血圧は「高値」、でも食塩も体重も合格―生活指導は“足りないところ”を探す
第117回医師国家試験 C問題 第42問
国試問題にチャレンジ
50歳の女性。健康診断で初めて血圧高値を指摘され来院した。健康診断時の血圧は138/88mmHgであった。体重は20歳ごろから変わっていない。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴はない。飲酒はビール350mL/日を週2回。仕事は忙しく,運動する機会はほとんどない。身長162cm,体重58kg。BMI 22.0。脈拍68/分,整。血圧134/82mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下肢に浮腫を認めない。尿検査:蛋白(-)。血液生化学所見:クレアチニン0.6mg/dL,尿酸6.0mg/dL,空腹時血糖68mg/dL,HbA1c 5.8%(基準4.6~6.2),総コレステロール196mg/dL,トリグリセリド100mg/dL,HDLコレステロール68mg/dL。食事内容の評価で,食塩摂取量5.5g/日,野菜摂取量350g/日。 この患者の生活習慣に対する指導として適切なのはどれか。
- a.飲酒の禁止
- b.運動の推奨
- c.体重の減量
- d.食塩摂取の制限
- e.野菜摂取の制限
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
診察室血圧が130〜139/80〜89mmHgの高値血圧は、降圧薬ではなく生活習慣の修正で対応する段階ですが、正常血圧より心血管リスクが高く高血圧へ移行しやすいため介入が必要です。生活習慣修正の目標は、食塩6g/日未満、野菜・果物の積極的摂取、BMI 25未満、有酸素運動を毎日30分または週180分以上、節酒(女性はエタノール10〜20mL/日以下)、禁煙です。本例は標準体重で、食塩・野菜・飲酒量はいずれも目標を満たしており、未達成なのは運動不足だけなので、運動の推奨が適切な指導となります。高血圧の指導では禁酒ではなく節酒が求められ、野菜はカリウムを介して降圧に働くため制限しない点も押さえておきましょう。項目ごとに患者の生活を点検し、足りない部分に絞って実行可能な提案をする姿勢は、あらゆる生活習慣病の指導に通じる基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・50歳女性。健康診断で初めて血圧高値を指摘された。健診時138/88mmHg、来院時134/82mmHg。 ・血圧の分類: 診察室血圧で高血圧と診断されるのは140/90mmHg以上である。本例はこれに達しないが、収縮期130〜139mmHgかつ/または拡張期80〜89mmHgの「高値血圧」に該当する。高値血圧は正常血圧より脳心血管疾患のリスクが高く、将来高血圧へ移行しやすいため、まず生活習慣の修正で対応する段階である(降圧薬の適応ではない)。 ・生活習慣と検査値を一つずつ評価すると、 体格: BMI 22.0で標準体重、20歳頃から体重変化もない → 減量は不要。 飲酒: ビール350mL(エタノール約17mL)を週2回 → 女性の節酒目安(エタノール10〜20mL/日以下)の範囲内で、しかも毎日ではない → 適正。 喫煙: なし。 食塩: 5.5g/日 → 目標の6g/日未満を達成している。 野菜: 350g/日 → 国の健康づくり目標(成人1日350g以上)を満たしている。 運動: 仕事が忙しく、ほとんど運動していない → 唯一の改善すべき点。 検査: 腎機能、尿酸、血糖・HbA1c、脂質はいずれも基準範囲内で、尿蛋白も陰性。合併する代謝異常はない。
考え方
生活指導は、その患者に実際に問題がある項目を見つけて、そこを改善するよう働きかけるのが原則である。すでに目標を満たしている項目にさらなる制限を加える意味はなく、かえって生活の質を下げたり、指導全体への意欲を損なったりする。本例で改善の余地があるのは運動不足だけであり、有酸素運動を中心とする定期的な運動を勧めることが適切な指導となる。
選択肢考察
- ×a. 飲酒の禁止
高血圧(高値血圧を含む)の生活習慣修正で求められるのは禁酒ではなく節酒で、女性ではエタノール10〜20mL/日以下が目安である。ビール350mL(アルコール度数5%)はエタノール約17.5mL(約14g)に相当し、本例はこれを週2回飲む程度であるから、目安を十分に下回っている。禁酒を指示する必要はなく、不適切である。
- ○b. 運動の推奨
本例の生活習慣で唯一問題となるのが運動不足である。定期的な有酸素運動(速歩、軽いジョギング、水泳、サイクリングなど)は、交感神経活動の低下、血管内皮機能の改善、インスリン感受性の改善などを通じて血圧を下げる効果があり、高値血圧から高血圧への進展予防にも役立つ。目安は、ややきついと感じる程度までの有酸素運動を毎日30分程度、または週180分以上行うことである。忙しい場合は10分程度の運動を何回かに分けて積み重ねてもよく、通勤時の歩行や階段利用など日常生活の中で身体活動量を増やす工夫も勧められる。最も適切な指導である。
- ×c. 体重の減量
肥満者では減量により血圧が下がるため、BMI 25未満の維持・達成が推奨される。しかし本例はBMI 22.0と標準体重であり、20歳頃から体重も変わっていない。減量の必要はなく、不適切である。
- ×d. 食塩摂取の制限
減塩は高血圧の生活習慣修正の中で特に重要な項目で、目標は食塩6g/日未満である。日本人の平均的な食塩摂取量(1日10g前後)は目標を大きく上回るため多くの患者で指導が必要になるが、本例の摂取量は5.5g/日とすでに目標を達成している。現状の食習慣を維持すればよく、さらなる制限を指導する必要はない。不適切である。
- ×e. 野菜摂取の制限
野菜や果物はカリウム、食物繊維、マグネシウムなどを多く含み、カリウムはナトリウムの尿中排泄を促して降圧に働く。高血圧の食事療法では野菜・果物の積極的な摂取が推奨されており、制限する理由はない。本例の野菜摂取量350g/日は健康日本21の目標値(成人1日350g以上)を満たしており、この水準を維持すればよい。なお、腎機能障害で高カリウム血症の危険がある場合は野菜・果物の摂取に注意が必要だが、本例の腎機能は正常である。不適切である。
成人の血圧分類(診察室血圧、日本高血圧学会)
・正常血圧: 120/80mmHg未満(収縮期120未満かつ拡張期80未満) ・正常高値血圧: 収縮期120〜129mmHgかつ拡張期80mmHg未満 ・高値血圧: 収縮期130〜139mmHgかつ/または拡張期80〜89mmHg ・高血圧(I度): 収縮期140〜159mmHgかつ/または拡張期90〜99mmHg ・II度: 160〜179/100〜109mmHg、III度: 180/110mmHg以上 家庭血圧での高血圧基準は135/85mmHg以上である。 高値血圧の段階では、他の危険因子や臓器障害が乏しければ生活習慣の修正で経過をみて、定期的に血圧を再評価する。
生活習慣の修正項目
1)減塩: 食塩6g/日未満 2)食事パターン: 野菜・果物の積極的摂取、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える、多価不飽和脂肪酸・低脂肪乳製品の積極的摂取(重い腎障害があるときはカリウム制限に配慮) 3)適正体重の維持: BMI 25未満 4)運動: 有酸素運動を中心に、毎日30分または週180分以上 5)節酒: エタノールとして男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下 6)禁煙(受動喫煙の防止も含む) 複数の項目を組み合わせるとより大きな降圧効果が得られる。
アルコール量の換算
純アルコール量(g)=飲料の量(mL)×アルコール度数(%/100)×0.8(エタノールの比重)。ビール500mL(5%)でエタノール25mL、約20gとなる。日本酒1合、ワイングラス2杯弱がおおむね同程度である。
POINT
・高値血圧(130〜139/80〜89mmHg)は生活習慣修正の対象であり、降圧薬の適応ではない。 ・生活指導は、患者ごとに生活習慣を項目別に評価し、目標を満たしていない項目を改善させる。 ・本例で目標未達なのは運動のみ(BMI 22.0、食塩5.5g/日、野菜350g/日、飲酒は節酒の範囲内)。 ・目標値: 食塩6g/日未満、BMI 25未満、有酸素運動を毎日30分または週180分以上、節酒(女性エタノール10〜20mL/日以下)、禁煙、野菜・果物の積極的摂取。
