「分かっているのに気になる」―妄想と強迫観念を分ける一本の線
第114回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
「車を運転していて人をはねてしまったんじゃないかと思うんです。そんなことはないと分かっているんですが,どうしても気になります」という患者の訴えから考えられるのはどれか。
- a.強迫観念
- b.作為体験
- c.罪業妄想
- d.滅裂思考
- e.妄想着想
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
「人をはねたのではないか」と気になりながらも「そんなことはないと分かっている」という訴えは、不合理と自覚しながら頭から離れない自我違和的な考え、すなわち強迫観念(加害恐怖)であり、強迫症に典型的です。妄想は根拠がないのに確信され訂正できない点で強迫観念と区別され、罪業妄想はうつ病の微小妄想、妄想着想は統合失調症の一次妄想にあたります。作為体験は自我障害、滅裂思考は思路障害で、いずれも統合失調症でみられる症状です。強迫症の治療はSSRIと曝露反応妨害法が中心で、家族の巻き込みにも注意が必要です。「確信の有無」「思考の流れ」「自我の境界」という軸で症状を整理することは、精神科の問診で症状を正確に捉えるための基本となります。
解答・解説
正解はaです
訴えの分析
患者の発言は次の2つの要素からなる。 (1)「人をはねてしまったんじゃないか」という考えが浮かび、「どうしても気になる」=自分の意思に反して同じ考えが繰り返し侵入してきて、追い払えない。 (2)「そんなことはないと分かっている」=その考えが事実ではない、あるいは不合理であることを本人が自覚している(病識・洞察が保たれている)。
考え方
精神症状の評価では、「その考えを本人が確信しているか、ばかげていると分かっているか」が重要な分かれ目になる。妄想は、根拠がないにもかかわらず強く確信され、説明や反証によっても訂正できない誤った信念である。これに対し、不合理と分かっていながら頭から離れず、本人が苦痛を感じる考え(自分にとって異物のように感じられる=自我違和的)は強迫観念である。本問の訴えはまさに後者であり、「加害恐怖(自分が他人を傷つけたのではないかという恐れ)」と呼ばれる、強迫症(強迫性障害)で典型的な強迫観念である。こうした不安を打ち消すために、来た道を引き返して確認する、ニュースを何度も調べるといった強迫行為を伴うことが多い。 なお、作為体験・妄想着想・滅裂思考は主に統合失調症、罪業妄想は主にうつ病でみられる症状であり、いずれも本人がその内容を不合理と自覚しているという本問の特徴とは合わない。
選択肢考察
- ○a. 強迫観念
強迫観念とは、本人の意思に反して繰り返し浮かんでくる考え・イメージ・衝動で、本人もその内容が過剰あるいは不合理だと分かっていながら、打ち消そうとしても振り払えず強い不安や苦痛を伴うものをいう。「人をはねたのではないか」と気になり、同時に「そんなことはないと分かっている」と述べる本問の訴えはこれに当たる(加害恐怖)。主に強迫症(強迫性障害)でみられ、不安を和らげるための確認行為などの強迫行為を伴うことが多い。
- ×b. 作為体験
作為体験(させられ体験)は、自分の考え・感情・行動が自分自身のものと感じられず、外部の他者や力によって操られている・やらされていると体験する症状である。自分と外界の境界があいまいになる自我障害の代表であり、Schneiderの一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的である。本問の患者は自分の考えとして悩んでおり、外からさせられているという体験はない。
- ×c. 罪業妄想
罪業妄想は、「自分はとんでもない罪を犯した」「周囲に迷惑をかけた罰を受けるべきだ」などと、実際にはない、あるいはささいな過失について過剰な罪責感を抱き、それを確信して訂正できない妄想である。うつ病でみられる微小妄想(貧困妄想・心気妄想とあわせてうつ病の三大妄想)の一つである。妄想であるため本人は内容を事実と確信しており、「そんなことはないと分かっている」と自覚している本問の訴えとは異なる。
- ×d. 滅裂思考
滅裂思考は思考の流れ(思路)の障害で、考えと考えのつながりがゆるむ連合弛緩が高度になり、話のまとまりが失われて第三者には意味が理解できなくなった状態をいう。さらに進むと単語の羅列のようになる(言葉のサラダ)。主に統合失調症でみられる。本問の患者の話は筋道が通っており、思考過程の障害はない。
- ×e. 妄想着想
妄想着想は、了解可能な理由やきっかけなしに、突然ある考えが頭に浮かび(例:「自分は特別な使命を与えられた人間だ」)、それを直ちに確信してしまう一次妄想の一型である。一次妄想は統合失調症でみられ、ほかに妄想気分、妄想知覚がある。確信を伴う点で、内容を不合理と自覚している本問の訴えとは異なる。
強迫症(強迫性障害:OCD)の概要
強迫観念と強迫行為を中核症状とする疾患である。強迫観念の典型例として、不潔恐怖(汚染されたのではないか)、加害恐怖(誰かを傷つけたのではないか)、確認に関するもの(鍵やガスの栓を閉め忘れたのではないか)、対称性・正確さへのこだわりなどがある。強迫行為は、その不安を打ち消すために繰り返される行為で、手洗い、確認、数を数えるなどがある。症状のために多くの時間を費やし、生活に支障をきたす。家族を巻き込んで確認させることもある。 治療は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬物療法と、曝露反応妨害法(不安を起こす状況にあえて身を置き、強迫行為をしないで不安が下がるのを経験させる認知行動療法)が中心である。 なお、DSM-5では病識の程度(良好〜欠如)を特定するようになっており、病識が乏しい例もありうるが、典型像は本問のように「不合理と分かっている」ものである。
主な精神症状と代表的疾患の整理
・統合失調症の陽性症状:幻覚(特に幻聴)、妄想(妄想気分・妄想知覚・妄想着想などの一次妄想)、思路障害(連合弛緩・滅裂思考)、自我障害(作為体験、思考吹入、思考奪取、思考伝播など) ・統合失調症の陰性症状:感情の平板化、意欲低下、無為・自閉、思考の貧困 ・うつ病:抑うつ気分、興味・喜びの喪失、微小妄想(罪業妄想・貧困妄想・心気妄想) ・強迫症:強迫観念、強迫行為
強迫観念と妄想の違い
強迫観念:本人が不合理と自覚している、自我違和的で苦痛を伴う、打ち消そうとする。 妄想:本人が確信している、訂正不能、多くは自分の考えとして受け入れている(自我親和的)。
POINT
・「不合理と分かっているのに頭から離れない考え」=強迫観念(強迫症に特徴的)。 ・妄想は「確信していて訂正できない」点で強迫観念と区別する。 ・作為体験(自我障害)・妄想着想(一次妄想)・滅裂思考(思路障害)は統合失調症。 ・罪業妄想・貧困妄想・心気妄想はうつ病の三大妄想(微小妄想)。 ・強迫症の治療:SSRI+曝露反応妨害法。
