StudyMed医師国家試験

妊娠に気づいた時ではもう遅い―葉酸は「妊娠前」から飲む理由

第114回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第8問

胎児神経管閉鎖障害の予防を目的として葉酸を服用する場合,適切な開始時期はどれか。

  1. a.妊娠の1か月以上前
  2. b.妊娠10週
  3. c.妊娠20週
  4. d.妊娠30週
  5. e.妊娠36週

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児の神経管閉鎖障害を予防するための葉酸をいつから飲み始めるか、という問題だ。カギは「神経管がいつ閉じるのか」と「妊娠に気づくのはいつか」の2つのタイミングを比べること。まず、神経管閉鎖障害とは何か覚えているかな。
医学生医学生
二分脊椎や無脳症のことですよね。発生学の講義で、神経管がうまく閉じないと起こると習いました。
ドクタードクター
その通り。神経管は脳と脊髄のもとになる構造で、ここが閉じないと頭側なら無脳症、尾側なら二分脊椎になる。母体の葉酸不足がリスク因子で、十分に摂取すれば発症リスクを下げられることがわかっている。では、神経管はいつごろ閉じると思う?
医学生医学生
器官形成期の中でも早い時期ですよね……妊娠10週くらいでしょうか。
ドクタードクター
惜しいけれど、もっと早いんだ。神経管の閉鎖は受精後およそ4週、最終月経から数える妊娠週数でいえば妊娠6週ごろに完了する。
医学生医学生
受精からの週数と妊娠週数で2週間ずれるのを、いつも混同してしまいます。
ドクタードクター
よくある混乱だね。妊娠週数は最終月経の初日を0週0日として数え、受精は通常妊娠2週ごろに起こる。だから受精後4週が妊娠6週にあたるわけだ。さて、妊娠6週というのは、本人にとってどんな時期だろう。
医学生医学生
月経が遅れて、ようやく妊娠に気づくころですね。あ、だから妊娠がわかってから飲み始めても間に合わないんですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイントだ。しかも葉酸は飲み始めてから体内の濃度が十分に高まるまでに時間がかかる。だから妊娠が成立する前、少なくとも妊娠の1か月以上前から服用を始める必要がある。これが正解だ。
医学生医学生
妊娠10週や20週は、もう神経管が閉じた後なので予防にはならないということですね。
ドクタードクター
そう。妊娠10週では神経管の閉鎖はすでに終わっているし、主要な器官の形成も妊娠4〜7週ごろが最も活発だ。妊娠20週は妊娠中期で、器官形成期はとうに過ぎている。この時期は胎児超音波で二分脊椎が見つかることはあっても、予防の時期とは別の話だね。
医学生医学生
妊娠30週や36週になると、葉酸を飲む意味自体がなくなるんでしょうか。
ドクタードクター
神経管閉鎖障害の予防という目的では意味がない。ただ、妊娠中は葉酸の需要が増えるから、葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血を防ぐという観点では摂取にも意義がある。目的によって適切な時期が違う、という整理が大切だ。
医学生医学生
量や期間の目安はありますか。公衆衛生の講義で厚生労働省の通知が出てきた気がします。
ドクタードクター
厚生労働省は、妊娠を計画している女性に、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、通常の食事に加えて栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取するよう情報提供している。食事からの葉酸は吸収効率が一定しないから、予防目的ではサプリメントの利用が勧められるんだ。適切な摂取で神経管閉鎖障害のリスクは約7割下がるとされている。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊娠初期の外来に来た方がもう葉酸を飲んでいて驚いたのを思い出しました。
ドクタードクター
妊娠を考えた段階から準備しておく、いわゆるプレコンセプションケアの大事な一部だね。臨床で特に注意したいのはハイリスクの女性だ。神経管閉鎖障害の児を出産したことがある人、バルプロ酸やカルバマゼピンなどの抗てんかん薬を飲んでいる人、糖尿病や肥満のある人はリスクが高い。
医学生医学生
抗てんかん薬を飲んでいる人は、自己判断で薬をやめるのも危険ですよね。
ドクタードクター
その通り。妊娠前から主治医と相談して薬剤を調整し、葉酸摂取も計画的に行うことが大切だ。過去に神経管閉鎖障害の児を出産した人では、医師の管理のもとで通常より多い量の葉酸を使うことがある。また、妊娠中の母体血清α-フェトプロテイン高値は神経管閉鎖障害を疑う手がかりになることも覚えておこう。

まとめ

神経管閉鎖障害(二分脊椎・無脳症)は、脳と脊髄のもとになる神経管が閉じないことで生じ、母体の葉酸不足がリスク因子です。神経管は受精後約4週、妊娠週数で6週ごろまでに閉鎖し、これは本人が妊娠に気づく時期とほぼ重なるため、葉酸は妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4mgを摂取することが推奨されています。妊娠10週以降に開始しても神経管閉鎖障害の予防には間に合いませんが、妊娠中の葉酸摂取は巨赤芽球性貧血の予防という別の意義を持ちます。抗てんかん薬の内服や既往児のある女性などハイリスク例も含め、妊娠を計画する段階から介入するプレコンセプションケアの考え方を理解しておくことが重要です。

解答・解説

正解はaです

神経管閉鎖障害(NTD:neural tube defects)は、胎生期に脳や脊髄のもとになる神経管がうまく閉じないことで生じる先天異常であり、代表例は二分脊椎と無脳症である。母体の葉酸不足がリスク因子であり、妊娠前から葉酸を十分に摂取することで発症リスクを下げられることがわかっている。 開始時期を考えるうえで鍵になるのは、神経管がいつ閉じるかである。神経管は受精後およそ4週(最終月経から数える妊娠週数では妊娠6週ごろ)までに閉鎖を終える。この時期は月経の遅れに気づいて妊娠が判明する頃と重なるため、妊娠がわかってから葉酸を飲み始めても、神経管の形成にはほとんど間に合わない。さらに、葉酸の内服を始めてから体内の葉酸濃度が十分に高まるまでには時間がかかる。 したがって、葉酸の服用は妊娠が成立する前、少なくとも妊娠の1か月以上前から開始し、妊娠初期(妊娠3か月ごろ)まで続けることが推奨されている。

選択肢考察

  1. ○a.  妊娠の1か月以上前

    正しい。神経管は妊娠6週ごろまでに閉鎖が完了するため、その時期に母体の葉酸が十分に満たされている必要がある。妊娠に気づく前に器官形成が進むことを考えると、妊娠を計画している段階から服用を始めておくことが不可欠である。厚生労働省も、妊娠を計画している女性に対して妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、通常の食事に加えて栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取するよう情報提供を行っている。これによりNTDの発症リスクは約7割低下するとされる。

  2. ×b.  妊娠10週

    誤り。妊娠10週の時点ではすでに神経管の閉鎖は完了している(妊娠6週ごろ)。この時期から葉酸を服用しても、NTDの予防効果は期待できない。中枢神経系をはじめとする主要な器官の形成は、妊娠4〜7週ごろにもっとも活発に進む。

  3. ×c.  妊娠20週

    誤り。妊娠20週は妊娠中期にあたり、器官形成期はとうに過ぎている。NTDの予防という目的では遅すぎる。なお、この時期には胎児超音波検査で二分脊椎などの異常が見つかることがあるが、予防の時期とは別問題である。

  4. ×d.  妊娠30週

    誤り。妊娠後期であり、神経管の形成とは無関係な時期である。妊娠中は葉酸の需要が増えるため、葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の予防という観点では摂取に意味があるが、NTDの予防にはならない。

  5. ×e.  妊娠36週

    誤り。正期産(妊娠37週0日〜41週6日)の直前の時期であり、NTDの予防を目的とした葉酸服用の開始時期としては明らかに遅すぎる。

葉酸とは

葉酸はビタミンB群に属する水溶性ビタミンである。核酸(DNA)の合成に必要で、細胞分裂が盛んな組織で特に重要になる。不足すると、骨髄での赤血球の成熟が障害されて巨赤芽球性貧血をきたす。また、胎児では細胞増殖が急速な神経管の形成が障害されやすい。葉酸は緑黄色野菜、レバー、豆類などに多く含まれるが、食事からの吸収効率は一定しないため、予防目的では吸収率の高い栄養補助食品(サプリメント)の利用が勧められる。

神経管閉鎖障害(NTD)

・二分脊椎:脊椎の後方部分(椎弓)の癒合不全である。脊髄髄膜瘤では下肢の運動麻痺・感覚障害、膀胱直腸障害、水頭症などを合併する。 ・無脳症:頭側の神経管が閉じず、大脳が形成されない。生存は困難である。 ・リスク因子:母体の葉酸不足、NTD児の出産歴、抗てんかん薬(特にバルプロ酸やカルバマゼピン)の服用、糖尿病、肥満など。 ・NTDの児を出産したことがある女性では再発リスクが高いため、医師の管理のもとで通常より多い量の葉酸を投与することがある。 ・妊娠中の母体血清α-フェトプロテイン(AFP)高値はNTDを疑う手がかりとなる。

妊娠週数の数え方

妊娠週数は最終月経の初日を妊娠0週0日として数える。受精は通常妊娠2週ごろに起こるため、受精後の日数(胎齢)と妊娠週数には約2週間のずれがある。神経管の閉鎖は受精後約28日(胎齢4週)、すなわち妊娠6週ごろに完了する。

POINT

・神経管は妊娠6週ごろまでに閉鎖する(妊娠が判明する時期とほぼ重なる) ・NTD予防の葉酸は、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4mgを摂取する ・妊娠に気づいてから飲み始めるのでは遅い。妊娠を計画している段階から始める ・適切な葉酸摂取でNTDの発症リスクは約70%低下する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。