抗体の「入れ替えパズル」を解く―全身性強皮症と抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
第114回医師国家試験 F問題 第7問
国試問題にチャレンジ
疾患とその疾患に特異的な自己抗体との組合せで正しいのはどれか。
- a.多発性筋炎 ―― 抗Sm抗体
- b.全身性強皮症 ―― 抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
- c.Sjögren症候群 ―― MPO-ANCA
- d.顕微鏡的多発血管炎 ―― 抗RNP抗体
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉 ―― 抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体〈抗ARS抗体〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
膠原病の診断では、感度の高い抗核抗体でスクリーニングし、特異度の高い疾患標識抗体で診断を絞り込みます。主な組合せは、SLEが抗dsDNA抗体・抗Sm抗体、多発性筋炎・皮膚筋炎が抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)、Sjögren症候群が抗SS-A・SS-B抗体、混合性結合組織病が抗U1-RNP抗体、顕微鏡的多発血管炎がMPO-ANCAです。全身性強皮症の標識抗体は抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体の3つで、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性例はびまん皮膚硬化型をとりやすく強皮症腎クリーゼに注意が必要です。抗体ごとに疾患だけでなく病型や警戒すべき合併症を結びつけて覚えることが、診断と日常の診療の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
膠原病(全身性自己免疫疾患)の診断では、多くの疾患で抗核抗体(ANA:antinuclear antibody)が陽性になる。ANAは感度が高い一方で、どの疾患かを絞り込む力は弱い。そこで、ある疾患でほぼ特異的に検出される「疾患標識抗体」を組み合わせて診断を確定していく。本問はこの疾患標識抗体の対応関係を問う知識問題である。 解き方の基本は、各選択肢の自己抗体が「本来どの疾患の標識抗体か」を思い出し、左側の疾患と一致するかを確認することである。本問の選択肢では、右側の抗体がそれぞれ別の疾患の標識抗体と入れ替えられている。抗Sm抗体はSLE、MPO-ANCAは顕微鏡的多発血管炎、抗RNP抗体は混合性結合組織病(MCTD)、抗ARS抗体は多発性筋炎・皮膚筋炎の標識抗体であり、正しく対応しているのは全身性強皮症と抗RNAポリメラーゼⅢ抗体の組合せだけである。
選択肢考察
- ×a. 多発性筋炎 ―― 抗Sm抗体
誤り。抗Sm抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)の標識抗体である。陽性率はSLE患者の2〜3割程度と低いが、陽性であればSLEの可能性が極めて高い(特異度が高い)。多発性筋炎・皮膚筋炎で検出される特徴的な自己抗体は、抗Jo-1抗体に代表される抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体(抗ARS抗体)である。なお、抗SRP(signal recognition particle)抗体も筋炎で検出されるが、現在は多発性筋炎ではなく免疫介在性壊死性ミオパチーの標識抗体として位置づけられている。
- ○b. 全身性強皮症 ―― 抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
正しい。全身性強皮症(SSc)の疾患標識抗体には、抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼⅠ抗体)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体の3つがあり、いずれも診断基準(2013年ACR/EULAR分類基準など)に組み込まれている。抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性例は、皮膚硬化が急速に広範囲へ進行するびまん皮膚硬化型をとりやすく、強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧と腎不全)の合併頻度が高い。また、悪性腫瘍の合併との関連も指摘されている。
- ×c. Sjögren症候群 ―― MPO-ANCA
誤り。Sjögren症候群で検出される代表的な自己抗体は抗SS-A/Ro抗体と抗SS-B/La抗体である。抗SS-A抗体は陽性率が高いが、SLEなど他の膠原病でもみられる。抗SS-B抗体は陽性率は低めだが、Sjögren症候群への特異度が高い。MPO-ANCA(ミエロペルオキシダーゼに対する抗好中球細胞質抗体)は、顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧称Churg-Strauss症候群)で検出される抗体であり、Sjögren症候群の標識抗体ではない。
- ×d. 顕微鏡的多発血管炎 ―― 抗RNP抗体
誤り。顕微鏡的多発血管炎(MPA)は小型血管を侵すANCA関連血管炎であり、標識抗体はMPO-ANCAである。急速進行性糸球体腎炎や間質性肺炎・肺胞出血をきたしやすい。抗RNP抗体(抗U1-RNP抗体)は混合性結合組織病(MCTD)の診断に必須の抗体である。SLEや全身性強皮症など他の膠原病でも陽性になることはあるが、MPAとは結びつかない。
- ×e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉 ―― 抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体〈抗ARS抗体〉
誤り。SLEに特異度が高い自己抗体は抗dsDNA抗体(二本鎖DNAに対する抗体)と抗Sm抗体である。抗dsDNA抗体は抗体価が疾患活動性、特にループス腎炎の活動性と連動しやすく、経過観察にも使われる。抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)は多発性筋炎・皮膚筋炎の標識抗体である。陽性例は間質性肺炎、発熱、多関節炎、Raynaud現象、機械工の手(mechanic's hand:手指の角化・亀裂)を伴いやすく、この病態は抗ARS抗体症候群と呼ばれる。
主な膠原病・血管炎の疾患標識抗体
・SLE:抗dsDNA抗体、抗Sm抗体(特異度が高い)。抗核抗体は感度が高く、スクリーニングに用いる。 ・全身性強皮症:抗Scl-70抗体(トポイソメラーゼⅠ。びまん皮膚硬化型、間質性肺炎)、抗セントロメア抗体(限局皮膚硬化型、肺高血圧症、旧称CREST症候群)、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体(びまん皮膚硬化型、腎クリーゼ) ・多発性筋炎・皮膚筋炎:抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など。間質性肺炎)、抗MDA5抗体(臨床的無筋症性皮膚筋炎、急速進行性間質性肺炎)、抗TIF1-γ抗体(成人では悪性腫瘍の合併)、抗Mi-2抗体(典型的な皮膚症状) ・免疫介在性壊死性ミオパチー:抗SRP抗体、抗HMGCR抗体 ・Sjögren症候群:抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体 ・混合性結合組織病(MCTD):抗U1-RNP抗体 ・顕微鏡的多発血管炎、EGPA:MPO-ANCA ・多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧称Wegener肉芽腫症):PR3-ANCA ・関節リウマチ:抗CCP抗体(特異度が高い)、リウマトイド因子 ・抗リン脂質抗体症候群:抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、抗β2GPⅠ抗体
感度と特異度の使い分け
感度が高い検査は、陰性であれば疾患を除外するのに役立つ(SnOUT)。特異度が高い検査は、陽性であれば診断を確定するのに役立つ(SpIN)。SLEでいえば、抗核抗体は感度が高く除外向き、抗dsDNA抗体・抗Sm抗体は特異度が高く確定向きである。
POINT
・全身性強皮症の標識抗体:抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体 ・抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性例はびまん皮膚硬化型をとりやすく、強皮症腎クリーゼに注意する ・SLE=抗dsDNA抗体・抗Sm抗体、筋炎=抗ARS抗体、Sjögren症候群=抗SS-A/SS-B抗体、MCTD=抗U1-RNP抗体、MPA=MPO-ANCA
