「また起きたらどうしよう」―発作そのものより厄介な予期不安がパニック障害の核心
第118回医師国家試験 E問題 第19問
国試問題にチャレンジ
パニック障害〈パニック症〉の症状はどれか。
- a.健忘
- b.無為
- c.観念奔逸
- d.予期不安
- e.フラッシュバック
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
パニック障害(パニック症)は、きっかけなく突然起こり数分でピークに達するパニック発作を繰り返し、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安が持続することを中核とする不安症です。予期不安から逃げ場のない状況を避けるようになると広場恐怖へと進展します。選択肢の症状は、健忘が認知症・Korsakoff症候群・解離性健忘、無為が統合失調症の陰性症状、観念奔逸が躁状態、フラッシュバックがPTSDと、それぞれ別の疾患に対応します。診断の際は甲状腺機能亢進症や不整脈、低血糖、物質使用などの身体的要因を除外し、治療はSSRIと認知行動療法が柱です。症状名と疾患を正しく結びつけることは、精神科の問題を解く基礎であると同時に、救急外来で身体症状を訴える患者を適切に評価する力にもつながります。
解答・解説
正解はdです
パニック障害(パニック症)は、予期しないパニック発作を繰り返し、その発作が再び起こることへの持続的な不安や、発作を避けるための行動の変化を伴う不安症の一つである。 パニック発作とは、明らかなきっかけなく突然、動悸・頻脈、発汗、ふるえ、息苦しさ、窒息感、胸痛・胸部不快感、嘔気・腹部不快感、めまい、寒気や熱感、しびれ感などの身体症状と、現実感消失・離人感、「気が狂ってしまうのではないか」「どうかなってしまうのではないか」という恐怖、「死ぬのではないか」という恐怖が一気に押し寄せ、数分以内に頂点に達する強い恐怖や不快感の高まりである。発作自体は通常数十分以内に自然に治まる。 この発作を経験した患者は、「またあの発作が起きたらどうしよう」と、発作がない時期にも絶えず不安を抱くようになる。これが予期不安であり、パニック障害の中核的な症状である。さらに、発作が起きたときに逃げられない、あるいは助けが得られない場所(電車、人混み、エレベーターなど)を恐れて避けるようになると広場恐怖を伴う。 本問では、選択肢の症状がそれぞれどの精神疾患に特徴的かを整理して判断する。
選択肢考察
- ×a. 健忘
誤り。健忘は、ある期間や出来事についての記憶が失われる症状である。認知症(特にAlzheimer型認知症の近時記憶障害)、Korsakoff症候群、頭部外傷、一過性全健忘などの器質的な疾患のほか、心理的ストレスを契機に自分にとって重要な個人的情報を思い出せなくなる解離性健忘でもみられる。パニック障害の症状ではない。
- ×b. 無為
誤り。無為は、自発的な意欲や行動が乏しくなり、何もせずに一日を過ごしてしまう状態であり、統合失調症の陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲低下、社会的引きこもりなど)の代表である。病状が慢性化し、人格水準の低下が進んだ段階で目立つ。重症のうつ病でも意欲低下はみられるが、パニック障害の症状ではない。
- ×c. 観念奔逸
誤り。観念奔逸は思考過程の障害の一つで、考えが次々と湧き起こって話題が連想によって素早く移り変わり、本来の目的から逸れていく状態である。患者自身も「考えが追いつかない」と体験することがある。双極性障害の躁状態に特徴的な症状で、多弁、誇大性、睡眠欲求の減少などを伴う。パニック障害の症状ではない。
- ○d. 予期不安
正しい。予期不安とは、パニック発作を経験した後に「また発作が起こるのではないか」「発作が起きたら死んでしまうのではないか、どうにかなってしまうのではないか」と、発作が起きていない時にも持続的に抱く不安である。特に以前に発作が起きた場所や状況と似た場面で強まりやすい。DSM-5の診断基準でも、発作の後に1か月以上、発作の再発やその結果についての持続的な懸念、または発作を避けるための不適応的な行動の変化が続くことが求められており、予期不安はパニック障害の中核症状である。予期不安から特定の状況を回避するようになると、広場恐怖へと発展する。
- ×e. フラッシュバック
誤り。フラッシュバックは、過去の心的外傷体験(生命の危険を感じるような出来事、性暴力など)が、まるでその場にいるかのように生々しく意図せず再体験される現象であり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の侵入症状の代表である。PTSDではこのほかに、外傷に関連する刺激の回避、認知と気分の否定的変化、過覚醒(不眠、易刺激性、過度の警戒心、驚愕反応)がみられる。なお、覚醒剤などの薬物使用中止後に精神病症状が再燃する現象もフラッシュバックと呼ばれる。いずれもパニック障害の症状ではない。
パニック障害の病態と経過
パニック発作の反復 → 予期不安 → 広場恐怖(回避行動)という流れで進展することが多い。発作中は強い身体症状を伴うため、患者は心疾患や呼吸器疾患を心配して救急外来を受診することも多いが、検査では異常を認めない。診断にあたっては、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、不整脈、狭心症、低血糖、カフェインや覚醒剤などの物質による症状を除外する必要がある。
広場恐怖
公共交通機関、広い場所、閉鎖された場所(店、映画館など)、列に並ぶ・人混みの中にいる、家の外に一人でいる、といった状況で、発作や困った症状が起きたときに逃げることや助けを得ることが難しいと考えて恐怖し、回避する状態である。かつてのDSM-IVでは「広場恐怖を伴うパニック障害」「伴わないパニック障害」と下位分類されていたが、DSM-5以降はパニック症と広場恐怖症はそれぞれ独立した診断となり、両方を満たせば併記する。
治療
・薬物療法:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択である。即効性のあるベンゾジアゼピン系抗不安薬は、SSRIの効果発現までの短期間の補助に用いるが、依存性に注意する。 ・精神療法:認知行動療法(発作時の身体感覚を破局的に解釈する認知の修正、回避している状況への段階的な曝露)が有効である。
選択肢の症状と主な疾患の対応
・健忘:認知症、Korsakoff症候群、解離性健忘 ・無為:統合失調症の陰性症状 ・観念奔逸:双極性障害の躁状態 ・予期不安:パニック障害 ・フラッシュバック:PTSD、覚醒剤などの物質使用後
POINT
・パニック障害=予期しないパニック発作の反復+予期不安(+広場恐怖を伴うことが多い)。 ・パニック発作は数分以内にピークに達する強い恐怖と、動悸・呼吸困難・発汗などの自律神経症状を伴う。 ・治療の第一選択はSSRIと認知行動療法である。 ・症状と疾患の対応:無為→統合失調症、観念奔逸→躁状態、フラッシュバック→PTSD、健忘→認知症・解離性障害。
