妊娠に気づいた時ではもう遅い―葉酸は「妊娠前」から飲む理由
第114回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
胎児神経管閉鎖障害の予防を目的として葉酸を服用する場合,適切な開始時期はどれか。
- a.妊娠の1か月以上前
- b.妊娠10週
- c.妊娠20週
- d.妊娠30週
- e.妊娠36週
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
神経管閉鎖障害(二分脊椎・無脳症)は、脳と脊髄のもとになる神経管が閉じないことで生じ、母体の葉酸不足がリスク因子です。神経管は受精後約4週、妊娠週数で6週ごろまでに閉鎖し、これは本人が妊娠に気づく時期とほぼ重なるため、葉酸は妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4mgを摂取することが推奨されています。妊娠10週以降に開始しても神経管閉鎖障害の予防には間に合いませんが、妊娠中の葉酸摂取は巨赤芽球性貧血の予防という別の意義を持ちます。抗てんかん薬の内服や既往児のある女性などハイリスク例も含め、妊娠を計画する段階から介入するプレコンセプションケアの考え方を理解しておくことが重要です。
解答・解説
正解はaです
神経管閉鎖障害(NTD:neural tube defects)は、胎生期に脳や脊髄のもとになる神経管がうまく閉じないことで生じる先天異常であり、代表例は二分脊椎と無脳症である。母体の葉酸不足がリスク因子であり、妊娠前から葉酸を十分に摂取することで発症リスクを下げられることがわかっている。 開始時期を考えるうえで鍵になるのは、神経管がいつ閉じるかである。神経管は受精後およそ4週(最終月経から数える妊娠週数では妊娠6週ごろ)までに閉鎖を終える。この時期は月経の遅れに気づいて妊娠が判明する頃と重なるため、妊娠がわかってから葉酸を飲み始めても、神経管の形成にはほとんど間に合わない。さらに、葉酸の内服を始めてから体内の葉酸濃度が十分に高まるまでには時間がかかる。 したがって、葉酸の服用は妊娠が成立する前、少なくとも妊娠の1か月以上前から開始し、妊娠初期(妊娠3か月ごろ)まで続けることが推奨されている。
選択肢考察
- ○a. 妊娠の1か月以上前
正しい。神経管は妊娠6週ごろまでに閉鎖が完了するため、その時期に母体の葉酸が十分に満たされている必要がある。妊娠に気づく前に器官形成が進むことを考えると、妊娠を計画している段階から服用を始めておくことが不可欠である。厚生労働省も、妊娠を計画している女性に対して妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、通常の食事に加えて栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取するよう情報提供を行っている。これによりNTDの発症リスクは約7割低下するとされる。
- ×b. 妊娠10週
誤り。妊娠10週の時点ではすでに神経管の閉鎖は完了している(妊娠6週ごろ)。この時期から葉酸を服用しても、NTDの予防効果は期待できない。中枢神経系をはじめとする主要な器官の形成は、妊娠4〜7週ごろにもっとも活発に進む。
- ×c. 妊娠20週
誤り。妊娠20週は妊娠中期にあたり、器官形成期はとうに過ぎている。NTDの予防という目的では遅すぎる。なお、この時期には胎児超音波検査で二分脊椎などの異常が見つかることがあるが、予防の時期とは別問題である。
- ×d. 妊娠30週
誤り。妊娠後期であり、神経管の形成とは無関係な時期である。妊娠中は葉酸の需要が増えるため、葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の予防という観点では摂取に意味があるが、NTDの予防にはならない。
- ×e. 妊娠36週
誤り。正期産(妊娠37週0日〜41週6日)の直前の時期であり、NTDの予防を目的とした葉酸服用の開始時期としては明らかに遅すぎる。
葉酸とは
葉酸はビタミンB群に属する水溶性ビタミンである。核酸(DNA)の合成に必要で、細胞分裂が盛んな組織で特に重要になる。不足すると、骨髄での赤血球の成熟が障害されて巨赤芽球性貧血をきたす。また、胎児では細胞増殖が急速な神経管の形成が障害されやすい。葉酸は緑黄色野菜、レバー、豆類などに多く含まれるが、食事からの吸収効率は一定しないため、予防目的では吸収率の高い栄養補助食品(サプリメント)の利用が勧められる。
神経管閉鎖障害(NTD)
・二分脊椎:脊椎の後方部分(椎弓)の癒合不全である。脊髄髄膜瘤では下肢の運動麻痺・感覚障害、膀胱直腸障害、水頭症などを合併する。 ・無脳症:頭側の神経管が閉じず、大脳が形成されない。生存は困難である。 ・リスク因子:母体の葉酸不足、NTD児の出産歴、抗てんかん薬(特にバルプロ酸やカルバマゼピン)の服用、糖尿病、肥満など。 ・NTDの児を出産したことがある女性では再発リスクが高いため、医師の管理のもとで通常より多い量の葉酸を投与することがある。 ・妊娠中の母体血清α-フェトプロテイン(AFP)高値はNTDを疑う手がかりとなる。
妊娠週数の数え方
妊娠週数は最終月経の初日を妊娠0週0日として数える。受精は通常妊娠2週ごろに起こるため、受精後の日数(胎齢)と妊娠週数には約2週間のずれがある。神経管の閉鎖は受精後約28日(胎齢4週)、すなわち妊娠6週ごろに完了する。
POINT
・神経管は妊娠6週ごろまでに閉鎖する(妊娠が判明する時期とほぼ重なる) ・NTD予防の葉酸は、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4mgを摂取する ・妊娠に気づいてから飲み始めるのでは遅い。妊娠を計画している段階から始める ・適切な葉酸摂取でNTDの発症リスクは約70%低下する
