血圧が高い人に「海外へ行きましたか?」は必要か―問診の目的から考える高血圧初診の優先順位
第120回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
血圧高値を主訴とする患者の初診時の問診項目で優先度が低いのはどれか。
- a.飲酒歴
- b.渡航歴
- c.運動習慣
- d.睡眠中のいびき
- e.高血圧の家族歴
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血圧高値を主訴とする患者の初診時問診は、二次性高血圧の除外、本態性高血圧の素因と生活習慣の評価、心血管リスクと臓器障害の評価という3つの目的に沿って組み立てます。いびきは二次性高血圧の代表である睡眠時無呼吸症候群の手がかり、飲酒歴や運動習慣は生活習慣修正の対象、高血圧の家族歴は本態性高血圧の素因を示す情報であり、いずれも優先度が高い項目です。一方、渡航歴は輸入感染症の診療では重要ですが、高血圧の原因やリスク評価には直接関係しないため優先度は低くなります。このほか食塩摂取、喫煙、NSAIDsや甘草などの薬剤歴、低カリウム血症や発作性症状など二次性高血圧を示唆する症状の確認も欠かせません。主訴に応じて問診の目的を意識し、質問の優先順位をつける姿勢は、効率的で見落としの少ない外来診療の基本となります。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】高血圧患者の初診時に聴取すべき情報 血圧が高いことを主訴に受診した患者の初診時の問診では、次の3つの目的を意識して情報を集める。 1. 二次性高血圧(原因となる別の病気がある高血圧)を見逃さない: 睡眠時無呼吸症候群、原発性アルドステロン症、腎実質性・腎血管性高血圧、褐色細胞腫、Cushing症候群、甲状腺疾患、薬剤誘発性高血圧など。いびきや日中の眠気、四肢の脱力(低カリウム血症)、動悸・頭痛・発汗の発作、服用中の薬剤(NSAIDs、甘草を含む漢方薬、ステロイド、経口避妊薬など)を確認する。 2. 本態性高血圧の素因と生活習慣を評価する: 家族歴、食塩摂取、飲酒、喫煙、運動習慣、肥満、ストレス、睡眠など。これらは生活習慣の修正(非薬物療法)の対象となる。 3. 心血管リスクと臓器障害を評価する: 糖尿病・脂質異常症・喫煙などの危険因子、脳卒中・心疾患・腎臓病の既往や症状。 この観点から各選択肢を見ると、飲酒歴・運動習慣・高血圧の家族歴は本態性高血圧の素因・生活習慣として、睡眠中のいびきは二次性高血圧の代表である睡眠時無呼吸症候群の手がかりとして、いずれも重要である。一方、渡航歴は感染症の診療で重要な情報であり、血圧高値の原因やリスク評価とはほとんど関係しない。したがって初診時の優先度が最も低いのは渡航歴である。
選択肢考察
- ×a. 飲酒歴
習慣的な多量飲酒は血圧を上昇させる生活習慣因子であり、節酒により血圧は低下する。また多量飲酒は脳出血などのリスクも高める。日本の高血圧治療ガイドラインでは、エタノール量として男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下に制限することが勧められている。飲酒量の把握は生活指導に直結するため、優先して聴取すべき項目である。
- ○b. 渡航歴
渡航歴は、マラリア、デング熱、腸チフスなどの輸入感染症を疑う発熱・下痢などの診療では欠かせない情報である。しかし海外渡航は高血圧の原因にも危険因子にもならず、二次性高血圧の鑑別や心血管リスクの評価にも直接関与しない。そのため血圧高値を主訴とする患者の初診時問診では、5つの中で優先度が最も低い。
- ×c. 運動習慣
運動不足は高血圧や肥満、インスリン抵抗性の危険因子である。ウォーキングなどの軽強度〜中強度の有酸素運動を、目安として1日30分以上(または週180分以上)定期的に行うと降圧効果が得られる。運動習慣の把握は非薬物療法の指導に必要であり、優先度は高い。
- ×d. 睡眠中のいびき
いびきは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の主要な症状である。睡眠中に繰り返される無呼吸・低酸素により交感神経が活性化し、血圧が上昇する。睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧の原因として頻度が高く、早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の原因にもなるため、いびきや日中の眠気、起床時の頭痛などを積極的に尋ねるべきである。
- ×e. 高血圧の家族歴
本態性高血圧の発症には遺伝的素因が関与し、両親や同胞に高血圧があると発症リスクが高まる。家族歴があり若年から緩やかに血圧が上昇している場合は本態性高血圧を考えやすく、逆に家族歴がなく若年で急に発症した場合は二次性高血圧を疑う手がかりになる。また脳卒中や心疾患、腎疾患の家族歴は心血管リスク評価にも役立つ。
高血圧患者の初診時問診で確認する主な項目
・高血圧の経過: いつから指摘されたか、これまでの血圧値・治療歴、家庭血圧 ・家族歴: 高血圧、糖尿病、脳卒中、心疾患、腎疾患 ・生活習慣: 食塩摂取量(食習慣)、飲酒、喫煙、運動習慣、睡眠時間、精神的ストレス、体重の変化 ・二次性高血圧を示唆する症状: いびき・無呼吸・日中の眠気(睡眠時無呼吸症候群)、脱力・多尿(原発性アルドステロン症による低カリウム血症)、発作性の頭痛・動悸・発汗(褐色細胞腫)、満月様顔貌・皮膚線条(Cushing症候群)、体重減少・動悸(甲状腺機能亢進症) ・薬剤歴: NSAIDs、甘草含有製剤(偽性アルドステロン症)、副腎皮質ステロイド、経口避妊薬、免疫抑制薬、エリスロポエチン製剤など ・既往歴・合併症: 脳血管障害、虚血性心疾患、心不全、腎臓病、末梢動脈疾患、糖尿病、脂質異常症 ・女性では妊娠歴(妊娠高血圧症候群の既往)、出生時体重(低出生体重は将来の高血圧リスクに関連する)
生活習慣の修正の要点
減塩(食塩6g/日未満)、野菜・果物の積極的摂取、適正体重の維持、定期的な有酸素運動、節酒、禁煙が柱であり、これらを組み合わせるとより大きな降圧効果が期待できる。
二次性高血圧を疑う手がかり
若年発症、急な発症や悪化、治療抵抗性(3剤以上で目標未達)、低カリウム血症、特徴的な身体所見や症状などがある場合は、二次性高血圧の精査を考える。
POINT
・高血圧の初診時問診の目的は、二次性高血圧の除外、生活習慣・素因の評価、心血管リスクと臓器障害の評価である。 ・飲酒、運動、食塩、喫煙、肥満は生活習慣修正の対象となる重要項目である。 ・いびきは睡眠時無呼吸症候群(二次性高血圧の代表)の手がかりとなる。 ・家族歴は本態性高血圧の素因を示す。 ・渡航歴は感染症診療で重要だが、高血圧の評価には直接関係しない。
