正常値の中に隠れた「15g」―若年高血圧で本当に直すべき生活習慣はどれか
第118回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
36歳の男性。定期健康診断で高血圧を指摘され来院した。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。父親が高血圧症で治療中。身長168cm,体重60kg,腹囲77cm。脈拍76/分,整。血圧144/78mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:空腹時血糖99mg/dL,尿酸6.8mg/dL,総コレステロール170mg/dL,トリグリセリド70mg/dL,HDLコレステロール58mg/dL。心電図に異常を認めない。管理栄養士が本人から聴取した食事内容から,摂取エネルギー量1,900kcal/日,塩分摂取量15g/日と推定した。 適切な指示はどれか。
- a.減塩
- b.禁酒
- c.体重の減量
- d.脂肪摂取制限
- e.プリン体摂取制限
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高血圧の治療はすべての患者で生活習慣の修正から始め、リスクに応じて降圧薬を加えるのが原則です。指導にあたっては、BMI・腹囲・脂質・尿酸・血糖・飲酒・喫煙を一つずつ確認し、実際に問題のある項目だけを是正することが大切です。本例は普通体重で脂質や尿酸も基準内、飲酒は機会飲酒のみであり、唯一の明らかな問題は1日15gという食塩の過剰摂取なので、目標6g/日未満を目指した減塩が最も適切な指示となります。食塩過剰は日本人の高血圧の最大の生活習慣要因で、家族歴がある人では食塩感受性の関与も考えられます。また若年者の高血圧では二次性高血圧の可能性にも注意し、家庭血圧を含めて繰り返し評価する姿勢が、日常診療での適切な高血圧管理につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・36歳男性、健康診断で高血圧を指摘。父親が高血圧症(家族歴あり) ・血圧144/78mmHg:収縮期血圧が140mmHg以上であり、診察室血圧で高血圧(I度:140~159/90~99mmHgに相当、拡張期は正常の収縮期高血圧) ・喫煙なし、飲酒は機会飲酒のみ ・身長168cm、体重60kg → BMI=60÷(1.68×1.68)≒21.3で普通体重(18.5以上25未満)。腹囲77cmも男性のメタボリックシンドローム基準(85cm以上)未満 ・空腹時血糖99mg/dL(110mg/dL未満で正常域)、尿酸6.8mg/dL(7.0mg/dL以下で高尿酸血症ではない) ・総コレステロール170mg/dL、トリグリセリド70mg/dL(150mg/dL未満)、HDLコレステロール58mg/dL(40mg/dL以上):脂質異常なし ・尿蛋白・尿糖陰性、心電図正常:明らかな臓器障害の所見なし ・摂取エネルギー1,900kcal/日(体格からみて過剰ではない)、塩分摂取量15g/日(著しい過剰)
考え方
高血圧のほかに肥満、耐糖能異常、脂質異常症、高尿酸血症、喫煙、多量飲酒といった問題はみられず、明らかな生活習慣上の問題は食塩の過剰摂取だけである。食塩の過剰摂取は、体内へのナトリウムと水の貯留による循環血液量の増加などを介して血圧を上げる、日本人の高血圧の最大の生活習慣要因である。食塩感受性には遺伝的素因も関与し、高血圧の家族歴があることも合わせて考えると、まず行うべき指示は減塩である。 高血圧の治療は、すべての患者に生活習慣の修正を行い、リスクに応じて降圧薬を加えるのが原則である。本例のように若年で臓器障害がなく、ほかの危険因子にも乏しいI度高血圧では、まず生活習慣の修正(とくに減塩)を行い、一定期間後に血圧を再評価する。問題文から是正すべき点を探し、検査値が正常な項目に対して不要な制限を課さないことが、本問の解き方である。
選択肢考察
- ○a. 減塩
塩分摂取量15g/日は著しい過剰である。日本高血圧学会のガイドラインは、高血圧患者の食塩摂取量を6g/日未満とするよう推奨している(日本人の食事摂取基準の目標量は成人男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満)。減塩によって収縮期血圧は数mmHg程度下がることが期待でき、本例では食塩の過剰が唯一の明らかな生活習慣上の問題であるため、最も適切な指示である。具体的には、汁物・漬物・加工食品・麺類のつゆなどを減らし、出汁や酸味・香辛料を活用するなどの工夫を指導する。
- ×b. 禁酒
飲酒は機会飲酒(宴席などで時々飲む程度)にとどまり、習慣的な多量飲酒はない。高血圧患者に推奨される節酒の目安は、エタノールとして男性20~30mL/日以下、女性10~20mL/日以下程度であり、本例はこれを超えていないので禁酒を指示する必要はない。
- ×c. 体重の減量
BMIは約21.3で普通体重(18.5以上25未満)の範囲にあり、腹囲77cmもメタボリックシンドロームの腹囲基準(男性85cm以上)を満たさない。摂取エネルギー1,900kcal/日も体格・年齢からみて過剰ではない。減量は肥満を伴う高血圧には有効だが、本例には該当しない。
- ×d. 脂肪摂取制限
総コレステロール170mg/dL、トリグリセリド70mg/dL(空腹時150mg/dL未満で正常)、HDLコレステロール58mg/dL(40mg/dL以上で正常)であり、脂質異常症はない。高血圧の生活習慣修正として飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を控えることは一般に推奨されるが、本例で優先して指示すべき項目ではない。
- ×e. プリン体摂取制限
尿酸6.8mg/dLであり、高尿酸血症の基準(血清尿酸値7.0mg/dL超)を満たさない。プリン体の摂取制限は高尿酸血症や痛風の患者に対して行う指導であり、本例では必要ない。
成人の血圧分類(診察室血圧、日本高血圧学会)
・正常血圧:120未満かつ80未満mmHg ・正常高値血圧:120~129かつ80未満 ・高値血圧:130~139かつ/または80~89 ・I度高血圧:140~159かつ/または90~99 ・II度高血圧:160~179かつ/または100~109 ・III度高血圧:180以上かつ/または110以上 ・(孤立性)収縮期高血圧:140以上かつ90未満 家庭血圧では135/85mmHg以上を高血圧とする。
高血圧の生活習慣修正の項目
・減塩:食塩6g/日未満 ・野菜・果物の積極的摂取(重篤な腎障害がある場合は高カリウム血症に注意)、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える、多価不飽和脂肪酸・低脂肪乳製品の積極的摂取 ・適正体重の維持:BMI 25未満 ・運動:軽強度の有酸素運動を中心に、定期的に(毎日30分以上を目標に)行う ・節酒:エタノールとして男性20~30mL/日以下、女性10~20mL/日以下 ・禁煙(受動喫煙の防止も含む) これらを複合的に行うと、より大きな降圧効果が得られる。
若年発症の高血圧で注意すること
高血圧の約9割は本態性高血圧であり、遺伝素因と食塩摂取などの環境因子が関与する。一方で、若年者の高血圧では二次性高血圧(原発性アルドステロン症、腎実質性・腎血管性高血圧、睡眠時無呼吸症候群など)の可能性も念頭に置き、必要に応じてスクリーニングを行う。また、1回の測定のみで診断せず、家庭血圧などを含めて繰り返し評価する。
POINT
・高血圧患者の減塩目標は食塩6g/日未満(食事摂取基準の目標量は成人男性7.5g未満、女性6.5g未満) ・高血圧の治療はまず生活習慣の修正から始め、リスクに応じて降圧薬を加える ・BMI、腹囲、脂質、尿酸、血糖、飲酒・喫煙歴を確認し、問題のある項目だけを是正する ・BMIは体重(kg)÷身長(m)の2乗。普通体重は18.5以上25未満
