StudyMed医師国家試験

治すためではなく、痛みを取るために―骨転移に放射線をあてる本当の理由

第114回医師国家試験 F問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第9問

四肢の転移性骨腫瘍に対する放射線治療で最も期待される効果はどれか。

  1. a.疼痛の緩和
  2. b.病変の根治
  3. c.遠隔転移の抑制
  4. d.病的骨折の予防
  5. e.高カルシウム血症の是正

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、四肢の骨転移に放射線治療を行うとき、何を一番の目的にしているかを問う問題だ。ポイントは2つ。骨転移があるという状態が病気全体としてどういう意味をもつのか、そして放射線治療がどこまで効く治療なのか、という点だね。
医学生医学生
放射線はがんを焼いて治す治療というイメージがあるので、根治を選びたくなってしまいます。
ドクタードクター
その感覚はよくわかる。でも、骨転移はどうやってできるか思い出してみよう。
医学生医学生
病理学の講義で、がん細胞が血流に乗って骨に定着する血行性転移だと習いました。肺癌、乳癌、前立腺癌、腎癌、甲状腺癌が骨転移しやすいんですよね。
ドクタードクター
その通り。血流に乗って骨までたどり着いたということは、画像に写らない小さな転移がほかの場所にもあると考えるのが原則なんだ。つまり骨転移が見つかった時点で、がんは全身の病気になっている。だから、一か所に放射線をあてても病気そのものを治すことは通常期待できない。
医学生医学生
なるほど。では、一か所だけ照射して何を目指すんですか。
ドクタードクター
症状を和らげて生活の質、つまりQOLを保つことだ。こうした治療を緩和照射という。骨転移が起こす問題には、痛み、病的骨折、脊髄圧迫による麻痺、高カルシウム血症などがあるけれど、いちばん多く、いちばん患者さんを苦しめるのが痛みなんだ。
医学生医学生
それで疼痛の緩和が正解なんですね。どのくらい効くものなんですか。
ドクタードクター
照射を受けた患者さんのおよそ6〜9割で痛みが軽くなり、2〜3割では痛みがほぼ消えるとされている。効果は照射後数日から数週で現れ、オピオイドなどの鎮痛薬を減らせることも多い。腫瘍が小さくなって骨膜や神経への刺激が減ることに加え、炎症性物質を出す細胞や破骨細胞の働きが抑えられることが除痛の機序と考えられているよ。
医学生医学生
では、遠隔転移の抑制はどうでしょう。照射でがんが減れば、ほかへの転移も減りそうな気がします。
ドクタードクター
放射線は照射した範囲にしか効かない局所療法だから、照射野の外にできる新しい転移は防げない。全身の病変を抑えるには、化学療法、分子標的薬、ホルモン療法、免疫チェックポイント阻害薬などの全身療法が必要になる。
医学生医学生
病的骨折の予防は迷いました。腫瘍が小さくなれば骨も丈夫になりそうですし。
ドクタードクター
そこはいいところに目をつけたね。照射後に骨が再生する再骨化が起こることはあるけれど、それには数か月かかり、照射直後はかえって骨がもろくなることもある。照射で骨折が明らかに減るという根拠は乏しいんだ。大腿骨のような長管骨で、大きな溶骨性病変や骨皮質の破壊が進んでいて折れそうなら、髄内釘などで予防的に固定する手術を優先し、そのあとに照射を加えるのが一般的だよ。
医学生医学生
整形外科の実習で、切迫骨折の患者さんに髄内釘を入れた後、放射線科に照射を依頼していたのを見ました。あれは術後照射だったんですね。
ドクタードクター
そう、固定した部位で腫瘍が再び大きくなるのを抑える目的だ。最後に高カルシウム血症はどうかな。
医学生医学生
骨が溶けてカルシウムが出てくるなら、照射で骨破壊を止めれば下がりそうですが……。
ドクタードクター
悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は、多発する骨転移による骨破壊や、腫瘍が出すPTHrPによる全身の骨吸収亢進で起こる全身性の病態なんだ。一部の骨に照射しても血清カルシウムはほとんど下がらない。治療は生理食塩水による十分な補液、ビスホスホネート製剤やデノスマブによる骨吸収抑制、即効性を期待したカルシトニン製剤が中心になる。
医学生医学生
局所の治療で得られるもの、得られないものを分けて考えれば、自然に答えが絞れますね。
ドクタードクター
その整理が大事だよ。発展知識も押さえておこう。疼痛緩和が目的なら、8Gyの単回照射と30Gy/10回などの分割照射とで除痛効果はほぼ同等とされている。単回照射は再照射が必要になる割合がやや高いものの、通院負担が小さいので、全身状態が落ちている患者さんには大きな利点になる。
医学生医学生
脊椎の骨転移で足が動かなくなってきた場合も、放射線の出番ですか。
ドクタードクター
転移性脊椎腫瘍による脊髄圧迫は、緊急照射または手術の適応になる。麻痺が完成してからでは回復が難しいので、背部痛に加えて下肢の脱力やしびれ、排尿障害が出てきたら一刻を争うと覚えておこう。また、転移が1〜数個に限られるオリゴ転移では、定位放射線治療などの高線量照射で長期の病勢制御を目指すこともある。ただし、これは一般的な四肢の骨転移に対する照射の主目的とは別の話だ。
医学生医学生
骨転移の治療は、放射線だけでなく鎮痛薬や骨修飾薬、手術、全身療法を組み合わせて考えるんですね。
ドクタードクター
まさに集学的治療だね。骨修飾薬を使うときは、低カルシウム血症や顎骨壊死にも注意が必要だ。治せないから何もしないのではなく、痛みを取って、その人らしく過ごせる時間を支える。それが緩和照射の役割なんだ。

まとめ

骨転移は血行性に全身へ広がった結果であり、見つかった時点でがんは全身病と考えるのが原則です。そのため四肢の骨転移に対する放射線治療は根治ではなく症状緩和を目的とした緩和照射であり、最も期待される効果は疼痛の緩和で、約6〜9割の患者で除痛が得られます。放射線は局所療法なので遠隔転移の抑制はできず、全身性の病態である高カルシウム血症の是正には補液やビスホスホネート製剤、デノスマブ、カルシトニン製剤が用いられます。病的骨折の予防効果は限定的で、骨折リスクの高い長管骨病変では予防的な手術的固定を優先し、術後照射を加えるのが一般的です。局所治療で得られるものと得られないものを区別する視点は、がん患者のQOLを支える集学的治療を理解する土台になります。

解答・解説

正解はaです

骨転移は、肺癌、乳癌、前立腺癌、腎癌、甲状腺癌などの進行に伴ってしばしば生じる。骨転移がある時点で、原発巣からがん細胞が血流に乗って全身に広がっている(全身病である)と考えるのが原則である。そのため、骨転移に対する局所治療の主な目的は根治ではなく、症状を和らげて生活の質(QOL:quality of life)を保つことにある。こうした治療を緩和照射と呼ぶ。 骨転移が引き起こす問題には、疼痛、病的骨折、脊髄圧迫による麻痺、高カルシウム血症などがある。なかでも疼痛はもっとも頻度が高く、患者を苦しめる症状である。放射線治療は骨転移の疼痛に対して高い効果をもち、照射を受けた患者のおよそ6〜9割で痛みの軽減が得られる。効果は照射後数日から数週で現れ、鎮痛薬(オピオイドなど)の減量につながることも多い。 本問では、放射線という「局所」の治療で何が得られ、何が得られないかを整理すると答えが定まる。局所の腫瘍を縮小させて痛みを和らげることが最も期待される効果である。一方、全身に広がった病変の根治、他臓器への転移の抑制、全身の代謝異常である高カルシウム血症の是正は、局所照射の守備範囲を超えている。

選択肢考察

  1. ○a.  疼痛の緩和

    正しい。骨転移の痛みに対する放射線治療は、およそ6〜9割の患者で疼痛を軽減させる。痛みが完全に消える例も2〜3割程度ある。照射により腫瘍が縮小して骨膜への圧迫や周囲神経への刺激が減ることに加え、痛みの原因となる炎症性物質を出す細胞や破骨細胞の働きが抑えられることが、除痛の機序と考えられている。効果は数か月持続することが多く、鎮痛薬を減らせる点でもQOLの改善に役立つ。疼痛緩和を目的とする場合、8Gyの単回照射と30Gy/10回などの分割照射とで除痛効果はほぼ同等とされ、通院の負担が少ない単回照射も広く用いられている。

  2. ×b.  病変の根治

    誤り。骨転移は血行性に全身へ広がった結果であり、照射した部位以外にも画像で見えない微小な転移が存在すると考えるのが普通である。そのため、一か所への照射で病気そのものを治すことは通常期待できない。ただし、転移が単発または少数に限られるオリゴ転移(少数転移)では、定位放射線治療などの高線量照射で長期の病勢制御を目指す場合もあるが、一般的な四肢の骨転移に対する照射の主目的とはいえない。

  3. ×c.  遠隔転移の抑制

    誤り。放射線治療は照射した範囲にだけ効果を及ぼす局所療法である。照射野の外にある他の臓器や骨への新たな転移を防ぐことはできない。全身の病変の制御には、化学療法、分子標的薬、ホルモン療法、免疫チェックポイント阻害薬などの全身療法が必要である。

  4. ×d.  病的骨折の予防

    誤り。照射によって腫瘍が縮小すると、その後に骨が再生(再骨化)して強度が回復することがある。しかし、再骨化には数か月を要し、照射直後にはかえって骨がもろくなることもある。そのため、照射によって骨折の頻度が明らかに下がるという根拠は乏しい。骨折のリスクが高い四肢の長管骨の病変(大きな溶骨性病変や骨皮質の破壊が進んだ病変など)では、髄内釘などによる予防的な手術的固定を優先し、その後に照射を加えるのが一般的である。骨折予防を目的に照射を行うこともあるが、疼痛緩和ほどの効果は期待できない。

  5. ×e.  高カルシウム血症の是正

    誤り。悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は、多発する骨転移による骨破壊や、腫瘍が産生するPTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)による全身の骨吸収亢進で生じる全身性の病態である。一部の骨に照射しても血清カルシウム値を是正する効果は乏しい。治療は、生理食塩水による十分な補液(脱水の改善とカルシウム排泄の促進)、ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸など)やデノスマブ(抗RANKL抗体)による骨吸収の抑制、カルシトニン製剤(エルカトニン)による速やかな血清カルシウム低下などが中心である。重症例では透析を行うこともある。

骨転移に対する放射線治療の主な目的

・疼痛緩和:最も頻度が高い適応である。約6〜9割で除痛が得られる。 ・脊髄圧迫・神経圧迫症状の改善:転移性脊椎腫瘍による脊髄圧迫は緊急照射(または手術)の適応となる。麻痺が完成する前の早期治療が重要である。 ・術後照射:病的骨折や切迫骨折に対して手術的固定を行った後、局所の腫瘍の再増大を抑える目的で行う。 ・オリゴ転移に対する根治的な局所制御(定位放射線治療など)

線量分割

疼痛緩和では8Gy/1回、20Gy/5回、30Gy/10回などが用いられる。除痛効果は単回照射と分割照射とでほぼ同等である。単回照射は再照射が必要になる割合がやや高いが、患者の通院負担が小さいという利点がある。

骨転移の集学的治療

骨転移の管理は放射線治療だけでなく、鎮痛薬(WHO方式のがん疼痛治療)、骨修飾薬(ビスホスホネート製剤、デノスマブ)による骨関連事象(病的骨折、脊髄圧迫、高カルシウム血症など)の予防、整形外科的手術、全身療法を組み合わせて行う。骨修飾薬を使う際は、低カルシウム血症や顎骨壊死などの有害事象に注意が必要である。

POINT

・骨転移に対する放射線治療で最も期待される効果は疼痛緩和である(約6〜9割で除痛) ・放射線治療は局所療法であり、根治や遠隔転移の抑制は期待できない ・四肢の病的骨折の予防は手術的固定が中心で、照射の骨折予防効果は限定的である ・悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の治療は補液、ビスホスホネート製剤、デノスマブ、カルシトニン製剤である

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。