治すためではなく、痛みを取るために―骨転移に放射線をあてる本当の理由
第114回医師国家試験 F問題 第9問
国試問題にチャレンジ
四肢の転移性骨腫瘍に対する放射線治療で最も期待される効果はどれか。
- a.疼痛の緩和
- b.病変の根治
- c.遠隔転移の抑制
- d.病的骨折の予防
- e.高カルシウム血症の是正
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
骨転移は血行性に全身へ広がった結果であり、見つかった時点でがんは全身病と考えるのが原則です。そのため四肢の骨転移に対する放射線治療は根治ではなく症状緩和を目的とした緩和照射であり、最も期待される効果は疼痛の緩和で、約6〜9割の患者で除痛が得られます。放射線は局所療法なので遠隔転移の抑制はできず、全身性の病態である高カルシウム血症の是正には補液やビスホスホネート製剤、デノスマブ、カルシトニン製剤が用いられます。病的骨折の予防効果は限定的で、骨折リスクの高い長管骨病変では予防的な手術的固定を優先し、術後照射を加えるのが一般的です。局所治療で得られるものと得られないものを区別する視点は、がん患者のQOLを支える集学的治療を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
骨転移は、肺癌、乳癌、前立腺癌、腎癌、甲状腺癌などの進行に伴ってしばしば生じる。骨転移がある時点で、原発巣からがん細胞が血流に乗って全身に広がっている(全身病である)と考えるのが原則である。そのため、骨転移に対する局所治療の主な目的は根治ではなく、症状を和らげて生活の質(QOL:quality of life)を保つことにある。こうした治療を緩和照射と呼ぶ。 骨転移が引き起こす問題には、疼痛、病的骨折、脊髄圧迫による麻痺、高カルシウム血症などがある。なかでも疼痛はもっとも頻度が高く、患者を苦しめる症状である。放射線治療は骨転移の疼痛に対して高い効果をもち、照射を受けた患者のおよそ6〜9割で痛みの軽減が得られる。効果は照射後数日から数週で現れ、鎮痛薬(オピオイドなど)の減量につながることも多い。 本問では、放射線という「局所」の治療で何が得られ、何が得られないかを整理すると答えが定まる。局所の腫瘍を縮小させて痛みを和らげることが最も期待される効果である。一方、全身に広がった病変の根治、他臓器への転移の抑制、全身の代謝異常である高カルシウム血症の是正は、局所照射の守備範囲を超えている。
選択肢考察
- ○a. 疼痛の緩和
正しい。骨転移の痛みに対する放射線治療は、およそ6〜9割の患者で疼痛を軽減させる。痛みが完全に消える例も2〜3割程度ある。照射により腫瘍が縮小して骨膜への圧迫や周囲神経への刺激が減ることに加え、痛みの原因となる炎症性物質を出す細胞や破骨細胞の働きが抑えられることが、除痛の機序と考えられている。効果は数か月持続することが多く、鎮痛薬を減らせる点でもQOLの改善に役立つ。疼痛緩和を目的とする場合、8Gyの単回照射と30Gy/10回などの分割照射とで除痛効果はほぼ同等とされ、通院の負担が少ない単回照射も広く用いられている。
- ×b. 病変の根治
誤り。骨転移は血行性に全身へ広がった結果であり、照射した部位以外にも画像で見えない微小な転移が存在すると考えるのが普通である。そのため、一か所への照射で病気そのものを治すことは通常期待できない。ただし、転移が単発または少数に限られるオリゴ転移(少数転移)では、定位放射線治療などの高線量照射で長期の病勢制御を目指す場合もあるが、一般的な四肢の骨転移に対する照射の主目的とはいえない。
- ×c. 遠隔転移の抑制
誤り。放射線治療は照射した範囲にだけ効果を及ぼす局所療法である。照射野の外にある他の臓器や骨への新たな転移を防ぐことはできない。全身の病変の制御には、化学療法、分子標的薬、ホルモン療法、免疫チェックポイント阻害薬などの全身療法が必要である。
- ×d. 病的骨折の予防
誤り。照射によって腫瘍が縮小すると、その後に骨が再生(再骨化)して強度が回復することがある。しかし、再骨化には数か月を要し、照射直後にはかえって骨がもろくなることもある。そのため、照射によって骨折の頻度が明らかに下がるという根拠は乏しい。骨折のリスクが高い四肢の長管骨の病変(大きな溶骨性病変や骨皮質の破壊が進んだ病変など)では、髄内釘などによる予防的な手術的固定を優先し、その後に照射を加えるのが一般的である。骨折予防を目的に照射を行うこともあるが、疼痛緩和ほどの効果は期待できない。
- ×e. 高カルシウム血症の是正
誤り。悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は、多発する骨転移による骨破壊や、腫瘍が産生するPTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)による全身の骨吸収亢進で生じる全身性の病態である。一部の骨に照射しても血清カルシウム値を是正する効果は乏しい。治療は、生理食塩水による十分な補液(脱水の改善とカルシウム排泄の促進)、ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸など)やデノスマブ(抗RANKL抗体)による骨吸収の抑制、カルシトニン製剤(エルカトニン)による速やかな血清カルシウム低下などが中心である。重症例では透析を行うこともある。
骨転移に対する放射線治療の主な目的
・疼痛緩和:最も頻度が高い適応である。約6〜9割で除痛が得られる。 ・脊髄圧迫・神経圧迫症状の改善:転移性脊椎腫瘍による脊髄圧迫は緊急照射(または手術)の適応となる。麻痺が完成する前の早期治療が重要である。 ・術後照射:病的骨折や切迫骨折に対して手術的固定を行った後、局所の腫瘍の再増大を抑える目的で行う。 ・オリゴ転移に対する根治的な局所制御(定位放射線治療など)
線量分割
疼痛緩和では8Gy/1回、20Gy/5回、30Gy/10回などが用いられる。除痛効果は単回照射と分割照射とでほぼ同等である。単回照射は再照射が必要になる割合がやや高いが、患者の通院負担が小さいという利点がある。
骨転移の集学的治療
骨転移の管理は放射線治療だけでなく、鎮痛薬(WHO方式のがん疼痛治療)、骨修飾薬(ビスホスホネート製剤、デノスマブ)による骨関連事象(病的骨折、脊髄圧迫、高カルシウム血症など)の予防、整形外科的手術、全身療法を組み合わせて行う。骨修飾薬を使う際は、低カルシウム血症や顎骨壊死などの有害事象に注意が必要である。
POINT
・骨転移に対する放射線治療で最も期待される効果は疼痛緩和である(約6〜9割で除痛) ・放射線治療は局所療法であり、根治や遠隔転移の抑制は期待できない ・四肢の病的骨折の予防は手術的固定が中心で、照射の骨折予防効果は限定的である ・悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の治療は補液、ビスホスホネート製剤、デノスマブ、カルシトニン製剤である
