StudyMed医師国家試験

「全部できている人」に何を指導する?―高値血圧の生活指導は目標値との照合で決まる

第119回医師国家試験 C問題 第55問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第55問

44歳の男性。健康診断で初めて血圧高値を指摘され来院した。健康診断時の血圧は138/88mmHgであった。体重は20歳ごろから変わっていない。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴はない。飲酒は月1回で日本酒0.5合(アルコール濃度15%)/回。健康診断後から毎日ジョギングを1時間している。身長162cm,体重58kg。BMI 22.0。脈拍68/分,整。血圧134/82mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下肢に浮腫を認めない。尿所見:蛋白(-)。血液生化学所見:クレアチニン0.7mg/dL,尿酸6.4mg/dL,空腹時血糖80mg/dL,HbA1c 5.4%(基準4.9~6.0),総コレステロール196mg/dL,トリグリセリド100mg/dL,HDLコレステロール68mg/dL。食事内容の評価で,食塩摂取量5.5g/日,野菜摂取量200g/日。  この患者の生活習慣に対する指導で適切なのはどれか。

  1. a.「飲酒はやめましょう」
  2. b.「塩分を控えましょう」
  3. c.「体重を減らしましょう」
  4. d.「運動量を増やしましょう」
  5. e.「野菜を多く摂りましょう」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健康診断で血圧が高めと言われた人に、どんな生活指導をするかという問題だ。ポイントは2つ。まず血圧がどの段階にあたるのかを判断すること、次に生活習慣の一つひとつを目標値と照らし合わせることだ。最初に、この血圧はどう分類されるかな。
医学生医学生
診察室で134/82mmHgなので、140/90mmHgには届いていません。高血圧ではない、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。日本高血圧学会のガイドラインでは、130〜139/80〜89mmHgは「高値血圧」に分類される。高血圧の一歩手前で、この段階では降圧薬ではなく生活習慣の修正が対応の中心になる。ただし高値血圧は高血圧に移行しやすく、心血管病のリスクも正常血圧より高いから、放っておいてよいわけではないんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、生活習慣の修正項目は減塩、野菜・果物、減量、運動、節酒、禁煙だと習いました。全部指導すればいいように思ってしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。一般論を全部並べるのではなく、この人に何が足りないのか、何が過剰なのかを見極めるのが本当の生活指導だ。では順番に見ていこう。体重はどうかな。
医学生医学生
BMI 22.0で、20歳ごろから体重も変わっていません。減量は必要なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。BMI 22は統計的に最も病気が少ない標準体重で、ガイドラインの減量目標であるBMI 25未満も満たしている。20歳時から10kg以上増えていると生活習慣病の危険因子とされるけれど、それもない。次は飲酒だ。
医学生医学生
月1回とはいえ、お酒は飲んでいるので、やめてもらったほうが安全な気もします。
ドクタードクター
迷ったら純アルコール量を計算してみよう。飲酒量に濃度と比重0.8をかける。日本酒0.5合はおよそ90mLだから、90×0.15×0.8で約11g。しかもそれが月1回だから、1日平均にすればごくわずかだ。ガイドラインの節酒目標は男性でエタノール20〜30mL/日以下で、これを大きく下回っている。禁酒を指導する理由はないね。
医学生医学生
計算すると全然問題ないんですね。CBTの対策でもこの計算式は出てきました。塩分はどうでしょう。
ドクタードクター
食塩5.5g/日は、高血圧の減塩目標である6g/日未満をすでに達成している。日本人の成人男性の平均が約10g/日だから、かなり頑張っている人だ。これ以上の減塩を求めるより、今の食生活を続けてもらうのがよい。運動はどう判断する?
医学生医学生
毎日1時間ジョギングしているので、毎日30分以上の有酸素運動という目標を十分に超えていますね。
ドクタードクター
その通り。健康診断をきっかけに始めたというのも立派だね。むしろ継続を励ます場面だ。そうなると、残るのは何かな。
医学生医学生
野菜が200g/日です。健康日本21の目標は350g/日以上だったので、150gくらい足りません。これが唯一の改善点ですね。
ドクタードクター
正解。だから適切な指導は「野菜を多く摂りましょう」になる。野菜にはカリウムが多く含まれていて、カリウムは腎臓でのナトリウム排泄を促し、血管平滑筋を弛緩させて血圧を下げる方向に働く。野菜・果物・低脂肪乳製品を多くとるDASH食に降圧効果が示されているのもこの考え方につながっている。
医学生医学生
カリウムを増やすなら、腎機能は確認しておかないといけませんよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。重い腎障害があるとカリウムが排泄できず高カリウム血症の危険がある。この人はクレアチニン0.7mg/dLで尿蛋白も陰性だから心配はない。また、肥満や糖尿病がある人では果物のとりすぎに注意するけれど、血糖も脂質も正常だ。
医学生医学生
臨床実習の内科外来で、指導医の先生が「できていることはまず褒める」と話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
それは大事な姿勢だよ。すでに達成できている減塩や運動は「その調子で続けましょう」と伝え、足りない野菜だけを具体的に提案する。例えば毎食に小鉢を一品足す、といった実行しやすい形で伝えると続けてもらいやすい。あわせて家庭血圧の測定を勧めて経過を追うことも忘れずに。家庭血圧では135/85mmHg以上が高血圧の基準になる。
医学生医学生
減塩と野菜摂取は、ナトリウムとカリウムの比を下げるという意味で、お互いに補い合っているんですね。
ドクタードクター
まさにそう。降圧のための生活習慣の修正は、複数を組み合わせるほど効果が大きくなる。だからこそ、患者さんごとに足りない項目を正確に拾い上げる力が求められるんだ。

まとめ

診察室血圧130〜139/80〜89mmHgは「高値血圧」にあたり、降圧薬ではなく生活習慣の修正が対応の中心となります。生活指導は一般論を並べるのではなく、体重(BMI 25未満)、飲酒(男性でエタノール20〜30mL/日以下)、食塩(6g/日未満)、運動(有酸素運動を毎日30分以上)、野菜(350g/日以上)などの目標値と患者の現状を一つずつ照らし合わせ、不足・過剰な項目に絞って行います。本例で目標に届いていないのは野菜摂取量だけであり、カリウムによるナトリウム排泄促進を通じた降圧効果を期待して野菜の摂取を勧めます。カリウム摂取を増やす際は腎機能の確認が欠かせず、すでに達成できている習慣は継続を励ますことが大切です。目標値を具体的に把握し、患者ごとに指導内容を個別化する考え方は、外来や健診後指導の場で日常的に求められる基本的な臨床能力です。

解答・解説

正解はeです

血圧の評価

健康診断時138/88mmHg、診察室で134/82mmHgである。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)の診察室血圧の分類では、収縮期130〜139mmHgかつ/または拡張期80〜89mmHgは「高値血圧」にあたり、高血圧(140/90mmHg以上)には達していない。高値血圧の段階では、降圧薬ではなく生活習慣の修正が対応の中心となる。そこで、本例の生活習慣のうち、どこに改善の余地があるかを一つずつ確認する。

生活習慣の項目ごとの評価

・体重:身長162cm・体重58kgでBMI 22.0(標準体重)。20歳ごろから体重増加もない → 減量の必要はない。 ・喫煙:なし → 問題なし。 ・飲酒:月1回、日本酒0.5合(90mL)。純アルコール量は 90mL × 0.15(アルコール濃度)× 0.8(エタノールの比重)≒ 10.8g/回で、1日あたり平均にすればごくわずか → 節酒・禁酒指導の対象ではない。 ・運動:健康診断後から毎日1時間のジョギング → 推奨される運動量を十分に上回っている。 ・食塩:5.5g/日 → 高血圧患者の減塩目標(6g/日未満)もすでに達成している。 ・野菜:200g/日 → 成人の目標量である350g/日を下回っている。

考え方

各項目を目標値と照らし合わせると、目標に届いていないのは野菜摂取量だけである。したがって、この患者に行うべき生活指導は「野菜を多く摂りましょう」となる。生活指導は一般論をすべて並べるのではなく、患者ごとに不足・過剰な項目を見極め、すでに達成できている項目は継続を促すことが大切である。 なお、検査値(クレアチニン0.7mg/dL、尿蛋白陰性、尿酸6.4mg/dL、空腹時血糖80mg/dL、HbA1c 5.4%、脂質正常)からは腎障害、糖尿病、脂質異常症などの合併はなく、カリウムを多く含む野菜の摂取を増やしても問題はない。

選択肢考察

  1. ×a.  「飲酒はやめましょう」

    飲酒は月1回、日本酒0.5合で、純アルコールに換算すると1回あたり約11gにすぎない。JSH2019が高血圧者に勧める節酒の目安は、男性でエタノール20〜30mL/日(おおよそ日本酒1合)以下であり、厚生労働省の示す「節度ある適度な飲酒」も1日平均純アルコール約20g程度である。本例の飲酒量はこれらを大きく下回るため、禁酒を指導する必要はない。

  2. ×b.  「塩分を控えましょう」

    食塩摂取量は5.5g/日である。日本人の食事摂取基準の成人男性の目標量(7.5g/日未満)を満たし、さらに高血圧の予防・治療で目標とされる6g/日未満も達成している。日本人の平均摂取量(成人男性で約10g/日)と比べても大幅に少なく、これ以上の減塩を指導する必要はない。現状の維持を勧めればよい。

  3. ×c.  「体重を減らしましょう」

    BMI 22.0は統計的に最も疾病の少ない標準体重にあたり、肥満(BMI 25以上)ではない。また20歳ごろからの体重増加もない(20歳時から10kg以上の増加は生活習慣病の危険因子とされる)。JSH2019の減量目標はBMI 25未満であり、本例にはあてはまらない。

  4. ×d.  「運動量を増やしましょう」

    毎日1時間のジョギングを行っている。JSH2019は軽強度の有酸素運動を毎日30分以上(または週180分以上)行うことを勧めており、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、成人は息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上行うことが推奨されている。本例の運動量はこれらを十分に満たしており、さらに増やす必要はない。むしろ現在の習慣の継続を勧める。

  5. ○e.  「野菜を多く摂りましょう」

    野菜摂取量は200g/日で、健康日本21で成人の目標とされる350g/日以上に150g程度不足しており、生活習慣の中で唯一改善が必要な項目である。野菜にはカリウムが多く含まれ、カリウムは腎臓でのナトリウム排泄を促して降圧に働く。JSH2019でも野菜・果物の積極的摂取が推奨されており、野菜・果物・低脂肪乳製品を多くとるDASH食には明らかな降圧効果が示されている。本例は腎機能が正常で、カリウム摂取増加による高カリウム血症の心配もない。

成人の血圧分類(JSH2019、診察室血圧)

・正常血圧:120/80mmHg未満(収縮期120未満かつ拡張期80未満) ・正常高値血圧:120〜129/80mmHg未満 ・高値血圧:130〜139/80〜89mmHg ・Ⅰ度高血圧:140〜159/90〜99mmHg ・Ⅱ度高血圧:160〜179/100〜109mmHg ・Ⅲ度高血圧:180/110mmHg以上 (家庭血圧の高血圧基準は135/85mmHg以上) 高値血圧は高血圧に移行しやすく、心血管病のリスクも正常血圧より高いため、早期からの生活習慣修正が勧められる。家庭血圧の測定を併せて行い、経過を追う。

JSH2019の生活習慣の修正項目

1. 食塩制限:6g/日未満 2. 野菜・果物の積極的摂取(重篤な腎障害がある場合はカリウム制限のため注意。肥満や糖尿病では果物の過剰摂取に注意)、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える、多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品の積極的摂取 3. 適正体重の維持:BMI 25未満 4. 運動療法:軽強度の有酸素運動を毎日30分、または週180分以上 5. 節酒:エタノールとして男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下 6. 禁煙 複数の項目を組み合わせると、より大きな降圧効果が期待できる。

その他の関連する目標値

・日本人の食事摂取基準における食塩の目標量:成人男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満 ・健康日本21における野菜摂取の目標:1日350g以上 ・純アルコール量の計算:飲酒量(mL)× アルコール濃度 × 0.8 ・「節度ある適度な飲酒」:1日平均純アルコール約20g(日本酒1合、ビール中瓶1本程度) ・健康日本21(第三次)の「生活習慣病のリスクを高める量」:1日あたり純アルコール男性40g以上、女性20g以上 ・健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(成人):歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)、息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日

野菜・カリウムと血圧

カリウムは尿中へのナトリウム排泄を増やし、血管平滑筋を弛緩させることで血圧を下げる。ナトリウム/カリウム比を下げることが降圧に有効とされ、減塩と野菜摂取増加は互いに補い合う関係にある。

POINT

・134/82mmHg(130〜139/80〜89)は「高値血圧」で、まず生活習慣の修正を行う。 ・生活指導は、各項目を目標値と比べて「不足・過剰な点」に絞って行う。 ・目標値:食塩6g/日未満(高血圧)、BMI 25未満、有酸素運動毎日30分以上、節酒(男性エタノール20〜30mL/日以下)、禁煙、野菜350g/日以上。 ・本例で目標未達なのは野菜摂取(200g/日)のみ → 野菜摂取を勧める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。