防護具はどこで脱ぐ?―「汚染」と「清潔」の境界線を見抜くゾーニングの基本
第117回医師国家試験 C問題 第43問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。医療スタッフが個人用防護具を使用した対応が必要な感染症で入院した。慢性閉塞性肺疾患の既往があり,現在も咳嗽を認める。この患者の病室の間取り図を示す。廊下で個人防護具を着用し入室して診察した。 診察後,使用した個人用防護具を脱衣するのに最も適切なのはどこか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
PPEは清潔区域で着用し、汚染区域と清潔区域の境界で脱衣するのが原則で、この区分けをゾーニングと呼びます。咳をしている感染症患者の病室内は空気も環境も汚染されていると考え、廊下は不特定多数が行き来する清潔区域として扱うため、両者の間にある前室でPPEを外し、洗面台で手指衛生を行ってから廊下へ出るのが最も適切です。病室内で外すと医療者が無防備なまま病原体に曝露され、廊下で外すと病原体を持ち出して院内感染の原因になります。脱衣は最も汚染された手袋から始めて最後にマスクを外し、前後で手指衛生を行うこと、前室の2枚の扉を同時に開けないこと、N95マスクは病室を出てから外すことも重要です。間取りを汚染区域と清潔区域に塗り分けて考える習慣は、日常の感染対策から新興感染症への対応まで、医療者自身と他の患者を守る基本となります。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・75歳男性。医療スタッフが個人用防護具(PPE:personal protective equipment。手袋、ガウン、マスク、ゴーグル・フェイスシールドなど)を着けて対応する必要のある感染症で入院している。 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の既往があり、現在も咳をしている。咳によって病原体を含む飛沫やより微細な粒子(エアロゾル)が病室内に広がり、床・ベッド・周囲の物品の表面、さらには病室内の空気も汚染されていると考えるべき状況である。
間取り図の読み取り
・⑤: 廊下。他の患者・職員・面会者が行き来する場所で、清潔区域として扱う。 ・④: 廊下と病室の間にある小部屋(前室)。廊下側と病室側の両方に引き戸があり、洗面台が設置されている。 ・①②③: 患者のいる病室内。①はベッドとベッドの間、②は患者のすぐそば、③は病室内の出入口付近である。いずれも汚染区域である。
考え方:ゾーニングとPPEの着脱場所
感染対策では、病原体で汚染されている区域(汚染区域)と汚染されていない区域(清潔区域)を明確に分ける「ゾーニング」を行い、その境界でPPEを着脱する。原則は「清潔区域で着て、汚染区域を出るところ(境界)で脱ぐ」である。 ・診察後のPPEの表面には病原体が付着している。これを清潔区域である廊下で外すと、付着した病原体が廊下にまき散らされ、そこを通る人々に感染を広げてしまう。 ・一方、患者のいる病室の奥で外すと、外した後の素顔や衣服が、咳で汚染された病室内の空気・環境に再び曝露されてしまう。 ・病室と廊下の間に前室がある場合、前室が両者の緩衝帯となり、PPEを脱ぐ場所として最も適している。前室内でPPEを順番に外し、すぐそばの洗面台で手洗い(手指衛生)を行ってから廊下へ出ることで、病原体を廊下へ持ち出さずにすむ。また2枚の引き戸を同時に開けないようにすることで、病室内の汚染された空気が廊下に流れ出るのも防げる。 したがって、最も適切な脱衣場所は④である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は病室内のベッドとベッドの間で、咳をしている患者と同じ空間にある汚染区域の中である。ここでPPEを外すと、防護のない状態の顔や衣服が病室内に浮遊・付着した病原体に曝露されるうえ、外したPPEを持ったまま病室内を歩くことにもなる。不適切である。
- ×b. ②
②は患者のすぐ横で、病室内で最も汚染の程度が高い場所の一つである。咳による飛沫を直接浴びる可能性があり、ここでPPEを外すのは医療者自身の感染リスクを最も高める行為である。不適切である。
- ×c. ③
③は病室の出入口付近であるが、仕切りのない病室内にあり、患者と同じ空気を共有する汚染区域である。前室がない病室では出入口の内側で手袋やガウンを外す運用もあるが、本例のように前室(④)が設けられている場合は、病室を出て前室で外す方が、外した後の医療者が汚染された病室内の環境に曝露されずにすむ。最も適切とはいえない。
- ○d. ④
④は病室と廊下を隔てる前室で、汚染区域(病室)と清潔区域(廊下)の境界にあたる。ここでPPEを外せば、病室内の汚染された空気から離れた状態で脱衣でき、かつ汚染されたPPEを廊下に持ち出さずにすむ。洗面台が設置されているので、PPEを外した直後に手指衛生を行える点も合理的である。外したPPEは前室内の感染性廃棄物容器に廃棄する。最も適切な場所である。
- ×e. ⑤
⑤の廊下は不特定多数の人が行き来する清潔区域である。PPEを着用するのは廊下でよいが、診察で汚染されたPPEを廊下で外すと、付着した病原体が廊下の環境や通行人に広がり、院内感染の原因となる。汚染されたPPEのまま廊下に出ること自体も避けなければならない。不適切である。
標準予防策と感染経路別予防策
・標準予防策(スタンダードプリコーション): すべての患者の血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物、粘膜、傷のある皮膚を感染の可能性があるものとして扱う考え方。手指衛生を基本に、曝露が予想される場合にPPEを用いる。 ・感染経路別予防策: 標準予防策に加えて行う。 接触予防策: MRSA、多剤耐性菌、Clostridioides difficile、疥癬など。手袋とガウンを用いる。 飛沫予防策: インフルエンザ、マイコプラズマ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳など。サージカルマスクを用い、個室管理またはベッド間隔を十分あける。 空気予防策: 結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)。医療者はN95マスクを着用し、患者は陰圧個室(空気感染隔離室)で管理する。
前室の役割
空気感染隔離室などでは、病室と廊下の間に前室が設けられることが多い。前室は、病室内の空気が廊下に流出するのを防ぐ緩衝空間であり、医療者がPPEを着脱する場所としても使われる。2枚の扉を同時に開けないことが原則である。
PPEの着脱の順序(一般的な例)
・着用(清潔区域で): 手指衛生 → ガウン → マスク(N95ではフィットチェックを行う) → ゴーグル・フェイスシールド → 手袋。 ・脱衣(境界で): 最も汚染されている手袋を最初に外す → 手指衛生 → ゴーグル・フェイスシールド → ガウン → マスク → 手指衛生。外す際はPPEの外側(汚染面)に触れないよう、裏返しながら丸めて廃棄する。 ・N95マスクは、汚染された空気のある病室を出て扉を閉めた後(前室または病室外)に外すのが原則である。
ゾーニング
汚染区域(レッドゾーン)と清潔区域(グリーンゾーン)を明確に分け、その中間に脱衣などを行う区域(イエローゾーン)を設けることがある。人と物の流れは清潔区域から汚染区域への一方向を基本とし、汚染区域から出るときは必ず境界で汚染を除いてから清潔区域に戻る。
POINT
・PPEは清潔区域で着用し、汚染区域と清潔区域の境界で脱衣する。 ・咳をしている感染症患者の病室内(①②③)は汚染区域、廊下(⑤)は清潔区域である。 ・前室がある病室では、前室(④)でPPEを外し、手指衛生を行ってから廊下に出る。 ・汚染されたPPEのまま廊下に出たり、廊下で外したりしてはならない。 ・脱衣は最も汚染された手袋から外し、最後にマスクを外して手指衛生を行う。
