測定する意義は乏しい。

  5. ○e.  中心静脈カテーテル抜去

    CVC留置中に他に熱源のない発熱があり、血液培養2セットからブドウ球菌が検出されていることからCRBSIが最も疑われる。感染源であるカテーテルにはバイオフィルムが形成され、抗菌薬だけでは除菌が難しいため、まずカテーテルを抜去して感染源を取り除く。抜去したカテーテルの先端は培養に提出し、血液培養と同じ菌が検出されればCRBSIの診断が確定する。そのうえで抗MRSA薬などの抗菌薬を開始し、感受性結果に応じて調整する。

カテーテル関連血流感染症(CRBSI)

・定義:血管内カテーテル留置中に、他に明らかな感染源がなく菌血症を生じたもの。 ・感染経路:刺入部の皮膚からカテーテル外表面を伝う経路(留置初期に多い)と、ハブ(接続部)の操作や汚染された輸液によりカテーテル内腔から侵入する経路(留置が長引くと増える)がある。後者では刺入部に所見が出ないことが多い。 ・危険因子:中心静脈栄養(高濃度のブドウ糖や脂肪乳剤が菌・真菌の増殖を助ける)、長期留置、頻回のハブ操作、大腿静脈からの留置、免疫低下など。 ・主な起因菌:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌など)、黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、腸球菌、Gram陰性桿菌、カンジダ。

診断

・抗菌薬投与前に血液培養を2セット以上(末梢静脈と、カテーテルからの採血を組み合わせることが多い)採取する。 ・カテーテル抜去時に先端を培養し、血液培養と同一菌が検出されれば確定的。 ・カテーテルから採った血液培養が末梢血の培養より2時間以上早く陽性になる(DTP:differential time to positivity)こともCRBSIを示唆する。

治療

・中心静脈カテーテルは原則抜去する。特に黄色ブドウ球菌、カンジダ、Gram陰性桿菌(緑膿菌など)、重症敗血症、化膿性血栓性静脈炎・心内膜炎合併例では抜去が必須である。 ・経験的治療:院内のブドウ球菌ではMRSAを想定してバンコマイシンなどの抗MRSA薬を用いる。重症例や好中球減少例ではGram陰性桿菌もカバーし、カンジダの危険が高ければ抗真菌薬を加える。培養・感受性結果が出たら、より狭域の薬剤へ変更する(de-escalation)。 ・治療期間:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は比較的短期間でよいが、黄色ブドウ球菌菌血症は合併症がなければ血液培養陰性化から少なくとも14日間、心内膜炎などを合併すれば4〜6週間の静注治療が必要となる。 ・黄色ブドウ球菌菌血症では、血液培養の陰性化を確認するための再検(フォローアップ血液培養)と、心エコーによる感染性心内膜炎の評価を行う。カンジダ血症では眼内炎の評価のため眼科診察を行う。

予防

・挿入時のマキシマルバリアプリコーション(帽子・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋・大きな滅菌ドレープ)、クロルヘキシジンによる皮膚消毒、大腿静脈の回避、不要になったカテーテルの速やかな抜去。

術後発熱の鑑別(「5W」などとして覚える)

Wind(無気肺・肺炎)、Water(尿路感染症)、Wound(創感染・腹腔内膿瘍・縫合不全)、Walking(深部静脈血栓症・肺塞栓症)、Wonder drugs(薬剤熱)。これにカテーテル関連血流感染症と偽膜性腸炎を加えて整理するとよい。

POINT

・中心静脈カテーテル留置中の、他に熱源のない発熱 → カテーテル関連血流感染症(CRBSI)をまず疑う。刺入部に異常がなくても否定できない。 ・血液培養2セットがともに陽性なら、コンタミネーションではなく真の菌血症と考える。 ・Gram染色でブドウの房状のGram陽性球菌 → ブドウ球菌(院内ではMRSAも想定し抗MRSA薬で開始)。 ・CRBSIの治療は感染源コントロールが基本:カテーテルを抜去し、先端培養を提出する。 ・黄色ブドウ球菌菌血症では心エコーによる心内膜炎の評価、フォローアップ血液培養を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。